悪役令嬢は救国したいだけなのに、いつの間にか攻略対象と皇帝に溺愛されてました

みゅー

文字の大きさ
上 下
48 / 190

第四十七話 あいすてぃーは美味しい

しおりを挟む
 国王陛下に謁見の許可を乞うとは、一体ダチュラはなにを目的にしているのだろうか? それに、なぜ攻略対象であるムスカリに謁見を申し込まないのかも謎だった。さきに国王陛下に取り入ってからムスカリに近づこうとしているのかもしれないが、現王のサンスベリア・フォン・スカビオサ・ロベリア国王陛下は建国以来の賢王と名高い。流石にそんなに簡単には取り入ることはできないだろう。

 そう思ったところで、アルメリアは考え直した。なぜなら、取り入るのはヒロインである。会ってしまえばどうなるかわからない。いずれにせよ、城内を教会の者とうろうろしているようだし、ダチュラとムスカリが出逢うのも時間の問題と思われた。現状ムスカリと婚約させられるのでは? と、アルメリアは散々悩んでいたが、それらの悩みは二人の出逢いによって杞憂に終るかもしれなかった。

 報告書を一通り読み終え、鍵のかかる引き出しに報告書をしまうと登城する準備をして屋敷をあとにした。城に着くと、いつものようにエントランスでリカオンが出迎える。孤児院で少し様子がおかしいように感じたが、この日はいつも通りの態度だった。

 いつもお茶に訪ねてきていた面々も、忙しい日々が続いているらしく訪ねてくることはなかった。こうしてしばらくの間また何事もなく毎日が過ぎていった。アルメリアは訪ねてくる兵士たちの話し相手や、時間があるときはオルブライト領の孤児院にアンジーとして手伝いに行く日々が続いた。孤児院に通っていたお陰でルーファスも気軽に話すようになり、慰問や所用で登城したときは、アルメリアの執務室に訪ねてくれるようになっていた。

「お嬢様、また助祭が来ましたが、どうしますか?」

 リカオンはつまらなそうに言ったが、アルメリアは時間をもて余していたので来訪は大歓迎だった。

「通してもらってかまいませんわ」

「お嬢様、別に毎回招き入れる必要はないと思いますよ? 断ってもよいのでは?」

 アルメリアは苦笑する。

わたくしも退屈していますの、訪ねてきてくださるのは有難いことですわ」

 それを聞いて、リカオンは呆れたように下がりルーファスを部屋に通した。

「今日も慰問で登城したもので、図々しくもお茶のお誘いに来ました」

 少し照れながら入ってきたルーファスを笑顔で迎えた。

「では、こちらのテラスでお茶にしましょう」

 手を差し出すと、ルーファスがその手を取る前に素早くリカオンがその手を取りエスコートした。自分の仕事はしっかりこなすというプライドがあるのだろう。
 テラスに出て、強い日差しを避けるためパラソルの下に入ると、椅子に座りお茶が出されるのを待って口を開いた。

「キャサリンの奉公先はきまりまして?」

 キャサリンは会えば憎まれ口ばかりだったが、それでも何度も顔を合わせているせいか、最近はアルメリアと普通に話をするようになっていた。そして最近では将来の話をすることもあった。まだ奉公など早いと思っていたが、今から探さないと孤児院育ちの子どもを雇ってくれる奉公先はあまりない。アンジーのように孤児院を手伝うこともできたが、キャサリンは外に出て働きたいとのことだった。

 クンシラン領では果樹園など孤児たちの受け皿が用意されているが、福祉制度が未発達な領地がほとんどである。オルブライト領も例外に漏れずそういった福祉制度は整っていなかった。
 一番良い勤め先は貴族の屋敷で、真面目に勤め上げれば辞めなくてはならなくなったとき、推薦状を書いてもらうことができるし、それなりの地位に上り詰めることができれば、雇い主が亡くなった場合その貢献度に比例した遺産の分配もある。だが、貴族たちも身元のしっかりしていない孤児たちを雇うはずはなく、よしんば雇われても劣悪な環境に置かれることは目に見えていた。

 アルメリアが口添えしてクンシラン家の領土内で雇ってもよかったが、キャサリンの性格上アンジーが公爵令嬢のアルメリアだと知れたとき、辞めてしまいかねなかった。キャサリンに知られないように陰から力添えをして、本人の力でより良い奉公先に就職できる方法を模索していた。

「いいえ、なかなか良いところが見つからなくて。私もうちの子たちには幸せになって欲しいので、色々当たってはいるのですが……」

 ルーファスは残念そうな顔で答える。毎年子どもたちの奉公先には頭を悩ませるのだろう。

わたくしも色々考えてはいるのですが、中立派の貴族は特に教会に関することには容易に手出しできませんもの。難しいですわ」

 オルブライト領の話なのでリカオンにお願いすることもできるが、リカオンが協力してくれるとは思えなかった。そもそも協力するなら、すでに申し出てくれているはずだろう。だがアルメリアたちがこんな会話をしていても、いつものように我関せずといった澄まし顔でお茶を楽しんでいる。そう思いながらリカオンを見ると、アルメリアの視線に気づいたリカオンが怪訝そうな顔で言う。

「なんです?」

 なんです? じゃないですわ! 貴男の領地での話ですのよ! と言いたいのをぐっとこらえてアルメリアは答える。

「なんでもありませんわ。お茶がとても美味しいですわね?」

「わかりますか? 今日はサイデューム産のアッサム茶を用意しました。それに今日はこの気候ですからミルクアイスティーにしました。普段アッサムティーはクリームダウンを起こすのでアイスティーで楽しむのには適していないのですが、ミルクティーにすればとても美味しくいただくことができますからね。コクと深い味わいが素晴らしいです」

 力説するリカオンを見ながら、自分が飲みたかったのかしら? と思いながら、ふとダージリン茶もアッサム茶も前世で地名から名付けられていたと思いだした。この世界でもその名が通用するのはなにか繋がりがあるようで嬉しかった。それが自然に顔に出て、お茶を見つめながら微笑んでいた。

「お嬢様が嬉しそうにしてくれるとは、この茶葉を選んだ甲斐がありました」

 そう言われ表情に出ていたことに気づく。それにしても、一瞬でも自分が飲みたいのではないかとリカオンを疑ったことを申し訳なく思いながら、最近リカオンが気を使うようになり、少し大人になったと感じた。

「そうなんですのね? 氷を手に入れるのも容易ではないですのに。じっくり楽しませていただきますわね?」

 リカオンは天邪鬼なところがあるので、本人を直接褒めることはせず遠回しに褒めた。そして、ルーファスに向き直る。

「奉公先に関してはわたくしも色々考えて見ますわ。まだ時間もありますし、あまり思い詰めずにせっかくですから今はお茶を楽しみましょう」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました

As-me.com
恋愛
完結しました。  とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。  例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。  なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。  ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!  あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

処理中です...