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第百六十話 ドレスのデザイン

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 ファニーが動く度にシルクハットに付いている大きな羽根飾りが揺れ、アルメリアは呆気に取られながらその揺れる羽根を見つめていた。
 そこへ慌ててペルシックがやってくると、ファニーとアルメリアの間に入り背中にアルメリアを隠した。

「ファニー様、お嬢様にそのような態度は許されません。以後注意していただけないのなら、お帰りいただくことになります」

 するとファニーは動作を止め、目を丸くしたあと声を出して笑った。

「爺ってば、よっぽどお嬢が大切なんだね~。お嬢ってば愛されてるぅ~。でも、僕も爺に追い返されたってあの冷酷王子にばれたら殺されかねないから、少しは気をつけるかぁ。でも、僕はいっつもこんなだから、それを了承してもらわないと困るな~」

「爺、わたくしはかまいませんわ。それに、殿下が選んだ方ですもの大丈夫だと思いますの」

 アルメリアのその発言にファニーはわざとらしいぐらい大袈裟に驚いてみせた。

「わ~お! あの冷酷王子を信頼するご令嬢がいるとは驚き。僕のことも信じてくれてありがと~う」

 それを聞いて、ペルシックはやや不満そうにしたが、諦めたようにアルメリアに言った。

「お嬢様がそれでよろしいなら、わたくしもかまいませんが……」

 そして、ファニーへ向きなおす。

「ですが、くれぐれもお嬢様に失礼のないようにお願いいたします」

「は~い!」

 ファニーはそう答えるとさっさとソファに腰掛け、アルメリアに向け手をヒラヒラさせながら言った。

「お嬢、早く早く! こっちに来てドレスのデザインについて話そう!」

 アルメリアの横で、ペルシックは大きくため息をついた。

 ファニーの見た目や言動には驚いたが、アルメリアに色々と質問をしながらファニーがデザインしたドレスは、華やかだが最小限の装飾で洗練されており、動きやすさも重視された可愛らしいドレスだった。

「お嬢ってば、可愛いからドレスの作りがいがあるわぁ~。あっ! 安心して! 採寸するのは僕じゃないから!」

 そう言うと声を出して笑った。

「それは心配していませんけれど、このデザインはわたくしには可愛らし過ぎるのではなくて?」

「なにいってんのさ! お嬢は華があるからこういうのが似合うよ、そこは僕のセンスを信用してほしいなぁ。それに、可愛らしいドレスをリクエストしたのはあの冷酷王子だからさ~、お嬢が嫌がっても変えられないかなぁ」

「殿下が?」

「そう、可愛らしいドレスを何着もってオーダーされてるから、これから数ヵ月は僕はお嬢専属のデザイナーやるしかなくなっちゃってさ。ホントにあの冷酷王子は強引なんだよなぁ。でも、こんなに可愛らしい令嬢のドレスを予算考えないで好きなだけデザインできると思えば、僕ってば実はラッキーだったかも!」

「えっ? どういうことですの?!」

「あれ? やば!」

 ファニーは慌てて口元を両手で押さえる。そして、恐る恐るアルメリアに訊く。

「もしかして、お嬢は冷酷王子からな~んも聞いてなかった? じゃあ、聞かなかったことにしてよ。うん、今お嬢はな~んにも聞いてない。ね?」

 アルメリアは、苦笑しながら頷いて返した。

「話のわかるご令嬢でよかった~! よろしくね! それとあとで、うちの工房のお針子つれてくるからよろしく~。で、まだ質問があるんだけど……」

 こうして結局、アルメリアは午前中ずっとファニーに付き合わされることになった。
 午後になり、ファニーの言った通り屋敷に工房のお針子たちがやってきた。

「うちの先生は、少し変わったところがありますからお嬢様も大変だとは思いますけれど、わたくしどももチーム一丸となって頑張りますから、しばらくお付き合いくださいませ」

 そう言って頭を下げると、手早くアルメリアの採寸を始めた。

 誕生会まで時間がなかったので、アルメリアは屋敷の一室をファニーたちに解放し、そこを作業場として使ってもらうことにした。

 ファニーが創作のために屋敷ないを歩き回る許可を求めたので、入れる場所を限定して許可を出した。すると、ファニーはアルメリアの執務室に訪れてはアルメリアを観察し、ときには見回りにも同行したりした。そして、突然サッとデザインの下書きをする。そんなことを繰り返していた。

 ファニーはこちらが執務中のときは決して話しかけてくることがなかったので、特に気にすることなく執務に没頭できた。

 誕生会を数日後に控えて、お針子たちはとにかく時間のない中、総出で誕生会のドレスを仕上げてくれた。

 出来上がったドレスはピンク地で上から下へ白にグラデーションしており、美しい刺繍と共に宝石がちりばめられていた。袖と裾にふんだんにレースが仕様されており、腰の部分に大きなバラのコサージュがあしらわれている。

 フィッティングのために袖を通すと、サイズがぴったりで直す箇所がひとつもなかった。

「この短期間でこんなに素敵なドレスを作るなんて、素晴らしいですわ。貴女たちがファニーの工房のお針子でなければ、うちに引き抜きますのに」

 そう言うと、お針子たちは満面の笑みを浮かべた。

「ありがとうございます。まだまだ注文されたドレスはたくさんありますから、これからもよろしくお願いいたします」

「こちらこそですわ。他のドレスも楽しみにしてますわね」

 アルメリアは今まで、倹約してきてあまりドレスにお金をかけたことがなく、仕方なしにドレスを注文するときも楽しいと思ったことはなかったが、このとき初めてそれらを楽しいと思ったのだった。




 誕生会当日、朝から準備を整えると迎えの馬車に乗り城へ向かった。
 城内へ到着すると、リカオンがエスコートしてくれた。

「この役を僕に任せてもらえるなんて、とても光栄です。それに……」

 リカオンは熱っぽくアルメリアを上から下まで見つめ、アルメリアの顔に視線を戻すと言った。

「今日のお嬢様は、一段と美しい」

 そう言うと、アルメリアの手を取ったまましばらくアルメリアを見つめ頷く。
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