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第百三十話 茶番
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フィルブライト公爵は戸惑った表情でアルメリアを見る。アルメリアは諦めて少し首を振ると、改めてフィルブライト公爵に話をふった。
「フィルブライト公爵、最近ルーカスの体調はどうですの?」
「はい、足の方はだいぶ良いのですが年齢的なものなのか、最近は私に口答えばかりして手を焼いております」
頷きながらアルメリアは答える。
「そうなんですのね、あの頃の年にはよくあることと聞きますわ。そのうち落ち着くのではないかしら」
「そうだと良いのですが。すみませんつまらない話を聞かせてしまいましたね」
「いいえ。ところで、噂でお聞きしたのですけれど卿は最近、昔の財宝を見つけたとか……」
フィルブライト公爵は苦笑いをすると答える。
「流石ですね、もうご存知とは」
「もちろんですわ。それが本当なら、ルーカスの治療費を少し考え直さなくてはと思いましたの」
フィルブライト公爵は満面の笑みを見せた。
「ルーカスの治療はクンシラン公爵令嬢のご厚意だったはずですが? それに、天下のクンシラン家がまさかそんな下卑た考えをお持ちとは、少し驚きました」
「あら、一体誰のお陰でルーカスは杖もなく歩けるようになったのかしら。感謝するべき相手にそんな恥知らずなこと、まさか公爵家の人間が言うわけありませんわよね。私ってば、なにか聞き間違いをしたかしら?」
アルメリアは笑ってしまいそうなのをこらえながらそう言うと、呆気にとられているリアムに対し、巻き込んでしまったことを申し訳なく思った。
フィルブライト公爵は作り笑顔のままでしばらくアルメリアを見つめると、ナプキンをテーブルの上に投げ立ち上がった。
「クンシラン公爵令嬢、私は少しがっかりしております。クンシラン公爵もさぞ残念に思うでしょうな、貴女がこれでは……」
「なんとでも。のちほどこの件に関しては、使者を送らせていただきますわね」
アルメリアがそう言うと、呆れたようにフィルブライト公爵はその場をあとにした。
フィルブライト公爵が去って行く背中をしばらく見つめていると、それまで黙っていたリアムが笑顔のまま静かに、誰にも聞かれないように小さな声で言った。
「アルメリア、今の芝居はなんですか? あとで詳しくお話を聞かせていただきます」
「はい……」
アルメリアの執務室へ戻り、お茶を飲んで一息つくとリアムは口を開く。
「で、巻き込んだのですから、私には先ほどのことをちゃんと説明してくださるのですよね?」
「リアム、本当に巻き込んでしまったことは謝りますわ、ごめんなさい。でもあのとき巻き込みたくなかったから、先に貴男には席を外すよう仕向けましたの」
リアムは苦笑した。
「私も頑なに席を外そうとしなかったのがいけませんでした。私はフィルブライト公爵と君を二人きりにしたくはなかったのです」
「なぜですの?」
「フィルブライト公爵は教会派ですし、それに突然ルーカスと君との縁談を持ち出しかねませんから。警戒するのも当然です」
アルメリアは思わず苦笑した。
「リアム、それはありませんわ。ルーカスにも選ぶ権利はありますもの」
「だからこそです。もしもルーカスがそう望めば、フィルブライト公爵はその話を君にするはずです」
「だから、それはあり得ませんわ」
「どうしてそう言いきれるのです?」
アルメリアはルーカスが自分に興味がないからに決まっていると答えようとしたが、そう答えれば会話が堂々巡りになりそうだったので、とりあえず納得したふりをすることにした。
「えぇ、そうですわよね」
リアムはじっとアルメリアを見つめ、ため息をついた。
「わかりました、この話はもうやめにします」
諦めたようにそう言うと、話を続ける。
「ですが、まさかあの席であのような芝居が始まるとは私も思っていませんでした。事前に教えてくだされば協力できたと思いますが」
確かにその通りだった。アルメリアは自分の思慮が足りなかったと少し反省した。
「そうですわね、ごめんなさい」
「責めるつもりではありません。なにか言えない事情があったのでしょう? なぜあのような芝居を?」
アルメリアは、しばらくリアムに話すかどうか考えてから答えた。
「あまり周囲を巻き込みたくはありませんの。できれば話を聞かずにいてくれると助かりますわ」
「いいえ、私が好きで君に関わりをもとうとしているのです。君の周囲にいる者は全員がそう思っていることでしょう。だからこそ、自分を一番頼りにしてほしいと思うものなのです。それに、立場的にもなにか協力できることはあると思いますし」
「そう言ってくださるのは嬉しいですわ。でも、リアムの立場だからこそ、私に関わってはならないこともあると思いますの」
すると、リアムは寂しそうに言った。
「私ではお役に立てませんか?」
アルメリアは慌てて答える。
「そういうことではありませんわ。リアムに協力してもらえればとても心強いですもの」
それを聞いてリアムは微笑んだ。
「ならば話してください」
そう簡単な話ではないと思いながら、アルメリアは答える
「でも、巻き込みたくはありませんから」
「私は頼りにならないようですね」
そう言ってリアムは寂しそうに微笑む。
「だから、そういうことでは……もう、わかりましたわ、お話しますわ。リアムったらけっこう頑固ですのね」
そう言ってアルメリアが笑うと、リアムも笑って答える。
「君に関しては、妥協するつもりはありませんから」
アルメリアはスパルタカスに話したように、フィルブライト公爵の父親が詐欺にあってからの一連の流れを話して聞かせた。
そして、ローズクリーン貿易とチューベローズに関係があるという噂があり、それを調べていることも伝える。
最後まで話を聞くと、リアムは口を開いた。
「一つだけ質問があります。ローズクリーンとチューベローズ貿易が繋がっているかもしれないということは、アドニスには話したのですか?」
「いいえ、話してませんわ。なんでですの?」
アルメリアは、この話を誰が知っているのかリアムが知りたがっているのかと思った。だが、それは違っていた。
「フィルブライト公爵、最近ルーカスの体調はどうですの?」
「はい、足の方はだいぶ良いのですが年齢的なものなのか、最近は私に口答えばかりして手を焼いております」
頷きながらアルメリアは答える。
「そうなんですのね、あの頃の年にはよくあることと聞きますわ。そのうち落ち着くのではないかしら」
「そうだと良いのですが。すみませんつまらない話を聞かせてしまいましたね」
「いいえ。ところで、噂でお聞きしたのですけれど卿は最近、昔の財宝を見つけたとか……」
フィルブライト公爵は苦笑いをすると答える。
「流石ですね、もうご存知とは」
「もちろんですわ。それが本当なら、ルーカスの治療費を少し考え直さなくてはと思いましたの」
フィルブライト公爵は満面の笑みを見せた。
「ルーカスの治療はクンシラン公爵令嬢のご厚意だったはずですが? それに、天下のクンシラン家がまさかそんな下卑た考えをお持ちとは、少し驚きました」
「あら、一体誰のお陰でルーカスは杖もなく歩けるようになったのかしら。感謝するべき相手にそんな恥知らずなこと、まさか公爵家の人間が言うわけありませんわよね。私ってば、なにか聞き間違いをしたかしら?」
アルメリアは笑ってしまいそうなのをこらえながらそう言うと、呆気にとられているリアムに対し、巻き込んでしまったことを申し訳なく思った。
フィルブライト公爵は作り笑顔のままでしばらくアルメリアを見つめると、ナプキンをテーブルの上に投げ立ち上がった。
「クンシラン公爵令嬢、私は少しがっかりしております。クンシラン公爵もさぞ残念に思うでしょうな、貴女がこれでは……」
「なんとでも。のちほどこの件に関しては、使者を送らせていただきますわね」
アルメリアがそう言うと、呆れたようにフィルブライト公爵はその場をあとにした。
フィルブライト公爵が去って行く背中をしばらく見つめていると、それまで黙っていたリアムが笑顔のまま静かに、誰にも聞かれないように小さな声で言った。
「アルメリア、今の芝居はなんですか? あとで詳しくお話を聞かせていただきます」
「はい……」
アルメリアの執務室へ戻り、お茶を飲んで一息つくとリアムは口を開く。
「で、巻き込んだのですから、私には先ほどのことをちゃんと説明してくださるのですよね?」
「リアム、本当に巻き込んでしまったことは謝りますわ、ごめんなさい。でもあのとき巻き込みたくなかったから、先に貴男には席を外すよう仕向けましたの」
リアムは苦笑した。
「私も頑なに席を外そうとしなかったのがいけませんでした。私はフィルブライト公爵と君を二人きりにしたくはなかったのです」
「なぜですの?」
「フィルブライト公爵は教会派ですし、それに突然ルーカスと君との縁談を持ち出しかねませんから。警戒するのも当然です」
アルメリアは思わず苦笑した。
「リアム、それはありませんわ。ルーカスにも選ぶ権利はありますもの」
「だからこそです。もしもルーカスがそう望めば、フィルブライト公爵はその話を君にするはずです」
「だから、それはあり得ませんわ」
「どうしてそう言いきれるのです?」
アルメリアはルーカスが自分に興味がないからに決まっていると答えようとしたが、そう答えれば会話が堂々巡りになりそうだったので、とりあえず納得したふりをすることにした。
「えぇ、そうですわよね」
リアムはじっとアルメリアを見つめ、ため息をついた。
「わかりました、この話はもうやめにします」
諦めたようにそう言うと、話を続ける。
「ですが、まさかあの席であのような芝居が始まるとは私も思っていませんでした。事前に教えてくだされば協力できたと思いますが」
確かにその通りだった。アルメリアは自分の思慮が足りなかったと少し反省した。
「そうですわね、ごめんなさい」
「責めるつもりではありません。なにか言えない事情があったのでしょう? なぜあのような芝居を?」
アルメリアは、しばらくリアムに話すかどうか考えてから答えた。
「あまり周囲を巻き込みたくはありませんの。できれば話を聞かずにいてくれると助かりますわ」
「いいえ、私が好きで君に関わりをもとうとしているのです。君の周囲にいる者は全員がそう思っていることでしょう。だからこそ、自分を一番頼りにしてほしいと思うものなのです。それに、立場的にもなにか協力できることはあると思いますし」
「そう言ってくださるのは嬉しいですわ。でも、リアムの立場だからこそ、私に関わってはならないこともあると思いますの」
すると、リアムは寂しそうに言った。
「私ではお役に立てませんか?」
アルメリアは慌てて答える。
「そういうことではありませんわ。リアムに協力してもらえればとても心強いですもの」
それを聞いてリアムは微笑んだ。
「ならば話してください」
そう簡単な話ではないと思いながら、アルメリアは答える
「でも、巻き込みたくはありませんから」
「私は頼りにならないようですね」
そう言ってリアムは寂しそうに微笑む。
「だから、そういうことでは……もう、わかりましたわ、お話しますわ。リアムったらけっこう頑固ですのね」
そう言ってアルメリアが笑うと、リアムも笑って答える。
「君に関しては、妥協するつもりはありませんから」
アルメリアはスパルタカスに話したように、フィルブライト公爵の父親が詐欺にあってからの一連の流れを話して聞かせた。
そして、ローズクリーン貿易とチューベローズに関係があるという噂があり、それを調べていることも伝える。
最後まで話を聞くと、リアムは口を開いた。
「一つだけ質問があります。ローズクリーンとチューベローズ貿易が繋がっているかもしれないということは、アドニスには話したのですか?」
「いいえ、話してませんわ。なんでですの?」
アルメリアは、この話を誰が知っているのかリアムが知りたがっているのかと思った。だが、それは違っていた。
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