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第百三話 お芝居のあとで
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舞台裏へ行くと開口一番アルメリアは言った。
「今の茶番はいったいなんだったんですの?」
ムスカリは帽子を取りながら答える。
「君がいつもやっていることを芝居にしただけだ。それなりに子どもたちも喜んでいたことだし、いいじゃないか」
「そういったことではありませんわ。せっかくあれだけ練習しましたのに」
アルメリアが困惑していると、リアムがアルメリアの手を取り言った。
「ですが、劇中で最後に言った台詞は私たちのアルメリアに対する本心です。それはわかってください。そして、アルメリアにはそれを知ってもらいたかった」
すると、周囲のものが全員頷く。アルメリアはなんとなく気恥ずかしくなりながら答える。
「そういうことなら……わかりましたわ。でも、もう二度と、こんな騙し討ちのようなことはしないと誓って欲しいですわ。また同じようなことをされたら、皆様を本当に嫌いになりますわよ?」
その台詞に、その場にいる全員が頷いた。ムスカリはアルメリアに優しく微笑む。
「今回のことを仕掛けたのは私だ、他のものを責めないでやって欲しい。それに、もう二度と君を騙したりしないと約束しよう」
アルメリアはムスカリを見上げる。
「本当ですの? では、約束ですわよ?」
ムスカリはふっと笑う。
「絶対だ、約束しよう。それにしても君は怒っていても可愛らしいな」
そんなことを言われるとは思わず、アルメリアは戸惑い俯いた。ムスカリはそれを愛おしそうに見つめる。
そこに、子どもたちの相手をしていたルーファスが戻ってきた。
「みなさん、ありがとうございました。とても楽しい感謝祭になり、子どもたちも大喜びです。たいしたものではありませんが、お食事の準備ができました。どうぞ中庭にいらしてください」
声をかけられ、アルメリアたちは中庭に移動し始めた。アルメリアはキャサリンのことが気になっていいたので、ルーファスに尋ねる。
「ルフス、今日はキャサリンは来てますの?」
すると、ルーファスは少し困ったような顔をした。
「それが、朝は姿を見かけたのですが、その後帰ってしまったようなんです。挨拶もしないで帰るなんて、あの子らしくないのですが……」
「そうなんですの。なにか用事でも思い出したのかも知れませんわね。少し話がしたかったのですけれど、仕方ありませんわね」
アルメリアは気がかりだったが、キャサリンとはまた今度改めて話をすることにした。
子どもたちとの昼食会は、とても楽しいものとなった。ムスカリがこんなところで食事を取るのはどうかと心配したが、予想に反してこの環境に直ぐ慣れたようだった。
アドニスやリアムも食事を心から楽しんでいるようで、胸を撫で下ろす。
昼食会が終わり各々衣装を着替えると、今日は疲れていることもあり解散することになった。
アルメリアはここのところ、忙しい日々が続いていたため、今日ぐらいは屋敷でゆっくり午後を過ごすつもりでいた。
屋敷へ戻ると、自身の執務室へ向かい机の上を確認する。何かしらの報告があるときは、ペルシックが机の上に書類を置いておくことがあるからだ。
軽く机の上の書類に目を通す。領地からの報告書類や、要望許可証などをざっと読んでいるとペルシックが部屋にやってきた。
「お嬢様、ご報告がございます」
書類に視線を落としたまま答える。
「爺、なんですの?」
「帝国から使者がありまして、近々ルリユ海域通行許可証の発行を行うために、特使を送るとのことでした」
アルメリアは、帝国と聞くだけでいまだに胸の奥がぎゅっとした。
ここ数日の忙しい日々を過ごしていたことで、アウルスのことを考える機会は減っていたが、やはり思い出せば心がざわついた。しかも、先日思いもよらなかったムスカリの気持ちを聞いていたことで、その胸中はより複雑なものとなっていた。
アルメリアは書類から視線を上げ大きく息を吐き、気持ちを落ち着けるとペルシックを見つめ指示を出した。
「スケジュールの空いている、一番近い日付で調節してくれてかまいませんわ」
「承知いたしました。それですと、来週になります。また日付が近くなりましたら、お知らせいたします」
そう言って、ペルシックはお辞儀をすると部屋を去っていった。
ペルシックが出ていったドアをじっとみつめながら、アルメリアはアウルスのことを考えた。自分がアウルスを好きだろうと、そうでなかろうと、どうにもならないことはわかっている。
だからといって、好かれているという理由だけでムスカリと婚約するのは不誠実すぎるだろう。
それに、今までムスカリを恋愛対象として見たこともなかったので、本気でムスカリを好きになれるかもわからないし、破滅エンドが回避できたと確証できない現状、やはりムスカリと婚約するわけにはいかないと思った。
それにしても、今日の芝居。あの内容は、君のやっていることはすべてお見通しというムスカリからの忠告だろう。つくづくムスカリだけは敵に回したくないとアルメリアは思った。
アルメリアは大きく溜め息をついた。
そのとき、ペルシックがまた戻ってくる。
「今度はなんですの?」
「何度も申し訳ございません。お客様がいらせられております」
今日は疲れていた。明日からはまた、忙しい日々に戻らなければならず、今日はほんのつかの間の休日である。流石に断わることにして、アルメリアは無言で首を振った。ところが、それを見て今度はペルシックが首を振る。
「お嬢様、それがお越しになられているのは王太子殿下なのです」
アルメリアは驚いて、ペルシックを一瞬凝視すると、慌てて立ち上がる。
「客間かしら?」
「はい。そちらにお通ししてございます」
執務室を出て急いで客間へ向かうと、客間のドアの前に立ち、一度呼吸を整えてから中へはいる。
「殿下、ごきげんよう。お待たせしてしまいましたでしょうか?」
そう言ってカーテシーをする。ムスカリは城内のアルメリアの私室で待っているときと同じように、ソファにゆったりと腰掛けアルメリアを待っていた。
「いや、先ほど来たばかりでさほど待ってはいない」
そう言って立ち上がり、アルメリアの方へ歩いてくると手を取った。
「疲れているだろうが、もう少しだけ私に付き合ってくれないだろうか?」
アルメリアは、微笑んで答える。
「もちろん喜んでご一緒させていただきますわ」
「では、行こうか」
ムスカリはアルメリアの腰に手を添えると、エスコートし始めた。
「今の茶番はいったいなんだったんですの?」
ムスカリは帽子を取りながら答える。
「君がいつもやっていることを芝居にしただけだ。それなりに子どもたちも喜んでいたことだし、いいじゃないか」
「そういったことではありませんわ。せっかくあれだけ練習しましたのに」
アルメリアが困惑していると、リアムがアルメリアの手を取り言った。
「ですが、劇中で最後に言った台詞は私たちのアルメリアに対する本心です。それはわかってください。そして、アルメリアにはそれを知ってもらいたかった」
すると、周囲のものが全員頷く。アルメリアはなんとなく気恥ずかしくなりながら答える。
「そういうことなら……わかりましたわ。でも、もう二度と、こんな騙し討ちのようなことはしないと誓って欲しいですわ。また同じようなことをされたら、皆様を本当に嫌いになりますわよ?」
その台詞に、その場にいる全員が頷いた。ムスカリはアルメリアに優しく微笑む。
「今回のことを仕掛けたのは私だ、他のものを責めないでやって欲しい。それに、もう二度と君を騙したりしないと約束しよう」
アルメリアはムスカリを見上げる。
「本当ですの? では、約束ですわよ?」
ムスカリはふっと笑う。
「絶対だ、約束しよう。それにしても君は怒っていても可愛らしいな」
そんなことを言われるとは思わず、アルメリアは戸惑い俯いた。ムスカリはそれを愛おしそうに見つめる。
そこに、子どもたちの相手をしていたルーファスが戻ってきた。
「みなさん、ありがとうございました。とても楽しい感謝祭になり、子どもたちも大喜びです。たいしたものではありませんが、お食事の準備ができました。どうぞ中庭にいらしてください」
声をかけられ、アルメリアたちは中庭に移動し始めた。アルメリアはキャサリンのことが気になっていいたので、ルーファスに尋ねる。
「ルフス、今日はキャサリンは来てますの?」
すると、ルーファスは少し困ったような顔をした。
「それが、朝は姿を見かけたのですが、その後帰ってしまったようなんです。挨拶もしないで帰るなんて、あの子らしくないのですが……」
「そうなんですの。なにか用事でも思い出したのかも知れませんわね。少し話がしたかったのですけれど、仕方ありませんわね」
アルメリアは気がかりだったが、キャサリンとはまた今度改めて話をすることにした。
子どもたちとの昼食会は、とても楽しいものとなった。ムスカリがこんなところで食事を取るのはどうかと心配したが、予想に反してこの環境に直ぐ慣れたようだった。
アドニスやリアムも食事を心から楽しんでいるようで、胸を撫で下ろす。
昼食会が終わり各々衣装を着替えると、今日は疲れていることもあり解散することになった。
アルメリアはここのところ、忙しい日々が続いていたため、今日ぐらいは屋敷でゆっくり午後を過ごすつもりでいた。
屋敷へ戻ると、自身の執務室へ向かい机の上を確認する。何かしらの報告があるときは、ペルシックが机の上に書類を置いておくことがあるからだ。
軽く机の上の書類に目を通す。領地からの報告書類や、要望許可証などをざっと読んでいるとペルシックが部屋にやってきた。
「お嬢様、ご報告がございます」
書類に視線を落としたまま答える。
「爺、なんですの?」
「帝国から使者がありまして、近々ルリユ海域通行許可証の発行を行うために、特使を送るとのことでした」
アルメリアは、帝国と聞くだけでいまだに胸の奥がぎゅっとした。
ここ数日の忙しい日々を過ごしていたことで、アウルスのことを考える機会は減っていたが、やはり思い出せば心がざわついた。しかも、先日思いもよらなかったムスカリの気持ちを聞いていたことで、その胸中はより複雑なものとなっていた。
アルメリアは書類から視線を上げ大きく息を吐き、気持ちを落ち着けるとペルシックを見つめ指示を出した。
「スケジュールの空いている、一番近い日付で調節してくれてかまいませんわ」
「承知いたしました。それですと、来週になります。また日付が近くなりましたら、お知らせいたします」
そう言って、ペルシックはお辞儀をすると部屋を去っていった。
ペルシックが出ていったドアをじっとみつめながら、アルメリアはアウルスのことを考えた。自分がアウルスを好きだろうと、そうでなかろうと、どうにもならないことはわかっている。
だからといって、好かれているという理由だけでムスカリと婚約するのは不誠実すぎるだろう。
それに、今までムスカリを恋愛対象として見たこともなかったので、本気でムスカリを好きになれるかもわからないし、破滅エンドが回避できたと確証できない現状、やはりムスカリと婚約するわけにはいかないと思った。
それにしても、今日の芝居。あの内容は、君のやっていることはすべてお見通しというムスカリからの忠告だろう。つくづくムスカリだけは敵に回したくないとアルメリアは思った。
アルメリアは大きく溜め息をついた。
そのとき、ペルシックがまた戻ってくる。
「今度はなんですの?」
「何度も申し訳ございません。お客様がいらせられております」
今日は疲れていた。明日からはまた、忙しい日々に戻らなければならず、今日はほんのつかの間の休日である。流石に断わることにして、アルメリアは無言で首を振った。ところが、それを見て今度はペルシックが首を振る。
「お嬢様、それがお越しになられているのは王太子殿下なのです」
アルメリアは驚いて、ペルシックを一瞬凝視すると、慌てて立ち上がる。
「客間かしら?」
「はい。そちらにお通ししてございます」
執務室を出て急いで客間へ向かうと、客間のドアの前に立ち、一度呼吸を整えてから中へはいる。
「殿下、ごきげんよう。お待たせしてしまいましたでしょうか?」
そう言ってカーテシーをする。ムスカリは城内のアルメリアの私室で待っているときと同じように、ソファにゆったりと腰掛けアルメリアを待っていた。
「いや、先ほど来たばかりでさほど待ってはいない」
そう言って立ち上がり、アルメリアの方へ歩いてくると手を取った。
「疲れているだろうが、もう少しだけ私に付き合ってくれないだろうか?」
アルメリアは、微笑んで答える。
「もちろん喜んでご一緒させていただきますわ」
「では、行こうか」
ムスカリはアルメリアの腰に手を添えると、エスコートし始めた。
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