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第二十話 初登城 リカオンとの邂逅
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そんなとき、フランチャイズの契約を一件とることができた。
契約を結んでくれたのはウィラー・ディ・ロベール辺境伯だった。最初にウイラー辺境伯から打診の手紙がきたときは、何の接点もない辺境伯がなぜ? と、不思議に思ったものだった。もらった手紙を要約すると
『人伝に話を耳にしました。前向きに検討したいので、是非詳しく話をお聞きしたい』
とのことだった。
すぐに返事を書き自分の屋敷へ丁重に迎え、どこからの紹介か尋ねると、登城した際にアドニスが話していたのを聞いたとのことだった。これだけでもアドニスに接待した甲斐があったというものだ。
こうして契約を結び経済的にも組織的にも安定したところで、やっとアルメリアは相談役を正式に引き受けた。
辞令を受けると、城内にアルメリアの執務室ができたことを伝えるリアムからの手紙が届いた。アルメリアは執務室まで用意されるとは思っておらず驚く。なぜなら、執務室が与えられると言うことは、定期的に登城せよということだからだ。
この世界では女性が政治に関わるなど、あり得ないことだった。過去に女王陛下がいたこともあるにはあったが、それは後継が王女しかおらず仕方なくだったり、その女王がとてつもなく優れた人物だったときのみである。
令嬢に執務室が与えられるなど異例中の異例なことであり、リアムから話があったときは当然肩書きだけだと思っていたこともあって、本当に驚いた。
だが、執務室を与えられたことによって、これからは自由に正々堂々と登城できる。これで怪しまれることなく、色々調べることができるかもしれない。
「爺、この格好でおかしくないかしら?」
相談役としての初登城の日、そう言うアルメリアにペルシックは一礼して答える。
「もちろんでごさいます。そもそもお嬢様が選ぶものに間違いなどございません」
ドレスはなるべく簡素な物を選んだ。髪も下ろさずまとめることにした。と言っても、いつもと殆ど代わり映えのない格好なのだが。
「爺、ありがとう」
ペルシックにお礼を言っているところに、馬車の準備ができたと報告があり、急いで馬車に乗り込む。
今日ここから新たな生活が始まると思うと、期待と不安が入り交じり複雑な気分であった。
城門に着くと、御者が門兵に名前を告げる。まもなく門が開き馬車は門の中へ入った。
馬車のドアが開くとそこにリアムが立って待っていた。
「お待たせしてしまったかしら」
差し出されたリアムの手を取る。
「いいえ。流石ですね、時間ちょうどにお越しになるなんて」
アルメリアは思わず笑ってしまった。
「それは基本ですもの、当然ですわ。こんなことまで褒められると恥ずかしいです」
リアムは優しくそんなアルメリアを見つめる。
「いいえ、私はアルメリアされること全て、その一つ一つに理由があり無駄のないことを知っています。謙遜なさらないで下さい」
「そう言ってくださるなんて、こんなに光栄なことはありませんわ。ありがとうございます。ではよろしくお願い致します」
リアムは頷くと、アルメリアの手を引いて歩き始めた。そのままリアムのエスコートで城内へ入ると、エントランスホールで一人待っている人物がいた。
「この方は?」
聞かれたリアムは、アルメリアに向き直る。
「こちらはリカオン・ラ・オルブライト子爵令息です。これからはアルメリアの世話をしてくれます」
紹介されるとリカオンは一礼した。
「こちらでクンシラン公爵令嬢がお勤めの間、お勤めがスムースに運ぶように精一杯サポートさせていただきますので、ご安心下さい」
リカオンもゲーム内で攻略対象だった。ゲーム内ではリカオンの父親であるティム・ラ・オルブライト子爵が不正を働き地位を剥奪されてしまったため、早々に地位を継いだという設定だった。
そんな経緯があってか、リカオンは一癖ある人物だったと記憶している。アルメリアの周囲に攻略対象者が集まるのは、おそらくアルメリアがライバルの悪役令嬢だということもあるのだろう。
ということはダチュラが社交界デビューすれば、彼らはいつかダチュラに寝返るかもしれなかった。今後はそうなったときのことを考えて行動しようと、身を引き締めた。
そもそも、わざわざアルメリアに『お付きの者』が用意されるということは、アルメリアの監視役をつける目的もあるのだろう。ならば相手に油断させる方が良いに決まっている。リカオンの前では迂闊に考えを口に出さないようにすることにした。
アルメリアは微笑んで返した。
「こちらこそ宜しくお願いしますわ。それにしても凄いですわね、お世話係がつくだなんて」
そう言ってリアムを見上げた。リアムはアルメリアに微笑み返した。
「これぐらい、当然のことです。さぁ、執務室まで案内しましょう。こちらです」
リアムがアルメリアの腰に手を添え歩き始めると、その後ろにリカオンも続いて歩いた。
アルメリアの名前の書かれたプレートのある部屋の前にくるとリアムは立ち止まる。
「ここですの?」
とまどいながらアルメリアがそう言うと、リアムは頷く。
「そうです。この部屋は私の部屋からも近いのですよ」
城内の端の部屋かと思っていたが、他の貴族たちの執務室と並びに部屋が用意されていた。
リカオンが部屋のドアを開ける。
中に入るように促され、入ると奥に天井から床まである大きな窓、その手前に大きな執務机そして応接セットも置いてあった。
そして、机の上に何か置いてあるのが目に入った。それはラッピングされ、可愛らしいピンクのリボンがかけてあった。
アルメリアはリアムの方へ振り向いた。
「もしかしてあれは……」
リアムは満面の笑みになった。
「さぁ、どうぞご覧になって下さい」
すぐさま机に向かうとラッピングを開けた。すると思っていた通り中には、工房で注文した男の子の人形と、女の子の人形が入っていた。
その二体を抱き締めると、改めてリアムに礼を言う。
「リアム、ありがとう。本当に嬉しいですわ!」
契約を結んでくれたのはウィラー・ディ・ロベール辺境伯だった。最初にウイラー辺境伯から打診の手紙がきたときは、何の接点もない辺境伯がなぜ? と、不思議に思ったものだった。もらった手紙を要約すると
『人伝に話を耳にしました。前向きに検討したいので、是非詳しく話をお聞きしたい』
とのことだった。
すぐに返事を書き自分の屋敷へ丁重に迎え、どこからの紹介か尋ねると、登城した際にアドニスが話していたのを聞いたとのことだった。これだけでもアドニスに接待した甲斐があったというものだ。
こうして契約を結び経済的にも組織的にも安定したところで、やっとアルメリアは相談役を正式に引き受けた。
辞令を受けると、城内にアルメリアの執務室ができたことを伝えるリアムからの手紙が届いた。アルメリアは執務室まで用意されるとは思っておらず驚く。なぜなら、執務室が与えられると言うことは、定期的に登城せよということだからだ。
この世界では女性が政治に関わるなど、あり得ないことだった。過去に女王陛下がいたこともあるにはあったが、それは後継が王女しかおらず仕方なくだったり、その女王がとてつもなく優れた人物だったときのみである。
令嬢に執務室が与えられるなど異例中の異例なことであり、リアムから話があったときは当然肩書きだけだと思っていたこともあって、本当に驚いた。
だが、執務室を与えられたことによって、これからは自由に正々堂々と登城できる。これで怪しまれることなく、色々調べることができるかもしれない。
「爺、この格好でおかしくないかしら?」
相談役としての初登城の日、そう言うアルメリアにペルシックは一礼して答える。
「もちろんでごさいます。そもそもお嬢様が選ぶものに間違いなどございません」
ドレスはなるべく簡素な物を選んだ。髪も下ろさずまとめることにした。と言っても、いつもと殆ど代わり映えのない格好なのだが。
「爺、ありがとう」
ペルシックにお礼を言っているところに、馬車の準備ができたと報告があり、急いで馬車に乗り込む。
今日ここから新たな生活が始まると思うと、期待と不安が入り交じり複雑な気分であった。
城門に着くと、御者が門兵に名前を告げる。まもなく門が開き馬車は門の中へ入った。
馬車のドアが開くとそこにリアムが立って待っていた。
「お待たせしてしまったかしら」
差し出されたリアムの手を取る。
「いいえ。流石ですね、時間ちょうどにお越しになるなんて」
アルメリアは思わず笑ってしまった。
「それは基本ですもの、当然ですわ。こんなことまで褒められると恥ずかしいです」
リアムは優しくそんなアルメリアを見つめる。
「いいえ、私はアルメリアされること全て、その一つ一つに理由があり無駄のないことを知っています。謙遜なさらないで下さい」
「そう言ってくださるなんて、こんなに光栄なことはありませんわ。ありがとうございます。ではよろしくお願い致します」
リアムは頷くと、アルメリアの手を引いて歩き始めた。そのままリアムのエスコートで城内へ入ると、エントランスホールで一人待っている人物がいた。
「この方は?」
聞かれたリアムは、アルメリアに向き直る。
「こちらはリカオン・ラ・オルブライト子爵令息です。これからはアルメリアの世話をしてくれます」
紹介されるとリカオンは一礼した。
「こちらでクンシラン公爵令嬢がお勤めの間、お勤めがスムースに運ぶように精一杯サポートさせていただきますので、ご安心下さい」
リカオンもゲーム内で攻略対象だった。ゲーム内ではリカオンの父親であるティム・ラ・オルブライト子爵が不正を働き地位を剥奪されてしまったため、早々に地位を継いだという設定だった。
そんな経緯があってか、リカオンは一癖ある人物だったと記憶している。アルメリアの周囲に攻略対象者が集まるのは、おそらくアルメリアがライバルの悪役令嬢だということもあるのだろう。
ということはダチュラが社交界デビューすれば、彼らはいつかダチュラに寝返るかもしれなかった。今後はそうなったときのことを考えて行動しようと、身を引き締めた。
そもそも、わざわざアルメリアに『お付きの者』が用意されるということは、アルメリアの監視役をつける目的もあるのだろう。ならば相手に油断させる方が良いに決まっている。リカオンの前では迂闊に考えを口に出さないようにすることにした。
アルメリアは微笑んで返した。
「こちらこそ宜しくお願いしますわ。それにしても凄いですわね、お世話係がつくだなんて」
そう言ってリアムを見上げた。リアムはアルメリアに微笑み返した。
「これぐらい、当然のことです。さぁ、執務室まで案内しましょう。こちらです」
リアムがアルメリアの腰に手を添え歩き始めると、その後ろにリカオンも続いて歩いた。
アルメリアの名前の書かれたプレートのある部屋の前にくるとリアムは立ち止まる。
「ここですの?」
とまどいながらアルメリアがそう言うと、リアムは頷く。
「そうです。この部屋は私の部屋からも近いのですよ」
城内の端の部屋かと思っていたが、他の貴族たちの執務室と並びに部屋が用意されていた。
リカオンが部屋のドアを開ける。
中に入るように促され、入ると奥に天井から床まである大きな窓、その手前に大きな執務机そして応接セットも置いてあった。
そして、机の上に何か置いてあるのが目に入った。それはラッピングされ、可愛らしいピンクのリボンがかけてあった。
アルメリアはリアムの方へ振り向いた。
「もしかしてあれは……」
リアムは満面の笑みになった。
「さぁ、どうぞご覧になって下さい」
すぐさま机に向かうとラッピングを開けた。すると思っていた通り中には、工房で注文した男の子の人形と、女の子の人形が入っていた。
その二体を抱き締めると、改めてリアムに礼を言う。
「リアム、ありがとう。本当に嬉しいですわ!」
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