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第四十七話 あいすてぃーは美味しい
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国王陛下に謁見の許可を乞うとは、一体ダチュラはなにを目的にしているのだろうか? それに、なぜ攻略対象であるムスカリに謁見を申し込まないのかも謎だった。さきに国王陛下に取り入ってからムスカリに近づこうとしているのかもしれないが、現王のサンスベリア・フォン・スカビオサ・ロベリア国王陛下は建国以来の賢王と名高い。流石にそんなに簡単には取り入ることはできないだろう。
そう思ったところで、アルメリアは考え直した。なぜなら、取り入るのはヒロインである。会ってしまえばどうなるかわからない。いずれにせよ、城内を教会の者とうろうろしているようだし、ダチュラとムスカリが出逢うのも時間の問題と思われた。現状ムスカリと婚約させられるのでは? と、アルメリアは散々悩んでいたが、それらの悩みは二人の出逢いによって杞憂に終るかもしれなかった。
報告書を一通り読み終え、鍵のかかる引き出しに報告書をしまうと登城する準備をして屋敷をあとにした。城に着くと、いつものようにエントランスでリカオンが出迎える。孤児院で少し様子がおかしいように感じたが、この日はいつも通りの態度だった。
いつもお茶に訪ねてきていた面々も、忙しい日々が続いているらしく訪ねてくることはなかった。こうしてしばらくの間また何事もなく毎日が過ぎていった。アルメリアは訪ねてくる兵士たちの話し相手や、時間があるときはオルブライト領の孤児院にアンジーとして手伝いに行く日々が続いた。孤児院に通っていたお陰でルーファスも気軽に話すようになり、慰問や所用で登城したときは、アルメリアの執務室に訪ねてくれるようになっていた。
「お嬢様、また助祭が来ましたが、どうしますか?」
リカオンはつまらなそうに言ったが、アルメリアは時間をもて余していたので来訪は大歓迎だった。
「通してもらってかまいませんわ」
「お嬢様、別に毎回招き入れる必要はないと思いますよ? 断ってもよいのでは?」
アルメリアは苦笑する。
「私も退屈していますの、訪ねてきてくださるのは有難いことですわ」
それを聞いて、リカオンは呆れたように下がりルーファスを部屋に通した。
「今日も慰問で登城したもので、図々しくもお茶のお誘いに来ました」
少し照れながら入ってきたルーファスを笑顔で迎えた。
「では、こちらのテラスでお茶にしましょう」
手を差し出すと、ルーファスがその手を取る前に素早くリカオンがその手を取りエスコートした。自分の仕事はしっかりこなすというプライドがあるのだろう。
テラスに出て、強い日差しを避けるためパラソルの下に入ると、椅子に座りお茶が出されるのを待って口を開いた。
「キャサリンの奉公先はきまりまして?」
キャサリンは会えば憎まれ口ばかりだったが、それでも何度も顔を合わせているせいか、最近はアルメリアと普通に話をするようになっていた。そして最近では将来の話をすることもあった。まだ奉公など早いと思っていたが、今から探さないと孤児院育ちの子どもを雇ってくれる奉公先はあまりない。アンジーのように孤児院を手伝うこともできたが、キャサリンは外に出て働きたいとのことだった。
クンシラン領では果樹園など孤児たちの受け皿が用意されているが、福祉制度が未発達な領地がほとんどである。オルブライト領も例外に漏れずそういった福祉制度は整っていなかった。
一番良い勤め先は貴族の屋敷で、真面目に勤め上げれば辞めなくてはならなくなったとき、推薦状を書いてもらうことができるし、それなりの地位に上り詰めることができれば、雇い主が亡くなった場合その貢献度に比例した遺産の分配もある。だが、貴族たちも身元のしっかりしていない孤児たちを雇うはずはなく、よしんば雇われても劣悪な環境に置かれることは目に見えていた。
アルメリアが口添えしてクンシラン家の領土内で雇ってもよかったが、キャサリンの性格上アンジーが公爵令嬢のアルメリアだと知れたとき、辞めてしまいかねなかった。キャサリンに知られないように陰から力添えをして、本人の力でより良い奉公先に就職できる方法を模索していた。
「いいえ、なかなか良いところが見つからなくて。私もうちの子たちには幸せになって欲しいので、色々当たってはいるのですが……」
ルーファスは残念そうな顔で答える。毎年子どもたちの奉公先には頭を悩ませるのだろう。
「私も色々考えてはいるのですが、中立派の貴族は特に教会に関することには容易に手出しできませんもの。難しいですわ」
オルブライト領の話なのでリカオンにお願いすることもできるが、リカオンが協力してくれるとは思えなかった。そもそも協力するなら、すでに申し出てくれているはずだろう。だがアルメリアたちがこんな会話をしていても、いつものように我関せずといった澄まし顔でお茶を楽しんでいる。そう思いながらリカオンを見ると、アルメリアの視線に気づいたリカオンが怪訝そうな顔で言う。
「なんです?」
なんです? じゃないですわ! 貴男の領地での話ですのよ! と言いたいのをぐっとこらえてアルメリアは答える。
「なんでもありませんわ。お茶がとても美味しいですわね?」
「わかりますか? 今日はサイデューム産のアッサム茶を用意しました。それに今日はこの気候ですからミルクアイスティーにしました。普段アッサムティーはクリームダウンを起こすのでアイスティーで楽しむのには適していないのですが、ミルクティーにすればとても美味しくいただくことができますからね。コクと深い味わいが素晴らしいです」
力説するリカオンを見ながら、自分が飲みたかったのかしら? と思いながら、ふとダージリン茶もアッサム茶も前世で地名から名付けられていたと思いだした。この世界でもその名が通用するのはなにか繋がりがあるようで嬉しかった。それが自然に顔に出て、お茶を見つめながら微笑んでいた。
「お嬢様が嬉しそうにしてくれるとは、この茶葉を選んだ甲斐がありました」
そう言われ表情に出ていたことに気づく。それにしても、一瞬でも自分が飲みたいのではないかとリカオンを疑ったことを申し訳なく思いながら、最近リカオンが気を使うようになり、少し大人になったと感じた。
「そうなんですのね? 氷を手に入れるのも容易ではないですのに。じっくり楽しませていただきますわね?」
リカオンは天邪鬼なところがあるので、本人を直接褒めることはせず遠回しに褒めた。そして、ルーファスに向き直る。
「奉公先に関しては私も色々考えて見ますわ。まだ時間もありますし、あまり思い詰めずにせっかくですから今はお茶を楽しみましょう」
そう思ったところで、アルメリアは考え直した。なぜなら、取り入るのはヒロインである。会ってしまえばどうなるかわからない。いずれにせよ、城内を教会の者とうろうろしているようだし、ダチュラとムスカリが出逢うのも時間の問題と思われた。現状ムスカリと婚約させられるのでは? と、アルメリアは散々悩んでいたが、それらの悩みは二人の出逢いによって杞憂に終るかもしれなかった。
報告書を一通り読み終え、鍵のかかる引き出しに報告書をしまうと登城する準備をして屋敷をあとにした。城に着くと、いつものようにエントランスでリカオンが出迎える。孤児院で少し様子がおかしいように感じたが、この日はいつも通りの態度だった。
いつもお茶に訪ねてきていた面々も、忙しい日々が続いているらしく訪ねてくることはなかった。こうしてしばらくの間また何事もなく毎日が過ぎていった。アルメリアは訪ねてくる兵士たちの話し相手や、時間があるときはオルブライト領の孤児院にアンジーとして手伝いに行く日々が続いた。孤児院に通っていたお陰でルーファスも気軽に話すようになり、慰問や所用で登城したときは、アルメリアの執務室に訪ねてくれるようになっていた。
「お嬢様、また助祭が来ましたが、どうしますか?」
リカオンはつまらなそうに言ったが、アルメリアは時間をもて余していたので来訪は大歓迎だった。
「通してもらってかまいませんわ」
「お嬢様、別に毎回招き入れる必要はないと思いますよ? 断ってもよいのでは?」
アルメリアは苦笑する。
「私も退屈していますの、訪ねてきてくださるのは有難いことですわ」
それを聞いて、リカオンは呆れたように下がりルーファスを部屋に通した。
「今日も慰問で登城したもので、図々しくもお茶のお誘いに来ました」
少し照れながら入ってきたルーファスを笑顔で迎えた。
「では、こちらのテラスでお茶にしましょう」
手を差し出すと、ルーファスがその手を取る前に素早くリカオンがその手を取りエスコートした。自分の仕事はしっかりこなすというプライドがあるのだろう。
テラスに出て、強い日差しを避けるためパラソルの下に入ると、椅子に座りお茶が出されるのを待って口を開いた。
「キャサリンの奉公先はきまりまして?」
キャサリンは会えば憎まれ口ばかりだったが、それでも何度も顔を合わせているせいか、最近はアルメリアと普通に話をするようになっていた。そして最近では将来の話をすることもあった。まだ奉公など早いと思っていたが、今から探さないと孤児院育ちの子どもを雇ってくれる奉公先はあまりない。アンジーのように孤児院を手伝うこともできたが、キャサリンは外に出て働きたいとのことだった。
クンシラン領では果樹園など孤児たちの受け皿が用意されているが、福祉制度が未発達な領地がほとんどである。オルブライト領も例外に漏れずそういった福祉制度は整っていなかった。
一番良い勤め先は貴族の屋敷で、真面目に勤め上げれば辞めなくてはならなくなったとき、推薦状を書いてもらうことができるし、それなりの地位に上り詰めることができれば、雇い主が亡くなった場合その貢献度に比例した遺産の分配もある。だが、貴族たちも身元のしっかりしていない孤児たちを雇うはずはなく、よしんば雇われても劣悪な環境に置かれることは目に見えていた。
アルメリアが口添えしてクンシラン家の領土内で雇ってもよかったが、キャサリンの性格上アンジーが公爵令嬢のアルメリアだと知れたとき、辞めてしまいかねなかった。キャサリンに知られないように陰から力添えをして、本人の力でより良い奉公先に就職できる方法を模索していた。
「いいえ、なかなか良いところが見つからなくて。私もうちの子たちには幸せになって欲しいので、色々当たってはいるのですが……」
ルーファスは残念そうな顔で答える。毎年子どもたちの奉公先には頭を悩ませるのだろう。
「私も色々考えてはいるのですが、中立派の貴族は特に教会に関することには容易に手出しできませんもの。難しいですわ」
オルブライト領の話なのでリカオンにお願いすることもできるが、リカオンが協力してくれるとは思えなかった。そもそも協力するなら、すでに申し出てくれているはずだろう。だがアルメリアたちがこんな会話をしていても、いつものように我関せずといった澄まし顔でお茶を楽しんでいる。そう思いながらリカオンを見ると、アルメリアの視線に気づいたリカオンが怪訝そうな顔で言う。
「なんです?」
なんです? じゃないですわ! 貴男の領地での話ですのよ! と言いたいのをぐっとこらえてアルメリアは答える。
「なんでもありませんわ。お茶がとても美味しいですわね?」
「わかりますか? 今日はサイデューム産のアッサム茶を用意しました。それに今日はこの気候ですからミルクアイスティーにしました。普段アッサムティーはクリームダウンを起こすのでアイスティーで楽しむのには適していないのですが、ミルクティーにすればとても美味しくいただくことができますからね。コクと深い味わいが素晴らしいです」
力説するリカオンを見ながら、自分が飲みたかったのかしら? と思いながら、ふとダージリン茶もアッサム茶も前世で地名から名付けられていたと思いだした。この世界でもその名が通用するのはなにか繋がりがあるようで嬉しかった。それが自然に顔に出て、お茶を見つめながら微笑んでいた。
「お嬢様が嬉しそうにしてくれるとは、この茶葉を選んだ甲斐がありました」
そう言われ表情に出ていたことに気づく。それにしても、一瞬でも自分が飲みたいのではないかとリカオンを疑ったことを申し訳なく思いながら、最近リカオンが気を使うようになり、少し大人になったと感じた。
「そうなんですのね? 氷を手に入れるのも容易ではないですのに。じっくり楽しませていただきますわね?」
リカオンは天邪鬼なところがあるので、本人を直接褒めることはせず遠回しに褒めた。そして、ルーファスに向き直る。
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