悪役令嬢は救国したいだけなのに、いつの間にか攻略対象と皇帝に溺愛されてました

みゅー

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第七十一話 再び孤児院へ

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 古書のある場所にはルーファスは連れて行けないので、引き続き孤児院内で箱の鍵を探してもらうことにして、アルメリアは急いで屋敷に戻ると支度を整えて登城することにした。
 登城しても今日は休暇届けを提出していたし、アブセンティーもできないことはペルシックから早朝一番にいつものメンバーに伝え済みだったので、お茶会の時間に気を取られずに調べものに十分な時間を割くことができた。
 アブセンティーの面々に今回のことを話せば、みな影ながら協力してくれるにちがいなかったが、それだと仮を作ることになってしまうのが嫌だった。
 特にムスカリには隙をあたえてはならないことを、重々承知している。今日顔を合わせれば何を言われるか分からないので、顔を合わせずに済むことは有難いことでもあった。

 リカオンに案内され、古書や文献の納められている場所へ向かう。そこは図書室の一角で、本が痛まぬように厳重に管理されている部屋だった。

 入り口で監視中の兵士ゲイリーに声をかけ、許可を取り中へ入る。すると、そこは古書独特の香りがした。
 中に在中している司書に声をかけ、設計図関係のある場所まで案内してもらった。どの設計図が見たいのかは伝えなかった。どこから教会側に話が伝わってしまうかわからない現状、教会本部を調べているということが、向こうに伝わってしまうリスクはなるべく避けたかったからだ。
 設計図そのものはそんなに多くなく、これならばすぐに教会本部の設計図を見つけることができそうだった。
 二人とも無言で設計図を探し始めると、まもなくリカオンがアルメリアに耳打ちした。

「アルメリア、ありました。教会本部の設計図です」

 近くにある机の上に設計図を広げる。よくよく見ると、その設計図の中央にある大聖堂の右奥辺りに、オルブライト教区の孤児院の設計図と同じように、あとから書き足されたとおぼしき、道のようなものが書いてある。

 アルメリアとリカオンは顔を見合わせる。この設計図はもちろん持ち出し禁止だったので、司書にばれないように手早くそれを書き写した。
 教会本部に実際に何度か立ち入ったことのあるルーファスが見れば、この地下洞窟がどの部屋に続いているのかわかるだろう。

「あとはこの設計図をルフスに見せるだけですわね」

 そう言うと、リカオンは苦笑した。

「僕は教会派です。父の仕事をしっかり引き継いで教会のことを調べていれば、助祭に手助けされずに済んだでしょう。助祭の協力を得なければならないのが悔しいです」

「何を言ってますの! 地下倉庫ではリカオン無しには下へ続く場所を発見できませんでしたわ」

 なぜか落ち込んでいる様子のリカオンを励まそうと、アルメリアは思ったことを素直に伝えた。実際リカオンがいなければ、あの地下へ続く床には気づかなかっただろう。だが、話の流れでこのときオルブライト子爵が教会のことを調べていたのだと知った。教会がオルブライト子爵を捕らえたのは、この件と関係があるのだろう。そう思っていると、リカオンがアルメリアの顔を覗き込む。

「いいえ、お二人なら……アルメリアならあの地下へ続く通路を発見するのは容易でしたでしょう。貴女に僕は必要なくても僕には……」

 そう言うとリカオンは、さっと体を起こして微笑む。

「さぁ、助祭のところに向かいましょう。のんびりしている暇はありませんからね」

「そうでしたわね、行きましょう」

 写した設計図を持ち、アルメリアはその部屋をあとにした。

 屋敷に戻ると再度着替えて孤児院へ向かう。そもそも子どもたちとも遊ぶ約束をしていたアルメリアは、用事がなくとも孤児院へ再び訪れるつもりでいた。
 リカオンは嫌がるかと思っていたが、嫌そうな顔ひとつせずアルメリアについてきた。本当にリカオンはどうしてしまったのか。そう考えたとき、あのニ通の手紙が脳裏を横切った。リカオンが変わったことについて考えられる要因は、あのニ通の手紙の内容のせいだとしか考えられなかった。

 アルメリアは手紙の内容を聞きたい気持ちに駆られたが、リカオンが自分から話してくれるまで待つことにして、何も訊かないことにした。

 孤児院につくと子どもたちが出迎える。

「遊ぶ約束してたのに、どこ行ってたの?」
「帰ってくるの遅いー」
「アンジー、なにかお話して!」

 目をキラキラさせた子どもたちに囲まれながら、ルーファスに設計図の写しを渡すと、アルメリアは子どもたちと遊び始めた。リカオンは主に男の子たちと、アルメリアは女の子たちと遊びせがまれて色々な物語を話して聞かせた。
 楽しい時間はあっという間に過ぎ、気がつけば子どもたちのお昼寝の時間になっていた。アルメリアのお話しに耳を傾けていた子どもたちも眠くなってしまったようで、一人、二人と眠りに落ちていった。
 アルメリアはリカオンと協力して子どもたちをベッドに寝かせた。すると後ろから肩を叩かれる。振り返るとキャサリンが立っていた。

「お疲れ様、あんたたちよくあんな子どもたちの相手なんかできるよね」

 そう言うと、食堂を指差す。

「お茶の準備できてるからさ、飲みなよ」

「ありがとう」

 あんな子どもたちとキャサリンは言ったが、そんな子どもたちのお世話を一番こなしているのは、キャサリンなのだとルーファスに聞いて知っていたので、アルメリアは暖かな気持ちになった。
 そんなふうにキャサリンは不器用なだけで信用のできる子だと知っていたので、キャサリンにも質問してみることにした。

「キャサリン、訊きたいことがあるんだけどいいかな?」

 キャサリンはちらりと振り向くと、すぐに前を向く。

「べつに、訊きたきゃ訊けばいいじゃん」

 無視されなくて良かったと思いながらアルメリアは質問する。

「ここ最近ブロン司教はなにかいつもと違うこと言ってなかった? それと、子ども部屋にあった箱のことなんだけど、鍵の場所知らないかな?」

 キャサリンはしばらく考えると答える。

「知らない」

「そっか、なにか思い出したら教えてくれる?」

 キャサリンは黙って頷き、口を開く。

「私は洗濯しないといけないから、じゃあね。別にあんたとお茶したくないとか、そういうことじゃないし、あんたが来ると子どもたちが喜ぶし迷惑じゃないから」

 そう言うと恥ずかしそうに、キャサリンは洗濯場に走っていった。アルメリアはキャサリンが可愛くて抱きしめたい衝動を抑えながら食堂に入った。
 食堂ではルーファスがお茶を入れて待ってくれていた。アルメリアが来たことに気づいたルーファスは顔を上げて微笑んだ。

「アルメリア、お待ちしていました。どうぞこちらに座って下さい」
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