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「いや、君のその反応そのものが僕の疑問の答えなのでしょうね」
「もう少し気にした方がよろしいかしら?」
「いや、どうでしょう。君が気にならないというなら仕方がないのかもしれません。ちなみに、誤解のないよう言っておきますが、シャウラに対して殿下はまったく興味がないようですよ?」
「そうなんですの?」
それを聞いてアドリエンヌは少しがっかりした。二人きりでチームを組んでいるのだから、少しは二人の仲が進展しているかもと期待していたからだ。
あの朴念仁!
アドリエンヌは心の中で悪態をついた。
アドリエンヌたちは問題なく順調に訓練を重ね課題当日を迎えた。
「僕たちはチームで訓練を重ねてきました。きっと大丈夫。課題の植物系モンスターだって問題なく倒せるはずです」
エメはそう言って、アドリエンヌたちに向かって優しく微笑んだ。
「エメ様、ありがとうございます。アトラス様が攻撃魔法を使ったあとの鎮火は任せてください! もちろん、攻撃魔法も手を抜きません」
そう言ってルシールが意気込むと、アドリエンヌもそれに続く。
「なら怪我の治癒は私に任せてほしいですわ。後ろでしっかりサポートいたします。それに、私たちあれだけ頑張って特訓してきたのですもの、絶対に大丈夫ですわ」
そこでアトラスが口を開いた。
「もう我々の順番になりそうだ。森の方へ向かった方が良いのでは?」
「そうですわね、行きましょう!」
その台詞を合図に、アドリエンヌたちは森の入り口で待機した。
教師たちには誰とチームを組むか申請してあり、森に行く順番は教師たちに決められている。アドリエンヌたちは静かに順番を待った。
「次はアトラス、エメ、アドリエンヌ、ルシールのチームだ。準備はいいか?」
そう声をかけられ、元気良く返事を返すと森へ入っていった。森へ入るとすぐに臨戦体制を取ったが、入り口付近にはモンスターは出現せず緊張しつつ奥へと歩みを進めていった。
渡された地図を見ると、中間地点の大きな岩とその先を真っ直ぐ行ったところにある池、それを迂回するとまもなく目的地である通称『精霊の木』と呼ばれている巨木の前に行き、石を取ったら行きとは違うルートで戻るように記されていた。
森の中で他のチーム同士で共闘しないように、各々違うルートで目的地に行くよう指示されているようだった。
エメが持っている地図を覗き込みながらアドリエンヌは言った。
「きっと私たちには追跡魔法がかけられているでしょう? 道を間違えたらきっと減点になりますわ。だから間違えないように、ゆっくり慎重に行った方が良いですわよね」
「そうだね、この課題には時間制限もないしね」
そんな二人にルシールが怯えた様子で話しかける。
「だいぶ進んできたし、もうそろそろモンスターが出るんじゃないかしら」
「そうですわね、警戒しておきましょう」
そう答えたその瞬間、道の脇に咲いていた花が突然巨大化して蔓を伸ばすとアドリエンヌの足に絡み付いた。
不意を突かれて全員が一瞬怯んだが、すかさずアトラスがその蔓を炎魔法で焼き切ると、体制を建て直しアトラスとルシールが前に出て攻撃を仕掛けた。
エメは防壁魔法をかけつつ、隙を見て攻撃魔法をかけフォローし、アドリエンヌは後ろに下がると全員に持続治癒魔法をかけた。
この日までに何度も特訓していたお陰で、全員が自分の役割分担を瞬時に把握し動くことができた。お陰で戦いはあっという間に決着がつき、こうしてアドリエンヌたちの初戦は見事に勝利を飾った。
この初戦で自信がついた一行は、その後も問題なく対処しながら奥へと進んで行った。
嬉しそうにルシールが叫ぶ。
「見て! 池が見えてきたわ。もうすぐ目的地の『精霊の木』ね」
「そうね、なんだかここまであっという間でしたわね」
「でもまだ折り返しにも来ていない。油断しないようにしないといけませんね」
エメがそう言うと、慎重に池のほとりを歩き始めた。だが、特に問題なく目的地にたどり着くことができた。
「刻印入りの石って、あの『精霊の木』の前に置いてある籠に入ってるみたいですね」
エメはそう言って精霊の木へ近付いて行く。
「本当だわ、こんなに無造作に置いてあるなんて思いもしなかった」
ルシールは少し安心したのか、そう言って微笑んだ。それにアドリエンヌが答える。
「ですわよね。私も誰かが待っていて、石を手渡しされるのかと思っていましたわ」
そんなことを言いながら刻印入りの石を一つ手に取ると、帰りのルートを進み始めた。
しばらく進むと少し開けた場所に出た。と、そこで突然今までとはまったく違う、十メートル以上はある巨大な爬虫類系のモンスターが現れた。
アトラスがみんなの一歩前に出ると言った。
「不味いモンスターに出くわした。誰か急いで教師を呼んでくれ。これは私たちに対応できるモンスターではない」
その後ろでエメが呟く。
「なぜ、こんなところにデビルドラゴンが……」
エメは、気を取り直したかのように慌てて使い魔を解き放つと、アドリエンヌに指示を出す。
「アドリエンヌ、僕たちに持続治癒魔法をかけたら君たちは急いで逃げろ!!」
どうしてこんなところに、こんな狂暴なモンスターがいるのかわからなかったが、アトラスとエメは自分たちを盾にしてでもアドリエンヌたちを守ろうとしていることはわかった。
きっとこのままなら確実にアトラスとエメの命はないだろう。そう思った瞬間に、アドリエンヌは叫んでいた。
「二人とも、そこを離れて!!」
そして咄嗟に空間魔法でドラゴンを閉じ込めると、その中で一瞬にしてドラゴンを遠い森へと飛ばした。
あっという間の出来事で、おそらくエメもアトラスもルシールも何が起こったのかわからなかったろう。しばらくぼんやりとなにもない空間を見つめていたが、ゆっくりとアドリエンヌの方を見た。
「アドリエンヌ? 君、今なにをしたんですか?」
エメが唖然としながらそう訊いたので、アドリエンヌは慌てて言った。
「え? わ私じゃありませんわ。護衛のドミニクがやりましたの。ね、ドミニク」
振り返り、アドリエンヌから少し離れて護衛をしているであろうドミニクに声をかけたが、ドミニクの返事はない。
「ドミニク?」
「もう少し気にした方がよろしいかしら?」
「いや、どうでしょう。君が気にならないというなら仕方がないのかもしれません。ちなみに、誤解のないよう言っておきますが、シャウラに対して殿下はまったく興味がないようですよ?」
「そうなんですの?」
それを聞いてアドリエンヌは少しがっかりした。二人きりでチームを組んでいるのだから、少しは二人の仲が進展しているかもと期待していたからだ。
あの朴念仁!
アドリエンヌは心の中で悪態をついた。
アドリエンヌたちは問題なく順調に訓練を重ね課題当日を迎えた。
「僕たちはチームで訓練を重ねてきました。きっと大丈夫。課題の植物系モンスターだって問題なく倒せるはずです」
エメはそう言って、アドリエンヌたちに向かって優しく微笑んだ。
「エメ様、ありがとうございます。アトラス様が攻撃魔法を使ったあとの鎮火は任せてください! もちろん、攻撃魔法も手を抜きません」
そう言ってルシールが意気込むと、アドリエンヌもそれに続く。
「なら怪我の治癒は私に任せてほしいですわ。後ろでしっかりサポートいたします。それに、私たちあれだけ頑張って特訓してきたのですもの、絶対に大丈夫ですわ」
そこでアトラスが口を開いた。
「もう我々の順番になりそうだ。森の方へ向かった方が良いのでは?」
「そうですわね、行きましょう!」
その台詞を合図に、アドリエンヌたちは森の入り口で待機した。
教師たちには誰とチームを組むか申請してあり、森に行く順番は教師たちに決められている。アドリエンヌたちは静かに順番を待った。
「次はアトラス、エメ、アドリエンヌ、ルシールのチームだ。準備はいいか?」
そう声をかけられ、元気良く返事を返すと森へ入っていった。森へ入るとすぐに臨戦体制を取ったが、入り口付近にはモンスターは出現せず緊張しつつ奥へと歩みを進めていった。
渡された地図を見ると、中間地点の大きな岩とその先を真っ直ぐ行ったところにある池、それを迂回するとまもなく目的地である通称『精霊の木』と呼ばれている巨木の前に行き、石を取ったら行きとは違うルートで戻るように記されていた。
森の中で他のチーム同士で共闘しないように、各々違うルートで目的地に行くよう指示されているようだった。
エメが持っている地図を覗き込みながらアドリエンヌは言った。
「きっと私たちには追跡魔法がかけられているでしょう? 道を間違えたらきっと減点になりますわ。だから間違えないように、ゆっくり慎重に行った方が良いですわよね」
「そうだね、この課題には時間制限もないしね」
そんな二人にルシールが怯えた様子で話しかける。
「だいぶ進んできたし、もうそろそろモンスターが出るんじゃないかしら」
「そうですわね、警戒しておきましょう」
そう答えたその瞬間、道の脇に咲いていた花が突然巨大化して蔓を伸ばすとアドリエンヌの足に絡み付いた。
不意を突かれて全員が一瞬怯んだが、すかさずアトラスがその蔓を炎魔法で焼き切ると、体制を建て直しアトラスとルシールが前に出て攻撃を仕掛けた。
エメは防壁魔法をかけつつ、隙を見て攻撃魔法をかけフォローし、アドリエンヌは後ろに下がると全員に持続治癒魔法をかけた。
この日までに何度も特訓していたお陰で、全員が自分の役割分担を瞬時に把握し動くことができた。お陰で戦いはあっという間に決着がつき、こうしてアドリエンヌたちの初戦は見事に勝利を飾った。
この初戦で自信がついた一行は、その後も問題なく対処しながら奥へと進んで行った。
嬉しそうにルシールが叫ぶ。
「見て! 池が見えてきたわ。もうすぐ目的地の『精霊の木』ね」
「そうね、なんだかここまであっという間でしたわね」
「でもまだ折り返しにも来ていない。油断しないようにしないといけませんね」
エメがそう言うと、慎重に池のほとりを歩き始めた。だが、特に問題なく目的地にたどり着くことができた。
「刻印入りの石って、あの『精霊の木』の前に置いてある籠に入ってるみたいですね」
エメはそう言って精霊の木へ近付いて行く。
「本当だわ、こんなに無造作に置いてあるなんて思いもしなかった」
ルシールは少し安心したのか、そう言って微笑んだ。それにアドリエンヌが答える。
「ですわよね。私も誰かが待っていて、石を手渡しされるのかと思っていましたわ」
そんなことを言いながら刻印入りの石を一つ手に取ると、帰りのルートを進み始めた。
しばらく進むと少し開けた場所に出た。と、そこで突然今までとはまったく違う、十メートル以上はある巨大な爬虫類系のモンスターが現れた。
アトラスがみんなの一歩前に出ると言った。
「不味いモンスターに出くわした。誰か急いで教師を呼んでくれ。これは私たちに対応できるモンスターではない」
その後ろでエメが呟く。
「なぜ、こんなところにデビルドラゴンが……」
エメは、気を取り直したかのように慌てて使い魔を解き放つと、アドリエンヌに指示を出す。
「アドリエンヌ、僕たちに持続治癒魔法をかけたら君たちは急いで逃げろ!!」
どうしてこんなところに、こんな狂暴なモンスターがいるのかわからなかったが、アトラスとエメは自分たちを盾にしてでもアドリエンヌたちを守ろうとしていることはわかった。
きっとこのままなら確実にアトラスとエメの命はないだろう。そう思った瞬間に、アドリエンヌは叫んでいた。
「二人とも、そこを離れて!!」
そして咄嗟に空間魔法でドラゴンを閉じ込めると、その中で一瞬にしてドラゴンを遠い森へと飛ばした。
あっという間の出来事で、おそらくエメもアトラスもルシールも何が起こったのかわからなかったろう。しばらくぼんやりとなにもない空間を見つめていたが、ゆっくりとアドリエンヌの方を見た。
「アドリエンヌ? 君、今なにをしたんですか?」
エメが唖然としながらそう訊いたので、アドリエンヌは慌てて言った。
「え? わ私じゃありませんわ。護衛のドミニクがやりましたの。ね、ドミニク」
振り返り、アドリエンヌから少し離れて護衛をしているであろうドミニクに声をかけたが、ドミニクの返事はない。
「ドミニク?」
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