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第四十六話 ダチュラの報告書
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屋敷に戻ると、アルメリアは改めて自分の考え方が甘かったと反省した。
まさかムスカリと王妃があのような手でくるとは予想だにしていなかった。だが、まだ婚約が成立したわけではないし、他の婚約者候補の貴族たちも黙ってはいないはずである。なんとか婚約を回避するチャンスは残っているはずだ。婚約してしまったら、断罪という未来が待っているのだからここで諦めるわけにはいかなかった。
そもそもなぜムスカリや、王妃までもがここまでしてクンシラン家に執着するのかその理由がわからない。同じく公爵家なら、フィルプライト家も名家である。確かにフィルブライト家は教会との癒着もあるが、上手く立ち回ればそれすら王室に有利に働くようにもできるはずである。
思い当たることはただ一つ。アルメリアが自身の領地を統治し莫大な富を手にしたことによって、莫大な持参金が期待できると思われたのかも知れなかった。ならば、手にした富は領地へ還元してしまって手元にはほとんど残っていないと、それとなく話しておくのも手だと思った。
そうして翌日からはまた普段通りの生活が始まった。早朝に領地を見て回り、屋敷に戻ってペルシックと打ち合わせをする。
「今日は特別なことはなにもないはずよ。ただ、突然殿下がいらっしゃるかもしれませんわ」
「承知しました。ところでお嬢様、以前申しつかっておりましたクインシー男爵令嬢のことですが、遅くなりましたがご報告させていただきます」
差し出された報告書を受け取り、内容にざっと目を通す。
「爺、ありがとう。この短期間で、ここまで調らべるのは大変だったのではなくて?」
「いいえ、遅すぎたぐらいでございます。では、御用がなければ私は失礼させていただきます」
そう言うと、ペルシックは静かに下がり部屋を出ていった。アルメリアが報告書をじっくり読む時間を作ってくれたのだろう。
改めて報告書を見る。やはりゲームの内容とだいぶ違っているようだとわかった。ゲーム内ではクインシー男爵がダチュラを探し当てているが、報告書によると何も知らなかったクインシー男爵の前に、ある日突然エニシダ司教に連れられたダチュラが現れ『私は貴男の娘だ』と告げた。
クインシー男爵も最初は信用しなかったものの、ダチュラが母親であるアイシアにプレゼントしたアクセサリーを所持していたので信じたようだった。
ダチュラが孤児院出身ということもあり、クインシー男爵はチュベローズ教へ寄付をするようになった。ダチュラ自身もチュベローズ教への信仰を深め、教会本部へ通う姿が見られるようになった。と、これは公にされているクインシー男爵令嬢の話。
ここからは、ダチュラのいた孤児院で彼女と共に過ごしたクローデットという少女の証言だ。ダチュラは昔から自分の生い立ちに不満をもち、貴族に強い憧れを持っていたそうだ。『私はこんなところにいるべき人間ではない』それがダチュラの口癖だったそうだ。
クインシー領の教会では、司教により気に入られた子どもたちは特別扱いされており、そうして選ばれた子どもたちは貴族へ養子出されると噂されていた。ところがダチュラはその枠には入らなかった。それにより更に不満を募らせたそうだ。そして、奉公に出せれしばらくしたある日、突然『私思い出したの、私は貴族の娘だったのよ?』と、言い出した。孤児仲間は信じていなかったが、ダチュラは司祭や司教の部屋へ入り浸るようになると、司教たちがダチュラにチヤホヤするようになったのでもしかして本当のことかもしれない、と思ったそうだ。
その頃になると、ダチュラは完全に他の孤児たちを見下すようになり偶然外で会っても、無視されたそうだ。そのうち教会本部の裏口から出入りしている姿をなんどか見たことがあるそうだが、その後ぱったりその姿を見ることはなくなったとのこと。クローデットの知る事実はここまでだそうだ。
クローデットの話から、ダチュラが教会と深い関わりを持っているのは確実だろう。そして、クローデットの言う『特別扱いされている子ども』というのは、シル同様売られていく子どもたちなのかもしれなかった。やはり、いまだに孤児院ではそういったことが行われているのだろう。
先日オルブライト領の孤児院に行ったとき、特別扱いされている子どもなど一人もいなかった。司教によって汚職や人身売買が横行している腐敗した教会と、そうでない教会があるのかもしれない。
ということは、汚職に手を染めていない司教を味方につけることができれば、汚職の証拠や教会の闇の部分を暴くことができるはずだ。だが、本当にブロン司教が汚職に手を染めていないかはわからない。それを十分に見極めてから味方にしても良いだろう。
問題なのはダチュラが汚職に加担する側なのか、それともアルメリアと同様に前世の記憶を取り戻したことによって、汚職を暴こうとしている側なのかわからないことだった。先日城内のテラスにいるダチュラと教皇の様子から、二人がとても親しい間柄なのが見て取れた。
考えたくもないが、もしもダチュラが汚職に加担する側だった場合、現教皇もそれに加担している可能性がある。これは恐ろしい事実であった。もしそうなのだとしたら、アルメリア一人では対処できる範疇を超えていた。もしそうならば、その時は他の貴族たちにも協力を得る必要がるだろう。
ムスカリから協力が得られれば、これほど力強いことはないがゲーム内でのムスカリはダチュラに心酔していた。それを考えると、ムスカリはダチュラ側につく可能性が高かった。今は必要にかられアルメリアに執着しているムスカリも、ダチュラに会ったらどうなるかわからない。以前リアムが言っていた『アルメリア、人が恋に落ちるのに時間は必要ありませんよ』という言葉が思い出された。
考えてみれば、リアムやアドニス、スパルタカスでさえダチュラ側につくこともあり得た。そうなったときに、どうするのか考えておかねばならない。
前方を見つめそんなことをぼんやり考えたのち、報告書の続きを読む。
城内の兵士たちによると、ダチュラが数日前に大司教に連れられ国王陛下に謁見を求めたことが数回あったそうだ。ところが当然、国王陛下からは謁見の許可は下りなかった。国王陛下自身がチュベローズ教と過度な癒着を避けていることもあり、ダチュラと国王陛下との謁見はいまだ叶っていない。最近では宮廷の騎士たちに差し入れをして国王陛下の動向を探るような動きがある。とのこと。
まさかムスカリと王妃があのような手でくるとは予想だにしていなかった。だが、まだ婚約が成立したわけではないし、他の婚約者候補の貴族たちも黙ってはいないはずである。なんとか婚約を回避するチャンスは残っているはずだ。婚約してしまったら、断罪という未来が待っているのだからここで諦めるわけにはいかなかった。
そもそもなぜムスカリや、王妃までもがここまでしてクンシラン家に執着するのかその理由がわからない。同じく公爵家なら、フィルプライト家も名家である。確かにフィルブライト家は教会との癒着もあるが、上手く立ち回ればそれすら王室に有利に働くようにもできるはずである。
思い当たることはただ一つ。アルメリアが自身の領地を統治し莫大な富を手にしたことによって、莫大な持参金が期待できると思われたのかも知れなかった。ならば、手にした富は領地へ還元してしまって手元にはほとんど残っていないと、それとなく話しておくのも手だと思った。
そうして翌日からはまた普段通りの生活が始まった。早朝に領地を見て回り、屋敷に戻ってペルシックと打ち合わせをする。
「今日は特別なことはなにもないはずよ。ただ、突然殿下がいらっしゃるかもしれませんわ」
「承知しました。ところでお嬢様、以前申しつかっておりましたクインシー男爵令嬢のことですが、遅くなりましたがご報告させていただきます」
差し出された報告書を受け取り、内容にざっと目を通す。
「爺、ありがとう。この短期間で、ここまで調らべるのは大変だったのではなくて?」
「いいえ、遅すぎたぐらいでございます。では、御用がなければ私は失礼させていただきます」
そう言うと、ペルシックは静かに下がり部屋を出ていった。アルメリアが報告書をじっくり読む時間を作ってくれたのだろう。
改めて報告書を見る。やはりゲームの内容とだいぶ違っているようだとわかった。ゲーム内ではクインシー男爵がダチュラを探し当てているが、報告書によると何も知らなかったクインシー男爵の前に、ある日突然エニシダ司教に連れられたダチュラが現れ『私は貴男の娘だ』と告げた。
クインシー男爵も最初は信用しなかったものの、ダチュラが母親であるアイシアにプレゼントしたアクセサリーを所持していたので信じたようだった。
ダチュラが孤児院出身ということもあり、クインシー男爵はチュベローズ教へ寄付をするようになった。ダチュラ自身もチュベローズ教への信仰を深め、教会本部へ通う姿が見られるようになった。と、これは公にされているクインシー男爵令嬢の話。
ここからは、ダチュラのいた孤児院で彼女と共に過ごしたクローデットという少女の証言だ。ダチュラは昔から自分の生い立ちに不満をもち、貴族に強い憧れを持っていたそうだ。『私はこんなところにいるべき人間ではない』それがダチュラの口癖だったそうだ。
クインシー領の教会では、司教により気に入られた子どもたちは特別扱いされており、そうして選ばれた子どもたちは貴族へ養子出されると噂されていた。ところがダチュラはその枠には入らなかった。それにより更に不満を募らせたそうだ。そして、奉公に出せれしばらくしたある日、突然『私思い出したの、私は貴族の娘だったのよ?』と、言い出した。孤児仲間は信じていなかったが、ダチュラは司祭や司教の部屋へ入り浸るようになると、司教たちがダチュラにチヤホヤするようになったのでもしかして本当のことかもしれない、と思ったそうだ。
その頃になると、ダチュラは完全に他の孤児たちを見下すようになり偶然外で会っても、無視されたそうだ。そのうち教会本部の裏口から出入りしている姿をなんどか見たことがあるそうだが、その後ぱったりその姿を見ることはなくなったとのこと。クローデットの知る事実はここまでだそうだ。
クローデットの話から、ダチュラが教会と深い関わりを持っているのは確実だろう。そして、クローデットの言う『特別扱いされている子ども』というのは、シル同様売られていく子どもたちなのかもしれなかった。やはり、いまだに孤児院ではそういったことが行われているのだろう。
先日オルブライト領の孤児院に行ったとき、特別扱いされている子どもなど一人もいなかった。司教によって汚職や人身売買が横行している腐敗した教会と、そうでない教会があるのかもしれない。
ということは、汚職に手を染めていない司教を味方につけることができれば、汚職の証拠や教会の闇の部分を暴くことができるはずだ。だが、本当にブロン司教が汚職に手を染めていないかはわからない。それを十分に見極めてから味方にしても良いだろう。
問題なのはダチュラが汚職に加担する側なのか、それともアルメリアと同様に前世の記憶を取り戻したことによって、汚職を暴こうとしている側なのかわからないことだった。先日城内のテラスにいるダチュラと教皇の様子から、二人がとても親しい間柄なのが見て取れた。
考えたくもないが、もしもダチュラが汚職に加担する側だった場合、現教皇もそれに加担している可能性がある。これは恐ろしい事実であった。もしそうなのだとしたら、アルメリア一人では対処できる範疇を超えていた。もしそうならば、その時は他の貴族たちにも協力を得る必要がるだろう。
ムスカリから協力が得られれば、これほど力強いことはないがゲーム内でのムスカリはダチュラに心酔していた。それを考えると、ムスカリはダチュラ側につく可能性が高かった。今は必要にかられアルメリアに執着しているムスカリも、ダチュラに会ったらどうなるかわからない。以前リアムが言っていた『アルメリア、人が恋に落ちるのに時間は必要ありませんよ』という言葉が思い出された。
考えてみれば、リアムやアドニス、スパルタカスでさえダチュラ側につくこともあり得た。そうなったときに、どうするのか考えておかねばならない。
前方を見つめそんなことをぼんやり考えたのち、報告書の続きを読む。
城内の兵士たちによると、ダチュラが数日前に大司教に連れられ国王陛下に謁見を求めたことが数回あったそうだ。ところが当然、国王陛下からは謁見の許可は下りなかった。国王陛下自身がチュベローズ教と過度な癒着を避けていることもあり、ダチュラと国王陛下との謁見はいまだ叶っていない。最近では宮廷の騎士たちに差し入れをして国王陛下の動向を探るような動きがある。とのこと。
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