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第百四十七話 リアム
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預かった書類は、後日アブセンティで全員に周知したあとで、ムスカリに預けた。アルメリアがその書類を預かり、なにかしら糾弾されることがあったときに自身でその書類を証拠として出すよりも、ムスカリに渡しておいて援護してもらった方が有利に使えると思ったからだ。
そのアブセンティのあとで、リアムに声をかけられた。
「アルメリア、少し話したいことがあります。この後お時間よろしいでしょうか?」
アルメリアは黙って頷くと、他のものたちを見送ったあとで執務室へリアムを通した。
お互いソファに座ると、先に口を開いたのはアルメリアだった。
「アブセンティでは話せない内容ですの?」
リアムは首を振る。
「いいえ、そういう訳ではありません。ですがアブセンティで報告する前に君の耳に入れておきたいことがあるのです」
大きく頷くと、アルメリアは答える。
「そうでしたのね、気づかってくださってありがとう。で、なにがありましたの?」
「実は父から聞いたのですが、ダチュラが父に接触してきたそうです」
「ダチュラが?」
リアムは黙って頷く。
「先日のことなのですが、彼女から大切な話があるので会いたいと連絡があったそうです。それで面会の許可を出し、会ってみたところ『今は詳しく言えないのですが、アルメリアについて調べて見てほしい』と言ったんだそうです」
「私について?」
「はい。父は『お嬢さんよりもよっぽど私の方がクンシラン公爵令嬢について知っている。君になにがわかるんだ? と、言ってやりたいのをこらえた』と、苦笑していました」
それもそうだろう。パウエル侯爵とは、騎士団の編制について話し合い、あれこれと議論した仲だった。同僚といっても過言ではない。
「で、卿はどう対応しましたの?」
「一応肯定的な対応をして、ダチュラを信じているかのように行動し、相手の動きを見ることにしたそうです。ダチュラは多方面から貴女を嵌めようとしているようなので、先に話しておかねばと思いまして」
「そうですの、ありがとう。でも、アブセンティで話してくださってもよかったですのに」
「いえ、おそらくこれからルーファスに偽装書類を手渡したように、ダチュラは父にも偽装書類を提出するのだと思います。でしたらその書類を手に入れてからアブセンティで報告しても遅くはありません。それに……」
「それに……なんですの?」
アルメリアがそう言って微笑んで返すと、リアムは真剣な眼差しをアルメリアに向けて言った。
「ダチュラのことも報告する必要はありましたが、それよりなにかしらの口実を言って、私は君と二人きりになりたかったのです」
アルメリアはリアムの真剣な眼差しにドキリとした。
「リアム?」
「今、こんなことを言っている状況でないことはわかっています」
リアムはアルメリアをじっと見つめた。
「どういうことですの?」
そう聞くとリアムは苦笑した。
「アブセンティに出席している誰もが、まさか君があんなにもあっさり殿下と婚約してしまうとは思っていませんでした。もう少し時間があると思っていたのに、あの発表があってどれだけ私たちが絶望したか」
どういった意図でリアムがそう言っているのかわからず、アルメリアは当たり障りのない返事をすることにした。
「ごめんなさい、でも私が王妃になったとしても、私たちの仲は今まで通りですわ」
そう言うと、リアムは悲しげに微笑みチラリと後ろに控えているリカオンを見る。
「リカオン、君は少し外してくれ」
そう言ってアルメリアの手を取る。
「アルメリア、少し温室へ行きませんか?」
アルメリアが頷くと、リアムはアルメリアの手を引いて温室へ向かった。
温室へ行くと、色とりどりのプリムラやクリスマスローズが咲き誇っていた。
リアムが無言で花々を見つめているので、アルメリアはリアムが口を開くまで、横に立って静かに待つことにした。
沈黙が続き、温室内に遊びにきている鳥のさえずりや、遠くから兵士たちの訓練している声だけが聞こえた。
そのときリアムが大きく息を吸って吐くと、アルメリアに向き直った。アルメリアもリアムに向き直ると張り詰めた空気の中、なにを言われるのか緊張しながらリアムを見つめた。
「アルメリア、貴女が好きです。愛しています」
心の片隅で、もしかしたらそうかもしれない、でもまさか違うだろう。
アルメリアは今までリアムの好意をそうとらえていた。
そして、もしも本当に好意を向けられているのだとしても答えられないのはわかっていたので、見ないよう考えないようにしてきた。
だが、これだけ真っ直ぐに言われれば目を背けることはできなかった。
「リアム、ごめんなさい、私は……」
『気持ちに答えられない』そう続けるつもりが、その先はリアムに遮られて言えなかった。
リアムはそうしたあと恥ずかしそうに微笑むと、横を向いて遠くを見ながら言った。
「わかっています。君が私のことをそういった対象として見ていないことは。それと気持ちを伝えたところで君を困らせることも……」
そう言うと、リアムはもう一度アルメリアに向き直る。
「でも、伝えずにはいられませんでした。君の存在を、その全てを私は欲している。どうしようにもないほどに君を愛しているのです」
そして、アルメリアの腕をつかみ思い切り抱き寄せた。
「リアム、まってだめですわ。離して……」
アルメリアは抵抗しようとするが、更に力強く抱き締められた。
「お願いです、今だけ君を胸の中に抱いていたいのです。君が私のものにならないのはわかっています、ですから今だけ失礼をお許しください」
アルメリアは気持ちに答えられないのを申し訳なく思いながら、しばらくリアムに抱き締められていた。
そうしてしばらくリアムに身を預けていると、そっとリアムがアルメリアから体を離した。
「すみません、一方的に気持ちを押し付けてしまいました」
そのアブセンティのあとで、リアムに声をかけられた。
「アルメリア、少し話したいことがあります。この後お時間よろしいでしょうか?」
アルメリアは黙って頷くと、他のものたちを見送ったあとで執務室へリアムを通した。
お互いソファに座ると、先に口を開いたのはアルメリアだった。
「アブセンティでは話せない内容ですの?」
リアムは首を振る。
「いいえ、そういう訳ではありません。ですがアブセンティで報告する前に君の耳に入れておきたいことがあるのです」
大きく頷くと、アルメリアは答える。
「そうでしたのね、気づかってくださってありがとう。で、なにがありましたの?」
「実は父から聞いたのですが、ダチュラが父に接触してきたそうです」
「ダチュラが?」
リアムは黙って頷く。
「先日のことなのですが、彼女から大切な話があるので会いたいと連絡があったそうです。それで面会の許可を出し、会ってみたところ『今は詳しく言えないのですが、アルメリアについて調べて見てほしい』と言ったんだそうです」
「私について?」
「はい。父は『お嬢さんよりもよっぽど私の方がクンシラン公爵令嬢について知っている。君になにがわかるんだ? と、言ってやりたいのをこらえた』と、苦笑していました」
それもそうだろう。パウエル侯爵とは、騎士団の編制について話し合い、あれこれと議論した仲だった。同僚といっても過言ではない。
「で、卿はどう対応しましたの?」
「一応肯定的な対応をして、ダチュラを信じているかのように行動し、相手の動きを見ることにしたそうです。ダチュラは多方面から貴女を嵌めようとしているようなので、先に話しておかねばと思いまして」
「そうですの、ありがとう。でも、アブセンティで話してくださってもよかったですのに」
「いえ、おそらくこれからルーファスに偽装書類を手渡したように、ダチュラは父にも偽装書類を提出するのだと思います。でしたらその書類を手に入れてからアブセンティで報告しても遅くはありません。それに……」
「それに……なんですの?」
アルメリアがそう言って微笑んで返すと、リアムは真剣な眼差しをアルメリアに向けて言った。
「ダチュラのことも報告する必要はありましたが、それよりなにかしらの口実を言って、私は君と二人きりになりたかったのです」
アルメリアはリアムの真剣な眼差しにドキリとした。
「リアム?」
「今、こんなことを言っている状況でないことはわかっています」
リアムはアルメリアをじっと見つめた。
「どういうことですの?」
そう聞くとリアムは苦笑した。
「アブセンティに出席している誰もが、まさか君があんなにもあっさり殿下と婚約してしまうとは思っていませんでした。もう少し時間があると思っていたのに、あの発表があってどれだけ私たちが絶望したか」
どういった意図でリアムがそう言っているのかわからず、アルメリアは当たり障りのない返事をすることにした。
「ごめんなさい、でも私が王妃になったとしても、私たちの仲は今まで通りですわ」
そう言うと、リアムは悲しげに微笑みチラリと後ろに控えているリカオンを見る。
「リカオン、君は少し外してくれ」
そう言ってアルメリアの手を取る。
「アルメリア、少し温室へ行きませんか?」
アルメリアが頷くと、リアムはアルメリアの手を引いて温室へ向かった。
温室へ行くと、色とりどりのプリムラやクリスマスローズが咲き誇っていた。
リアムが無言で花々を見つめているので、アルメリアはリアムが口を開くまで、横に立って静かに待つことにした。
沈黙が続き、温室内に遊びにきている鳥のさえずりや、遠くから兵士たちの訓練している声だけが聞こえた。
そのときリアムが大きく息を吸って吐くと、アルメリアに向き直った。アルメリアもリアムに向き直ると張り詰めた空気の中、なにを言われるのか緊張しながらリアムを見つめた。
「アルメリア、貴女が好きです。愛しています」
心の片隅で、もしかしたらそうかもしれない、でもまさか違うだろう。
アルメリアは今までリアムの好意をそうとらえていた。
そして、もしも本当に好意を向けられているのだとしても答えられないのはわかっていたので、見ないよう考えないようにしてきた。
だが、これだけ真っ直ぐに言われれば目を背けることはできなかった。
「リアム、ごめんなさい、私は……」
『気持ちに答えられない』そう続けるつもりが、その先はリアムに遮られて言えなかった。
リアムはそうしたあと恥ずかしそうに微笑むと、横を向いて遠くを見ながら言った。
「わかっています。君が私のことをそういった対象として見ていないことは。それと気持ちを伝えたところで君を困らせることも……」
そう言うと、リアムはもう一度アルメリアに向き直る。
「でも、伝えずにはいられませんでした。君の存在を、その全てを私は欲している。どうしようにもないほどに君を愛しているのです」
そして、アルメリアの腕をつかみ思い切り抱き寄せた。
「リアム、まってだめですわ。離して……」
アルメリアは抵抗しようとするが、更に力強く抱き締められた。
「お願いです、今だけ君を胸の中に抱いていたいのです。君が私のものにならないのはわかっています、ですから今だけ失礼をお許しください」
アルメリアは気持ちに答えられないのを申し訳なく思いながら、しばらくリアムに抱き締められていた。
そうしてしばらくリアムに身を預けていると、そっとリアムがアルメリアから体を離した。
「すみません、一方的に気持ちを押し付けてしまいました」
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