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第百二十七話 誕生会の相手

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 アルメリアはスパルタカスに、一通り今までのことをざっくりと話したが、心配させないようにアルメリアが狙われていることは話さなかった。それに、それを話してしまえば、スパルタカスのことなのでアルメリアに騎士団から護衛をつけると言いかねなかった。

 すべての話を聞き終えると、スパルタカスは怒りをこらえてるように拳を強く握りしめた。

「許される行為ではありません。そのようなことがこの国で行われているとは」

「そうなんですの、あってはいけないことですわ」

 そのとき、横でずっと静かに話を聞いていたルーカスが口を開いた。

「だが、そのように堕落してしまった者たちはごく一部で、そのような人物がトップにいるために、敬虔な信者たちも抑圧されているのは確かです。そう言った者たちを探すべきだと私は思う」

「そうですわね、それは確かだと思いますわ。現にわたくしも何人かそういった方にお会いしてますもの。彼らはわたくしたちを手助けしてくれると思いますわ」

 すると、スパルタカスがその話しに反応した。

「騎士団にも敬虔な信者はおります。彼らと話をすれば、なにかわかるかもしれません」

「そうですわね。怪しまれない程度に話をしてみるのもよいかもしれませんわね」

 ルーカスはスパルタカスに向き直る。

「では、私も騎士団に入って一兵卒として騎士団にいる信者に色々探りを入れたいと思います。ところで、私はいつ頃から騎士団に入れてもらえますか?」

 スパルタカスはぎょっとした顔でルーカスを見つめる。

「一兵卒と仰ると、騎士としてではなく兵士として騎士団に入られるということですか?」

「もちろんその通りです。そうでなければ、書類等を偽造しなければならなくなるだろう? そうなれば、後々問題になりかねないし騎士として入団すると、やはり目立ってしまいますから」

「ですが……」

「入団するまでには、言葉遣いも何とかします。それに、兵舎で他の兵士に囲まれて生活するのも悪くないです。覚悟はできています」

 スパルタカスは頷く。

「わかりました。それでもやはり書類を準備しなければなりませんから、少しお時間をいただくことになると思います。なるべく急がせますので、準備でき次第閣下に連絡いたします」

「そうですわね、そうして下さればルーカスの治療と称してフィルブライト家に訪問したときに、わたくしからお伝えしますわ」

 こうして悩みながらも、スパルタカスにも協力してもらう流れになった。
 それにしてもルーカスの覚悟がそこまでとは驚いた。だが、途中で根を上げてしまうことも考えられるので、そのときは素直にクンシラン家の屋敷へ匿い、そこから移動してどこかの別荘で過ごしてもらうしかないと考えた。

 そしてルーカスの言うように、教会派でもスカビオサに反発しているものが中にはいるかもしれず、その中には協力してくれる人物もいるかもしれなかった。
 そういった貴族をみつければ、心強い味方になるだろう。






 スパルタカスからの返事を待っている間、リカオンの口から驚きの話がアルメリアのもとへ舞い込んできた。

「お嬢様、王太子殿下が自身の誕生会にクインシー男爵令嬢をエスコートするという話を聞きました。ご存知でしたか?」

 城内の執務室で、机に向かって領地からの許可証の書類に視線を落としサインをしていたアルメリアは、その話を聞いて思考が追い付かずに行動を止めた。
 そして、ゆっくり顔を上げると真意を探るようにリカオンの顔をしばらくじっと見つめる。

 リカオンは真剣な顔で頷くと言った。

「嘘ではありませんよ」

 いつかこんなことがあるだろうと思っていたし、それを覚悟していたものの、実際にことが起きるとこんなにも動揺するものなのかと思いながら、なんとか自分を落ち着かせようとした。

 自分はこうなることを知っていた。だからこそ、一歩距離を置いてムスカリと接触していた。それでもこれだけ動揺するのだから、ゲーム内での悪役令嬢としてのアルメリアはさぞ傷ついたことだろう。

 ぼんやりそんなことまで考えていた。

「お嬢様、大丈夫ですか?」

 リカオンの声ではっとしたアルメリアは、なんとか笑顔を取り繕う。

「大丈夫ですわ。なんというか、王太子殿下にも色々なお考えがあるのでしょうけれど、予想外のことでしたから驚いてしまっただけですわ」

 そんな様子を見て、リカオンは悲しげに微笑んだ。

「そうなのですか? それなら良いのですが……。まぁ、僕もお嬢様の仰る通り殿下にはなにかお考えがあってのことだと思います。殿下はお嬢様もご存知の通り、かなりの策略家ですからね」

 アルメリアもそれはわかっていたが、相手はゲーム内のヒロインである。
 ムスカリが、本気でダチュラを愛してしまっていてもおかしくはない。それと同時に、やはりアルメリアに対しては恋愛感情ではなく、友情的な感情で婚姻を希望していたということが確認できた。

 ショックでないと言えば嘘になる。だが、この時点でそれがわかったのだから、これからはしっかり気持ちを切り替えることができるではないかと、少しスッキリした気持ちにもなった。

 問題は、ダチュラがはたして妃に相応しい人物かどうかということだろう。

 そんなことを考えていると、リカオンが不満そうに言った。

「それにしても、お嬢様が誕生会に出席なさらないことを知っていたとはいえ、形式的に一度はお嬢様をお誘いしてくださってもいいと思うのですが……」

 アルメリアは苦笑する。

「でも、わたくしを誘ってしまえば、誕生会直前で他の相手を誘い直さなくてはならなくなってしまいますもの。それはそれで大変なんだと思いますわ。わたくしも、それがあるから事前に『出席しない』とお伝えしたのですし」

 そう説明するも、リカオンはまだ不満そうな顔で答える。

「それは承知しております。ですが、本当に思いを寄せていらっしゃるならそれでもお誘いして、お嬢様が出席してくれる方にかけてみても良かったのでは?」

 その問いに少し考えてから、アルメリアは言った。

「そう思うから不満に思うのですわ。そもそも、殿下はわたくしに思いを寄せていませんわよ?」

「はい?」

 リカオンは、呆気にとられた様子になり、質問する。

「お嬢様、それは本気で仰っているのですか?」

「もちろん本気ですわ。殿下はわたくしを信頼してくださっていて大切に扱ってくださるから、周囲からはそう見えても仕方がありませんわね」

 そう言って苦笑する。

 リカオンは信じられない、というような顔でアルメリアをじっと見つめたのち、大きくため息をついたあと、突然こらえきれないとばかりに笑い出した。

「リカオン、なんですの?」

「いえ、殿下が不憫……じゃなくて、いや、まぁ、僕には有利な話ですからいいんですけれど」

 笑いをこらえながらそう答えると、呼吸を整えた。

「お嬢様は、本当に手強い相手です」

 リカオンは信じていないようだけど、見ていればそのうちわかりますわ! 

アルメリアは心の中でそう呟いた。
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