悪役令嬢は救国したいだけなのに、いつの間にか攻略対象と皇帝に溺愛されてました

みゅー

文字の大きさ
上 下
148 / 190

第百四十六話 ルーファスの活躍

しおりを挟む
 笑顔でそう答えると、ルーファスは我に返ったように手に持っていたノートをアルメリアに差し出した。

「すみません、話がそれてしまいましたね。それでこのノートの内容なのですが、誰かの走り書きのようなもので、詐欺の方法やそれを行うときの貴族に対する声のかけ方、相手が迷ってきたらこう言えなどの詳細な指示が書かれています」

 アルメリアは大きくため息をついた。

「これは確実にクインシー男爵令嬢、いえ、ダチュラが関わっていますわ。断言できます」

 ルーファスはアルメリアのその台詞に、目を大きく見開いた。

「よくお分かりですね、そうなのです。私もこのノートを読んでわかったのですが、このノートの所々に『ダチュラお嬢様の指示によると』と書かれている場所が何ヵ所かあって彼女が関与していることに気づいたのです」

 そう言うと、栞が挟んであるページを開き指差した。

「ここです、これ以外いにも何ヵ所か……」

 アルメリアはノートを覗き込み、ルーファスの指差す場所を見ると言った。

「このノートにメモを取った人間がそう書くということは、ダチュラは人を集めてわざわざ勉強会のようなことをしたのでしょうね……」

「はい、こうして深くクインシー男爵令嬢が関わっていたのは間違いありませんね。ところでアルメリア、貴女はなぜこの詐欺に彼女が関わっていると?」

「前世でこんな詐欺がありましたの。方法やマニュアルがあることも前世で行われていた詐欺とまったく一緒ですわ。こんな高度な詐欺を考えたのが、わたくしと同じく前世の記憶をもつダチュラなのだとしたら納得がいきますもの」

「なるほど、それだと納得できますね」

 そう言うとルーファスはじっとアルメリアを見つめる。
 その視線に気づくと、アルメリアは質問する。

「な、なんですの?」

 ルーファスは微笑んだ。

「アルメリア、貴女はこの詐欺の方法をずっと以前から知っていたということですね?」

 思いもよらぬ質問にアルメリアは戸惑った。まさか、ルーファスは自分を疑っているのかもしれない。そう思いながら、そうだとしたら自分には不利になるかもしれないとわかっていて正直に答えた。

「知ってますわ。だから、わたくしが疑われても仕方のないことだと……」

 アルメリアがそこまで言うと、ルーファスはそれを制した。

「私が貴女を疑うとでも? そんなことあるわけがありません。そうではなくて、貴女はその知識を悪用しなかったのだと思って……」

「それは当然ですわ!」

 そう答えるとルーファスは満面の笑みになった。

「当然……ですか? クインシー男爵令嬢はそうではなかったようですが」

 アルメリアはハッとする。

「そう……ですわね」

「そうです。私はそれがとても嬉しいです。やはり貴女は素晴らしい女性ですね。この詐欺はとても巧妙です。これを行えば一気に富が築けるでしょう。ですが、貴女はそれをしなかった。私にとってそれは、重要なことなんですよ」

 そう改まって言われ、アルメリアは少し恥ずかしくなり俯いた。
 しばらくルーファスはそんなアルメリアをじっと見つめていたが、ふと思い出したように付け加えた。

「そうでした、それともう一つ今回の詐欺に関して面白いものをクインシー男爵令嬢にいただきましたのでお渡ししますね」

 なぜダチュラから? そう思いながら、ルーファスが鞄から取り出した書類をチラリと見ると質問する。

「ダチュラが自分が詐欺に関わっている証拠を出したということですの?」

 ルーファスは首を振る。

「まさか、彼女はそんな人ではありません。実は彼女が関わっているとは思いもよらず、今回の詐欺の件について、遠回しに『知り合いがこんな詐欺の話をしていたので調べたい』と、クインシー男爵令嬢に話したのです」

「ルフス、もしかして貴男目をつけられてしまったかもしれませんわね」

「いいえ、彼女は予想を越えていました。そのとき彼女はその大きな瞳に涙を溜めて悲しげにこう言ったのです『それはとても悲しいことに教会を陥れる為の罠で、その主犯はアルメリアなのです』と」

 思いもよらぬ話しにアルメリアは一瞬戸惑った。

「なぜわたくしですの?」

 ルーファスは笑いをこらえながら答える。

「本当に、本当にその通りですよね。突拍子もない話の展開に、私も驚きを隠せませんでした。そんな私を見て、彼女は私を信じさせようとしてこの書類を手渡したのです」

 そう言うと、手に持っている書類をアルメリアに渡した。
 アルメリアはそれを受け取りさっと目を通し、その内容を確認する。ざっくり言うと詐欺の指示書なのだが、それを指示している人物の名前や組織がクンシラン家だったり、アンジーファウンデーション傘下の組織の名前になっている。
 巧妙に作られている偽の書類と言うより、最初からクンシラン家やアルメリアの組織の名を語り作られたのだろう。

「こんなものまで用意しているなんて……」

 アルメリアはダチュラの闇深さにゾッとした。ルーファスは不安になっているアルメリアの背中を擦ると続けて言った。

「彼女が私に興味を示し近づいてきたのは、本当に最近です。なので私がアルメリアと知り合いだとは知らなかったのも幸いしましたね。それに、この書類は教会の指示書の書式とまったく同じです。こんな書類を証拠として提出すれば、教会が関与していると明言しているようなものです」

 そう聞いて、アルメリアはある考えが浮かび書類から顔を上げると、ルーファスに向き直った。

「ダチュラは教会を、教皇を売る気なのかもしれませんわね」

「はい? 教会を売る……?」

 アルメリアは大きく頷いた。

「はっきりとは言えませんけれど、なんとなくダチュラと教皇は別の目的を持って動いているように見えますの。ダチュラはその目的の為に教皇を利用しているだけなのですわ」

 しばらく呆気にとられていたルーファスは神妙な面持ちで答えた。

「それが本当なら、ダチュラという令嬢は本当に恐ろしい女性かもしれませんね」

 そう言うと続けて気を取り直したように言った。

「本当はアブセンティでお話しした方が良かったのでしょうが、取り急ぎこの書類を貴女に預ける必要があると思いましてお渡しすることにしました。それに、貴女に会える言い訳もできますしね」

 恥ずかしそうにそう言うと、ルーファスはその書類をアルメリアに預け、引き続きダチュラに接触して情報を引き出してみると言った。

 アルメリアがあまり無茶はしないように言うと、ルーファスは照れ笑いをした。

「私もアルメリアのお役に立てることができてとても嬉しいのです。貴女が頼ってくれる限りなんでもしたいと思っています」

 そう言って教会へ戻っていった。アルメリアはルーファスの惜しまぬ協力に深く感謝した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

間違えられた番様は、消えました。

夕立悠理
恋愛
※小説家になろう様でも投稿を始めました!お好きなサイトでお読みください※ 竜王の治める国ソフームには、運命の番という存在がある。 運命の番――前世で深く愛しあい、来世も恋人になろうと誓い合った相手のことをさす。特に竜王にとっての「運命の番」は特別で、国に繁栄を与える存在でもある。 「ロイゼ、君は私の運命の番じゃない。だから、選べない」 ずっと慕っていた竜王にそう告げられた、ロイゼ・イーデン。しかし、ロイゼは、知っていた。 ロイゼこそが、竜王の『運命の番』だと。 「エルマ、私の愛しい番」 けれどそれを知らない竜王は、今日もロイゼの親友に愛を囁く。 いつの間にか、ロイゼの呼び名は、ロイゼから番の親友、そして最後は嘘つきに変わっていた。 名前を失くしたロイゼは、消えることにした。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

処理中です...