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ガーネットとオスカー
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ガーネットはオニキスがハリーを待っている間、お茶に誘うことにした。
「オニキス様、忙しくなければですけれど一緒にお茶でもいかがかしら?」
そう言うと、オニキスは嬉しそうに微笑んだ。
「実は俺もお誘いしようと思っていました。お付き合いいただけると嬉しいです」
ガーネットは執事にお茶の準備をさせようとしたが、庭に出るとすでにお茶の準備が整っていた。ガーネットが驚いていると、執事のフィリスが
「オニキス様より茶葉とお菓子をいただいております」
と言ったので、驚いてオニキスの顔を見た。オニキスは照れ笑いをした。
「実は今日、最初から夫人とお茶をご一緒しようと思っていて、お菓子を持参してまいりました」
テーブルを見ると、ワーズワースのフルーツケーキが準備されている。ガーネットは嬉しくなり
「オニキス様素敵ですわ! ありがとうございます!」
と、お礼を述べた。オニキスは嬉しそうに微笑み
「喜んでもらえれば、俺も嬉しいですよ!」
と、返した。紅茶が出されると、オニキスは照れながら
「俺はあまりお茶を飲まないのですが、ハリーに付き合って最近飲むようになったんです。それで俺のおすすめの、ロングピークのウイスリー農園の茶葉をお持ちしました」
オニキスがそう言うと、ガーネットは驚いた顔をした。
「オニキス様もウイスリー農園を御存じですの? 私もウイスリー農園を知ってからは、ここの農園の物しか飲みませんの。香り高くて、飲むとホッとしますわ」
オニキスも大きく頷いた。
「他の農園の物と全く香りが違いますからね。口に入れた瞬間の高貴な香りと、独特な清涼感のあるしっかりした渋みは最高の味わいです」
ガーネットは何度も頷き
「そうなんですの! わかってくださって嬉しいですわ!」
オニキスは椅子を引いて、ガーネットに座るよう促した。
「良かった。じゃあどうぞお茶が冷めないうちに、召し上がって下さい」
オニキスにそう言われ、椅子に腰かけるとガーネットは大好きなワーズワースのフルーツケーキを頬張りながら、紅茶も堪能した。
ガーネットは美味しいものを食べているうちに話が弾んでしまい、本来ならオニキスにハリーとの話を聞き出そうとしていたのに、気が付けば自分ばかりが話していた。
「楽しそうだね」
ガーネットが振り向くとハリーが立っていた。
「ハリー様、お帰りなさい。少しの間オニキス様をお借りしていましたわ。本当に楽しい方ですのね」
ハリーはオニキスに視線をやり、すぐにガーネットに視線をもどすと微笑んだ。
「そうですか、それは良かったです。僕はどんな話をしていたのか、あとでオニキスにじっくり聞くことにします。ほら、オニキス帰ろう」
ハリーはそう言いながらオニキスに近づくと、オニキスを立たせて腰を引き寄せ、連れ去るように帰っていった。
ガーネットはハリーに誤解させてしまったかもしれない、と申し訳なく思った。
その日オスカーが帰ってきたのは、いつもの帰宅より三時間ほど遅かった。ガーネットはオスカーを出迎えると
「お帰りなさい、今日は大変でしたわね」
と、オスカーを労った。オスカーはガーネットに微笑みながら、外套と帽子、杖を執事に手渡しタイを緩めた。
「明日からも忙しくなりそうだ。場合によっては、しばらく帰らないこともあるかもしれない」
話を全て聞いていたガーネットは、それは予想していたことだった。
「仕方のないことですわ、証拠を掴まないといけないのですものね。それにしても今日は、あなたの仕事をしている姿を見ることができて嬉しかったですわ。本当に素敵でした。私惚れ直しましてよ? それにオニキス様と初めてお茶をご一緒しましたけれど、あんなに気さくな方だとは知りませんでした」
すると、オスカーはピタリと止まると
「オニキスとお茶か……」
と意味ありげに言ったので、ガーネットは慌てて
「お茶をご一緒しただけで、なんにもやましいことはありませんのよ?」
と疑いを否定した。すると、オスカーは首を振った。
「もちろん、君を疑っている訳ではないよ」
そう言って微笑んだ。ガーネットは、そこでまだ夕食も済んでいないことに気づき
「ごめんなさい、お食事がまだでしたわね。私《わたくし》も一緒にと思って、待っておりましたの」
と微笑み、オスカーの腕に手を回した。
「あなたが疲れてないなのなら、この先のお話しはお食事したあとに、ゆっくり聞きたいですわ」
そう言って歩きだした。
夕食をすませたあと、お茶を飲みながら先ほどの話の続きをした。
「オニキス様とお茶をご一緒しましたけれど、特に問題はありませんでしたわ。何かありますの?」
オスカーは苦笑した。
「あいつは普段、お茶を飲まない。甘いものも苦手だ」
ガーネットは、オニキスが昼間言っていたことを思いだした。
「あら、でもハリー様が」
とガーネットが言ったところでオスカーが言葉を次いで
「兄貴に付き合って飲むようになった、とでも言ったのだろう? そう言っておけば、お茶が嫌いだと言わずにすむからな。角も立たない。今日も結局あいつは、ほとんどお茶に手をつけなかったろう?」
オスカーにそう言われても、ガーネットは納得がいかなかった。
「でも茶葉についても、味についても詳しくて。それに私と好みも一緒でしたから、嘘を言えばわかりますわ?」
オスカーは苦笑すると言った。
「あいつのことだから、君の好きな茶葉もお菓子も調べて実際に飲んで食べてみたのだろう。だが、君を騙すためではなく、純粋に喜ばせようとしてやっている。これが厄介で、そうやって相手の懐に入り込むのが非常に上手い。素直な性格だから、周囲も信頼してしまう。彼が人を欺くなんて考えられない。君もそういう印象を持っただろう?」
ガーネットは確かにその通りだと思った。
「でも、悪い人ではないですわよね?」
オスカーは頷き
「そうだ、天然の人たらしで特段問題はない。だが、彼が国の諜報活動を担っているということは忘れない方がいいな。まぁ、こちらに後ろ暗いことがなければ問題ないが」
と言うと、少し間を置き
「ところで、ガーネット。君も同じように誰にでも好かれると知っていたか?」
ガーネットは急に矛先を向けられて、戸惑いながら
「それはありませんわ。私のことを好きと言ってくださるのは、オスカーぐらいですわ」
と、胸を張って言った。オスカーは笑うと
「君が気がつかなかっただけだ。君に近づく輩は全て私が排除していたからね。君が気づかなかったのだから、それらは成功していたんだろう」
ガーネットは驚き、オスカーに訊いた。
「全く気づきませんでしたわ。どういうことですの?」
オスカーは照れ笑いをした。
「私は君が好きすぎてね、少しでも君に好意を寄せたり、近づこうとした者を蹴落としてきた。それなのに君ときたら、好奇心旺盛であちらこちらに首を突っ込むものだから、その都度私のライバルを作ってくれて大変だったよ。明るくて前向き、好奇心旺盛なところもあって、人の話を楽しそうに聞く。それに表情がコロコロ変わって、よく笑う。君を知れば魅了されない人間はいないだろう」
ガーネットは恥ずかしくなりうつ向いた。オスカーは話を続ける。
「それに婚約したあとに気づいたのだが、君は自分から積極的に行動するのにはなれているが、相手から積極的に行動されるのには弱いね。私はそれが可愛らしくて、愛らしくてたまらない。だがそういうことなら、やはりライバルたちを蹴落としておいて正解だったと思う」
オスカーはガーネットをじっと見つめた。
「本当のことなのに照れているのか? 君のそんな愛らしい姿を見ることができるなんて、昔は考えも及ばなかった。そんな君を心から愛してる。結婚できて私は幸せ者だ」
そう言うと満面の笑みになった。
「今日を逃したら仕事が忙しくて、次はいつ君とゆっくりできるかわからない。今晩は思う存分君を堪能しよう」
その言葉にガーネットは耐えきれなくなり、両手で顔を覆った。オスカーは立ち上がりガーネットのもとへ行くと、ガーネットを抱き上げた。
「まずはお風呂が先だね」
ガーネットはその言葉に驚いて顔をあげると
「そんな、恥ずかしくてできません!」
そう叫ぶも、オスカーは
「なら君はなにもしなくていい。私が全てやってあげよう」
そう言って、恥ずかしさに固まっているガーネットを抱き上げたまま歩きだした。
ガーネットは、こうしてオスカーの体力が尽きるまで可愛がられたのだった。
「オニキス様、忙しくなければですけれど一緒にお茶でもいかがかしら?」
そう言うと、オニキスは嬉しそうに微笑んだ。
「実は俺もお誘いしようと思っていました。お付き合いいただけると嬉しいです」
ガーネットは執事にお茶の準備をさせようとしたが、庭に出るとすでにお茶の準備が整っていた。ガーネットが驚いていると、執事のフィリスが
「オニキス様より茶葉とお菓子をいただいております」
と言ったので、驚いてオニキスの顔を見た。オニキスは照れ笑いをした。
「実は今日、最初から夫人とお茶をご一緒しようと思っていて、お菓子を持参してまいりました」
テーブルを見ると、ワーズワースのフルーツケーキが準備されている。ガーネットは嬉しくなり
「オニキス様素敵ですわ! ありがとうございます!」
と、お礼を述べた。オニキスは嬉しそうに微笑み
「喜んでもらえれば、俺も嬉しいですよ!」
と、返した。紅茶が出されると、オニキスは照れながら
「俺はあまりお茶を飲まないのですが、ハリーに付き合って最近飲むようになったんです。それで俺のおすすめの、ロングピークのウイスリー農園の茶葉をお持ちしました」
オニキスがそう言うと、ガーネットは驚いた顔をした。
「オニキス様もウイスリー農園を御存じですの? 私もウイスリー農園を知ってからは、ここの農園の物しか飲みませんの。香り高くて、飲むとホッとしますわ」
オニキスも大きく頷いた。
「他の農園の物と全く香りが違いますからね。口に入れた瞬間の高貴な香りと、独特な清涼感のあるしっかりした渋みは最高の味わいです」
ガーネットは何度も頷き
「そうなんですの! わかってくださって嬉しいですわ!」
オニキスは椅子を引いて、ガーネットに座るよう促した。
「良かった。じゃあどうぞお茶が冷めないうちに、召し上がって下さい」
オニキスにそう言われ、椅子に腰かけるとガーネットは大好きなワーズワースのフルーツケーキを頬張りながら、紅茶も堪能した。
ガーネットは美味しいものを食べているうちに話が弾んでしまい、本来ならオニキスにハリーとの話を聞き出そうとしていたのに、気が付けば自分ばかりが話していた。
「楽しそうだね」
ガーネットが振り向くとハリーが立っていた。
「ハリー様、お帰りなさい。少しの間オニキス様をお借りしていましたわ。本当に楽しい方ですのね」
ハリーはオニキスに視線をやり、すぐにガーネットに視線をもどすと微笑んだ。
「そうですか、それは良かったです。僕はどんな話をしていたのか、あとでオニキスにじっくり聞くことにします。ほら、オニキス帰ろう」
ハリーはそう言いながらオニキスに近づくと、オニキスを立たせて腰を引き寄せ、連れ去るように帰っていった。
ガーネットはハリーに誤解させてしまったかもしれない、と申し訳なく思った。
その日オスカーが帰ってきたのは、いつもの帰宅より三時間ほど遅かった。ガーネットはオスカーを出迎えると
「お帰りなさい、今日は大変でしたわね」
と、オスカーを労った。オスカーはガーネットに微笑みながら、外套と帽子、杖を執事に手渡しタイを緩めた。
「明日からも忙しくなりそうだ。場合によっては、しばらく帰らないこともあるかもしれない」
話を全て聞いていたガーネットは、それは予想していたことだった。
「仕方のないことですわ、証拠を掴まないといけないのですものね。それにしても今日は、あなたの仕事をしている姿を見ることができて嬉しかったですわ。本当に素敵でした。私惚れ直しましてよ? それにオニキス様と初めてお茶をご一緒しましたけれど、あんなに気さくな方だとは知りませんでした」
すると、オスカーはピタリと止まると
「オニキスとお茶か……」
と意味ありげに言ったので、ガーネットは慌てて
「お茶をご一緒しただけで、なんにもやましいことはありませんのよ?」
と疑いを否定した。すると、オスカーは首を振った。
「もちろん、君を疑っている訳ではないよ」
そう言って微笑んだ。ガーネットは、そこでまだ夕食も済んでいないことに気づき
「ごめんなさい、お食事がまだでしたわね。私《わたくし》も一緒にと思って、待っておりましたの」
と微笑み、オスカーの腕に手を回した。
「あなたが疲れてないなのなら、この先のお話しはお食事したあとに、ゆっくり聞きたいですわ」
そう言って歩きだした。
夕食をすませたあと、お茶を飲みながら先ほどの話の続きをした。
「オニキス様とお茶をご一緒しましたけれど、特に問題はありませんでしたわ。何かありますの?」
オスカーは苦笑した。
「あいつは普段、お茶を飲まない。甘いものも苦手だ」
ガーネットは、オニキスが昼間言っていたことを思いだした。
「あら、でもハリー様が」
とガーネットが言ったところでオスカーが言葉を次いで
「兄貴に付き合って飲むようになった、とでも言ったのだろう? そう言っておけば、お茶が嫌いだと言わずにすむからな。角も立たない。今日も結局あいつは、ほとんどお茶に手をつけなかったろう?」
オスカーにそう言われても、ガーネットは納得がいかなかった。
「でも茶葉についても、味についても詳しくて。それに私と好みも一緒でしたから、嘘を言えばわかりますわ?」
オスカーは苦笑すると言った。
「あいつのことだから、君の好きな茶葉もお菓子も調べて実際に飲んで食べてみたのだろう。だが、君を騙すためではなく、純粋に喜ばせようとしてやっている。これが厄介で、そうやって相手の懐に入り込むのが非常に上手い。素直な性格だから、周囲も信頼してしまう。彼が人を欺くなんて考えられない。君もそういう印象を持っただろう?」
ガーネットは確かにその通りだと思った。
「でも、悪い人ではないですわよね?」
オスカーは頷き
「そうだ、天然の人たらしで特段問題はない。だが、彼が国の諜報活動を担っているということは忘れない方がいいな。まぁ、こちらに後ろ暗いことがなければ問題ないが」
と言うと、少し間を置き
「ところで、ガーネット。君も同じように誰にでも好かれると知っていたか?」
ガーネットは急に矛先を向けられて、戸惑いながら
「それはありませんわ。私のことを好きと言ってくださるのは、オスカーぐらいですわ」
と、胸を張って言った。オスカーは笑うと
「君が気がつかなかっただけだ。君に近づく輩は全て私が排除していたからね。君が気づかなかったのだから、それらは成功していたんだろう」
ガーネットは驚き、オスカーに訊いた。
「全く気づきませんでしたわ。どういうことですの?」
オスカーは照れ笑いをした。
「私は君が好きすぎてね、少しでも君に好意を寄せたり、近づこうとした者を蹴落としてきた。それなのに君ときたら、好奇心旺盛であちらこちらに首を突っ込むものだから、その都度私のライバルを作ってくれて大変だったよ。明るくて前向き、好奇心旺盛なところもあって、人の話を楽しそうに聞く。それに表情がコロコロ変わって、よく笑う。君を知れば魅了されない人間はいないだろう」
ガーネットは恥ずかしくなりうつ向いた。オスカーは話を続ける。
「それに婚約したあとに気づいたのだが、君は自分から積極的に行動するのにはなれているが、相手から積極的に行動されるのには弱いね。私はそれが可愛らしくて、愛らしくてたまらない。だがそういうことなら、やはりライバルたちを蹴落としておいて正解だったと思う」
オスカーはガーネットをじっと見つめた。
「本当のことなのに照れているのか? 君のそんな愛らしい姿を見ることができるなんて、昔は考えも及ばなかった。そんな君を心から愛してる。結婚できて私は幸せ者だ」
そう言うと満面の笑みになった。
「今日を逃したら仕事が忙しくて、次はいつ君とゆっくりできるかわからない。今晩は思う存分君を堪能しよう」
その言葉にガーネットは耐えきれなくなり、両手で顔を覆った。オスカーは立ち上がりガーネットのもとへ行くと、ガーネットを抱き上げた。
「まずはお風呂が先だね」
ガーネットはその言葉に驚いて顔をあげると
「そんな、恥ずかしくてできません!」
そう叫ぶも、オスカーは
「なら君はなにもしなくていい。私が全てやってあげよう」
そう言って、恥ずかしさに固まっているガーネットを抱き上げたまま歩きだした。
ガーネットは、こうしてオスカーの体力が尽きるまで可愛がられたのだった。
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