悪役令嬢は救国したいだけなのに、いつの間にか攻略対象と皇帝に溺愛されてました

みゅー

文字の大きさ
上 下
33 / 190

第三十三話 アルメリアの作法

しおりを挟む
 アルメリアはリカオンを追いかける。

「リカオン? なにか言いたいことがあるのなら、はっきり言っても良いのですよ?」

 リカオンは振り向きもせず答える。

「なんでもありませんって。早く行きましょう」

 そう言ったあと立ち止まると、アルメリアの方へ振り返り、いつものように微笑んで手を差し出した。アルメリアは納得していなかったが、先ほどのことが気になりそれ以上リカオンに問い詰めることをやめて、その手を取った。

 あのチューベローズ教の教皇スカビオサ・レ・アルコーンと、ダチュラが知り合いだとは衝撃的だった。
 ゲーム内でダチュラは十五歳の頃引き取られる。それから一年間は男爵家でマナーやダンスを学び育成し、十六歳になったときに社交界にデビューする。
 最初の育成の時期内であっても、一定数パラメーターを超えると攻略対象とのイベントが発生することはあったが、ダチュラ自身が登城したり、まして教皇と絡むことは一切なかったはずだ。

 アルメリア自身が転生したことでストーリーが変化してしまい、その影響でヒロインのストーリーも変わってしまったということも考えられないわけでもないが、それにしても話が変わり過ぎのように感じた。
 アルメリアは話がこうも大きく変わってしまっていることに、一つ思い当たることがあった。それはダチュラも転生者ではないかということだ。そうでなければこんなにも大幅にストーリーが変わることはないだろう。
 ダチュラが前世の記憶を良い方向に使ってくれれば良いが、教皇と一緒に居る時点で、嫌な予感がした。

 アルメリアは改めてペルシックに、ダチュラについて調べてもらうことにした。今まで、ヒロインの登場はまだ先だと思っていたので、アルメリアはダチュラのことは調べずにいた。もし調べるとしても、孤児院にいるはずのダチュラを調べることは容易ではなかっただろう。
 ペルシックはゲームの内容だとか、アルメリアの前世のことは当然知らない。なので、いかに有能なペルシックもクインシー男爵について先んじて調べたりすることもなかった。
 この時点になってようやくアルメリアは、クインシー男爵の動向だけでも調べておかなかったことを後悔した。

 そうして少し考え込んでいるアルメリアを見て、リカオンが咳払いしながら言った。

「お嬢様、先ほど僕が言ったことを気になさっているんですか? 別に僕はそんなお嬢様は嫌いではありませんよ。お気になさらずに」

 そう言われなんのことだかさっぱり分からなかったが、とりあえず頷き笑顔で答える。

「そうなんですのね? 良かったですわ!」

 するとリカオンは一瞬大きく目を見開いて驚いた様子を見せたが、すぐに不機嫌そうにそっぽを向いた。アルメリアは内心、さっきまではわたくしを心配してくれていたのに、笑顔を向けるとこの反応。リカオンはツンデレってやつですのね。と思いながらその様子を微笑ましく見つめた。

 順番に周り城壁内に戻り、礼拝堂の近くを歩いているとルーファスが礼拝堂から出てくるところに偶然出くわした。ルーファスはアルメリアに気づくと笑顔で手を振った。

「こんにちは、アルメリア。今日は心地の良い天気ですね」

 そう言いながらアルメリアの方へ歩いてくる。アルメリアも微笑み返す。

「こんにちは、本当に気持ちの良い気候ですわね。ルフスは今日はなんの御用でしたの?」

「今日はこちらでパーテルたちの話し合いがありましてね。うちの教区のパーテルも出席せねばならなかったので、私は付き添いで参りました」

 パーテルとは司教のことだろう。彼らが自分より高位の聖職者をパーテルと呼んでいるのを何度か聞いたことがあった。ルーファスの仕えるオルブライト教区の司教は確かブロン司教だったはずだ。

「そうですのね。ではブロン司教がいらしてるんですのね。ルフスはもう戻るところですの?」

「はい、話し合いはしばらく続きますから、一度戻ろうかと思っていたところです」

 アルメリアは少し考え、遠慮がちに言った。

「もしよろしければ、わたくしの執務室でお昼をご一緒しませんか?」

 そのお誘いにルーファスは驚いて答える。

「お邪魔してもよろしいのですか?」

 アルメリアは満面の笑みで答える。

「もちろんです」

「お誘いありがとうこざいます。とても嬉しいです」

「ご一緒していただけるとわたくしも嬉しいですわ。では行きましょう」

 ルーファスはリカオンとアルメリアの後ろに続いて歩いた。執務室の前に来るとアルメリアは立ち止まる。

「こちらですわ」

 そう言って中に入ると、ルーファスも中に入るよう促す。中に入ったルーファスは室内をぐるり見回した。そしてそんな自分を優しく見つめているアルメリアに気づくと、恥ずかしそうに照れ笑いをした。

「不躾にじろじろと見たりしてすみません。あまりにも素晴らしいお部屋でしたので、貴族の方々はこのような生活をされているのかと圧倒されてしまいました」

 アルメリアは首を振る。

わたくしの準備した部屋ではありませんけれど、仕事するだけですのに確かに華美な装飾ですわよね」

 アルメリアは室内を一瞥し

「こちらですわ」

 と、食堂へ歩き始めた。食堂へ入るとテーブルには、三人分のテーブルセッティングがもう済んでいた。ペルシックがアルメリアにお付きとして常について歩いているのは、こういった準備をアルメリアの命令なしにできるようにしているのも理由の一つである。

 アルメリアは洗面器で手を洗いながら、テーブルに並べられたスプーンやフォークを見て、ふとこの世界の歴史的背景は中世なのにも関わらず、こういった細かいことは近世の使用であることに感謝した。前世での中世では食事は手掴みだったはずだからだ。そんなことをぼんやり考えながら、タオルで手を拭くとペルシックのエスコートで椅子に座った。ルーファスは戸惑いながら手を洗い席につくと言った。

「こんなに豪華な場でのお食事をいただくのは初めてですので、とても緊張してしまいます。作法もよくわかりません。コップやスプーンやフォークがたくさんあるのですね。そんなことも知らない私のような者が、本当にご一緒してよろしいのでしょうか?」

「お食事は楽しむものですわ。作法なんて気にしていたら食事の味が分からなくなりましてよ? スプーンやフォークは外側から順に使っていけばよろしいんですの。それに間違えて使っても、給仕が新しい物を準備しますから問題ありませんわ。ですわよね、グレッグ」

 アルメリアは振り返って給仕を見る。

「はい。わたくしどもは、皆様が楽しくお過ごしいただくことを第一にしております。気にならさずに、楽しい会話と美味しいお食事を堪能して下さいませ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

我慢するだけの日々はもう終わりにします

風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。 学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。 そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。 ※本編完結しましたが、番外編を更新中です。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※独特の世界観です。 ※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

処理中です...