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第五十四話 アルメリアの意見
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それを受け、頷きながらアドニスはアルメリアに微笑む。
「そうですね、最初は貴女が発端でしたし。あの時も困っている人を助けるために、医療班を送ったのがきっかけなのでしたよね? ですが、それをきっかけに組織末端の腐敗を詳らかにするよう要求するとは、本当に流石としか……」
アルメリアは以前セコーニ村へ医療班を送り、彼らが自警団や騎士団に捕らえられ、それをきっかけにパウエル領での騎士団の腐敗が、リアムによって次々に暴かれたときのことだと気づいた。アルメリアは完全に買いかぶりだと思い慌てた。そもそもあの腐敗の証拠をつかんだのはペルシックで、その後に部下たちの腐敗を暴いたのはリアムである。アルメリアは何もしていない。
「アドニス、ちがいますの。あれはリアムが暴いたことであって、私はほんの些細な情報を提供したにすぎませんわ。ですから、あれは私の手柄ではありませんわ」
そんなアルメリアにアドニスは優しく諭すように言う。
「アルメリア、情報は持っているだけではなんの役にもたちません。その情報をどのように生かすかが大切なのです。その点で貴女の対応は素晴らしかった。それに、公にはリアムの手柄にしたことをパウエル侯爵はとても評価されていましたよ。だからこそ、貴女に敬意を払って騎士団の組織を根本からただそうという動きが生まれたのです」
そんな大事になっていたとは露知らず、裏でとんでもないことになっていたことにアルメリアは驚愕し、驚きの表情を隠せなかった。そんな様子を見てムスカリは苦笑する。
「本人が気づいていないとはね。そういうことでもなければ、令嬢が相談役として城に上がれる訳がないだろう。さて、この際だから訊いておこう。君は城に上がってから良く城内を見て回っているね、その中で騎士団について何か思うことはあるか?」
またもや突然の質問に驚きながら、少し考え以前スパルタカスに案内してもらったときに思ったことを口にした。
「これはあくまで、一個人の意見としてお聞き下さい。騎士団には細かい組織の細分化が必要だと思いました」
アルメリアはムスカリの顔色を伺う。特に気分を害した様子はなく、無表情で答える。
「なるほど、続けて」
「はい、ざっくり説明させていただきます。七~八人程度の小隊、それを少しまとめた中隊、それをまとめた大隊、分隊とに分けそれぞれに隊長を置きます。すると隊長には部下ができたことで、自分の所属する隊に対する誇りや仲間意識も育つのではないでしょうか。それに隊の中では役割分担も決めるのも大切なことだと思います。各隊はそれぞれに特化した教育をし、名前もそれに準じたものにします。そうやって細分化し有事のさいには必要な場所にそれに特化した隊を必要な数だけ配置すれば、どこにどの隊がいるのかわかりますし、命令も指揮系統もはっきりするので把握も容易になるのではないかと思いました」
ムスカリもアドニスもしばらく黙りこんだ。あまりにも細かく言いすぎてしまったかもしれない、とアルメリアは後悔した。
「出過ぎたことを言ってしまい、申し訳ありません」
そう謝ると、ムスカリは微笑んだ。
「いや、違う。君の素晴らしさに言葉を失っていただけだ。聞いておいてよかった」
そう言うと、アドニスに向き直る。
「どうだ、できそうか?」
「頭の固い重鎮たちがなんと言うかわかりませんが、参謀はこの話に興味を持つのではないかと思います。スパルタカスにも相談せねばならないでしょう。ですが、これは吟味すべき意見だと私は思います」
「うん、私も同感だ」
ムスカリは改めてアルメリアに向き直った。
「今後、参謀と話をしてもらわねばならないかもしれない。そのときは相談役として宜しく頼む」
「もちろんですわ、喜んで協力させていただきます。これが相談役としての初仕事ですわね」
アルメリアは初仕事に嬉しく思いながら笑顔でそう答えると、アドニスもムスカリも困惑した顔でお互い見合わせた。そしてアドニスがアルメリアに問いかける。
「アルメリア、今まで見回りし兵士たちと親睦を深め、兵士に治療法を教えたり、教会の助祭と懇意にしたり、孤児院へ慰問したり、フィルブライト公爵令息の治療に従事したり、今も殿下にアドバイスしたことを、貴方はなんだと思って行動していたのてすか?」
それを聞いてアルメリアは恥ずかしくなった。そうして聞くと好き勝手なことをして、好き勝手意見をいって、挙げ句、毎日城内を散歩と言ってはふらついている、わがまま令嬢ではないか。
「せっかく相談役を受けましたのに、毎日何もせず好き勝手して恥ずかしいことですわね。申し訳ありませんでした、今後はもっと尽力致します」
そのやり取りを見ていたムスカリが、我慢できないとばかりに声を出して笑い始めた。アルメリアは呆気に取られながらそれを見ていたが、ムスカリはなんとか笑いをこらえるとアルメリアに言った。
「アルメリア、君は本当にそう思っているのか? まぁ、それが君の良さなのだろうな。君は気負う必要はない、今のまま自由に動いて欲しい。それでも期待以上に貢献してくれているのだから」
そう言われ、アルメリアはどういうことなのか理解できなかったが、とりあえず了承した。
すると、ムスカリは突然なにかに気づいたように胸ポケットから懐中時計を取り出す。
「君との時間が楽しくて、用事を忘れるところだった。残念だが今日はこのあと会食の予定があってね、名残惜しいが戻らなければ」
そう言うとアドニスに視線を移す。
「アドニス、君も出席の予定だったな」
アドニスは不満そうな顔をしたが、ムスカリに従い立ち上がるとアルメリアに微笑んだ。
「今日はこれませんが、城下に戻ってきましたので、明日からはまたこちらに伺わせていただきますね」
「ならば私もそうさせてもらおう」
ムスカリが楽しそうにそう言うと、アドニスは振り返ってムスカリを見つめ、しばらくお互いに満面の笑みで見つめ合っていた。アルメリアはそんな様子をみてふふっと笑って言った。
「こう言っては殿下に対し不敬にあたるかもしれませんが、お二人は本当に仲がよろしいのですのね。存じ上げませんでした」
二人とも一瞬動きを止めた。満面の笑顔のままムスカリが答える。
「確かに。不本意ではあるが今のところライバルなのでね」
「殿下私もそれには同感です。なんでこんなことになってしまったのか……」
「そうですね、最初は貴女が発端でしたし。あの時も困っている人を助けるために、医療班を送ったのがきっかけなのでしたよね? ですが、それをきっかけに組織末端の腐敗を詳らかにするよう要求するとは、本当に流石としか……」
アルメリアは以前セコーニ村へ医療班を送り、彼らが自警団や騎士団に捕らえられ、それをきっかけにパウエル領での騎士団の腐敗が、リアムによって次々に暴かれたときのことだと気づいた。アルメリアは完全に買いかぶりだと思い慌てた。そもそもあの腐敗の証拠をつかんだのはペルシックで、その後に部下たちの腐敗を暴いたのはリアムである。アルメリアは何もしていない。
「アドニス、ちがいますの。あれはリアムが暴いたことであって、私はほんの些細な情報を提供したにすぎませんわ。ですから、あれは私の手柄ではありませんわ」
そんなアルメリアにアドニスは優しく諭すように言う。
「アルメリア、情報は持っているだけではなんの役にもたちません。その情報をどのように生かすかが大切なのです。その点で貴女の対応は素晴らしかった。それに、公にはリアムの手柄にしたことをパウエル侯爵はとても評価されていましたよ。だからこそ、貴女に敬意を払って騎士団の組織を根本からただそうという動きが生まれたのです」
そんな大事になっていたとは露知らず、裏でとんでもないことになっていたことにアルメリアは驚愕し、驚きの表情を隠せなかった。そんな様子を見てムスカリは苦笑する。
「本人が気づいていないとはね。そういうことでもなければ、令嬢が相談役として城に上がれる訳がないだろう。さて、この際だから訊いておこう。君は城に上がってから良く城内を見て回っているね、その中で騎士団について何か思うことはあるか?」
またもや突然の質問に驚きながら、少し考え以前スパルタカスに案内してもらったときに思ったことを口にした。
「これはあくまで、一個人の意見としてお聞き下さい。騎士団には細かい組織の細分化が必要だと思いました」
アルメリアはムスカリの顔色を伺う。特に気分を害した様子はなく、無表情で答える。
「なるほど、続けて」
「はい、ざっくり説明させていただきます。七~八人程度の小隊、それを少しまとめた中隊、それをまとめた大隊、分隊とに分けそれぞれに隊長を置きます。すると隊長には部下ができたことで、自分の所属する隊に対する誇りや仲間意識も育つのではないでしょうか。それに隊の中では役割分担も決めるのも大切なことだと思います。各隊はそれぞれに特化した教育をし、名前もそれに準じたものにします。そうやって細分化し有事のさいには必要な場所にそれに特化した隊を必要な数だけ配置すれば、どこにどの隊がいるのかわかりますし、命令も指揮系統もはっきりするので把握も容易になるのではないかと思いました」
ムスカリもアドニスもしばらく黙りこんだ。あまりにも細かく言いすぎてしまったかもしれない、とアルメリアは後悔した。
「出過ぎたことを言ってしまい、申し訳ありません」
そう謝ると、ムスカリは微笑んだ。
「いや、違う。君の素晴らしさに言葉を失っていただけだ。聞いておいてよかった」
そう言うと、アドニスに向き直る。
「どうだ、できそうか?」
「頭の固い重鎮たちがなんと言うかわかりませんが、参謀はこの話に興味を持つのではないかと思います。スパルタカスにも相談せねばならないでしょう。ですが、これは吟味すべき意見だと私は思います」
「うん、私も同感だ」
ムスカリは改めてアルメリアに向き直った。
「今後、参謀と話をしてもらわねばならないかもしれない。そのときは相談役として宜しく頼む」
「もちろんですわ、喜んで協力させていただきます。これが相談役としての初仕事ですわね」
アルメリアは初仕事に嬉しく思いながら笑顔でそう答えると、アドニスもムスカリも困惑した顔でお互い見合わせた。そしてアドニスがアルメリアに問いかける。
「アルメリア、今まで見回りし兵士たちと親睦を深め、兵士に治療法を教えたり、教会の助祭と懇意にしたり、孤児院へ慰問したり、フィルブライト公爵令息の治療に従事したり、今も殿下にアドバイスしたことを、貴方はなんだと思って行動していたのてすか?」
それを聞いてアルメリアは恥ずかしくなった。そうして聞くと好き勝手なことをして、好き勝手意見をいって、挙げ句、毎日城内を散歩と言ってはふらついている、わがまま令嬢ではないか。
「せっかく相談役を受けましたのに、毎日何もせず好き勝手して恥ずかしいことですわね。申し訳ありませんでした、今後はもっと尽力致します」
そのやり取りを見ていたムスカリが、我慢できないとばかりに声を出して笑い始めた。アルメリアは呆気に取られながらそれを見ていたが、ムスカリはなんとか笑いをこらえるとアルメリアに言った。
「アルメリア、君は本当にそう思っているのか? まぁ、それが君の良さなのだろうな。君は気負う必要はない、今のまま自由に動いて欲しい。それでも期待以上に貢献してくれているのだから」
そう言われ、アルメリアはどういうことなのか理解できなかったが、とりあえず了承した。
すると、ムスカリは突然なにかに気づいたように胸ポケットから懐中時計を取り出す。
「君との時間が楽しくて、用事を忘れるところだった。残念だが今日はこのあと会食の予定があってね、名残惜しいが戻らなければ」
そう言うとアドニスに視線を移す。
「アドニス、君も出席の予定だったな」
アドニスは不満そうな顔をしたが、ムスカリに従い立ち上がるとアルメリアに微笑んだ。
「今日はこれませんが、城下に戻ってきましたので、明日からはまたこちらに伺わせていただきますね」
「ならば私もそうさせてもらおう」
ムスカリが楽しそうにそう言うと、アドニスは振り返ってムスカリを見つめ、しばらくお互いに満面の笑みで見つめ合っていた。アルメリアはそんな様子をみてふふっと笑って言った。
「こう言っては殿下に対し不敬にあたるかもしれませんが、お二人は本当に仲がよろしいのですのね。存じ上げませんでした」
二人とも一瞬動きを止めた。満面の笑顔のままムスカリが答える。
「確かに。不本意ではあるが今のところライバルなのでね」
「殿下私もそれには同感です。なんでこんなことになってしまったのか……」
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