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第六十九話 二通の手紙

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 アルメリアは、しょんぼりと部屋へ戻って行く子どもたちの後ろ姿に、後ろ髪を引かれながら庭の一角にある物置小屋へ向かった。
 中へ入ると何年もの間、誰も立ち入っていないであろうことが一目瞭然だった。

「お嬢様、凄い埃ですよ。ここには誰も来ていないでしょうね。うわっ、なんだ? クモの巣? こんなところ調べてみても無駄ですよ。助祭と一緒に子どもたちの部屋を調べましょうよ」

「なに言ってますの。誰も立ち入ってないからと言って、ここになにもないとは限りませんわ。まずは書類から調べてみましょう」

 そうは言ったものの、正直アルメリアもなにを探しているかもわからない状況だった。とりあえず書類に書かれている内容別に分け、最も重要と言えそうな寄付金関係についての書類を読み始めた。
 そんなアルメリアをつまらなさそうに見つめながら、リカオンは呟いた。

「こんなこと、無駄だと思いますけどね」

 そんなリカオンを無視して、アルメリアは時間を忘れ書類に目を通し続けた。リカオンは横にいて何もしない訳にもいかず観念したのか、アルメリアと同様に黙々と書類に目を通し始めた。
 そうしてあらかたの書類に目を通したものの、特にこれといった内容のものはなく、挙げ句には教会の日誌にまで目を通すことにした。その中には、ブロン司教が以前いた教区のものも含まれている。リカオンは露骨に嫌そうな顔をした。

「こんなものにまで目を通すのですか? お嬢様がそう言うなら仕方がありませんけど……。なんでこんなこと」

 そうぶつぶつ呟いていたが、途中から夢中になって読み始めた。アルメリアは自分の目の前に積んであった日誌はすべて読み終えたので、リカオンの目の前に積んである日誌に手を伸ばした。すると、リカオンがそれを制した。

「これは僕が読みますから、お嬢様は違うところをお調べになって下さい」

 そう言われ仕方がなく、他の場所を見ることにした。小屋の中を見て回ると古いシーツや衣類、子どもたちが置いていった荷物などが所狭しと並んでいるだけで、これと言ってめぼしいものはなかった。
 その時、壁にこの孤児院の設計図のような物が貼ってあるのが目に入った。

 そして不意に、ルーファスならば教会本部の設計図が入手できるのではないかと思いついた。それがあればなんとか教会本部に侵入できるかもしれない。
 そう考えていると、背後から声をかけられ振り向く。そこにはルーファスが立っており、手に二通の封書となにやら箱らしきものを持っていた。

「アルメリア、こんなものを子どもたちのおもちゃ入れの奥底で見つけました。それと食堂の食器棚の奥に二通手紙が……」

 そう言って手渡されたのは、書類が入りそうな大きさの鍵のかかった装飾の美しい箱と、リカオン宛の手紙だった。アルメリアはすぐに日誌を夢中で読んでいるリカオンに声をかけると、その二通の手紙を差し出した。

「食堂に隠してあったそうですわ。ブロン司教とオルブライト子爵はご友人でしたわよね? もしかして子爵から預かっているのかもしれませんわ」

 すると、リカオンはその二通を受け取りまじまじと見つめた。

「確かに蝋封は二通ともオルブライト子爵のもので間違いありませし、宛名の筆跡も一通はオルブライト子爵のものと特徴が一致していると思います。ですが、もう一通はの宛名の筆跡は……」

 そう言うと黙り込んでしまった。

「リカオン、一人になれるところでじっくり読むと良いですわ。わたくしたちは、まだ調べておきますから」

「はい、すみません」

 リカオンが物置小屋を出ていくのを待って、アルメリアは設計図のことを聞いてみた。

「ルフス、わたくし壁の設計図を見ていて思いましたの。教会本部の設計図はてに入れられまして?」

「設計図、ですか? どうでしょう。保管場所もわかりませんし、大切な情報もあるでしょうから見せてもらえるか……」

 そう言いながら、壁の設計図を見つめた。そして突然、目を見開いて設計図の一ヵ所を指でなぞる。

「これは……」

 アルメリアは何事かと、ルーファスが指でなぞっているところを覗き込む。

「なんですの?」

「いえ、あれは伝承だと思っていました」

 ルーファスはなにか呟きながら、驚きつつ設計図に顔を近づけたり少し離れて眺めてみたりしながら、顎に手をあてなにやら考えこんでいる。
 アルメリアはルーファスがなにかしらの答えを出すまで、横で静かに見守っていた。
 するとルーファスは、はっとしたようにアルメリアの顔を見た。

「すみません、少し興奮してしまって。こんなときに発見したのでなければ、もっと素直に喜べたんですけれど」

「なにを発見しましたの?」

「少し説明が長くなりますが、よろしいでしょうか」

 アルメリアの質問にそう前置きして、ルーファスは話し始める。

「三百年ほど前の話なのですが、教会本部へ賊が侵入し、占拠されたという事件があったのをご存知ですか?」

 突然そう聞かれ一瞬困惑したものの、その事件を本で読んだのを思い出した。

「知ってますわ。確か教会にある聖武具を狙った賊が、教会本部に侵入したところで司教に見つかり、人質を取って立て籠った事件ですわよね?」

「はい。四十人ほど人質に取られたそうです。賊は人質と交換で、国外に自分たちを逃がすことを要求しました。でないと人質は道ずれで全員殺すと。ですが、国外に賊を逃がせば、帝国の盾であり剣であるロベリアの威信に関わります。何よりも聖武具も奪われかねない。どうしたものかと考えあぐねているうちに……」

 アルメリアはそこで気づく。

「洞窟があるってことですの?!」

「そうです。歴史書によるとその夜、パーパの前に突然チューベローズ様が現れたんだそうです。そして、庭の片隅の地面を指差しすっと消えてしまいました。すると、チューベローズ様が指差した地面が突然まばゆく光だしたのです。パーパは慌ててそこを掘るよう命じました」

 ルーファスがそこまで話すと、アルメリアは頷きその話の先を次いで言った。

「そうしたら、地下が洞窟になっていてその洞窟を進むと、教会本部までつながっていた。その洞窟を利用して人質と聖武具を無事に取り戻すと同時に、そこから兵士たちが教会本部へ突入し、賊を鎮圧することができた。という伝承でしたわよね?」

 すると、嬉しそうにルーファスは頷く。

「はい、その通りです。よくご存知で。私も伝承だと思っていましたし、洞窟のある教会の候補はテイラー侯爵領とライオネル伯爵領、それにフィルブライト公爵領の三つの教区でしたから、本当だったとしても、ここの孤児院内にあるとは考えもしませんでした。ですが、この設計図のここを見てください」

 アルメリアはルーファスが指差した場所をじっと見つめる。

「そこは、この物置小屋の場所ですわね? その下に点線のような、道のような物が……これは後から書き足されているように見えますわね」

 更に興奮した様子でルーファスは答える。

「そうなんです! この設計図の書かれた日付を確認して下さい」

 そう言われ右下に記載されている日付をみる。

「四百年前の日付ですわね。ということは、この設計図が本当に四百年前に書かれたとして、もしかしたらこの地下道のような書き足しは、三百年前の時に書かれたものかもしれませんわ」

「絶対にそうに決まってます。実はこの物置小屋、地下倉庫があるのです。有事に備えて色々な物を備蓄していますが、そこのどこかに洞窟に続く扉があるのかもしれません」

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