悪役令嬢は救国したいだけなのに、いつの間にか攻略対象と皇帝に溺愛されてました

みゅー

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第二十四話 新生活

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 すると突然アドニスが大きな咳払いをしたので、アルメリアの意識はアドニスに引き戻された。

「意見は違っていても、派閥同士仲が悪いわけではないので、普段仲違いするようなことはありません。ですが、会議のときはかなり言い争うこともあります。そのうち貴女も会議に参加するように要請があるかもしれませんね。会議中は、みなとても紳士とは言えないような発言をしますので、驚かれないように」

 そう言っていたずらっぽく微笑んだ。
 アルメリアは前世での国会中継を思い出していた。それにヤジを飛ばすのも政治家の仕事だと、どこかの政治家が言っていたのを覚えている。この世界でも同じようなことがあるのは面白いと思った。
 そんなふうに回想しているアルメリアを見て、アドニスは苦笑した。

「アルメリア、今日は初日です。焦らずにまずは城内の雰囲気をつかみ、ここに慣れることから始めるとよいと思いますよ」

 そう言われ、アルメリアはこちらを気遣ってくれているアドニスの気持ちが嬉しかった。いつかダチュラが現れてアルメリアに対する態度が百八十度変わってしまったとしても、色々と世話を焼き気遣ってくれていた今日のことを忘れないようにしよう。考えてみれば、彼らと親しくできるのも今のうちかもしれない。と思い、この後アドバイスに従い自分の執務室でアドニスとゆっくり過ごしてその日を終えた。


 次の日から、早朝の日課にしているクンシラン領の見回りと、報告書に目を通しながら軽く朝食を取るルーティンは変えず、それらが済んでから登城することにした。
 登城する時間は特に決められていない。なので、午後から登城しても問題はないが、そうすると直ぐにお茶の時間になってしまい、なにもすることができないうちに一日が終わってしまいかねない。そこでアルメリアは午前中には登城することにした。

 城のエントランスに到着すると、時間をあらかじめリカオンに知らせていたため、すでにリカオンが待機していた。

「お嬢様、今日もよろしくお願い致します」

 お嬢様と呼ばないように言ったはずだが、それを辞めないということは、リカオンにとってそれなりの理由があるのだろう。おそらくは嘗めてかかっているかもしれないが、それならそれでアルメリアにとっては好都合だったので、気づかないふりをしてそう呼ばせておくことにした。

「おはようリカオン。こちらこそよろしくお願いしますわ」

 リカオンにエスコートされ自分の執務室へ向かう。執務室に入るとサイドテーブルにドールチェアに座っている人形が目に入る。早速リアムがドールチェアを届けさせたのだろう。

「シル、ルク、おはよう」

 人形に話しかける。その後ろでリカオンがクスクスと笑った。

「お嬢様のお噂は方々から聞き及んでいますが、人形に話しかけるなんて、そんな一面があるとは誰も思わないでしょう」

 アルメリアは人形に視線を落としたまま答える。

「どんな噂を聞いているかわかりませんけれど、わたくしは他の令嬢となんら変わらない、人形を可愛がる普通の令嬢ですのよ」

 そう言うと席に座って微笑んだ。するとタイミングよく扉がノックされる。それに答えるとペルシックが中に入りアルメリアに報告した。

「城内統括より許可をいただきました。いつ訪ねて来てもよろしいとのことです」

 するとリカオンが不機嫌そうに横から口を出す。

「お嬢様、そういった城内の予定は僕を通していただかないと困るのですが?」

 アルメリアは申し訳なさそうな顔をした。

「そうでしたのね、ごめんなさい。貴男の手を煩わせる訳にはいかないから、予定が決定してから話そうと思っていましたの。今度から気をつけますわ。ではこれから伺いたいと城内統括に伝えてもらえるかしら?」

 呆れたようにリカオンは答える。

「承知いたしました、お嬢様。では失礼いたします」

 不機嫌そうに使いに出て行く後ろ姿を見送ると、アルメリアは苦笑した。

「リカオンはわたくし付きになったことが気に入らないのだと思いますわ。それに彼はまだ若いから、不満が態度に出てしまうのは仕方がないことですわね。ところで爺、なにか用かしら?」

 ペルシックは頷くと、書類を差し出した。

「遅れましたが教会派閥の貴族の動きと、城内における接触できそうな神官たちの動向です。鍵のかかる場所に保管なさった方がよろしいでしょう」

 今日登城した際に内通者から受け取ったのだろう。アルメリアはそれを受け取ると、ざっと目を通し、直ぐに鍵のかかる引き出しにしまった。

「爺、ありがとう。流石ね素晴らしい情報ですわ。大切に使わせてもらいます」

 ペルシックは一礼する。

「いいえ、先ほどのお嬢様の察しの良さには感服致しました」

「どういたしまして」

 アルメリアはイタズラっぽく笑った。ペルシックとは、朝一番でその日の予定を打ち合わせている。その後はいつも会話せずとも、アルメリアの目配せや、ペルシックが首を縦に振るか横に振るかだけで報告は済んでしまうのだ。
 今もペルシックがリカオンの背後から首を縦に振ってくれれば、面会の許可が出て予定どおりこれから面会ができるとわかるので『面会の許可をもらいました』と、余計な報告するのはおかしいことだった。
 これは何かあるのだろうと思ったアルメリアは、咄嗟に機転を効かせリカオンをお使いに出した。『今日は城内統括と会う約束があるから、これから会いに行く』とアルメリアがリカオンに言うだけなら『わかりました』と彼は黙ってついてきただろう。

 こんないつものペルシックとのやり取りが、リカオンの監視があるという環境下において、こんなふうに役立つとは思いもしないことだったが。

 しばらくするとリカオンがもどって報告した。

「城内統括は『お待ちしております』とのことでした。城内統括を待たせる訳にはいきませんので、直ぐにでも参りましょう」

 スパルタカスのところへ使いに行く間に頭が冷えたのか、リカオンは穏やかな笑顔でそう言うと、エスコートするため手を差し出した。アルメリアはその手を取ると笑顔で答える。

「ありがとう、よろしくお願いしますわ」
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