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第十七話 スパルタカスの勘違い
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スパルタカスの元に、パウエル領騎士団の相談役としてアルメリアが就任するとの報告があったのは、スパルタカスが自分の執務室に入り席についたときだった。
その報告を受けると、スパルタカスは公私混同にも程があるとリアムに呆れた。
それにアルメリアにしても、自分の領地内で好き勝手にやるのと、騎士団で働くのでは大分勝手が違うのに、安易に引き受けるなど我々騎士団の仕事を侮辱していると感じた。
騎士団の仕事はおままごとではない。誇りとプライドをもち、国に忠誠を誓う神聖な職業である。
リアムは何を考えて、あんな幼子に相談役をさせるのか。
自分が好きな女性を側に置きたくて、このようなことをやっているのだとしたらとんでもないことだ。
アルメリアが赤っ恥をかく前に、本人自ら相談役の辞退を申し出るよう進言しなければならない。そう考え、直ぐにアルメリアの元を訪れることにした。
スパルタカスがクンシラン家に着くと、突然の訪問にも関わらず、すぐにアルメリアの執務室へ通された。執務室に通されると、アルメリアは書類にサインをしているところだった。
「クンシラン公爵令嬢、お忙しいところ申し訳ない。それに急に訪ねたにもかかわらずお時間をとっていただいて、本当にありがとうございます」
忙しいというのはポーズだけで実は暇なのでは? そんな勘繰りをしながら、笑顔を作った。アルメリアも笑顔で答える。
「いいえ、逆にこんなに急に城内統括である貴男がこちらまでこられると言うことには、それ相応の理由があるのでしょう? こういった状況のときは、すぐにでも用件を聞いてしまった方が、状況が良い方向へ転ぶことが多いんですの。それで、今日はどう言ったご用件でしょうか?」
そう言うと、はっとなにかに気づいたように言った。
「立ったままではいけませんわ、そこに座って楽になさって下さい。さぁ、どうぞ」
すると、スパルタカスの背後に立っていた執事が執務机の前にセッティングされているソファへ座るよう促した。
アルメリアの落ち着き払ったその態度や雰囲気が初めて会ったときと全く違っていることに、少し戸惑いながらも促されるままソファに座った。
アルメリアもスパルタカスの正面に座ると、タイミング良くお茶と茶菓子が供された。
笑顔でお茶をすすめられ、申し訳程度にお茶をひとくちだけ口に含むと、すぐに本題を切り出した。
「今日、貴女がパウエル領騎士団の相談役を引き受けたと報告がありました。そこで失礼を承知で申し上げたい。騎士団の仕事は遊びではありません。ご自身の領地内では自由に色々なことができるでしょう。周囲からの手厚いサポートもあり、物事もスムーズにいったかもしれません。しかし騎士団と言うものは、貴女が思うほど簡単なものではないのですよ。誰のサポートも受けられませんしね。それにリアムは貴女のことを大変気に入っているようだ。それは恋愛的な感情を含んでいるものです。だから貴女をそばに置きたくて相談役に貴女を選んだ。これは思考が鈍っての判断だったのでしょう。そこで、貴女の方から辞退を申し出て欲しいのです。貴女から辞退していただければ、リアムも貴女も恥をかかなくてすみます。私もリアムの上司として大変申し訳ないと思っております。今日は恥を忍んでお願いしに上がりました。聡明な貴女なら、どう判断した方が良いかおわかりでしょう?」
スパルタカスは一気に話すと、お茶をひとくち飲んだ。アルメリアが途中でヒステリックに怒りだすだろうと想定していたが、表情も崩さず黙って最後までじっと聞いていたのは予想外だった。
そして、アルメリアはしばらく考えると、笑顔のまま静かにゆっくり口を開いた。
「おっしゃりたいことはわかりました。一つ質問させていただいてもよろしいでしょうか?」
スパルタカスは頷くと、とても冷静なアルメリアの反応を見て、何を質問されるのかと構えた。
「リアムは貴方から見て、そんなに信用に価しない部下なのですか?」
笑顔で言っているが、低くゆっくりと圧をかけるように言われ、スパルタカスは気圧されながら答える。
「いいえ、決してそのような訳ではありません。騎士団の不正を正し、その名誉を守る。正義感の強い信用に足る優秀な部下です。しかし恋は盲目と申しますように、人は恋をすると判断を間違えてしまうものなのです」
一瞬の間をおいてアルメリアは苦笑した。
「わかりました。貴方の部下は恋をするとそれを仕事に持ち込むような者たちばかりなのですね? それは理解しました。では、それを前提として話を進めましょう。もしも自分の部下が過ちを犯していると気づいたなら、それを本人に直接注意して諌め正すのは、上司である貴方の役割のはずではないのですか? ですが貴方はその役を放棄している。その上、部下でもなんでもない私のところへ来た。それは貴方が私に今回の問題の原因があると判断し、それをわからせるため。違いますか?」
思わぬ反撃にスパルタカスは怯んだ。
「いえ、決してそのような訳ではなく、貴女から辞退していただいた方が丸く収まると思ったからであって、貴女に原因があると思ったわけでは……」
アルメリアは大きくため息をついた。
「そもそも、貴方が私が相談役を務めるのに不適合だと判断した材料はなんですの? 十分にお調べになっての判断ですわよね?」
スパルタカスは自分の行動が迂闊な行動であったことに、このときになってやっと気がついた。
にもかかわらず、アルメリアはそれ以上スパルタカスを問い詰めたりすることはなかった。
「今おっしゃっていたことは、私聞かなかったことにしますわ。それと、そんなに私が信用ならないなら、我が領地を視察されて私がどのような人物なのか、ご自身の目で確認されてはいかがでしょうか? 最高のもてなしと案内を約束させていただきますわ」
思いもよらぬ提案に驚いていると、アルメリアはスパルタカスの後ろに向かって目配せをした。しばらくするとドアがノックされ、執事が誰かを部屋へ招き入れた。
「お呼びでしょうか?」
スパルタカスが振り向くと中年の男性がそこに立っていた。
その報告を受けると、スパルタカスは公私混同にも程があるとリアムに呆れた。
それにアルメリアにしても、自分の領地内で好き勝手にやるのと、騎士団で働くのでは大分勝手が違うのに、安易に引き受けるなど我々騎士団の仕事を侮辱していると感じた。
騎士団の仕事はおままごとではない。誇りとプライドをもち、国に忠誠を誓う神聖な職業である。
リアムは何を考えて、あんな幼子に相談役をさせるのか。
自分が好きな女性を側に置きたくて、このようなことをやっているのだとしたらとんでもないことだ。
アルメリアが赤っ恥をかく前に、本人自ら相談役の辞退を申し出るよう進言しなければならない。そう考え、直ぐにアルメリアの元を訪れることにした。
スパルタカスがクンシラン家に着くと、突然の訪問にも関わらず、すぐにアルメリアの執務室へ通された。執務室に通されると、アルメリアは書類にサインをしているところだった。
「クンシラン公爵令嬢、お忙しいところ申し訳ない。それに急に訪ねたにもかかわらずお時間をとっていただいて、本当にありがとうございます」
忙しいというのはポーズだけで実は暇なのでは? そんな勘繰りをしながら、笑顔を作った。アルメリアも笑顔で答える。
「いいえ、逆にこんなに急に城内統括である貴男がこちらまでこられると言うことには、それ相応の理由があるのでしょう? こういった状況のときは、すぐにでも用件を聞いてしまった方が、状況が良い方向へ転ぶことが多いんですの。それで、今日はどう言ったご用件でしょうか?」
そう言うと、はっとなにかに気づいたように言った。
「立ったままではいけませんわ、そこに座って楽になさって下さい。さぁ、どうぞ」
すると、スパルタカスの背後に立っていた執事が執務机の前にセッティングされているソファへ座るよう促した。
アルメリアの落ち着き払ったその態度や雰囲気が初めて会ったときと全く違っていることに、少し戸惑いながらも促されるままソファに座った。
アルメリアもスパルタカスの正面に座ると、タイミング良くお茶と茶菓子が供された。
笑顔でお茶をすすめられ、申し訳程度にお茶をひとくちだけ口に含むと、すぐに本題を切り出した。
「今日、貴女がパウエル領騎士団の相談役を引き受けたと報告がありました。そこで失礼を承知で申し上げたい。騎士団の仕事は遊びではありません。ご自身の領地内では自由に色々なことができるでしょう。周囲からの手厚いサポートもあり、物事もスムーズにいったかもしれません。しかし騎士団と言うものは、貴女が思うほど簡単なものではないのですよ。誰のサポートも受けられませんしね。それにリアムは貴女のことを大変気に入っているようだ。それは恋愛的な感情を含んでいるものです。だから貴女をそばに置きたくて相談役に貴女を選んだ。これは思考が鈍っての判断だったのでしょう。そこで、貴女の方から辞退を申し出て欲しいのです。貴女から辞退していただければ、リアムも貴女も恥をかかなくてすみます。私もリアムの上司として大変申し訳ないと思っております。今日は恥を忍んでお願いしに上がりました。聡明な貴女なら、どう判断した方が良いかおわかりでしょう?」
スパルタカスは一気に話すと、お茶をひとくち飲んだ。アルメリアが途中でヒステリックに怒りだすだろうと想定していたが、表情も崩さず黙って最後までじっと聞いていたのは予想外だった。
そして、アルメリアはしばらく考えると、笑顔のまま静かにゆっくり口を開いた。
「おっしゃりたいことはわかりました。一つ質問させていただいてもよろしいでしょうか?」
スパルタカスは頷くと、とても冷静なアルメリアの反応を見て、何を質問されるのかと構えた。
「リアムは貴方から見て、そんなに信用に価しない部下なのですか?」
笑顔で言っているが、低くゆっくりと圧をかけるように言われ、スパルタカスは気圧されながら答える。
「いいえ、決してそのような訳ではありません。騎士団の不正を正し、その名誉を守る。正義感の強い信用に足る優秀な部下です。しかし恋は盲目と申しますように、人は恋をすると判断を間違えてしまうものなのです」
一瞬の間をおいてアルメリアは苦笑した。
「わかりました。貴方の部下は恋をするとそれを仕事に持ち込むような者たちばかりなのですね? それは理解しました。では、それを前提として話を進めましょう。もしも自分の部下が過ちを犯していると気づいたなら、それを本人に直接注意して諌め正すのは、上司である貴方の役割のはずではないのですか? ですが貴方はその役を放棄している。その上、部下でもなんでもない私のところへ来た。それは貴方が私に今回の問題の原因があると判断し、それをわからせるため。違いますか?」
思わぬ反撃にスパルタカスは怯んだ。
「いえ、決してそのような訳ではなく、貴女から辞退していただいた方が丸く収まると思ったからであって、貴女に原因があると思ったわけでは……」
アルメリアは大きくため息をついた。
「そもそも、貴方が私が相談役を務めるのに不適合だと判断した材料はなんですの? 十分にお調べになっての判断ですわよね?」
スパルタカスは自分の行動が迂闊な行動であったことに、このときになってやっと気がついた。
にもかかわらず、アルメリアはそれ以上スパルタカスを問い詰めたりすることはなかった。
「今おっしゃっていたことは、私聞かなかったことにしますわ。それと、そんなに私が信用ならないなら、我が領地を視察されて私がどのような人物なのか、ご自身の目で確認されてはいかがでしょうか? 最高のもてなしと案内を約束させていただきますわ」
思いもよらぬ提案に驚いていると、アルメリアはスパルタカスの後ろに向かって目配せをした。しばらくするとドアがノックされ、執事が誰かを部屋へ招き入れた。
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