悪役令嬢は救国したいだけなのに、いつの間にか攻略対象と皇帝に溺愛されてました

みゅー

文字の大きさ
上 下
45 / 190

第四十四話 素早く退散したい

しおりを挟む
 お茶会当日、アルメリアは新調したドレスに袖を通すとわざと時間より遅れて宮廷に向かった。王妃に嫌われるためだ。

 会場に着くと、招待された令嬢たちがもう席に着いていた。アルメリアは堂々と笑顔で会場に入る。

「あら、もう始まってましたのね、みなさんお集まりが早いこと」

 そう言いながら空いている席を探す。遅れてきたこともあって、空いている席は末席だけだった。その席にエスコートされ座る。
 ホストのカリーナローズ・フォン・スカビオサ王妃殿下は眉ひとつ動かさず笑顔でアルメリアを迎える。

「クンシラン公爵令嬢、待ってましたのよ? 久しぶりですわね」

「お久しぶりです。遅れてしまい大変い申し訳ありませんでした」

 作戦とはいえ、王妃に迷惑をかけたことをアルメリアは申し訳なく思った。王妃は嫌な顔ひとつせずに答える。

「べつにかまいません。貴女のことだもの、なにか理由があるのでしょう?」

 そう言ってにっこりと微笑んだ。

「ではみなさんがお集まりになったことですし、始めましょうか」

 王妃は令嬢一人一人の顔をを見回す。

「そうそう、のちほど王子も呼ぶ予定です。しっかりおもてなしをさせますわ」

 そう言うと、意味ありげに微笑んだ。アルメリアは思った通りだと思った。王太子殿下を呼び、王妃のお目がねに叶った令嬢を近くに座らせ、令嬢たちを物色させる腹積もりなのだろう。
 それをわかっているその場にいた令嬢たちは、目を輝かせそわそわし始めた。

 末席に座り、王妃からも近くの席に座るように呼ばれなかった時点で、アルメリアは王妃のお気に入り枠から外れたことを悟り安堵した。だが、更に念には念を入れ備える。お茶をこぼして自分のドレスにぶちまけ、この場から去ろうと画策していたのだ。アルメリアはそのためにも今日着てくるドレスを、わざわざ茶色のものにしたぐらいだ。
 せっかく新調するのだから、今後も着る予定だった。シミが残っては困る。
 アルメリアの年頃の令嬢が着る色合いのドレスではなかったがどうせすぐに帰るのだし、結婚を目的としていないアルメリアにとっては色は問題なかった。

 王室の主催と言っても、王妃自らお茶を入れて回ることはなく、メイドたちがゆっくりお茶を入れて回った。
 アルメリアのティーカップにもお茶が注がれ、お茶の香りを楽しもうとした瞬間、隣に座っているテイラー侯爵令嬢と、お茶を注いでいたメイドが思い切りアルメリアのドレスにお茶をかけた。同時だったので二人が示し会わせて行ったのかと疑ったが、二人を見ると、二人ともお互いの顔を見て驚いている。

 テイラー侯爵令嬢は、真っ青な顔でアルメリアの顔とドレスを見ると、手を小刻みに震わせながら小さな声で呟く。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 その様子を見て、この気の小さそうな令嬢が、大胆にもアルメリアのドレスにお茶をかけたのは、誰かに命令されてやったのかもしれない。そんなことを思った。
 メイドの方はどういう意図があったのかさっぱりわからなかった。面識もなにもないメイドであったし、王室のお抱えメイドに恨まれるような覚えもなかった。だが、明らかにわざとアルメリアのドレスに狙ってお茶をかけたのだけは確かだ。

 アルメリアは混乱していたが、なんとか自分を落ち着かせ考えを巡らせる。そうして状況判断に努めると、口を開いた。

「まぁ、なんということかしら。わたくしってばお茶をこぼしてしまいましたわ!」

 お茶をかけた令嬢とメイドが驚いてアルメリアを凝視する。そんな二人に笑顔を向けるとアルメリアは立ち上がり、王妃に一礼する。

「大事なお茶会の席で、こんな粗相をしてしまい大変申し訳ありませんでした。こんなことをしては、わたくしはお茶会に参加するに値しませんので、今日は御前を失礼致します」

 そう言って振り返ったところで、誰かにぶつかる。

「申し訳ありません」

 その人物を見上げ顔を確認すると、そこにはムスカリの無表情な顔があった。アルメリアは、とんでもないことをしてしまったと悟った。

「大変失礼いたしました。お許しください」

 慌てて頭を下げる。こんなに失礼なことをしてしまったのだから、これで王太子殿下との婚約の話はなくなるだろう。そう思いながら、頭を下上げずにいると、ムスカリは優しくアルメリアに言った。

「なぜ君が謝る? 私は見ていた。お茶をこぼしたのはテイラー侯爵令嬢だった。それもただこぼしただけじゃない、故意にかけていた。謝るのは彼女の方なのでは?」

 テイラー侯爵令嬢はムスカリに射貫かれたように見つめられると、がたがたと震えだし絞り出すように謝罪した。

「も、申し訳ありません」

 アルメリアは慌ててテイラー侯爵令嬢をかばった。

「違うんですの、実はわたくしの肘が隣にいたテイラー侯爵令嬢にぶつかってしまって、そのせいでテイラー侯爵令嬢のお茶がわたくしのドレスにかかってしまったんですの。だからテイラー侯爵令嬢はなにも悪くはありませんわ」

 ムスカリはアルメリアに優しい視線を向ける。

「君は本当に優しいね。まぁ、君がそういうことにしたいならそれでもいいが。それにしても私たちの主催したお茶会で、君には気分が悪い思いをさせてしまったのに変わりない」

「とんでもないことですわ、殿下はなにも悪くありません。そもそもわたくしは時間に遅れてしまいましたし、こんな問題を起こしたりと、この場に相応しくない行動を取りました」

 そう言うと王妃へ向き直る。

「王妃殿下、気分を害するような行いをして大変失礼いたしました」

 ゆっくり頭を下げその場を去ろうと踵を返す。するとムスカリに腕を掴まれる。

「いや、アルメリア。私も王妃も君に下がれとは言ってない。それに、このまま恥をかかせて帰らせる訳にはいかない」

 ムスカリはメイドに目配せした。するとメイドたちはアルメリアを逃がさんとばかりにとり囲む。

「クンシラン公爵令嬢こちらです」

 戸惑っているアルメリアに拒否する間も与えず、メイドたちはある部屋の前まで連れていく。ドアが開きアルメリアが恐る恐る中を覗くと、そこにはドレスを着たトルソーが置いてあった。

 そのドレスは桜色のドレスで豪華な刺繍と、レースがふんだんに使用されていた。それらはとても素晴らしい出来映えで、一目で腕の立つ職人のものとわかった。

「まさか、これ……」

 アルメリアがそう呟き部屋の中で呆気にとられながら、そのドレスを見つめていると、メイドたちが笑顔で答える。

「はい、もちろん王太子殿下からクンシラン公爵令嬢へのプレゼントでございます。可愛らしくも美しいクンシラン公爵令嬢には、とてもお似合いになるに違いありません。さぁ、汚れてしまったドレスはこちらでお預かりしましょう。綺麗に洗ってお返しいたしますから」

 そう言われてすぐに着替えさせられ身支度を整えさせられると、会場に戻った。するとアルメリアの姿を見つけた王太子殿下が素早く立ち上がり、アルメリアの元へ駆け寄る。

「思った通り似合っている。さあ、こちらに座るといい」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました

As-me.com
恋愛
完結しました。  とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。  例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。  なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。  ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!  あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...