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第百話 お茶会
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こうして、みんなの協力のもとなんとか道具は用意することができた。
そして、残るは衣装の準備だけとなった。男性役の衣装は問題なかったが、女性役のドレスは男性用のサイズに手直ししなければならず、準備に手間がかかった。アルメリアは暇を見つけては無心で縫っていた。
そんなふうに空いた時間には演劇の準備、それ以外にもフィルブライト公爵家に行き、引き続きルーカスの状態も見に行っていた。
ルーカスは現在まだ少しは痛みがあり、骨折した足に体重をかけられないため、アルメリアの作ったロフトランド杖を絶対に必要としていた。
最初は杖の扱いに不慣れで苦労したようだったが、最近では扱いにだいぶ慣れ以前ほど日常生活で困ることがなくなってきているようだった。
ルーカスはエントランスでアルメリアを出迎えた。
「アルメリア、久しぶりだね。領地へ行っていたと聞いたが? 我々は統治するものとして、定期的に領地へ行かねばならないからね。君も忙しいのではないか?」
「えぇ。でもクンシラン領はだいぶ組織化が進んでいますから、以前のようにそんなに頻回に行く必要はありませんのよ」
すると、ルーカスは驚き頷く。
「なるほど、そうなのだな。これ一つとっても君の統治力の素晴らしさが解るというものだ。父が君に弟子入りをしろと言う気持ちがわかったよ」
アルメリアは慌ててそれを否定する。
「弟子入りだなんて、とんでもないことですわ。怪我から回復されて、復帰するための練習みたいなものですから」
「いや、実際のところ私は君から、色々なことを学ばせてもらおうと思っている。君から学ぶべきことは、本当に多いだろうな」
公爵家の跡取りと言えばプライドの高い者が多いのだが、ルーカスはそうではないようで内心驚きながら答える。
「私のほうこそ、教わるべきことが多いと思いますわ、こちらこそよろしくお願いしますわね。ですが、その前に足をしっかり治しませんとね」
そう言ってアルメリアが微笑みかけると、ルーカスはアルメリアを眩しそうに見つめながら言った。
「そうだな、ありがとう。君にこれほどお世話になっているのだから、完治することがなによりの恩返しかもしれないな。そう言えば、最近では君に言われた運動をしっかりやっていた成果が出てきたようで、転びにくくなった」
「良かったですわ」
そんな話をしながら、ルーカスは客間まで杖をついてアルメリアを案内した。
そして、ドアの前に立つと、改めてアルメリアに向き直った。
「お茶の準備をしている。久しぶりに会えたのだから、少しだけ付き合ってもらえないか?」
そう言われ、アルメリアは恭しくお辞儀をした。
「こちらこそ、お招きありがとうございます。もちろんご一緒させていただきますわ。そんなに長居はできませんけれど」
そう言って、中へ入るとソファに腰かけた。それを見届けたルーカスが、部屋の角に立つメイドに目配せをすると、さっそくお茶やお菓子が運ばれてきた。
それらがならび終わると、ルーカスが突然真剣な表情をして口を開いた。
「お茶に誘ったのには、私が君とゆっくりおしゃべりを楽しみたいこと以外に、もう一つ理由があってね。君に、謝らなければならないことがあるからなんだ」
アルメリアにはルーカスに謝られるような心当たりはまったくなく、小首を傾げながらルーカスに問う。
「なんでしょう?」
「以前王室主催のお茶会の席で、テイラー侯爵令嬢にお茶をかけられたことがあったはずだ」
確かにアルメリアのドレスにお茶をかけ、怯えていた彼女を覚えている。だが、あのときはメイドからも同様にお茶をかけられた。それはおそらくムスカリの計画のうちだったのだろうが、正直に言うとそちらの方がインパクトが大きく、テイラー侯爵令嬢のことなどすっかり忘れていた。
「そんなこともありましたわね。ですが、その後の王太子殿下の機転で、問題なくすごせましたわ」
「そうだ。殿下が対応してくださったからなんとかなったが、あのとき殿下が機転をきかせてくれなければ、君はみなの前で大恥をかくところだった」
ムスカリに助けられなければそのまま帰るつもりでいたので、そこまでたいした被害にはならなかったと思うがそれにしても、その件はルーカスになんの関係もない。
アルメリアはルーカスが、なにを言わんとしているのかわかりかねて、その真意を探るようにじっと見つめ返す。
すると、ルーカスは苦笑していった。
「妹だったんだ」
「はい。……えっ? なんのことでしょう?」
「テイラー侯爵令嬢に、君にお茶をかけるよう指示したのは、私の妹のエミリーだったようなんだ。しかも、周囲の他の令嬢もそれに荷担していたらしい」
やはりそうだったのかと、アルメリアは納得した。あの気弱そうなテイラー侯爵令嬢に、そんな大胆なことなどできそうには見えなかった。
それに、彼女だけの仕業ならアルメリアの隣に座れるように仕組むのは無理だったろう。
もしも、衝動的にやってしまったとかならば考えられなくもないが、あのときのテイラー侯爵令嬢はそんな様子でもなかった。
そんなことを考えていると、ルーカスが言った。
「驚かないところを見ると、君にはすべてお見通しだったようだね」
アルメリアは苦笑して答える。
「そう考えないと、色々矛盾がでてきますから。でもなぜそれを今さら?」
「実は妹が、自分から謝ってきたのだ。本当は直接会って話そうかとも思ったようだが、そうすれば君はまた警戒するだろうと思ったらしい。とにかく、そうことでまずは私から謝らせてもらいたい。本当に申し訳なかった」
「いいえ、もう気にしてませんわ」
それに、彼女たちがとても楽しみにしていたお茶会は、ムスカリによる演出のうちの一つであり、アルメリアが婚約者候補の筆頭だと知らしめるものだったのだから、それはそれでさぞがっかりしたに違いないのだ。
自分が同じ立場だったら、立ち直れないかもしれない、そんなことを思った。
ルーカスはアルメリアを見つめて微笑む。
「本当に、君のような心根の優しい女性が社交界にいたとはね。君に弟子入りできる日が、私はなによりも待ち遠しい。そうしたら、君のそばにずっといられるのだから」
そう言って熱っぽく見つめた。
「はい、そう言っていただけると光栄ですわ。お待ちしております」
アルメリアは笑顔で返したが、ルーカスは少し残念そうに微笑んだ。
その後ルーカスの足の状態を観察し、だされたお茶とお菓子をいただきながら、少し世間話をしていたらあっという間に戻らなければならない時間になってしまった。
「帰りも送ろう。君と少しでも長く一緒にいたいからね」
そう言って、帰りも見送ってくれることになった。
ルーカスと一緒に、フィルブライト家のエントランスに向かってゆっくり歩いていると、ちょうどエミリーと出くわした。
そして、残るは衣装の準備だけとなった。男性役の衣装は問題なかったが、女性役のドレスは男性用のサイズに手直ししなければならず、準備に手間がかかった。アルメリアは暇を見つけては無心で縫っていた。
そんなふうに空いた時間には演劇の準備、それ以外にもフィルブライト公爵家に行き、引き続きルーカスの状態も見に行っていた。
ルーカスは現在まだ少しは痛みがあり、骨折した足に体重をかけられないため、アルメリアの作ったロフトランド杖を絶対に必要としていた。
最初は杖の扱いに不慣れで苦労したようだったが、最近では扱いにだいぶ慣れ以前ほど日常生活で困ることがなくなってきているようだった。
ルーカスはエントランスでアルメリアを出迎えた。
「アルメリア、久しぶりだね。領地へ行っていたと聞いたが? 我々は統治するものとして、定期的に領地へ行かねばならないからね。君も忙しいのではないか?」
「えぇ。でもクンシラン領はだいぶ組織化が進んでいますから、以前のようにそんなに頻回に行く必要はありませんのよ」
すると、ルーカスは驚き頷く。
「なるほど、そうなのだな。これ一つとっても君の統治力の素晴らしさが解るというものだ。父が君に弟子入りをしろと言う気持ちがわかったよ」
アルメリアは慌ててそれを否定する。
「弟子入りだなんて、とんでもないことですわ。怪我から回復されて、復帰するための練習みたいなものですから」
「いや、実際のところ私は君から、色々なことを学ばせてもらおうと思っている。君から学ぶべきことは、本当に多いだろうな」
公爵家の跡取りと言えばプライドの高い者が多いのだが、ルーカスはそうではないようで内心驚きながら答える。
「私のほうこそ、教わるべきことが多いと思いますわ、こちらこそよろしくお願いしますわね。ですが、その前に足をしっかり治しませんとね」
そう言ってアルメリアが微笑みかけると、ルーカスはアルメリアを眩しそうに見つめながら言った。
「そうだな、ありがとう。君にこれほどお世話になっているのだから、完治することがなによりの恩返しかもしれないな。そう言えば、最近では君に言われた運動をしっかりやっていた成果が出てきたようで、転びにくくなった」
「良かったですわ」
そんな話をしながら、ルーカスは客間まで杖をついてアルメリアを案内した。
そして、ドアの前に立つと、改めてアルメリアに向き直った。
「お茶の準備をしている。久しぶりに会えたのだから、少しだけ付き合ってもらえないか?」
そう言われ、アルメリアは恭しくお辞儀をした。
「こちらこそ、お招きありがとうございます。もちろんご一緒させていただきますわ。そんなに長居はできませんけれど」
そう言って、中へ入るとソファに腰かけた。それを見届けたルーカスが、部屋の角に立つメイドに目配せをすると、さっそくお茶やお菓子が運ばれてきた。
それらがならび終わると、ルーカスが突然真剣な表情をして口を開いた。
「お茶に誘ったのには、私が君とゆっくりおしゃべりを楽しみたいこと以外に、もう一つ理由があってね。君に、謝らなければならないことがあるからなんだ」
アルメリアにはルーカスに謝られるような心当たりはまったくなく、小首を傾げながらルーカスに問う。
「なんでしょう?」
「以前王室主催のお茶会の席で、テイラー侯爵令嬢にお茶をかけられたことがあったはずだ」
確かにアルメリアのドレスにお茶をかけ、怯えていた彼女を覚えている。だが、あのときはメイドからも同様にお茶をかけられた。それはおそらくムスカリの計画のうちだったのだろうが、正直に言うとそちらの方がインパクトが大きく、テイラー侯爵令嬢のことなどすっかり忘れていた。
「そんなこともありましたわね。ですが、その後の王太子殿下の機転で、問題なくすごせましたわ」
「そうだ。殿下が対応してくださったからなんとかなったが、あのとき殿下が機転をきかせてくれなければ、君はみなの前で大恥をかくところだった」
ムスカリに助けられなければそのまま帰るつもりでいたので、そこまでたいした被害にはならなかったと思うがそれにしても、その件はルーカスになんの関係もない。
アルメリアはルーカスが、なにを言わんとしているのかわかりかねて、その真意を探るようにじっと見つめ返す。
すると、ルーカスは苦笑していった。
「妹だったんだ」
「はい。……えっ? なんのことでしょう?」
「テイラー侯爵令嬢に、君にお茶をかけるよう指示したのは、私の妹のエミリーだったようなんだ。しかも、周囲の他の令嬢もそれに荷担していたらしい」
やはりそうだったのかと、アルメリアは納得した。あの気弱そうなテイラー侯爵令嬢に、そんな大胆なことなどできそうには見えなかった。
それに、彼女だけの仕業ならアルメリアの隣に座れるように仕組むのは無理だったろう。
もしも、衝動的にやってしまったとかならば考えられなくもないが、あのときのテイラー侯爵令嬢はそんな様子でもなかった。
そんなことを考えていると、ルーカスが言った。
「驚かないところを見ると、君にはすべてお見通しだったようだね」
アルメリアは苦笑して答える。
「そう考えないと、色々矛盾がでてきますから。でもなぜそれを今さら?」
「実は妹が、自分から謝ってきたのだ。本当は直接会って話そうかとも思ったようだが、そうすれば君はまた警戒するだろうと思ったらしい。とにかく、そうことでまずは私から謝らせてもらいたい。本当に申し訳なかった」
「いいえ、もう気にしてませんわ」
それに、彼女たちがとても楽しみにしていたお茶会は、ムスカリによる演出のうちの一つであり、アルメリアが婚約者候補の筆頭だと知らしめるものだったのだから、それはそれでさぞがっかりしたに違いないのだ。
自分が同じ立場だったら、立ち直れないかもしれない、そんなことを思った。
ルーカスはアルメリアを見つめて微笑む。
「本当に、君のような心根の優しい女性が社交界にいたとはね。君に弟子入りできる日が、私はなによりも待ち遠しい。そうしたら、君のそばにずっといられるのだから」
そう言って熱っぽく見つめた。
「はい、そう言っていただけると光栄ですわ。お待ちしております」
アルメリアは笑顔で返したが、ルーカスは少し残念そうに微笑んだ。
その後ルーカスの足の状態を観察し、だされたお茶とお菓子をいただきながら、少し世間話をしていたらあっという間に戻らなければならない時間になってしまった。
「帰りも送ろう。君と少しでも長く一緒にいたいからね」
そう言って、帰りも見送ってくれることになった。
ルーカスと一緒に、フィルブライト家のエントランスに向かってゆっくり歩いていると、ちょうどエミリーと出くわした。
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