20 / 190
第二十話 初登城 リカオンとの邂逅
しおりを挟む
そんなとき、フランチャイズの契約を一件とることができた。
契約を結んでくれたのはウィラー・ディ・ロベール辺境伯だった。最初にウイラー辺境伯から打診の手紙がきたときは、何の接点もない辺境伯がなぜ? と、不思議に思ったものだった。もらった手紙を要約すると
『人伝に話を耳にしました。前向きに検討したいので、是非詳しく話をお聞きしたい』
とのことだった。
すぐに返事を書き自分の屋敷へ丁重に迎え、どこからの紹介か尋ねると、登城した際にアドニスが話していたのを聞いたとのことだった。これだけでもアドニスに接待した甲斐があったというものだ。
こうして契約を結び経済的にも組織的にも安定したところで、やっとアルメリアは相談役を正式に引き受けた。
辞令を受けると、城内にアルメリアの執務室ができたことを伝えるリアムからの手紙が届いた。アルメリアは執務室まで用意されるとは思っておらず驚く。なぜなら、執務室が与えられると言うことは、定期的に登城せよということだからだ。
この世界では女性が政治に関わるなど、あり得ないことだった。過去に女王陛下がいたこともあるにはあったが、それは後継が王女しかおらず仕方なくだったり、その女王がとてつもなく優れた人物だったときのみである。
令嬢に執務室が与えられるなど異例中の異例なことであり、リアムから話があったときは当然肩書きだけだと思っていたこともあって、本当に驚いた。
だが、執務室を与えられたことによって、これからは自由に正々堂々と登城できる。これで怪しまれることなく、色々調べることができるかもしれない。
「爺、この格好でおかしくないかしら?」
相談役としての初登城の日、そう言うアルメリアにペルシックは一礼して答える。
「もちろんでごさいます。そもそもお嬢様が選ぶものに間違いなどございません」
ドレスはなるべく簡素な物を選んだ。髪も下ろさずまとめることにした。と言っても、いつもと殆ど代わり映えのない格好なのだが。
「爺、ありがとう」
ペルシックにお礼を言っているところに、馬車の準備ができたと報告があり、急いで馬車に乗り込む。
今日ここから新たな生活が始まると思うと、期待と不安が入り交じり複雑な気分であった。
城門に着くと、御者が門兵に名前を告げる。まもなく門が開き馬車は門の中へ入った。
馬車のドアが開くとそこにリアムが立って待っていた。
「お待たせしてしまったかしら」
差し出されたリアムの手を取る。
「いいえ。流石ですね、時間ちょうどにお越しになるなんて」
アルメリアは思わず笑ってしまった。
「それは基本ですもの、当然ですわ。こんなことまで褒められると恥ずかしいです」
リアムは優しくそんなアルメリアを見つめる。
「いいえ、私はアルメリアされること全て、その一つ一つに理由があり無駄のないことを知っています。謙遜なさらないで下さい」
「そう言ってくださるなんて、こんなに光栄なことはありませんわ。ありがとうございます。ではよろしくお願い致します」
リアムは頷くと、アルメリアの手を引いて歩き始めた。そのままリアムのエスコートで城内へ入ると、エントランスホールで一人待っている人物がいた。
「この方は?」
聞かれたリアムは、アルメリアに向き直る。
「こちらはリカオン・ラ・オルブライト子爵令息です。これからはアルメリアの世話をしてくれます」
紹介されるとリカオンは一礼した。
「こちらでクンシラン公爵令嬢がお勤めの間、お勤めがスムースに運ぶように精一杯サポートさせていただきますので、ご安心下さい」
リカオンもゲーム内で攻略対象だった。ゲーム内ではリカオンの父親であるティム・ラ・オルブライト子爵が不正を働き地位を剥奪されてしまったため、早々に地位を継いだという設定だった。
そんな経緯があってか、リカオンは一癖ある人物だったと記憶している。アルメリアの周囲に攻略対象者が集まるのは、おそらくアルメリアがライバルの悪役令嬢だということもあるのだろう。
ということはダチュラが社交界デビューすれば、彼らはいつかダチュラに寝返るかもしれなかった。今後はそうなったときのことを考えて行動しようと、身を引き締めた。
そもそも、わざわざアルメリアに『お付きの者』が用意されるということは、アルメリアの監視役をつける目的もあるのだろう。ならば相手に油断させる方が良いに決まっている。リカオンの前では迂闊に考えを口に出さないようにすることにした。
アルメリアは微笑んで返した。
「こちらこそ宜しくお願いしますわ。それにしても凄いですわね、お世話係がつくだなんて」
そう言ってリアムを見上げた。リアムはアルメリアに微笑み返した。
「これぐらい、当然のことです。さぁ、執務室まで案内しましょう。こちらです」
リアムがアルメリアの腰に手を添え歩き始めると、その後ろにリカオンも続いて歩いた。
アルメリアの名前の書かれたプレートのある部屋の前にくるとリアムは立ち止まる。
「ここですの?」
とまどいながらアルメリアがそう言うと、リアムは頷く。
「そうです。この部屋は私の部屋からも近いのですよ」
城内の端の部屋かと思っていたが、他の貴族たちの執務室と並びに部屋が用意されていた。
リカオンが部屋のドアを開ける。
中に入るように促され、入ると奥に天井から床まである大きな窓、その手前に大きな執務机そして応接セットも置いてあった。
そして、机の上に何か置いてあるのが目に入った。それはラッピングされ、可愛らしいピンクのリボンがかけてあった。
アルメリアはリアムの方へ振り向いた。
「もしかしてあれは……」
リアムは満面の笑みになった。
「さぁ、どうぞご覧になって下さい」
すぐさま机に向かうとラッピングを開けた。すると思っていた通り中には、工房で注文した男の子の人形と、女の子の人形が入っていた。
その二体を抱き締めると、改めてリアムに礼を言う。
「リアム、ありがとう。本当に嬉しいですわ!」
契約を結んでくれたのはウィラー・ディ・ロベール辺境伯だった。最初にウイラー辺境伯から打診の手紙がきたときは、何の接点もない辺境伯がなぜ? と、不思議に思ったものだった。もらった手紙を要約すると
『人伝に話を耳にしました。前向きに検討したいので、是非詳しく話をお聞きしたい』
とのことだった。
すぐに返事を書き自分の屋敷へ丁重に迎え、どこからの紹介か尋ねると、登城した際にアドニスが話していたのを聞いたとのことだった。これだけでもアドニスに接待した甲斐があったというものだ。
こうして契約を結び経済的にも組織的にも安定したところで、やっとアルメリアは相談役を正式に引き受けた。
辞令を受けると、城内にアルメリアの執務室ができたことを伝えるリアムからの手紙が届いた。アルメリアは執務室まで用意されるとは思っておらず驚く。なぜなら、執務室が与えられると言うことは、定期的に登城せよということだからだ。
この世界では女性が政治に関わるなど、あり得ないことだった。過去に女王陛下がいたこともあるにはあったが、それは後継が王女しかおらず仕方なくだったり、その女王がとてつもなく優れた人物だったときのみである。
令嬢に執務室が与えられるなど異例中の異例なことであり、リアムから話があったときは当然肩書きだけだと思っていたこともあって、本当に驚いた。
だが、執務室を与えられたことによって、これからは自由に正々堂々と登城できる。これで怪しまれることなく、色々調べることができるかもしれない。
「爺、この格好でおかしくないかしら?」
相談役としての初登城の日、そう言うアルメリアにペルシックは一礼して答える。
「もちろんでごさいます。そもそもお嬢様が選ぶものに間違いなどございません」
ドレスはなるべく簡素な物を選んだ。髪も下ろさずまとめることにした。と言っても、いつもと殆ど代わり映えのない格好なのだが。
「爺、ありがとう」
ペルシックにお礼を言っているところに、馬車の準備ができたと報告があり、急いで馬車に乗り込む。
今日ここから新たな生活が始まると思うと、期待と不安が入り交じり複雑な気分であった。
城門に着くと、御者が門兵に名前を告げる。まもなく門が開き馬車は門の中へ入った。
馬車のドアが開くとそこにリアムが立って待っていた。
「お待たせしてしまったかしら」
差し出されたリアムの手を取る。
「いいえ。流石ですね、時間ちょうどにお越しになるなんて」
アルメリアは思わず笑ってしまった。
「それは基本ですもの、当然ですわ。こんなことまで褒められると恥ずかしいです」
リアムは優しくそんなアルメリアを見つめる。
「いいえ、私はアルメリアされること全て、その一つ一つに理由があり無駄のないことを知っています。謙遜なさらないで下さい」
「そう言ってくださるなんて、こんなに光栄なことはありませんわ。ありがとうございます。ではよろしくお願い致します」
リアムは頷くと、アルメリアの手を引いて歩き始めた。そのままリアムのエスコートで城内へ入ると、エントランスホールで一人待っている人物がいた。
「この方は?」
聞かれたリアムは、アルメリアに向き直る。
「こちらはリカオン・ラ・オルブライト子爵令息です。これからはアルメリアの世話をしてくれます」
紹介されるとリカオンは一礼した。
「こちらでクンシラン公爵令嬢がお勤めの間、お勤めがスムースに運ぶように精一杯サポートさせていただきますので、ご安心下さい」
リカオンもゲーム内で攻略対象だった。ゲーム内ではリカオンの父親であるティム・ラ・オルブライト子爵が不正を働き地位を剥奪されてしまったため、早々に地位を継いだという設定だった。
そんな経緯があってか、リカオンは一癖ある人物だったと記憶している。アルメリアの周囲に攻略対象者が集まるのは、おそらくアルメリアがライバルの悪役令嬢だということもあるのだろう。
ということはダチュラが社交界デビューすれば、彼らはいつかダチュラに寝返るかもしれなかった。今後はそうなったときのことを考えて行動しようと、身を引き締めた。
そもそも、わざわざアルメリアに『お付きの者』が用意されるということは、アルメリアの監視役をつける目的もあるのだろう。ならば相手に油断させる方が良いに決まっている。リカオンの前では迂闊に考えを口に出さないようにすることにした。
アルメリアは微笑んで返した。
「こちらこそ宜しくお願いしますわ。それにしても凄いですわね、お世話係がつくだなんて」
そう言ってリアムを見上げた。リアムはアルメリアに微笑み返した。
「これぐらい、当然のことです。さぁ、執務室まで案内しましょう。こちらです」
リアムがアルメリアの腰に手を添え歩き始めると、その後ろにリカオンも続いて歩いた。
アルメリアの名前の書かれたプレートのある部屋の前にくるとリアムは立ち止まる。
「ここですの?」
とまどいながらアルメリアがそう言うと、リアムは頷く。
「そうです。この部屋は私の部屋からも近いのですよ」
城内の端の部屋かと思っていたが、他の貴族たちの執務室と並びに部屋が用意されていた。
リカオンが部屋のドアを開ける。
中に入るように促され、入ると奥に天井から床まである大きな窓、その手前に大きな執務机そして応接セットも置いてあった。
そして、机の上に何か置いてあるのが目に入った。それはラッピングされ、可愛らしいピンクのリボンがかけてあった。
アルメリアはリアムの方へ振り向いた。
「もしかしてあれは……」
リアムは満面の笑みになった。
「さぁ、どうぞご覧になって下さい」
すぐさま机に向かうとラッピングを開けた。すると思っていた通り中には、工房で注文した男の子の人形と、女の子の人形が入っていた。
その二体を抱き締めると、改めてリアムに礼を言う。
「リアム、ありがとう。本当に嬉しいですわ!」
12
お気に入りに追加
714
あなたにおすすめの小説
婚約者にフラれたので、復讐しようと思います
紗夏
恋愛
御園咲良28才
同期の彼氏と結婚まであと3か月――
幸せだと思っていたのに、ある日突然、私の幸せは音を立てて崩れた
婚約者の宮本透にフラれたのだ、それも完膚なきまでに
同じオフィスの後輩に寝取られた挙句、デキ婚なんて絶対許さない
これから、彼とあの女に復讐してやろうと思います
けれど…復讐ってどうやればいいんだろう
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?
曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」
エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。
最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。
(王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様)
しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……?
小説家になろう様でも更新中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる