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第百十九話 アルメリアの功績
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アルメリアが砂糖を見て思い付いた、自分でもできること。それはプリンを作ることだった。ヘンリーは甘いものに目が無いので、美味しいものを携えてやってきた人物に、嫌な感情は抱きにくいのではないかと思ったのだ。
焼き石に水だが、やらないよりはましだろう。
プリンを渡してアドニスを送り出したあと、アルメリアはとにかく待つしかなかった。
話し合い直後にアドニスからは『プリンはとても美味しくて是非商品化して欲しい、自分が買い占める、とヘンリーが言っていた。話し合いの内容は後日ちゃんと報告する』とだけ伝言をもらった。
数日後にヘンリーから『アレキスの倅はたいした奴だ』とだけ書いた手紙を受け取り、そこでやっと話し合いが成功したのだと知ったのだった。
アドニスは後処理があり忙しいようで、このまましばらく港に留まることになったようだったが、アルメリアは城下に戻ることにした。
城下へ戻る準備を終えて、最後に書類に目を通しているところへアドニスが訪れた。
「アルメリア、このような時間に申し訳ありません。ですが、明日には戻られると聞いたのでその前に報告とお話がしたいと思ったのです」
アルメリアも、ヘンリーとアドニスの間でどのような話し合いがあったのか聞きたかった。
「もちろん、どうぞお入りになって」
部屋に招き入れようとするアルメリアを制してアドニスは言った。
「こんな時間なのですが、夜の海でしか見られない現象を是非アルメリアにお見せしたいので、外に行きませんか?」
アルメリアはなんだろう? と、思いつつアドニスにしたがった。
アドニスに手を引かれながら、暗闇の中足元を照らすランプの明かりだけを頼りに夜道を歩いた。
アドニスが足元を見ながら話し始める。
「先日のモーガンとの話し合いは、アルメリアからの助言が大いに役に立ちました」
アルメリアはアドニスの背中を見つめながら答える。
「助言をしたつもりはありませんわ」
すると、アドニスは少しだけアルメリアの方に視線を向けると笑った。
「貴女はそうかもしれませんね。ですが、私の行く先を指し示してくれるヒントをたくさんくださった。まず、ロベリア海域での海賊行為の件ですが貴方に指摘され再捜査した結果、モーガン一派の仕業ではないとわかりました」
「それは私にとっても朗報ですわ。ヘンリーを信じてはいましたけれど、報告があるまでは完全に信じるわけにはいきませんでしたから」
その言葉に、アドニスはちらりと横目でアルメリアを見ると微笑んだ。
「貴女はいつも公平ですね。感情的に自分と仲が良いというだけで人を判断しない。その冷静な判断力は一見冷たいように思われがちですが、領地を統治する立場にある人間には必要なことです」
そう言うと、前方へ視線を戻し話を続ける。
「海賊行為を行っていたものたちが、なぜモーガン一派を陥れるようなことをしていたのかは、今現在も調査中ですが、私がモーガン一派を疑ったままならロベリア国とモーガン一派との軋轢は余計広がり、最終的には戻れないところまで行っていたかもしれません」
「では、ヘンリーにとっても、アドニスにとっても良い方向へ進めたということですのね?」
「はい、その通りです。それで改めてモーガンたちのツルス港での働きについて見直しました。彼らの業績は素晴らしいものですね。我々も水軍をもっていますし、それなりに歴史もありますからそれは彼らにも負けてはいないと思います。ですが、軍とは違う柔軟な考えをもち、他方向から物事を解決する。それは私たちもしっかり評価すべきだと思いました」
アルメリアはヘンリーのことを、アドニスがこれだけ評価してくれたことが嬉しかった。
思わず、握られている手を強く握り返し少し振る。
「そうなんですの。海上のことはヘンリーに任せれば安心できたりしますの」
「そうでしょうね。私はそれを国王に報告しました」
アルメリアは驚いて、繋いでいた手を引っ張りアドニスを自分の方へ向かせる。
「国王がどこにいるかご存知でしたの?!」
立ち止まり振り向くとアドニスは苦笑する。
「知りませんでした、貴女の屋敷に伺うまでは」
「もしかして、屋敷内で国王に?」
アドニスは頷くと、アルメリアの手を引いてまた歩きだす。
「そうです。私は運良くエントランスで馬車を待っているときに、クンシラン公爵と楽しそうに釣り道具を持って戻ってきた陛下に遭遇しました。クンシラン公爵は相当焦っておられましたが、陛下は朗らかに笑いながら私に声をかけてくださいましたよ」
これにはアルメリアも苦笑いを返した。
「今は二人とも釣りに夢中のようですわ。私も何度か誘われましたもの」
「そうなのですね。なぜ貴女の屋敷に陛下がいらせられるのかは聞いていませんが、私にとってこんなに都合の良いことはありませんでした」
アルメリアはアドニスの背後から、アドニスの頭を見つめながら訊く。
「陛下に許可を得ないといけないようなことがありまして?」
「はい。モーガンの功績を陛下にお話しして、正式にロベリア国として彼にナイトの称号を与えるよう説得しました」
思いもよらないその話に、アルメリアは思わず立ち止まる。
「ヘンリーに称号を?!」
アドニスは振り返りアルメリアに微笑む。
「はい、その通りです。彼はクンシラン領で、それに値することを成し遂げています」
「そんな、陛下がお許しにならないですわ!」
アドニスはしっかりアルメリアに向き直ると、アルメリアの両肩に手をのせアルメリアの瞳を見つめると言った。
「陛下には許可をいただきましたよ。モーガンにはナイトの称号が与えられました」
アルメリアは驚きで声も出なかった。そんな、アルメリアを見ながらアドニスは優しく言う。
「それもこれもアルメリア、貴女がいち早くモーガンの素質を見抜き、信頼を勝ち取ったことから端を発しています。この件に関しての貴女の功績は大きい」
アルメリアは慌ててそれを否定する。
「違いますわ、アドニス。貴男が陛下を説得するだけの材料を集め、提示したことによる結果ですわ」
「私にそうすることを指し示したのが、貴女なのですよ」
焼き石に水だが、やらないよりはましだろう。
プリンを渡してアドニスを送り出したあと、アルメリアはとにかく待つしかなかった。
話し合い直後にアドニスからは『プリンはとても美味しくて是非商品化して欲しい、自分が買い占める、とヘンリーが言っていた。話し合いの内容は後日ちゃんと報告する』とだけ伝言をもらった。
数日後にヘンリーから『アレキスの倅はたいした奴だ』とだけ書いた手紙を受け取り、そこでやっと話し合いが成功したのだと知ったのだった。
アドニスは後処理があり忙しいようで、このまましばらく港に留まることになったようだったが、アルメリアは城下に戻ることにした。
城下へ戻る準備を終えて、最後に書類に目を通しているところへアドニスが訪れた。
「アルメリア、このような時間に申し訳ありません。ですが、明日には戻られると聞いたのでその前に報告とお話がしたいと思ったのです」
アルメリアも、ヘンリーとアドニスの間でどのような話し合いがあったのか聞きたかった。
「もちろん、どうぞお入りになって」
部屋に招き入れようとするアルメリアを制してアドニスは言った。
「こんな時間なのですが、夜の海でしか見られない現象を是非アルメリアにお見せしたいので、外に行きませんか?」
アルメリアはなんだろう? と、思いつつアドニスにしたがった。
アドニスに手を引かれながら、暗闇の中足元を照らすランプの明かりだけを頼りに夜道を歩いた。
アドニスが足元を見ながら話し始める。
「先日のモーガンとの話し合いは、アルメリアからの助言が大いに役に立ちました」
アルメリアはアドニスの背中を見つめながら答える。
「助言をしたつもりはありませんわ」
すると、アドニスは少しだけアルメリアの方に視線を向けると笑った。
「貴女はそうかもしれませんね。ですが、私の行く先を指し示してくれるヒントをたくさんくださった。まず、ロベリア海域での海賊行為の件ですが貴方に指摘され再捜査した結果、モーガン一派の仕業ではないとわかりました」
「それは私にとっても朗報ですわ。ヘンリーを信じてはいましたけれど、報告があるまでは完全に信じるわけにはいきませんでしたから」
その言葉に、アドニスはちらりと横目でアルメリアを見ると微笑んだ。
「貴女はいつも公平ですね。感情的に自分と仲が良いというだけで人を判断しない。その冷静な判断力は一見冷たいように思われがちですが、領地を統治する立場にある人間には必要なことです」
そう言うと、前方へ視線を戻し話を続ける。
「海賊行為を行っていたものたちが、なぜモーガン一派を陥れるようなことをしていたのかは、今現在も調査中ですが、私がモーガン一派を疑ったままならロベリア国とモーガン一派との軋轢は余計広がり、最終的には戻れないところまで行っていたかもしれません」
「では、ヘンリーにとっても、アドニスにとっても良い方向へ進めたということですのね?」
「はい、その通りです。それで改めてモーガンたちのツルス港での働きについて見直しました。彼らの業績は素晴らしいものですね。我々も水軍をもっていますし、それなりに歴史もありますからそれは彼らにも負けてはいないと思います。ですが、軍とは違う柔軟な考えをもち、他方向から物事を解決する。それは私たちもしっかり評価すべきだと思いました」
アルメリアはヘンリーのことを、アドニスがこれだけ評価してくれたことが嬉しかった。
思わず、握られている手を強く握り返し少し振る。
「そうなんですの。海上のことはヘンリーに任せれば安心できたりしますの」
「そうでしょうね。私はそれを国王に報告しました」
アルメリアは驚いて、繋いでいた手を引っ張りアドニスを自分の方へ向かせる。
「国王がどこにいるかご存知でしたの?!」
立ち止まり振り向くとアドニスは苦笑する。
「知りませんでした、貴女の屋敷に伺うまでは」
「もしかして、屋敷内で国王に?」
アドニスは頷くと、アルメリアの手を引いてまた歩きだす。
「そうです。私は運良くエントランスで馬車を待っているときに、クンシラン公爵と楽しそうに釣り道具を持って戻ってきた陛下に遭遇しました。クンシラン公爵は相当焦っておられましたが、陛下は朗らかに笑いながら私に声をかけてくださいましたよ」
これにはアルメリアも苦笑いを返した。
「今は二人とも釣りに夢中のようですわ。私も何度か誘われましたもの」
「そうなのですね。なぜ貴女の屋敷に陛下がいらせられるのかは聞いていませんが、私にとってこんなに都合の良いことはありませんでした」
アルメリアはアドニスの背後から、アドニスの頭を見つめながら訊く。
「陛下に許可を得ないといけないようなことがありまして?」
「はい。モーガンの功績を陛下にお話しして、正式にロベリア国として彼にナイトの称号を与えるよう説得しました」
思いもよらないその話に、アルメリアは思わず立ち止まる。
「ヘンリーに称号を?!」
アドニスは振り返りアルメリアに微笑む。
「はい、その通りです。彼はクンシラン領で、それに値することを成し遂げています」
「そんな、陛下がお許しにならないですわ!」
アドニスはしっかりアルメリアに向き直ると、アルメリアの両肩に手をのせアルメリアの瞳を見つめると言った。
「陛下には許可をいただきましたよ。モーガンにはナイトの称号が与えられました」
アルメリアは驚きで声も出なかった。そんな、アルメリアを見ながらアドニスは優しく言う。
「それもこれもアルメリア、貴女がいち早くモーガンの素質を見抜き、信頼を勝ち取ったことから端を発しています。この件に関しての貴女の功績は大きい」
アルメリアは慌ててそれを否定する。
「違いますわ、アドニス。貴男が陛下を説得するだけの材料を集め、提示したことによる結果ですわ」
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