悪役令嬢は救国したいだけなのに、いつの間にか攻略対象と皇帝に溺愛されてました

みゅー

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第二十三話 派閥

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 アルメリアは頷き、早速利用しようと考え微笑んだが、その様子を見てアドニスは表情を曇らせた。

「ですが、こちらに詰めている貴族はほとんどが男性です。あまり共用のドローイング・ルームに行かれるのはおすすめできませんね」

 確かにそれならば婚前の令嬢が行くのは問題があるかもしれない。

「そうなんですの、他の方々とも仲良くしたかったのですけれど、それならば仕方がないですわね」

 そんな様子を見てアドニスはしばらく何事か考え、口を開いた。

「私も一緒ならば構わないでしょう。行きたいときはお供しますから、おっしゃって下さい。とにかくお一人では絶対に行かれないようにして下さいね」

 そう言って、苦笑した。

 その後も案内は続く。パラスは棟ごとに使用されている用途が違っていて、宮廷のあるパラスに近づくほど、位の高い貴族のパラスがあり覚えやすい作りになっている。後はどの貴族の執務室が、どこにあるのかを覚えれば良いだけだ。

 宮廷以外の全てのパラスを案内してもらい、アルメリアの執務室へ戻る渡り廊下を歩いていると、渡り廊下の向こうから一際派手な一団が、こちらに向かって歩いて来ているのが見えた。

「アルメリア、どうやら王太子殿下がいらしているみたいですね。道を譲りましょう」

 アドニスもアルメリアも慌てて廊下の壁際へ行き、深々と頭を下げ王太子殿下一団が通りすぎるのを待った。
 王太子殿下一団は王太子殿下を筆頭に、その後ろに数人の貴族、更に数人のメイドや執事が続いて歩いており、さながら大名行列のようだった。
 彼らが通りすぎた後、アドニスは頭を上げると言った。

「殿下はあまりこちらのパラスに来られることはないのですが、珍しいこともあるものです」

 そして、アルメリアに向き直るとアルメリアの顔をじっと見つめ

「まさか、ね」

 と、呟いた。


 あらかたの案内が終わりアルメリアの執務室へ戻ると、ペルシックから昼食の準備が整っていると言われて、お昼を回っていることに気がついた。
 アルメリアはアドニスを昼食に誘った。アドニスは喜んでそれを受ける。断るだろうと思いつつ、リカオンも誘うと予想に反して

「是非ご一緒させていただきます」

 と笑顔で答えた。アドニスは明らかに嫌そうな顔をし、食事中もリカオンに話しかけることはなかった。リカオンもこちらの会話に加わることはほとんどなく、終始無言で食事を口に運んでいた。
 そうしてアルメリア専用の食堂で準備されていた昼食を一緒に取ると、アルメリアは専用のドローイングルームで食後のお茶を楽しみながらアドニスに言った。

わたくし勉強不足で、お父様たちがどのような役目を担っているかよくわかっていませんの。できればアドニスに教えてもらえると嬉しいですわ」

 ソファにゆったり座り、出された紅茶を片手にアドニスは大きく瞳を見開いて答える。

「そう言えばアルメリアはご自身の領地を統治されていますが、統括はクンシラン公爵が担ってらっしゃるから城内での具体的な仕事内容までは知らないのですね。貴女にも知らないことがあるとは、不思議な感じがします」

 そしてアドニスはふっと笑った。

「私にも貴女に教えられることがあるなんて、嬉しいですね。では僭越せんえつながら説明させていただきましょう」

 そう言うと、持っていたティーカップをソーサーに置き、居住いを正して説明を始めた。

「私たち貴族は国王より土地を与えられ、その土地とそこに住まう人々を統治していますよね。そして、騎士団内での地位も自身の領地の統括となります。ここまでは御存じですね?」

 アルメリアは頷く。それを見てアドニスも頷き話を続ける。

「ざっくり言うと、ここでは統治している領地での税金や上納された作物、それから物資なのどの管理記録。領地内での問題や領民の動きなどをまとめ、宮廷に報告したり、国全体の法律や規律などを話し合って決めたり、いち領内で解決できない問題なども議題に上げて話し合いをしたりしています。それ以外にも、騎士団からの報告を受け、彼らを監督したり領地での問題を解決するように指示を出したりも。領民が罪を犯せばそれを裁きにかけるのも我々の仕事ですので、毎日登城はしなくてもよいのですが、会議のある日は必ず登城する必要があります。辺境伯は役割が違っていて、その土地での防衛を担う大事な役目がありますから、登城するのは大切な会議があるときのみですね」

 そこまで一気に話すと、アドニスは息をついた。

「アルメリア、ここまででわからないことはありますか?」

 アルメリアは首を振る。

「いいえ、とてもわかりやすい説明ですわ」

 アドニスは満足そうに微笑む。

「君がとても聡明だから、こちらも説明が楽で助かりますよ。さて、我々貴族は大きく派閥がわかれていますね?」

「えぇ、教会派と騎士団派。それと中立派ですわね」

 その答えを受けて、アドニスは頷き話を続ける。

「教会派閥の貴族たちは教会からなんらかの支援を受けていたりと、教会と癒着していることが多いんですよ。もちろん純粋にチューベローズ教を信仰してるゆえに、教会派に属している場合もあります。それに当然、教会派の貴族は会議のときに教会寄りの発言をすることが多いですね。逆に騎士団派の者は騎士団寄りの発言をします。そのようにして私たち貴族はだいたいどちらかの派閥に所属しています。君のお父上のクンシラン公爵のように中立派の貴族は少ないですね。まぁ、クンシラン公爵はかなりの発言権を持っていらっしゃる方なので、どちらかの派閥に入るわけにはいかないのじゃないかと思いますが。それと一応説明させていただきますと、騎士団派で一番発言権があるのはパウエル侯爵。教会派だとフィルブライト公爵。中立派はクンシラン公爵ですね。ちなみに私の父は騎士団派、そこにいるリカオンの父であるオルブライト子爵は教会派です」

 アルメリアは思わず振り向いて、背後に立って話を聞いていたリカオンを見あげた。リカオンはアルメリアと目が合うと微笑む。
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