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第百十二話 思いもよらない人物

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 ツルスの屋敷で荷解きをし、少しくつろぐとリカオンと今後の予定について話し合った。

 リカオンもアウルスも、アルメリアの屋敷に滞在することになっているので、話し合いをするには便利だとそんなことをぼんやり思っているうちに、いつの間にか夕食の時間になっており、ペルシックに呼ばれる。

 久々の両親との食事だったが、今はアウルスをもてなす必要もあり、これは外交なのだしっかりしなければ。と、自分に言い聞かせる。

 支度を整え食堂へ向かうと、そこに信じられない人物がいるのに気づいた。サンスベリア・フォン・ルドベキア・ロベリア国王陛下が上座にすわっていたのだ。

 アルメリアは慌ててカーテシーをする。

「アルメリア、久しぶりだな」

「はい。陛下もご機嫌よくお過ごしでしょうか?」

 すると、陛下は苦笑した。

「驚かせてしまったな。そういった挨拶はいらない。私はそなたにも、そなたの父親にも世話になっているからな。楽にしなさい」

「ありがたきことに存じます」

 アルメリアはサンスベリアに世話をした記憶はなく、サンスベリアがなんのことを言っているのかさっぱりわからなかったが、とりあえず顔を上げると微笑んで返した。

 そこに、グレンが合流する。

「アルメリア、驚いたろう。先に話しておけばよかったね。実は国王陛下は、アジュガと同じ病を患っていてね。お前の言ったことをお話しして、こちらで療養していただいていたのだ」

 それに次いでサンスベリアが言った。

「アルメリア、そなたはこの病の治療食を知ってたそうだな。国内外から医者を呼び寄せ治療しても治らなかった病が、そなたのお陰でだいぶ良くなった。グレンは、得難き素晴らしい娘を持ったものだ」

 アルメリアはもう一度膝を折る。

「お褒めに預かり恐悦至極でございます」

 すると、サンスベリアは歯を見せて笑った。

「もうじき家族になるかもしれぬのだから、そのように他人行儀にしなくてもよい。それに、ここでは私の方が居候だからな、大きな顔はできん」

 それにはグレンが答えた。

「陛下、まだ家族になるとは決まっていません」

「私がこのような得難き娘を逃がすと思うか?」

 そう問われ、アルメリアもグレンも苦笑するしかなかった。

「まぁ、今のところ表向きはそういうことにしておいてやろう」

 と、そこにアウルスが入ってくると、サンスベリアは驚き、立ち上がってアウルスの前で膝を折った。
 アウルスはサンスベリアを見下ろすと、声をかける。

「サンスベリア国王、ここでは私はただの特使だ。そのように膝を折る必要はない」

「はい、仰せのままに」

 サンスベリアは立ち上がった。グレンとアジュガはなにが起きているのかわからないといった困惑した顔を見せた。
 それにサンスベリアが気づくと、グレンに向き直って言った。

「この方は、グロリオサ帝国の皇帝でいらっしゃる。我々が気軽に話しかけられるような御方ではない」

 現在ロベリア国は、帝国の庇護下にある。サンスベリアは自分の立場をわきまえての行動なのだろう。
 だが、国王陛下が膝を折るとはアルメリアも驚いた。

 アウルスが皇帝だと知ると、グレンもアジュガも慌てて膝を折った。すると、アウルスはそれを制した。

「私は今、身分を隠してこちらに来ている。今後はサンスベリア国王もグレンも、私を特使として扱ってほしい」

 それにはいち早くサンスベリアが反応する。

「皇帝陛下にそのような無礼は……」

「いや、その方が私も動きやすい」

 そう言って微笑む。

「では、仰せのままに致します」

 そう言うとサンスベリアはアルメリアに向き直る。

「そなたは、知っていたのか?」

 その質問には、アウルスが答えた。

「アルメリアと私は親友でね、仲良くさせてもらっている」

「そう……なのですか」

 そう答えながら、明らかにサンスベリアは表情を固くした。そんなサンスベリアを余所に、アウルスは言った。

「さぁ、アルメリア。お腹が空いたろう? 席について食事をいただこう」

 その台詞を合図に全員が慌てて席に着いた。そこへ慌ててリカオンがやってきた。

「遅くなってしまい、大変申し訳ありま……」

 と言いかけて、サンスベリアに目を止めると膝を折り頭を深々と下げる。

 サンスベリアは苦笑して答える。

「もう、そういうのはよい。とにかく食事にしよう」

 それを聞いてリカオン以外の全員が笑った。





 次の日からアルメリアは港にアウルスを案内し、アンジーファウンデーション傘下にある、アンジートランスポートを案内した。
 そして、護衛を担ってくれているヘンリーに会いに行くことにした。
 彼らは現在、港町の酒場にいるとのことで、そこへ向かう。

 ヘンリーたちは元々海賊のようなことをしていたのだが、アルメリアは前世での水軍の役割を思いだし、彼らに護衛をできないか声かけしてもらい、連絡手段を得るとアルメリアは何度も直接ヘンリーに手紙を出し、その役割を引き受けてもらえるようになったのだ。
 現在では定期的に手紙をやり取りする仲だった。だが、手紙では何度もやり取りしていても、会うのはこれが初めてだった。

 酒場へ入ると、店員に声をかける。

「こんにちわ。ヘンリーはいるかしら? 今日会いたいと伝えてあるのですけれど」

 すると、店員は素っ気なく答える。

「へぇ、ヘンリーにね。で? あんたはどこのお嬢ちゃまだい?」

 すると、周囲にいる者たちがこちらを見てへらへらと笑っている。

 アルメリアは臆することなく笑顔で答える。

「ごめんなさい、名前を名乗っていませんでしたわね。わたくしアルメリアっていいますの。そう言っていただければ……」

 そう言った瞬間、店員は態度を改めた。

「アルメリアお嬢様!? クンシラン公爵家の?」

 アルメリアは驚きながら無言で頷く。

「こちらにいらしているとは知りませんでした! 俺らの恩人に、こんなところでお会いできるなんて感激です。そうとは知らず、先ほどは失礼な態度で申し訳ありませんでした。ヘンリーですね? あいつなら奥にいます。どうぞこちらです」

 そう言うと奥へ案内してくれた。先ほど周囲でへらへら笑っていた者たちも、道を譲り頭を下げていた。
 アルメリアは恩人と言われても、ピンとこなかったのでその店員に訊くことにした。

「あの、わたくしが恩人とはどういうことですの?」
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