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第百三十八話 前世の話
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「確かに君の行いは、彼らの愚行とは正反対なことばかりですからね。それにしても、公爵令嬢である君をどうにかしようなど、考えることがやはり尋常ではないように感じます」
そう言われアルメリアの脳裏に一瞬ダチュラのことがよぎった。すると、それを見透かしたようにムスカリが言った。
「クインシー男爵令嬢がなにかしら関与しているのではないか?」
アルメリアはどきりとして、思わずムスカリの顔を凝視した。ムスカリはそんなアルメリアを見つめ返して言った。
「君はクインシー男爵令嬢に関して、なにか知っていて隠している。そんな気がするのだが」
問い詰められ躊躇したのち、アルメリアは自分が転生者でありゲームの世界だったことを話す決心をした。
「これから話すことは、信じろという方が難しい突拍子もない話ですわ。だから信じてくれなくても仕方ないと思いますの」
アウルスがそれに答える。
「ここにいるもので、君を疑うような者は誰一人としていない。信用して話して欲しい」
アウルスのその言葉に、その場のアルメリア以外の全員が頷いて見せると、アルメリアも頷き話し始めた。
「私には前世の記憶がありますの」
そう切り出すと、幼少のころに前世の記憶を思い出したところから話し始めた。
ゲームのことを説明できなかったので、前世でこの世界の物語を読んだということにして、自分もここにいる皆もその物語の登場人物なのだと伝えた。
そこまで聞くと、ムスカリが口を開く。
「その物語の中に、クインシー男爵令嬢も出てくるというのか?」
アルメリアは頷く。
「その通りですわ、彼女はその物語の主人公でしたわ」
次にずっと難しい顔でその話を聞いていたアウルスがアルメリアに質問する。
「では、この世界はその物語のシナリオ通りに動いていると?」
「それがほとんど違っていますの。私の影響もあるのかもしれませんけれど、ヒロインであるクインシー男爵令嬢がクインシー男爵家に引き取られる時期も違いますし、物語の中で主人公は教皇と一緒に行動などしませんでしたわ」
そこでまたムスカリがアルメリアに質問する。
「君が私との婚約をしたがらないのは、その物語となにか関係があるのか?」
アルメリアは無言で頷いた。それを見て更にムスカリは質問する。
「では、もしかしてその物語では私とクインシー男爵が婚約するのか? 物語通りに進めるために、君は私との婚約を頑なに拒否しているということか?」
「いいえ、違いますわ。あの世界とこの世界は別物だと思ってますし、私もシナリオ通りにしなくてはいけないとは思っておりません。その逆なのです。物語の中で私と殿下は婚約しておりました、ですが度重なる私の悪事や、殿下がクインシー男爵令嬢へ恋慕したことによって、邪魔になった私は婚約破棄されてしまいますの」
「なんだって?! 私がそんなことをするはずがない、私はそこまで馬鹿ではない」
「もちろんですわ、今は殿下がそのように短慮で思慮に欠けたことをなさるはずがないと知っています。ですが、以前は今より殿下を知りませんでしたし、婚約破棄される可能性はないとは言いきれませんでしたから、ならば最初から婚約しない方が良いと思いましたの」
「なるほど」
ムスカリがそう言って黙り込んでしまったところで、アウルスが質問する。
「その物語で君はどうなる?」
「婚約破棄されてしまった私は、追放されて帝国へ行ったことになってますわ」
「公爵令嬢が追放、しかも帝国へ追放とは随分面白い内容だね。物語の中とはいえ、そこまで酷い扱いではなくてほっとした。それにしても、私なら君が追放されたら喜んで受け入れるよ」
そう言って微笑んだ。そこでムスカリが横から口を挟む。
「それは物語の中の話であって、アルメリアを追放するつもりも帝国へ渡すつもりも一切ないから諦めろ」
アルメリアはムスカリが冗談のつもりで言ったのだと思い、微笑んでムスカリに話しかけようとしたが、ムスカリが真剣な顔でアウルスを見つめていたので言葉を飲み込んだ。
アウルスは余裕の表情でそれに微笑んで返す。
「そんなことはアルメリアが決めることであって、ムスカリ王太子殿下の決めることではない」
そのときリアムがアウルスに向かって言った。
「特使どの、殿下に対して失礼です」
それをムスカリは制した。
「かまわない、ここでは地位は関係ないからな」
そこでアルメリアが口を開いた。
「とにかく、私はクインシー男爵令嬢の考えがわかりませんわ。でも一つ思うことがありますの、彼女も私同様転生者ではないかと」
ムスカリが頷いて言った。
「確かに、あれは君のように、なにかを知っていて目的を持って動いているように見える」
「そうなんですの。でも、その行動は物語の中での彼女の行動と大きく違っていて、私にも彼女がなにを目的にしているのかはさっぱりわかりませんわ。物語の中で私が彼女にとって邪魔な存在だったとしても、婚約破棄される存在ですから排除する必要もないと思いますし」
「それこそ君が物語の中のアルメリアと違って、邪魔をしてこないから君を排除しようとしているのでは?」
アウルスにそう言われ、確かにそうかもしれないと思った。
「ではやはり、そんな理由だけで私をどうにかしようとしている時点で、彼女は噂通りの女性なのかもしれませんわね」
それにリアムが答える。
「噂通りの女性とは、男性に媚を売っているというものですか? それならば本当のことです。私も彼女に言い寄られましたから」
「そうなんですの?」
「閣下、実は私も言い寄られました。以前は場内で会っても見向きもされませんでしたから、本当にここ最近突然のことで驚いております」
「スパルタカスもですの?!」
「お嬢様、実は僕も最近クインシー男爵令嬢に突然言い寄られて困っていました」
するとムスカリが声を出して笑った。皆がそちらに注目する。
「これは面白い、私もあれに言い寄られている。それも最近になってだ。以前は国王に会わせろと言い、そのために私に取り入ろうとしていた。その真意をしりたくて、彼女に優しく接してやっているのだが、最近では露骨に言い寄って来るようになっていた」
そう言われアルメリアの脳裏に一瞬ダチュラのことがよぎった。すると、それを見透かしたようにムスカリが言った。
「クインシー男爵令嬢がなにかしら関与しているのではないか?」
アルメリアはどきりとして、思わずムスカリの顔を凝視した。ムスカリはそんなアルメリアを見つめ返して言った。
「君はクインシー男爵令嬢に関して、なにか知っていて隠している。そんな気がするのだが」
問い詰められ躊躇したのち、アルメリアは自分が転生者でありゲームの世界だったことを話す決心をした。
「これから話すことは、信じろという方が難しい突拍子もない話ですわ。だから信じてくれなくても仕方ないと思いますの」
アウルスがそれに答える。
「ここにいるもので、君を疑うような者は誰一人としていない。信用して話して欲しい」
アウルスのその言葉に、その場のアルメリア以外の全員が頷いて見せると、アルメリアも頷き話し始めた。
「私には前世の記憶がありますの」
そう切り出すと、幼少のころに前世の記憶を思い出したところから話し始めた。
ゲームのことを説明できなかったので、前世でこの世界の物語を読んだということにして、自分もここにいる皆もその物語の登場人物なのだと伝えた。
そこまで聞くと、ムスカリが口を開く。
「その物語の中に、クインシー男爵令嬢も出てくるというのか?」
アルメリアは頷く。
「その通りですわ、彼女はその物語の主人公でしたわ」
次にずっと難しい顔でその話を聞いていたアウルスがアルメリアに質問する。
「では、この世界はその物語のシナリオ通りに動いていると?」
「それがほとんど違っていますの。私の影響もあるのかもしれませんけれど、ヒロインであるクインシー男爵令嬢がクインシー男爵家に引き取られる時期も違いますし、物語の中で主人公は教皇と一緒に行動などしませんでしたわ」
そこでまたムスカリがアルメリアに質問する。
「君が私との婚約をしたがらないのは、その物語となにか関係があるのか?」
アルメリアは無言で頷いた。それを見て更にムスカリは質問する。
「では、もしかしてその物語では私とクインシー男爵が婚約するのか? 物語通りに進めるために、君は私との婚約を頑なに拒否しているということか?」
「いいえ、違いますわ。あの世界とこの世界は別物だと思ってますし、私もシナリオ通りにしなくてはいけないとは思っておりません。その逆なのです。物語の中で私と殿下は婚約しておりました、ですが度重なる私の悪事や、殿下がクインシー男爵令嬢へ恋慕したことによって、邪魔になった私は婚約破棄されてしまいますの」
「なんだって?! 私がそんなことをするはずがない、私はそこまで馬鹿ではない」
「もちろんですわ、今は殿下がそのように短慮で思慮に欠けたことをなさるはずがないと知っています。ですが、以前は今より殿下を知りませんでしたし、婚約破棄される可能性はないとは言いきれませんでしたから、ならば最初から婚約しない方が良いと思いましたの」
「なるほど」
ムスカリがそう言って黙り込んでしまったところで、アウルスが質問する。
「その物語で君はどうなる?」
「婚約破棄されてしまった私は、追放されて帝国へ行ったことになってますわ」
「公爵令嬢が追放、しかも帝国へ追放とは随分面白い内容だね。物語の中とはいえ、そこまで酷い扱いではなくてほっとした。それにしても、私なら君が追放されたら喜んで受け入れるよ」
そう言って微笑んだ。そこでムスカリが横から口を挟む。
「それは物語の中の話であって、アルメリアを追放するつもりも帝国へ渡すつもりも一切ないから諦めろ」
アルメリアはムスカリが冗談のつもりで言ったのだと思い、微笑んでムスカリに話しかけようとしたが、ムスカリが真剣な顔でアウルスを見つめていたので言葉を飲み込んだ。
アウルスは余裕の表情でそれに微笑んで返す。
「そんなことはアルメリアが決めることであって、ムスカリ王太子殿下の決めることではない」
そのときリアムがアウルスに向かって言った。
「特使どの、殿下に対して失礼です」
それをムスカリは制した。
「かまわない、ここでは地位は関係ないからな」
そこでアルメリアが口を開いた。
「とにかく、私はクインシー男爵令嬢の考えがわかりませんわ。でも一つ思うことがありますの、彼女も私同様転生者ではないかと」
ムスカリが頷いて言った。
「確かに、あれは君のように、なにかを知っていて目的を持って動いているように見える」
「そうなんですの。でも、その行動は物語の中での彼女の行動と大きく違っていて、私にも彼女がなにを目的にしているのかはさっぱりわかりませんわ。物語の中で私が彼女にとって邪魔な存在だったとしても、婚約破棄される存在ですから排除する必要もないと思いますし」
「それこそ君が物語の中のアルメリアと違って、邪魔をしてこないから君を排除しようとしているのでは?」
アウルスにそう言われ、確かにそうかもしれないと思った。
「ではやはり、そんな理由だけで私をどうにかしようとしている時点で、彼女は噂通りの女性なのかもしれませんわね」
それにリアムが答える。
「噂通りの女性とは、男性に媚を売っているというものですか? それならば本当のことです。私も彼女に言い寄られましたから」
「そうなんですの?」
「閣下、実は私も言い寄られました。以前は場内で会っても見向きもされませんでしたから、本当にここ最近突然のことで驚いております」
「スパルタカスもですの?!」
「お嬢様、実は僕も最近クインシー男爵令嬢に突然言い寄られて困っていました」
するとムスカリが声を出して笑った。皆がそちらに注目する。
「これは面白い、私もあれに言い寄られている。それも最近になってだ。以前は国王に会わせろと言い、そのために私に取り入ろうとしていた。その真意をしりたくて、彼女に優しく接してやっているのだが、最近では露骨に言い寄って来るようになっていた」
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