23 / 190
第二十三話 派閥
しおりを挟む
アルメリアは頷き、早速利用しようと考え微笑んだが、その様子を見てアドニスは表情を曇らせた。
「ですが、こちらに詰めている貴族はほとんどが男性です。あまり共用のドローイング・ルームに行かれるのはおすすめできませんね」
確かにそれならば婚前の令嬢が行くのは問題があるかもしれない。
「そうなんですの、他の方々とも仲良くしたかったのですけれど、それならば仕方がないですわね」
そんな様子を見てアドニスはしばらく何事か考え、口を開いた。
「私も一緒ならば構わないでしょう。行きたいときはお供しますから、おっしゃって下さい。とにかくお一人では絶対に行かれないようにして下さいね」
そう言って、苦笑した。
その後も案内は続く。パラスは棟ごとに使用されている用途が違っていて、宮廷のあるパラスに近づくほど、位の高い貴族のパラスがあり覚えやすい作りになっている。後はどの貴族の執務室が、どこにあるのかを覚えれば良いだけだ。
宮廷以外の全てのパラスを案内してもらい、アルメリアの執務室へ戻る渡り廊下を歩いていると、渡り廊下の向こうから一際派手な一団が、こちらに向かって歩いて来ているのが見えた。
「アルメリア、どうやら王太子殿下がいらしているみたいですね。道を譲りましょう」
アドニスもアルメリアも慌てて廊下の壁際へ行き、深々と頭を下げ王太子殿下一団が通りすぎるのを待った。
王太子殿下一団は王太子殿下を筆頭に、その後ろに数人の貴族、更に数人のメイドや執事が続いて歩いており、宛ら大名行列のようだった。
彼らが通りすぎた後、アドニスは頭を上げると言った。
「殿下はあまりこちらのパラスに来られることはないのですが、珍しいこともあるものです」
そして、アルメリアに向き直るとアルメリアの顔をじっと見つめ
「まさか、ね」
と、呟いた。
あらかたの案内が終わりアルメリアの執務室へ戻ると、ペルシックから昼食の準備が整っていると言われて、お昼を回っていることに気がついた。
アルメリアはアドニスを昼食に誘った。アドニスは喜んでそれを受ける。断るだろうと思いつつ、リカオンも誘うと予想に反して
「是非ご一緒させていただきます」
と笑顔で答えた。アドニスは明らかに嫌そうな顔をし、食事中もリカオンに話しかけることはなかった。リカオンもこちらの会話に加わることはほとんどなく、終始無言で食事を口に運んでいた。
そうしてアルメリア専用の食堂で準備されていた昼食を一緒に取ると、アルメリアは専用のドローイングルームで食後のお茶を楽しみながらアドニスに言った。
「私勉強不足で、お父様たちがどのような役目を担っているかよくわかっていませんの。できればアドニスに教えてもらえると嬉しいですわ」
ソファにゆったり座り、出された紅茶を片手にアドニスは大きく瞳を見開いて答える。
「そう言えばアルメリアはご自身の領地を統治されていますが、統括はクンシラン公爵が担ってらっしゃるから城内での具体的な仕事内容までは知らないのですね。貴女にも知らないことがあるとは、不思議な感じがします」
そしてアドニスはふっと笑った。
「私にも貴女に教えられることがあるなんて、嬉しいですね。では僭越ながら説明させていただきましょう」
そう言うと、持っていたティーカップをソーサーに置き、居住いを正して説明を始めた。
「私たち貴族は国王より土地を与えられ、その土地とそこに住まう人々を統治していますよね。そして、騎士団内での地位も自身の領地の統括となります。ここまでは御存じですね?」
アルメリアは頷く。それを見てアドニスも頷き話を続ける。
「ざっくり言うと、ここでは統治している領地での税金や上納された作物、それから物資なのどの管理記録。領地内での問題や領民の動きなどをまとめ、宮廷に報告したり、国全体の法律や規律などを話し合って決めたり、いち領内で解決できない問題なども議題に上げて話し合いをしたりしています。それ以外にも、騎士団からの報告を受け、彼らを監督したり領地での問題を解決するように指示を出したりも。領民が罪を犯せばそれを裁きにかけるのも我々の仕事ですので、毎日登城はしなくてもよいのですが、会議のある日は必ず登城する必要があります。辺境伯は役割が違っていて、その土地での防衛を担う大事な役目がありますから、登城するのは大切な会議があるときのみですね」
そこまで一気に話すと、アドニスは息をついた。
「アルメリア、ここまででわからないことはありますか?」
アルメリアは首を振る。
「いいえ、とてもわかりやすい説明ですわ」
アドニスは満足そうに微笑む。
「君がとても聡明だから、こちらも説明が楽で助かりますよ。さて、我々貴族は大きく派閥がわかれていますね?」
「えぇ、教会派と騎士団派。それと中立派ですわね」
その答えを受けて、アドニスは頷き話を続ける。
「教会派閥の貴族たちは教会からなんらかの支援を受けていたりと、教会と癒着していることが多いんですよ。もちろん純粋にチューベローズ教を信仰してるゆえに、教会派に属している場合もあります。それに当然、教会派の貴族は会議のときに教会寄りの発言をすることが多いですね。逆に騎士団派の者は騎士団寄りの発言をします。そのようにして私たち貴族はだいたいどちらかの派閥に所属しています。君のお父上のクンシラン公爵のように中立派の貴族は少ないですね。まぁ、クンシラン公爵はかなりの発言権を持っていらっしゃる方なので、どちらかの派閥に入るわけにはいかないのじゃないかと思いますが。それと一応説明させていただきますと、騎士団派で一番発言権があるのはパウエル侯爵。教会派だとフィルブライト公爵。中立派はクンシラン公爵ですね。ちなみに私の父は騎士団派、そこにいるリカオンの父であるオルブライト子爵は教会派です」
アルメリアは思わず振り向いて、背後に立って話を聞いていたリカオンを見あげた。リカオンはアルメリアと目が合うと微笑む。
「ですが、こちらに詰めている貴族はほとんどが男性です。あまり共用のドローイング・ルームに行かれるのはおすすめできませんね」
確かにそれならば婚前の令嬢が行くのは問題があるかもしれない。
「そうなんですの、他の方々とも仲良くしたかったのですけれど、それならば仕方がないですわね」
そんな様子を見てアドニスはしばらく何事か考え、口を開いた。
「私も一緒ならば構わないでしょう。行きたいときはお供しますから、おっしゃって下さい。とにかくお一人では絶対に行かれないようにして下さいね」
そう言って、苦笑した。
その後も案内は続く。パラスは棟ごとに使用されている用途が違っていて、宮廷のあるパラスに近づくほど、位の高い貴族のパラスがあり覚えやすい作りになっている。後はどの貴族の執務室が、どこにあるのかを覚えれば良いだけだ。
宮廷以外の全てのパラスを案内してもらい、アルメリアの執務室へ戻る渡り廊下を歩いていると、渡り廊下の向こうから一際派手な一団が、こちらに向かって歩いて来ているのが見えた。
「アルメリア、どうやら王太子殿下がいらしているみたいですね。道を譲りましょう」
アドニスもアルメリアも慌てて廊下の壁際へ行き、深々と頭を下げ王太子殿下一団が通りすぎるのを待った。
王太子殿下一団は王太子殿下を筆頭に、その後ろに数人の貴族、更に数人のメイドや執事が続いて歩いており、宛ら大名行列のようだった。
彼らが通りすぎた後、アドニスは頭を上げると言った。
「殿下はあまりこちらのパラスに来られることはないのですが、珍しいこともあるものです」
そして、アルメリアに向き直るとアルメリアの顔をじっと見つめ
「まさか、ね」
と、呟いた。
あらかたの案内が終わりアルメリアの執務室へ戻ると、ペルシックから昼食の準備が整っていると言われて、お昼を回っていることに気がついた。
アルメリアはアドニスを昼食に誘った。アドニスは喜んでそれを受ける。断るだろうと思いつつ、リカオンも誘うと予想に反して
「是非ご一緒させていただきます」
と笑顔で答えた。アドニスは明らかに嫌そうな顔をし、食事中もリカオンに話しかけることはなかった。リカオンもこちらの会話に加わることはほとんどなく、終始無言で食事を口に運んでいた。
そうしてアルメリア専用の食堂で準備されていた昼食を一緒に取ると、アルメリアは専用のドローイングルームで食後のお茶を楽しみながらアドニスに言った。
「私勉強不足で、お父様たちがどのような役目を担っているかよくわかっていませんの。できればアドニスに教えてもらえると嬉しいですわ」
ソファにゆったり座り、出された紅茶を片手にアドニスは大きく瞳を見開いて答える。
「そう言えばアルメリアはご自身の領地を統治されていますが、統括はクンシラン公爵が担ってらっしゃるから城内での具体的な仕事内容までは知らないのですね。貴女にも知らないことがあるとは、不思議な感じがします」
そしてアドニスはふっと笑った。
「私にも貴女に教えられることがあるなんて、嬉しいですね。では僭越ながら説明させていただきましょう」
そう言うと、持っていたティーカップをソーサーに置き、居住いを正して説明を始めた。
「私たち貴族は国王より土地を与えられ、その土地とそこに住まう人々を統治していますよね。そして、騎士団内での地位も自身の領地の統括となります。ここまでは御存じですね?」
アルメリアは頷く。それを見てアドニスも頷き話を続ける。
「ざっくり言うと、ここでは統治している領地での税金や上納された作物、それから物資なのどの管理記録。領地内での問題や領民の動きなどをまとめ、宮廷に報告したり、国全体の法律や規律などを話し合って決めたり、いち領内で解決できない問題なども議題に上げて話し合いをしたりしています。それ以外にも、騎士団からの報告を受け、彼らを監督したり領地での問題を解決するように指示を出したりも。領民が罪を犯せばそれを裁きにかけるのも我々の仕事ですので、毎日登城はしなくてもよいのですが、会議のある日は必ず登城する必要があります。辺境伯は役割が違っていて、その土地での防衛を担う大事な役目がありますから、登城するのは大切な会議があるときのみですね」
そこまで一気に話すと、アドニスは息をついた。
「アルメリア、ここまででわからないことはありますか?」
アルメリアは首を振る。
「いいえ、とてもわかりやすい説明ですわ」
アドニスは満足そうに微笑む。
「君がとても聡明だから、こちらも説明が楽で助かりますよ。さて、我々貴族は大きく派閥がわかれていますね?」
「えぇ、教会派と騎士団派。それと中立派ですわね」
その答えを受けて、アドニスは頷き話を続ける。
「教会派閥の貴族たちは教会からなんらかの支援を受けていたりと、教会と癒着していることが多いんですよ。もちろん純粋にチューベローズ教を信仰してるゆえに、教会派に属している場合もあります。それに当然、教会派の貴族は会議のときに教会寄りの発言をすることが多いですね。逆に騎士団派の者は騎士団寄りの発言をします。そのようにして私たち貴族はだいたいどちらかの派閥に所属しています。君のお父上のクンシラン公爵のように中立派の貴族は少ないですね。まぁ、クンシラン公爵はかなりの発言権を持っていらっしゃる方なので、どちらかの派閥に入るわけにはいかないのじゃないかと思いますが。それと一応説明させていただきますと、騎士団派で一番発言権があるのはパウエル侯爵。教会派だとフィルブライト公爵。中立派はクンシラン公爵ですね。ちなみに私の父は騎士団派、そこにいるリカオンの父であるオルブライト子爵は教会派です」
アルメリアは思わず振り向いて、背後に立って話を聞いていたリカオンを見あげた。リカオンはアルメリアと目が合うと微笑む。
20
お気に入りに追加
732
あなたにおすすめの小説

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました
As-me.com
恋愛
完結しました。
とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。
例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。
なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。
ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!
あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。
※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる