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第七十三話 手紙の内容
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これは、あまりにも無茶苦茶な話であり、こんなにも早く裁判手続きが進められたのは、裏で誰かが手を回しているとしか考えられなかった。
そんなこともあり、アルメリアたちは入念な計画を立てることも叶わず、この日の夜に侵入決行するしか手立てがなくなった。
そしてもう一つ最悪な知らせがあった。オルブライト邸とブロン司教の教会に、審問官が勝手に入り徹底的に捜査されたというのだ。
もしも、オルブライト子爵やブロン司教が、無罪を証明するための証拠をオルブライト邸や教会に置いていたのなら、それはとうに没収され処分されてしまっただろう。
洞窟へ入るための道具を取りに、自身の屋敷に戻っていたリカオンは、そこでめちゃくちゃに荒された屋敷の惨状を見た。
「冤罪だと証明したら、奴らにそれ相応の報いを受けさせてやる」
リカオンは屋敷から孤児院へもどると、アルメリアに自身の屋敷の惨状を説明し、そう言って拳を握りしめると怒りを露にした。
アルメリアはその拳を優しく両手で包み込んだ。
「もちろんですわ! やってやりましょう!」
するとリカオンはふっと笑った。
「貴女って人は……。ありがとうございます」
リカオンはアルメリアに深々と頭を下げた。そして今度はルーファスの方を向くと頭を下げる。
「助祭も協力してくださって、本当に感謝しています」
そんなリカオンの様子に、ルーファスは慌てて叫んだ。
「辞めてください! 貴男らしくなくて、調子がくるいます!」
その一言にアルメリアとリカオンは顔を見合わせ、声を出して笑いだした。それにつられてルーファスも声を出して笑った。
こうして洞窟へ入るために、慌てて計画を練ることにした。様々な想定を考え三人で入るのは危険だと結論し、その結果洞窟には三人のうち一人が入ることになった。
最初はアルメリアが志願したが、流石に女の子を何があるかも分からない、そんな危険な場所へ行かせられないということで却下された。ルーファスも、伝承の真偽を実際に見て確認したいと中へ行きたがったが、リカオンが
「自分の父親のためなので僕が行きます」
と、頑として譲らなかったので、リカオンが行くことになった。
入るときは、リカオンは腰をロープで縛って入り、アルメリアとルーファスは地下倉庫で待機することとした。
これはもしも、リカオンの身に何かあったときに、直ぐに対応できるようにするためだった。もしものときは、リカオンが腰のロープを強く引っ張り外へ合図し、それを受けたらルーファスは手助けに入り、アルメリアは応援を呼んで対応する手はずにしたのだ。
この計画のために、たくさんのロープを準備しなければならなかった。今日中にそれを準備するのには手間がかかるだろうと思っていたが、アルメリアが領民に声掛けをすると、あっという間に集めることができた。アルメリアはロープを持ってきてくれた領民に、何度も何度もお礼を言った。
書類保管庫に侵入する時間は、仮眠交代の引き継ぎがあり、教会本部の警備が一番手薄になる午前二時とした。
孤児院から教会本部までの距離、それと暗闇をゆっくり歩くことを考えて逆算し、午前零時に孤児院を出発することになった。
四~五時間はもつようにランプの燃料と、リカオンが緊張して脱水にならないように水分もたくさんもたせた。
最後にアルメリアはリカオンの肩にタオルをかける。
「寒いかもしれませんわ。そうすると汗で冷えてしまうこともあるでしょうから、こまめに汗を拭かないと凍えてしまいますわよ? それと、変に緊張して落ち着かなくなったらハチミツを舐めて休憩すること。それと……」
するとリカオンは苦笑した。
「僕は子供じゃありませんから、やめてください。大丈夫です、きっと戻りますから」
そう言うと、アルメリアの手を取って手の甲にキスをした。そしてルーファスに向き直る。
「行ってきます。きっと伝承は本物ですよ」
手を軽く振って、振り向かずにゆっくり地下へ続く梯子を降りていった。アルメリアはそこにしゃがみ込むと、とにかくリカオンが戻ってくるまでまつしかないと思った。
リカオンは怖くないわけではなかった。だが、いま自分にできることをやっておかなければ、あとは後悔しかないとわかっていた。
梯子を三メートルほど降りたところで、足先が地面をとらえた。ランプでゆっくり足元を照らし、しっかり地面に立つと周囲を照らして様子を見る。
そこは洞窟と言うより、人口で作られた地下道といった感じで、とても広く横幅が四メートルはありそうだった。レンガでしっかり舗装されており、洞窟を壊れないように舗装したのか、それとも人力で掘ったあとに舗装したものなのかは、見た感じではわからなかった。
どちらが教会本部なのだろうかと、左右をランプで照らすと片方は壁になっていて行き止まりだったので、道の続いている方向へ歩き出した。
地下道の所々に蝋燭立てがあり、よく見ると蝋燭も残っていた。だが、作戦を立てるときにアルメリアから、換気のできないところで火をたくさん焚くのは良くないからと、蝋燭を何本も持っていくことを反対されたのを思い出し火はつけなかった。
ランプの光だけでは、あまり前が見えないので壁に手を当てながらゆっくり進む。途中クモの巣に引っかかることはあったが、想定していたトラップはなく、本当にただの地下道として使われていたのだろうと思った。
地下道は長く、暗闇と静寂の中で黙々と歩いていると、どうしても今日ルーファスから渡された手紙の内容が思い出された。
二通の手紙のうち一通は父親、もう一通は義理の母だと思っていた実母のアリウムからの手紙だった。
父親の手紙には、自分たちの馴れ初めから書かれていた。幼馴染だった両親は、幼い頃から結婚の約束をしていた。だが、アリウムは病弱だったため、ある日父親の前から姿を消した。リカオンを身籠っていることに気がついたのは、父親の前から姿を消したあとのことだった。
アリウムは自分が病気で長くないことを知っていたので、兄であるブロン司教にリカオンを預けた。ブロン司教は急いで父親に連絡して、リカオンと会わせた。
父親はアリウムと別れてから絶望し、政略結婚していたがすぐさまリカオンを引き取った。
そして、先妻が愛人と行った旅先で流行り病によって亡くなると、急いでアリウムを探しあてついに結ばれることができた。
結婚はしたものの、自分が病気で長くないことを知っていたアリウムは、とにかく自分がリカオンに好かれないようにと突き放した。そして母親がいなくとも子爵の跡取りとして自立し、しっかりやっていけるように多少厳しく接することによって、立派に育つよう努力した。
だがいよいよ最後となったとき、死の床でアリウムはとても後悔した。
なぜなら、もし本当の母親が自分なのだとリカオンに知れてしまったとき、リカオンは本当の母親から愛されていなかったのだ。と、思うかもしれないからだ。
アリウムにとって、それだけは耐えられないことだった。
そこで、もしもそうなったとき、この手紙をリカオンに渡してほしいと、アリウムから託されたと書かれていた。
また、父親自身もどうリカオンに接して良いのかわからず、冷たい態度を取ってしまっていたことを、ずっと後悔したと後悔の念が綴られていた。
現在は、ブロン司教と一緒にチューベローズ教のことを調べており、それによってリカオンに危険が及ばないようにと、はなるべく関わりを持つことを避けていた。
そんな理由から、信頼できる王太子殿下とアルメリアの元へ預けたとも書かれていた。
そして、最後にちゃんとお前を愛していたと伝えなかったことを後悔している。という言葉で、手紙は締め括られていた。
そんなこともあり、アルメリアたちは入念な計画を立てることも叶わず、この日の夜に侵入決行するしか手立てがなくなった。
そしてもう一つ最悪な知らせがあった。オルブライト邸とブロン司教の教会に、審問官が勝手に入り徹底的に捜査されたというのだ。
もしも、オルブライト子爵やブロン司教が、無罪を証明するための証拠をオルブライト邸や教会に置いていたのなら、それはとうに没収され処分されてしまっただろう。
洞窟へ入るための道具を取りに、自身の屋敷に戻っていたリカオンは、そこでめちゃくちゃに荒された屋敷の惨状を見た。
「冤罪だと証明したら、奴らにそれ相応の報いを受けさせてやる」
リカオンは屋敷から孤児院へもどると、アルメリアに自身の屋敷の惨状を説明し、そう言って拳を握りしめると怒りを露にした。
アルメリアはその拳を優しく両手で包み込んだ。
「もちろんですわ! やってやりましょう!」
するとリカオンはふっと笑った。
「貴女って人は……。ありがとうございます」
リカオンはアルメリアに深々と頭を下げた。そして今度はルーファスの方を向くと頭を下げる。
「助祭も協力してくださって、本当に感謝しています」
そんなリカオンの様子に、ルーファスは慌てて叫んだ。
「辞めてください! 貴男らしくなくて、調子がくるいます!」
その一言にアルメリアとリカオンは顔を見合わせ、声を出して笑いだした。それにつられてルーファスも声を出して笑った。
こうして洞窟へ入るために、慌てて計画を練ることにした。様々な想定を考え三人で入るのは危険だと結論し、その結果洞窟には三人のうち一人が入ることになった。
最初はアルメリアが志願したが、流石に女の子を何があるかも分からない、そんな危険な場所へ行かせられないということで却下された。ルーファスも、伝承の真偽を実際に見て確認したいと中へ行きたがったが、リカオンが
「自分の父親のためなので僕が行きます」
と、頑として譲らなかったので、リカオンが行くことになった。
入るときは、リカオンは腰をロープで縛って入り、アルメリアとルーファスは地下倉庫で待機することとした。
これはもしも、リカオンの身に何かあったときに、直ぐに対応できるようにするためだった。もしものときは、リカオンが腰のロープを強く引っ張り外へ合図し、それを受けたらルーファスは手助けに入り、アルメリアは応援を呼んで対応する手はずにしたのだ。
この計画のために、たくさんのロープを準備しなければならなかった。今日中にそれを準備するのには手間がかかるだろうと思っていたが、アルメリアが領民に声掛けをすると、あっという間に集めることができた。アルメリアはロープを持ってきてくれた領民に、何度も何度もお礼を言った。
書類保管庫に侵入する時間は、仮眠交代の引き継ぎがあり、教会本部の警備が一番手薄になる午前二時とした。
孤児院から教会本部までの距離、それと暗闇をゆっくり歩くことを考えて逆算し、午前零時に孤児院を出発することになった。
四~五時間はもつようにランプの燃料と、リカオンが緊張して脱水にならないように水分もたくさんもたせた。
最後にアルメリアはリカオンの肩にタオルをかける。
「寒いかもしれませんわ。そうすると汗で冷えてしまうこともあるでしょうから、こまめに汗を拭かないと凍えてしまいますわよ? それと、変に緊張して落ち着かなくなったらハチミツを舐めて休憩すること。それと……」
するとリカオンは苦笑した。
「僕は子供じゃありませんから、やめてください。大丈夫です、きっと戻りますから」
そう言うと、アルメリアの手を取って手の甲にキスをした。そしてルーファスに向き直る。
「行ってきます。きっと伝承は本物ですよ」
手を軽く振って、振り向かずにゆっくり地下へ続く梯子を降りていった。アルメリアはそこにしゃがみ込むと、とにかくリカオンが戻ってくるまでまつしかないと思った。
リカオンは怖くないわけではなかった。だが、いま自分にできることをやっておかなければ、あとは後悔しかないとわかっていた。
梯子を三メートルほど降りたところで、足先が地面をとらえた。ランプでゆっくり足元を照らし、しっかり地面に立つと周囲を照らして様子を見る。
そこは洞窟と言うより、人口で作られた地下道といった感じで、とても広く横幅が四メートルはありそうだった。レンガでしっかり舗装されており、洞窟を壊れないように舗装したのか、それとも人力で掘ったあとに舗装したものなのかは、見た感じではわからなかった。
どちらが教会本部なのだろうかと、左右をランプで照らすと片方は壁になっていて行き止まりだったので、道の続いている方向へ歩き出した。
地下道の所々に蝋燭立てがあり、よく見ると蝋燭も残っていた。だが、作戦を立てるときにアルメリアから、換気のできないところで火をたくさん焚くのは良くないからと、蝋燭を何本も持っていくことを反対されたのを思い出し火はつけなかった。
ランプの光だけでは、あまり前が見えないので壁に手を当てながらゆっくり進む。途中クモの巣に引っかかることはあったが、想定していたトラップはなく、本当にただの地下道として使われていたのだろうと思った。
地下道は長く、暗闇と静寂の中で黙々と歩いていると、どうしても今日ルーファスから渡された手紙の内容が思い出された。
二通の手紙のうち一通は父親、もう一通は義理の母だと思っていた実母のアリウムからの手紙だった。
父親の手紙には、自分たちの馴れ初めから書かれていた。幼馴染だった両親は、幼い頃から結婚の約束をしていた。だが、アリウムは病弱だったため、ある日父親の前から姿を消した。リカオンを身籠っていることに気がついたのは、父親の前から姿を消したあとのことだった。
アリウムは自分が病気で長くないことを知っていたので、兄であるブロン司教にリカオンを預けた。ブロン司教は急いで父親に連絡して、リカオンと会わせた。
父親はアリウムと別れてから絶望し、政略結婚していたがすぐさまリカオンを引き取った。
そして、先妻が愛人と行った旅先で流行り病によって亡くなると、急いでアリウムを探しあてついに結ばれることができた。
結婚はしたものの、自分が病気で長くないことを知っていたアリウムは、とにかく自分がリカオンに好かれないようにと突き放した。そして母親がいなくとも子爵の跡取りとして自立し、しっかりやっていけるように多少厳しく接することによって、立派に育つよう努力した。
だがいよいよ最後となったとき、死の床でアリウムはとても後悔した。
なぜなら、もし本当の母親が自分なのだとリカオンに知れてしまったとき、リカオンは本当の母親から愛されていなかったのだ。と、思うかもしれないからだ。
アリウムにとって、それだけは耐えられないことだった。
そこで、もしもそうなったとき、この手紙をリカオンに渡してほしいと、アリウムから託されたと書かれていた。
また、父親自身もどうリカオンに接して良いのかわからず、冷たい態度を取ってしまっていたことを、ずっと後悔したと後悔の念が綴られていた。
現在は、ブロン司教と一緒にチューベローズ教のことを調べており、それによってリカオンに危険が及ばないようにと、はなるべく関わりを持つことを避けていた。
そんな理由から、信頼できる王太子殿下とアルメリアの元へ預けたとも書かれていた。
そして、最後にちゃんとお前を愛していたと伝えなかったことを後悔している。という言葉で、手紙は締め括られていた。
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