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第百三十九話 情報統制
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そこでアルメリアは気づいた。
「では誕生会でクインシー男爵令嬢を選んだのは……」
「そうだ、あれがなぜか自信たっぷりに『ムスカリ殿下は私しか愛せないんですもの、私を選ぶはず』と言ったからその通りにしてやった。そもそも誕生会を開くつもりもなかったからな、それはかまわなかった」
呆気にとられながら、アルメリアはムスカリに質問する。
「クインシー男爵令嬢はいつもそのような感じですの?」
「そうだ、あれは初めて会ったときから私を見下した態度で接してくる。馬鹿な王子だとでも思っているのだろう。だからあれの思う通り間抜けな王太子殿下を演じて見せ、その体で接してやっている」
よもやダチュラが王太子殿下に対してそのような態度をとっているとは思ってもいなかった。
彼女は一体なにを考えているのだろう? と、アルメリアはますますダチュラの考えていることがわからなくなるばかりだった。
アウルスが軽く手を上げると言った。
「話の腰を折ってしまって申し訳ない。アルメリア、もしクインシー男爵令嬢がアルメリアを排除しようと動いているならば、それを逆手に取って貶めてしまえばいいのでは?」
それに対しアルメリアは質問した。
「そう言うからには、なにか考えがありますの?」
「もちろんだ。君はローズクリーンが帝国興味を示したと言ったね。私もあれからその事について調べてみたんだが、どうも彼らが帝国に興味を示しているのではなく、そのクインシー男爵令嬢が帝国、とくに皇帝に対して興味を示しているようなんだ」
「皇帝に?」
「そうだ。理由はわからないが、それを利用する」
そう言われてもアルメリアはアウルスがなにを言いたいのかさっぱりわからず、首をかしげた。
それを見てアウルスは目をほそめじっとアルメリアを見つめたあと、気を取り直したように話を続けた。
「イーデンがローズクリーンに潜入しているね? 彼は実は元皇帝の側近だったとでも言わせて適度に皇帝の情報を流す。そうして信用させてクインシー男爵令嬢に近づかせ、取り入ったところで今度は、アンジーの嘘の情報を流してやればいい」
「そんなことどうやって? 怪しまれますわ」
「いや存外簡単なことだろう。なぜなら、そのクインシー男爵令嬢という娘はなぜかやたら根拠のない自信を持っていて、全てが自分の思い通りになると確信しているようなんだ。彼女なら教皇よりは簡単に騙せるだろう」
そこに横からムスカリが口を挟む。
「よくもそんな情報を手に入れられたものだ。その情報は確かなのだろうな?」
アウルスは、なにかを思いだしたように笑うと答えた。
「それなんだが面白いことに、教皇がクインシー男爵令嬢の言うことをきけと命令しているから、仕方なく従っているものたちが一定数いるようだ。彼らはそれに対し不満があるから、そこをつつけば簡単に情報が漏れてくる。あの組織は、我々がどうかしなくともそのうち内部から崩壊したかもしれないな」
確かに今までの彼らの行動を見ると、それもあながち言い過ぎではないとアルメリアは思った。
考え込んでいるアルメリアを見て、アウルスは言った。
「心配はいらないよ、アンジー。もしそれらがうまくいかなくとも、帝国の偽の情報は流せる」
「そうですわね、それなら相手がなにを企んでいるのか知るために、揺さぶりをかけることはできるかもしれませんわね。いずれにせよイーデンの無事が第一ですけれど」
それを聞いてアウルスは微笑んだ。
「君は本当に優しいな、イーデンは君にとっては大切な仲間と言うことなんだね」
そんなことは当然のことである。若干ムッとしながらアルメリアは答えた。
「彼は今私のために危険な任務についてくださっていますのよ? 当然ですわ」
「そうか、だがそうやって考えられることが凄いことだと思う。普通の貴族なら、自分の使用人がどうなろうとかまわないと考えるものが多いからね」
そこでリカオンが頷いて付け加えた。
「お嬢様に身分は関係ありませんから。僕たちとはそもそも考えが違います」
そう言われ、そんなことはないと反論しようとしてアルメリアは、はっとする。
「私みなさんに謝らなければならないことがありますわ」
ムスカリはアルメリアに向き直り微笑む。
「君になにかしらの落ち度があるとは思えないが、なんだい?」
「アルメリアは考え方が違う、者の捉え方が違う、知識が凄いと褒めていただいていましたけれど、それはすべて前世の記憶や知識があるからであって、私自信が凄いわけではありませんの。今まで騙していてごめんなさい」
すると、しばらくその場が静まり返った。そして、アルメリア以外の全員がお互いに視線を交わすと、一斉に笑いだした。
「なんですの? 私本気で言ってますのよ?」
アウルスが満面の笑みを向けてアルメリアに言った。
「君のよさはまさにそこだろう。これだけのことをやってのけても決して傲らない」
その言葉にムスカリが頷ずく。
「その通りだ。それに、私たちは何度か君に言ったと思うが、知識や情報は持っているだけではなんの役にも立たないし、捉え方は本人の性格や生き方が強く影響するものだ」
それを受けてリアムが続ける。
「むしろ、持っている知識や情報を生かして人の役に立てるよう行動できる君は、とても素晴らしい存在だと思います」
続けてリカオンが言う。
「ですが、お嬢様。お嬢様は相手を助けるために、自身を犠牲にしてしまうことがあります。これだけはいただけません」
そこでスパルタカスが手を軽く上げた。
「すみません、発言をお許しください。閣下、もう少し我々を頼ってくださって良いのです。兵士たち、いえ騎士団の者たちは閣下に恩義を感じ、とても閣下を大切に思っています。ですから、頼っていただけない方がつらいこともあるのです」
そこでルーファスが続けて言った。
「もちろん、孤児院の子どもたちもパーテルも貴女に感謝していますよ。あの絵本は本当に素晴らしかった」
そう言われ、アルメリアは思わず大粒の涙をこぼした。
「みなさん、ありがとう」
慌てて涙を拭うと、アウルスがハンカチを取り出し、そっとアルメリアの頬にハンカチを当てた。
「では誕生会でクインシー男爵令嬢を選んだのは……」
「そうだ、あれがなぜか自信たっぷりに『ムスカリ殿下は私しか愛せないんですもの、私を選ぶはず』と言ったからその通りにしてやった。そもそも誕生会を開くつもりもなかったからな、それはかまわなかった」
呆気にとられながら、アルメリアはムスカリに質問する。
「クインシー男爵令嬢はいつもそのような感じですの?」
「そうだ、あれは初めて会ったときから私を見下した態度で接してくる。馬鹿な王子だとでも思っているのだろう。だからあれの思う通り間抜けな王太子殿下を演じて見せ、その体で接してやっている」
よもやダチュラが王太子殿下に対してそのような態度をとっているとは思ってもいなかった。
彼女は一体なにを考えているのだろう? と、アルメリアはますますダチュラの考えていることがわからなくなるばかりだった。
アウルスが軽く手を上げると言った。
「話の腰を折ってしまって申し訳ない。アルメリア、もしクインシー男爵令嬢がアルメリアを排除しようと動いているならば、それを逆手に取って貶めてしまえばいいのでは?」
それに対しアルメリアは質問した。
「そう言うからには、なにか考えがありますの?」
「もちろんだ。君はローズクリーンが帝国興味を示したと言ったね。私もあれからその事について調べてみたんだが、どうも彼らが帝国に興味を示しているのではなく、そのクインシー男爵令嬢が帝国、とくに皇帝に対して興味を示しているようなんだ」
「皇帝に?」
「そうだ。理由はわからないが、それを利用する」
そう言われてもアルメリアはアウルスがなにを言いたいのかさっぱりわからず、首をかしげた。
それを見てアウルスは目をほそめじっとアルメリアを見つめたあと、気を取り直したように話を続けた。
「イーデンがローズクリーンに潜入しているね? 彼は実は元皇帝の側近だったとでも言わせて適度に皇帝の情報を流す。そうして信用させてクインシー男爵令嬢に近づかせ、取り入ったところで今度は、アンジーの嘘の情報を流してやればいい」
「そんなことどうやって? 怪しまれますわ」
「いや存外簡単なことだろう。なぜなら、そのクインシー男爵令嬢という娘はなぜかやたら根拠のない自信を持っていて、全てが自分の思い通りになると確信しているようなんだ。彼女なら教皇よりは簡単に騙せるだろう」
そこに横からムスカリが口を挟む。
「よくもそんな情報を手に入れられたものだ。その情報は確かなのだろうな?」
アウルスは、なにかを思いだしたように笑うと答えた。
「それなんだが面白いことに、教皇がクインシー男爵令嬢の言うことをきけと命令しているから、仕方なく従っているものたちが一定数いるようだ。彼らはそれに対し不満があるから、そこをつつけば簡単に情報が漏れてくる。あの組織は、我々がどうかしなくともそのうち内部から崩壊したかもしれないな」
確かに今までの彼らの行動を見ると、それもあながち言い過ぎではないとアルメリアは思った。
考え込んでいるアルメリアを見て、アウルスは言った。
「心配はいらないよ、アンジー。もしそれらがうまくいかなくとも、帝国の偽の情報は流せる」
「そうですわね、それなら相手がなにを企んでいるのか知るために、揺さぶりをかけることはできるかもしれませんわね。いずれにせよイーデンの無事が第一ですけれど」
それを聞いてアウルスは微笑んだ。
「君は本当に優しいな、イーデンは君にとっては大切な仲間と言うことなんだね」
そんなことは当然のことである。若干ムッとしながらアルメリアは答えた。
「彼は今私のために危険な任務についてくださっていますのよ? 当然ですわ」
「そうか、だがそうやって考えられることが凄いことだと思う。普通の貴族なら、自分の使用人がどうなろうとかまわないと考えるものが多いからね」
そこでリカオンが頷いて付け加えた。
「お嬢様に身分は関係ありませんから。僕たちとはそもそも考えが違います」
そう言われ、そんなことはないと反論しようとしてアルメリアは、はっとする。
「私みなさんに謝らなければならないことがありますわ」
ムスカリはアルメリアに向き直り微笑む。
「君になにかしらの落ち度があるとは思えないが、なんだい?」
「アルメリアは考え方が違う、者の捉え方が違う、知識が凄いと褒めていただいていましたけれど、それはすべて前世の記憶や知識があるからであって、私自信が凄いわけではありませんの。今まで騙していてごめんなさい」
すると、しばらくその場が静まり返った。そして、アルメリア以外の全員がお互いに視線を交わすと、一斉に笑いだした。
「なんですの? 私本気で言ってますのよ?」
アウルスが満面の笑みを向けてアルメリアに言った。
「君のよさはまさにそこだろう。これだけのことをやってのけても決して傲らない」
その言葉にムスカリが頷ずく。
「その通りだ。それに、私たちは何度か君に言ったと思うが、知識や情報は持っているだけではなんの役にも立たないし、捉え方は本人の性格や生き方が強く影響するものだ」
それを受けてリアムが続ける。
「むしろ、持っている知識や情報を生かして人の役に立てるよう行動できる君は、とても素晴らしい存在だと思います」
続けてリカオンが言う。
「ですが、お嬢様。お嬢様は相手を助けるために、自身を犠牲にしてしまうことがあります。これだけはいただけません」
そこでスパルタカスが手を軽く上げた。
「すみません、発言をお許しください。閣下、もう少し我々を頼ってくださって良いのです。兵士たち、いえ騎士団の者たちは閣下に恩義を感じ、とても閣下を大切に思っています。ですから、頼っていただけない方がつらいこともあるのです」
そこでルーファスが続けて言った。
「もちろん、孤児院の子どもたちもパーテルも貴女に感謝していますよ。あの絵本は本当に素晴らしかった」
そう言われ、アルメリアは思わず大粒の涙をこぼした。
「みなさん、ありがとう」
慌てて涙を拭うと、アウルスがハンカチを取り出し、そっとアルメリアの頬にハンカチを当てた。
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