悪役令嬢は救国したいだけなのに、いつの間にか攻略対象と皇帝に溺愛されてました

みゅー

文字の大きさ
上 下
125 / 190

第百二十四話 フィルブライト公爵

しおりを挟む
「宝石というのは、子どもたちのことでしたのね?」

「いいえ、それが奴らが言うには子どもたちが着けている宝飾品が売り物であって、子どもたちはそれを引き立てるために身に付けているだけだと言うのです。そして、宝石を買う前にお試し期間があって、そのさいは子どもも一緒に貸し出すと言いました。なぜなら、貸し出し中その子どもたちに装飾品を管理させるからと」

 それを聞いてアルメリアは眩暈がした。そして、猛烈に襲ってくる吐き気を抑えながら質問する。

「気に入らなかった場合は、返却なさるの?」

「そうです。ですがもちろん、気に入れば宝飾品を買い取ることも可能です。その後の事はすべて手配すると」

「それで卿はどうなさったのですか?」

「もちろん断りました。その当時、エミリーが生まれたばかりでしたから特にそういったことには過剰に嫌悪感を感じました。とにかく腹を立てた私はなにも考えずに、その事を司教であるスカビオサに報告してしまったのです」

「スカビオサに?!」

 アルメリアは思わず驚いて聞き返すと、フィルブライト公爵は苦笑した。

「貴女はどうやらスカビオサがどのような人物なのかご存知らしい」

 そう言われ、アルメリアも苦笑して返した。それを確認するとフィルブライト公爵は話を続ける。

「私はなにも考えていませんでした。それでスカビオサに話をすると、彼は話を聞いて『わかりました、後はこちらでなんとかしましょう』と言ったので、彼にまかせることにしたのです」

 あり得ないと思いながらも、アルメリアはあえてフィルブライト公爵へ質問した。

「彼はちゃんと対処するふりはしたんですの?」

「いいえ、それどころかその直後に私の父が詐欺に合い多額の借金を作ることになり、教会から援助の話を打診されたのです。そのときスカビオサから言われました『余計なことを言わなければ、お父様も苦労なさることはなかったかもしれませんよ』とね」

 アルメリアは唖然とした、彼らはそこまでやるのか? と。

「詐欺の内容はどんなものでしたの?」

「わが領地は穀物生産でなりたっています。ですが農工は天候などによって左右され、安定した収入が得られるわけではありません。そこで一計を案じた父は、領民が安心して生活できるよう天候などに左右されずに安定した収入を得られるように模索しておりました」

 アルメリアは相槌を打った。

「その気持ち、同じく領地を統治している身としてよくわかりますわ」

「ありがとうごさいます。それで、いくらかお金を出せば安定した収入を得られる、という貿易会社にかなりの額を支払ってしまったそうです」

「詐欺の犯人は捕まえられませんでしたの?」

 フィルブライト公爵は力なく首を振る。

「手を尽くしましたが、わかりませんでした」

「貿易関係ならわたくしつてがありますわ。その書類は残ってまして?」

「もちろんです」

 そう答えて、フィルブライト公爵ははっとする。

「貴女は犯人を捕らえるつもりなのですか?」

 笑顔になると、アルメリアは頷く。

「そういった輩には我慢なりませんの。幸いわたくしの部下にはそういった捜査に慣れたものが複数おりますわ。徹底的に調べてみますわね」

 チューベローズのやることだ、調べればきっとぼろがでるに違いない、と思いながらアルメリアはそう答えた。
 すると、フィルブライト公爵は深々と頭を下げた。

「ありがとうございます。これほど心強いことはありません」

「卿が気にすることはありませんわ。それで、それから教会の支援が始まり、逃れられない関係が始まったということですのね?」

「はい。それからは教会の言いなりです。それで今年はその返済が終わりなんとかこの負の連鎖をどうにかできると思っていたのですが……」

「そうなんですのね。でも、それだけなら来年を待てばよろしいことですわ。わざわざわたくしのところにいらっしゃったのですから、なにか決定的なことがあったのではありませんか?」

 フィルブライト公爵は苦笑して答えた。

「貴女には隠し事はできなさそうですな」

 そう言うとしばらく沈黙し、怒りを抑えるように静かに低い声で言った。

「スカビオサの奴が、今年返金ができぬのなら娘を寄越せと……」

「えっ?! フィルブライト公爵令嬢を?!」

 感情を抑えるように静かに息を吐いて頷くと、フィルブライト公爵は答える。

「奴はどこかで娘を見かけて見初めたようです。そんな道理が通るはずがないと言ったところ、奴は脅されて私に金を渡していたと国王に報告すると言いました」

「それは完全に揺すりですわよね?」

「そうなのです。ですが、そう国王に報告されれば私に身の潔白を証明する手だてがありません。無罪が証明されたとしても、こんな訴えを起こされてはフィルブライト家の信用は失墜するでしょう」

 彼らのやり方の汚さにアルメリアは、腹を立てた。

「許せませんわね、卑劣すぎます」

「先日もルーカスのことで大変お世話になっているというのに、お願いをするなんて図々しいことだとはわかっています。ですがこんなお願いをできるのは貴女しかいません」

 アルメリアは頷く。

「わかりましたわ、協力は惜しみません。ですが、わたくしもチューベローズには目をつけられております。なので、貴男とわたくしとの関係をチューベローズに知られてはいけませんわ。ですから表面上仲違いしたようにしましょう」

 怪訝な顔をしながら、フィルブライト公爵は答える。

「貴女にはルーカスの治療をお願いしています。それは社交界ではすでに広まっていて、なにかあれば貴女にお願いしたいと言っている貴族は少なくありません。そんなときに貴女と私が仲違いですか? 彼らは信じますかね」

「その治療を利用しましょう。わたくしがとても高額な治療費を卿に請求しますわ。でも当然卿はそれを拒否します。それで、社交界では普通に接触しているけれど、じつはお互いに嫌いあっているということにしましょう」

 しばらくフィルブライト公爵は考えて答える。

「ですが、それではクンシランの家名にも傷がつくのでは?」

 アルメリアは微笑んだ。

「お互いに、そんな噂ごときで傷がつく家柄ではないですわよね?」

「確かにそうですが、ご迷惑をかけるのではないかと……」

 不安そうにそう言うと、フィルブライト公爵は黙った。

「この問題が解決した暁には、お互いに勘違いをしていたということで和解したことにすればよろしいのですわ」

「ありがとうございます」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら少女漫画の悪役令嬢でした〜アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました〜

まほりろ
恋愛
ムーンライトノベルズで日間総合1位、週間総合2位になった作品です。 【完結】「ディアーナ・フォークト! 貴様との婚約を破棄する!!」見目麗しい第二王子にそう言い渡されたとき、ディアーナは騎士団長の子息に取り押さえられ膝をついていた。王子の側近により読み上げられるディアーナの罪状。第二王子の腕の中で幸せそうに微笑むヒロインのユリア。悪役令嬢のディアーナはユリアに斬りかかり、義理の兄で第二王子の近衛隊のフリードに斬り殺される。 三日月杏奈は漫画好きの普通の女の子、バナナの皮で滑って転んで死んだ。享年二十歳。 目を覚ました杏奈は少女漫画「クリンゲル学園の天使」悪役令嬢ディアーナ・フォークト転生していた。破滅フラグを壊す為に義理の兄と仲良くしようとしたら溺愛されました。 私の事を大切にしてくれるお義兄様と仲良く暮らします。王子殿下私のことは放っておいてください。 ムーンライトノベルズにも投稿しています。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?

gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。 みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。 黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。 十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。 家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。 奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。

純白の牢獄

ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ

悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。 残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。 そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。 だがーー 月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。 やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。 それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。

悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!

Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。 転生前も寝たきりだったのに。 次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。 でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。 何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。 病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。 過去を克服し、二人の行く末は? ハッピーエンド、結婚へ!

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

処理中です...