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第百二十三話 高価な宝石

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 アルメリアはここまで話を聞いて、不思議に思ったことを質問した。

「それにしても、そのレオという脱走兵はよくそのような指示書を手に入れましたわね」

「それなんだが、どうも町のごろつきを雇って指示書を盗ませたらしい」

 それはまたずいぶん間の抜けた話だと思いながら、アルメリアはさらに質問する。

「そんな大切なものを、彼らはなぜ早く処分しなかったのでしょうか」

 アウルスは、少し考えると質問に答える。

「彼らを調べ始めてから思うことがあるのだが、彼らの指揮系統はどうも上手く機能していないようだ。どこか抜けている。まぁ、我々の軍や、騎士団の兵士のように訓練を受けているわけでもないから、仕方のないことかもしれないが。指示書についても、あんなものがなければ動けない部下しかいないのだから、なんともお粗末なことだ」

「確かにそうですわね。でも、そもそも教会とはそういったはかりごとをする組織ではないはずですもの、そんなことをしようとすればぼろが出て当然ですわよね」

「そうだな。しかもこんなに黒い噂が多くなったのは、ここ数十年のことだ。以前は本当にクリーンな組織だったようだ」

「だからこそ、余計にそういったことに不馴れで、至るところでほころびがでているのかもしれませんわね」

 アルメリアは納得した。おそらくすべての黒幕はスカビオサなのだろう。彼が司教になってから、教会のなにかが変わってしまったのだ。
 そんなことを考えていると、アウルスがじっとアルメリアを見つめて言った。

「君はなにか知っているのでは?」

「ごめんなさい、もう少し色々わかってきたら説明しますわ」

「そうか、あまり一人で抱え込まずなにかあれば私に話してほしい。いいね?」

 アルメリアは頷いて返した。




 アウルスとも話し合い、イーデンを潜入させる手筈は整った。

 だが、今度はイーデンが潜入できるようにお膳立てをせねばならなかった。
 イーデンには自信があるように言ったが、アルメリアの周囲に居る者たちは騎士団派閥の者たちばかりで協力を得られそうになかった。
 そもそも協力を得るにしても、この問題に巻き込みかねないので、おいそれとお願いするわけにはいかずアルメリアは頭を抱えた。

 そんなとき、フィルブライト公爵がアルメリアの執務室を訪ねてきた。

「突然お邪魔してしまい、大変申し訳ありません。ですが、訳あってこちらに訪ねて来ていることを公にできず、こうして突然の訪問となってしまいました」

 アルメリアは微笑むと快くフィルブライト公爵を迎えた。

「とんでもないことでございますわ。わたくしは相談役ですから、いつでも訪ねてきてくださってかまいませんわ。さぁ、お座りになられて下さい」

 心なしか緊張しているフィルブライト公爵を、ソファに座るように促した。
 お互いに座って落ち着いたところで、アルメリアはフィルブライト公爵から本題を話し始めるのを待っていたが、天気の話やルーカスの体調の話など当たり障りのない会話を続けるので、しびれを切らし質問する。

「今日はなにかもっと、大切なお話があるのではないのですか?」

 すると、フィルブライト公爵はちらりとアルメリアの背後に控えているリカオンに視線をやった。リカオンに聞かれては不味い話なのだろう。
 アルメリアは振り向き、リカオンに目配せするとリカオンは一礼して部屋を出ていった。それを見届けるとフィルブライト公爵は安心したように言った。

「ありがとうございます。彼も教会派ですから、用心するにこしたことはないでしょう。今日は折り入ってお願いがあってきました」

「なんでしょうか? わたくしにお手伝いできることなら良いのですけれど」

 すると、フィルブライト公爵は頭を下げた。

「恥を忍んで申し上げますと、我が領地は今窮地に立たされています」

 アルメリアは頷くと答える。

「えぇ、知っておりますわ。確かフィルブライト領で大規模な蝗害こうがいがあったと聞いております。大変でしたわね」

「はい、今年は豊作になりそうだと期待をしていまして、そのお金で教会からの援助を返済する予定でした」

 ここまで聞いて、フィルブライト公爵が教会から援助を受けていることより、フィルブライト公爵がその話をアルメリアにしたことに驚いた。

「では、それが叶わなくなって困っているということですの? でも、教会の方もそういった事情があるのですから、返済を急かせるようなことはありませんでしょう?」

「はい、その通りです。そもそも教会から今まで援助の返済を迫られたことは一度もありません。ですが、私は返せるときに返済をするようにしておりました。それと今回はどうしても返済したい理由があったのです」

 無言でその話の先を待つ。すると、しばらく躊躇したのち口を開いた。

「私は教会との関係を終わらせたいのです。終わらせたいと言うか、今の教会からは離れたいと言った方が良いかもしれませんね」

「なぜですの?」

「クンシラン公爵令嬢、貴女は最近教会の動きが怪しいと感じたことはありませんか? 特にスカビオサが教皇になられてから特に、です。私は生まれてすぐ洗礼を受け、それいらいずっと教会と信仰と共に生きてきましたから、教会を信じたい気持ちもあります。ですが、一部の勢力によって信仰が汚されているのは確かなのです。私は、それを許せないことだと思っています」

 フィルブライト公爵がここまで言及するということは、なにかがあったのだろう。

「卿がそこまで仰るのは、なにか原因となる理由が?」

「数年前の話です。当時はまだ教会から援助を受けておりませんでしたから、教会とは対等な立場でした。ある日スカビオサの教区の助祭がやってきて『他では手に入らない、素晴らしい宝石を売っているが買わないか?』と持ちかけてきました」

 アルメリアは訝しんで尋ねた。

「なぜ教会が宝石を? ワインなどは扱っているようですけれど、宝石はあまり扱っていないはずですわ」

 フィルブライト公爵は頷く。

「そうなのです。私もおかしいと思いながらも、その宝石が見たくて言われたとおりの場所へ出かけました。そして、そこで見たのは綺麗な服を着させられ、高価な宝飾品を身につけた子どもたちでした」

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