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第百八十五話 アルメリアとアウルス

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 アルメリアはシルが生きていると知り嬉しくなった。諦めずに探し続けたのは無駄ではなかったのだ。

「シルが無事でよかったですわ?! それは本当に本当ですの? わたくしずっとシルを探してましたの! 会いたいですわ!」

「わかった、シェフレラの体調が良くなったらいつでも会いにくればいい」

 その名を聞いた瞬間に胸が締め付けられる。アルメリアはどういうことなのかわからず、アウルスの顔を見つめた。

「君の知っているシルと、シェフレラは同一人物だ。彼女は今産後でね、娘を生んだばかりで療養中だ。本当はこちらに呼びたかったんだが」

 そう言ってアウルスは幸せそうに微笑んだ。
 その笑顔がアルメリアの胸に突き刺さる。アウルスはシェフレラと幸せな家族を築いているのだ。
 この懐かしい幼友達の喜ばしい報告に笑顔で答えなければと、アルメリアは必死に笑顔を作って見せるとまた夜空を見つめ自分を落ち着かせる。

 アルメリアはやっとの思いで口を開く。

「おめでとうございます。そうでしたのね、それはよかったですわ。いつかちゃんとお祝いさせてもらいますわね」

 そう言いながら考える。ルクとシルが愛し合うようになるのは、当然のことだったのかもしれない。二人は幼馴染みであり、アルメリアよりも長い時間を二人で過ごしたに違いないのだから。

 アルメリアは星空を見上げるアウルスの横顔をじっと見つめた。こうしてみると星空を見つめる真っ直ぐな瞳は、あのころとまったく変わらなかった。


わたくしアウルスに伝えたいことがありますの」

「なんだい?」

 アウルスはアルメリアを見つめ返した。

「ヒフラでわたくしに花の王冠を作ってくれたことがありましたわね?」

 アウルスはそのときのことを思い出したのか、照れたような顔をした。

「そうだね、私はとても不器用だった。あれがあのときの私の精一杯だった」

 アルメリアは、クスクスと笑い前方の庭を見つめながら話を続ける。

「わかってますわ。わたくしはあのときのルクの気持ちがとても嬉しくて、あのころの思い出をずっと支えにしてきましたわ。思えばあれがわたくしの初恋でした」

 そう言うと、アルメリアの心臓は激しく鼓動した。それを少しでも落ち着かせるために深呼吸してから続ける。

「そして、ヒフラではアウルスに出会いましたわ。皇帝と言う立場を超えて、わたくしを支えてくれるアウルスにいつしかわたくしは恋をし、そしてそれは貴男のそばで形を変えていったのです」

 アルメリアはアウルスに向きなおる。

「アウルス、わたくし今では貴男を心から愛しています。この先、別れることになるとわかってはいましたけれど、これだけは伝えようと思っていました。今まで本当にありがとう」

 そう言うと耳からピアスを外しアウルスの手を取りそっと手のひらに乗せた。
 アウルスはそのピアスを見つめ、困惑した顔をした。

「アンジー、それは一体どういうことだ?」

 アルメリアは微笑んだ。

「これはわたくしが持っているべきではないと感じましたの。これ以上わたくしがアウルスのそばにいても、お手伝いできることはもうなにもありません。貴男のそばにはシェフレラがいるんですもの」

 そう言うと、ぐっと涙をこらえ微笑み続ける。

「アウルス、わたくしはきっと大丈夫ですわ。だから昔約束したからといってわたくしを守る必要はもうありません。今のわたくしは一人ではありませんし、見ての通りわたくしとっても強いんですの。だから、今後のわたくしを心配する必要はありません。アウルスが幸せになること、それがわたくしの今一番の望みですわ」

 なんとかそれだけ言うと立ち上がり、一歩下がって一礼すると唖然としているアウルスをおいてその場を去ろうとした。

 するとその背中にアウルスが問いかける。

「ムスカリがいいのか?」

 アルメリアは思いもよらぬ問いに驚き、立ち止まると振り向いてアウルスを見た。アウルスは射貫くような視線でアルメリアを見つめていた。
 アルメリアは首を振って答える。

「いいえ、違いますわ」

 アウルスはアルメリアの腕を掴んだ。

「では誰と?」 

 そう言うと、そのままアルメリアの両腕を掴み瞳をじっと見つめると言った。

「いや、君が誰を好きになろうが今さら私は誰にも君を渡すつもりはない」

 アルメリアは驚いてアウルスを見上げる。

「アウルス?」

「アルメリア、私は君を愛している」

 そう言うとアウルスはアルメリアの手を引き寄せ思い切り抱き締めた。

「やっと、やっとだ。あの日馬車が賊に襲われクンシラン領の孤児院へ入れられたとき、もう二度と帝国へは帰れないと絶望していた私に生きる希望をくれたのは君だった」

 アウルスはアルメリアから少し体を離すと、アルメリアの顔を覗き込みながら話を続ける。

「君はいつも屋敷の窓辺に立っていた。初めてそんな君の姿を見たときから、私は君に夢中になった。だが君は貴族の令嬢、身分が違いすぎて会うこともできなかった。そんなある日、君の方から近づいてきてくれた」

 そう言うと、更に力強くアルメリアを抱き締める。

「君と会わないと言ったあの日、どれだけ私がつらかったか君にはわからないだろう。だが、だからこそ絶対に地位を取り戻し、君を迎えに来ると決めた。それがやっと叶ったというのに……。アルメリア、君は私の元から去ると言うのか? しかも、そんなことを私が許すとでも?」

「アウルス?」

「ダメだ、絶対に君を離さない。君は誰のものでもない私だけのものだ。今までどれだけ私が我慢してきたか君にはわからないだろうな。私は昔からずっと君だけを見つめ、君だけを愛してきた。君はそんな私から逃げるのか?」

 気がつくとアルメリアの頬を涙が伝っていた。

「本当に? アズル、本当にわたくしを?」

「もちろんだ。君が私をどう思ったとしても、私はもう君を離してあげることはできない」

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