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第百六十九話 仲違い

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 アウルスもそれに賛成すると思っていたが、実際は思いもよらぬ反応をした。

「その作戦には反対だ。私は今初めてその話を聞いたところだ、舞踏会は二週間後に迫っているだろう? 今からではイーデンも作戦に協力できないかもしれない。準備不足でアルメリアになにかあったらどうするつもりだ」

 ムスカリは無表情で答える。

「君なら二週間もあれば準備など容易いだろう? まぁ、君の出番はないだろうから安心するがいい。それに、アルメリアは私がしっかり守る」

「そういう問題ではない、時期尚早だと言っている。そもそもこうして意見が食い違っている時点で、その作戦とやらが成功するとは思えない」

 そこへルーファスが仲裁に入る。

「殿下、恐れ多いことですが一言申し上げます。特使の方が仰ることも一理あると思うのです。今我々の足並みが乱れるのはあまりよくないことだと思います。ここは一度考えなおしてみてはどうでしょうか」

 ムスカリはそれに対してあからさまに不機嫌そうな顔をした。

「そうか、わかった。確かに考えなおした方がよいかもしれないな。では、計画はひとまず白紙に戻す」

 ルーファスはあからさまにほっとした顔をした。だが、次の瞬間ムスカリは不適な笑みを浮かべると言った。

「では、多数決をとることにしよう。これなら公平だろう?」

「いえ、そういうことでは……殿下!」

 慌てるルーファスを横目にムスカリは話を続ける。

「二週間後の舞踏会で計画の実行を反対するものは挙手せよ」

 その問いにアウルスがさっと手を上げ、ルーファスは恐る恐る手を上げる。

「では賛成のものは?」

 すると、アウルスとルーファス、アルメリア以外が手を上げた。

 ムスカリはアルメリアをじっと見つめると訊いた。

「アルメリア、君は賛成にも反対にも手を上げていないようだがどういうことかな? 意見を聞きたい」

 アルメリアは言葉を選びながら答える。

「確かにわたくしも舞踏会に向けて準備してきましたから、賛成したい気持ちもあります。ですがこのように揉めるならば、今すぐ即決せずに少し話し合ってからでもよいのではないでしょうか」

「アルメリア、君の言うことも一理あるかもしれない。だが、この計画のためにすでに動き始めているものもいるだろう? 今賛成に手を上げたものは、準備をしてきていて今更中止できないのかもしれない」

 言われてみれば確かにそうだろう。それに、アウルスが反対する理由も明確ではなく反対する理由はないように思えた。

「すみません、思慮が足りませんでしたわ」

「わかってくれるならいいんだよ。では、君も賛成ということでいいかな?」

「はい……」

 アウルスは不服そうにしたが、ムスカリの意見を聞いて説得を諦めたように言った。

「私は絶対に反対だ。それにアルメリア、君も賛成なのはとても残念だ。反対の理由は言えないが、聞いてもらえないなら仕方ない。私は邪魔物のようだ失礼する」

 そう言って立ち上がり、全員の顔を見渡すと一礼して去っていった。その背中を見送ると、ムスカリはルーファスに問いかける。

「ルーファス、君はどうする?」

 ルーファスは慌てて首を振った。

「多数決ですから、私はそれに従います」

 そう言ってその場にとどまった。気まずい雰囲気の中、ムスカリは微笑むと言った。

「では二週間後に決行だ。その前にアルメリア、もしもクインシー男爵に会うことになったらその報告は一番にして欲しい」

「わかりました」

 ムスカリはアルメリアに優しく微笑むと、真面目な顔をして話を続ける。

「当日、あの令嬢を追い詰めるきっかけは私が作る。それを合図に徹底的に畳み掛けるように追い込みをかけよう。この機会を逃したら、教皇とうまい具合に逃げられかねない」

「そうですわね。今まで見てきましたけれど、そう簡単に自分の非を認めるような人たちではありませんものね。きっと最後まで悪あがきをすると思いますわ」

 そこでアドニスが口を開いた。

「確かに。だからこそ念をいれてここまで証拠を集めてきたのですから、当日は強気で行きましょう」

 リアムがアルメリアを心配そうに見ると尋ねる。

「アルメリア、大丈夫ですか? 仲違いするなんてあまりよいことではないですし、不安になってしまったかもしれませんが、安心してください。君だけは絶対に我々が守ります」

 そこにいた面々はその言葉に頷く。

「ありがとう、大丈夫ですわ。それにアズルだってそのうちきっとわかってくれると思いますわ」

 そう言うとアルメリアは力なく微笑んだ。





 ムスカリがミンチンのことを調べると言っていたので、その間アルメリアは自分にできることをしようと思った。

 まずクインシー男爵と接触を図るため、ペルシックにクインシー男爵の日課になっている行動を調べさせた。
 キャサリンを通してクインシー男爵と接触を図ってもよかったが、なるべくキャサリンを危険な目に合わせたくなかったのだ。なので、それ以外の方法を模索していた。

 ミンチンはクインシー家には教会のものが出入りしていると言っていた。男爵からこちらに接触を図るのも難しいだろう。だからなるべく自然な形でこちらから接触を図るようにしなければならない。

 三日後、ムスカリからクインシー男爵との接触は問題ないとの返答があった。

 ちょうどペルシックからも、クインシー男爵についての報告があり、時間のないアルメリアは早速クインシー男爵と接触を図ることにした。

 男爵はいつも、午後三時に城下にある庭園を散歩するとのことだったので、そこで偶然を装いこちらから接触することにした。

 アルメリアはなるべく領地に出るときのような、地味なドレスを着て庭園へ向かった。
 目立たないように護衛は増やしたくなかったが、ムスカリに反対されいつもより護衛の数を増やし、ルーカスとスパルタカスもそれに加わった。

 そうして万全な体制を整えて庭園へ入ると、クインシー男爵が庭園へ来るのを待ち人目につかない場所に差し掛かったところでアルメリアからさりげなく声をかけた。

「こんにちは、クインシー男爵。今日は陽気もよくて気持ちのよい午後ですわね」

 すると、クインシー男爵は一瞬驚いた様子だったが、すぐに優しく微笑んで返した。
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