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第十二話 リアムとの邂逅
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「リアム、君も彼女に会えば彼女の素晴らしさがわかるだろう。凛としていて芯があって、それでいて優しく領民を見守るあの眼差しは聖母のようだった。それにあの領地の技術力は目を見張るものがある。そのほとんどが彼女の立案によって開発されたものなんだ。それに私は彼女の屋敷で、本当に素晴らしい数日間を過ご過ごすことができたよ。あれは私の人生を変えたと言っても過言ではないな」
そう話すアドニスを横目に、親友のリアム・ディ・パウエル侯爵令息はため息をついた。
「お前またその話か、もう何度も聞いたさ。お前は以前から彼女に興味を持っていたようだが、ついにその令嬢にすっかり骨抜きにされてしまったのだな。情けない」
するとアドニスは苦笑した。
「君は彼女に会ったことがないからわからないのだろう。私たちより四つも年下なのに、信じられないぐらい達観した考え方をする令嬢なんだ。君も会えばわかるさ」
リアムは大袈裟に肩をすくめる。
「はいはい、もうわかりました。とにかく実際に会ったことがない今は、なんとも言えないね」
そう言うと鼻で笑った。
クンシラン公爵令嬢は、いったいどんな手練手管を使ってこの堅物を落としたのだろうか? これだけ骨抜きにしてしまうのだから、とんでもない悪女に違いない。近いうちに会って、友人のためにもその令嬢にひと言もの申さねば。リアムは、陶酔しきっているアドニスを見てそう思った。
しかしその機会は待たずして訪れた。クンシラン公爵令嬢の方から、すぐにでも会って話したいことがあると使者をよこしてきたのだ。
アドニスだけでは飽き足らず、自分にもちょっかいをかけてくるつもりなのだろう。だがこれは良い機会だ。そう思いながら、クンシラン公爵令嬢が来たら、すぐに執務室へ通すように使用人に指示を出した。
馬車でパウエル領へ向かう途中、アルメリアは酷く憤っていた。その原因となった報告は、アルメリアがいつも日課にしている領地の見回りから帰ったところでもたらされた。
時間に追われているアルメリアは、見回りから戻ると屋敷のエントランスで素早く帽子をとり、それを無言でペルシックに渡し、慌ただしく外套を脱ぐ。ペルシックは受け取った帽子を片手で持ち、アルメリアが外套を脱ぐのを手伝いながらゆっくりと低い声で言った。
「お嬢様、問題が発生致しました」
思わずアルメリアは動きを止めてペルシックを見つめる。
ペルシックはあまり慌てることのない人物で、大概の問題は対処してから報告してくる。
そんな彼が『問題が発生した』と報告してきたのだからただ事ではなさそうだった。アルメリアは胸騒ぎを覚える。
「爺、なんですの?」
「先頃パウエル領のセコーニ村へ送り出した医療班が、パウエル領で自警団に濡れ衣を着せられ、騎士団にとらわれてしまったようなのです」
アルメリアは一瞬頭の中が真っ白になった。
先日セコーニ村で流行り病が発生しているようだと外領情報部から報告があがったとき、アルメリアは迷うことなくパウエル侯爵のところへ特使を送り、治療の手助けをしたいと申し出た。そうしてパウエル侯爵から許可をもらうと、直ちに医療班を送った。
流行り病は放っておくと、あっという間に感染が拡大してしまう。そうなってから対策したのでは、治療費も被害も甚大になる。
隣の領地でのことであっても、感染が拡大すれば決して他人事ではない。一つの集落内で感染が流行っている間になんとかせねばならなかった。
現状一刻も猶予がない。なのに、手助けをしようとしている医療班を捕らえ、貶めるような行為をするなんて、パウエル領の体制は一体どうなっているのか? アルメリアは信じられないという気持ちでいっぱいだった。
「ではうちの弁護班を招集して現地に送る必要がありますわね」
ペルシックは首を振った。
「実は、何故このような事態になったか調べましたところ、自警団とパウエル領イキシア騎士団の兵士が手を組んで旅人に濡れ衣を着せ、捕らえているようなのです」
アルメリアは、驚いて目を見開いた。正直、騎士団が領民を弾圧し、不正を働くことは珍しいことではなかった。だが、領民の有志で成り立っている自警団が騎士団と手を組むとは、信じられないことだった。
「もちろんそれは、パウエル侯爵の預かり知らぬところで起きているのよね? とにかくすぐにでも卿にその事を伝えてちょうだい」
そうアルメリアがペルシックに言うと、ペルシックはじっとアルメリアを見つめ返す。そのときアルメリアは、ペルシックの瞳に怒りの感情を見てとり、それを彼が必死に抑えていることに気づいた。
「お嬢様、パウエル侯爵にはすでに伝えております。ところが少々厄介なことになっているのです。医療班を捕らえたのはパウエル侯爵令息の部下なのです。お手を煩わせて申し訳ありませんが、お嬢様が直接、パウエル侯爵令息のところへおいでになった方がよろしいかと」
アルメリアは理解した。パウエル侯爵は全てのことを公にしたくないのだろう。イキシア騎士団の参謀を務めているパウエル侯爵がそうと決めたのなら、アルメリアの医療班はチームごとなかったことにされるかもしれない。
脱ぎ始めていた外套を再び着ると、ペルシックから帽子を受け取る。
「爺のことだから、もうパウエル侯爵令息に面会の使いは出しているのよね? その令息の部下とやらの悪行の証拠も、もうそろっているのでしょう? 行きの馬車の中で目を通すからその証拠を見せてちょうだい」
アルメリアがそう言うと、ペルシックは無言で書類を差し出した。それを受け取ると、アルメリアはすでに用意されている馬車に素早く乗りこむ。
馬車の中でペルシックに渡された書類に目を通し、憤りを抑えながらどう対応するか考える。そうしている間に、馬車はパウエル家に到着したようだった。
パウエル侯爵家に着くと、何も言わなくとも令息の執務室に案内された。部屋に入るとリアムが笑顔で迎えた。
「ようこそ、君の噂はかねがねアドニスから聞いているよ。君は欲張りだね、私のところにも訪ねて来るなんて。彼だけでは不足だったのかな? でも私はそう簡単に君に服従したりはしないよ?」
そう言うと彼は、アルメリアを憐憫の眼差しで見つめた。
そう話すアドニスを横目に、親友のリアム・ディ・パウエル侯爵令息はため息をついた。
「お前またその話か、もう何度も聞いたさ。お前は以前から彼女に興味を持っていたようだが、ついにその令嬢にすっかり骨抜きにされてしまったのだな。情けない」
するとアドニスは苦笑した。
「君は彼女に会ったことがないからわからないのだろう。私たちより四つも年下なのに、信じられないぐらい達観した考え方をする令嬢なんだ。君も会えばわかるさ」
リアムは大袈裟に肩をすくめる。
「はいはい、もうわかりました。とにかく実際に会ったことがない今は、なんとも言えないね」
そう言うと鼻で笑った。
クンシラン公爵令嬢は、いったいどんな手練手管を使ってこの堅物を落としたのだろうか? これだけ骨抜きにしてしまうのだから、とんでもない悪女に違いない。近いうちに会って、友人のためにもその令嬢にひと言もの申さねば。リアムは、陶酔しきっているアドニスを見てそう思った。
しかしその機会は待たずして訪れた。クンシラン公爵令嬢の方から、すぐにでも会って話したいことがあると使者をよこしてきたのだ。
アドニスだけでは飽き足らず、自分にもちょっかいをかけてくるつもりなのだろう。だがこれは良い機会だ。そう思いながら、クンシラン公爵令嬢が来たら、すぐに執務室へ通すように使用人に指示を出した。
馬車でパウエル領へ向かう途中、アルメリアは酷く憤っていた。その原因となった報告は、アルメリアがいつも日課にしている領地の見回りから帰ったところでもたらされた。
時間に追われているアルメリアは、見回りから戻ると屋敷のエントランスで素早く帽子をとり、それを無言でペルシックに渡し、慌ただしく外套を脱ぐ。ペルシックは受け取った帽子を片手で持ち、アルメリアが外套を脱ぐのを手伝いながらゆっくりと低い声で言った。
「お嬢様、問題が発生致しました」
思わずアルメリアは動きを止めてペルシックを見つめる。
ペルシックはあまり慌てることのない人物で、大概の問題は対処してから報告してくる。
そんな彼が『問題が発生した』と報告してきたのだからただ事ではなさそうだった。アルメリアは胸騒ぎを覚える。
「爺、なんですの?」
「先頃パウエル領のセコーニ村へ送り出した医療班が、パウエル領で自警団に濡れ衣を着せられ、騎士団にとらわれてしまったようなのです」
アルメリアは一瞬頭の中が真っ白になった。
先日セコーニ村で流行り病が発生しているようだと外領情報部から報告があがったとき、アルメリアは迷うことなくパウエル侯爵のところへ特使を送り、治療の手助けをしたいと申し出た。そうしてパウエル侯爵から許可をもらうと、直ちに医療班を送った。
流行り病は放っておくと、あっという間に感染が拡大してしまう。そうなってから対策したのでは、治療費も被害も甚大になる。
隣の領地でのことであっても、感染が拡大すれば決して他人事ではない。一つの集落内で感染が流行っている間になんとかせねばならなかった。
現状一刻も猶予がない。なのに、手助けをしようとしている医療班を捕らえ、貶めるような行為をするなんて、パウエル領の体制は一体どうなっているのか? アルメリアは信じられないという気持ちでいっぱいだった。
「ではうちの弁護班を招集して現地に送る必要がありますわね」
ペルシックは首を振った。
「実は、何故このような事態になったか調べましたところ、自警団とパウエル領イキシア騎士団の兵士が手を組んで旅人に濡れ衣を着せ、捕らえているようなのです」
アルメリアは、驚いて目を見開いた。正直、騎士団が領民を弾圧し、不正を働くことは珍しいことではなかった。だが、領民の有志で成り立っている自警団が騎士団と手を組むとは、信じられないことだった。
「もちろんそれは、パウエル侯爵の預かり知らぬところで起きているのよね? とにかくすぐにでも卿にその事を伝えてちょうだい」
そうアルメリアがペルシックに言うと、ペルシックはじっとアルメリアを見つめ返す。そのときアルメリアは、ペルシックの瞳に怒りの感情を見てとり、それを彼が必死に抑えていることに気づいた。
「お嬢様、パウエル侯爵にはすでに伝えております。ところが少々厄介なことになっているのです。医療班を捕らえたのはパウエル侯爵令息の部下なのです。お手を煩わせて申し訳ありませんが、お嬢様が直接、パウエル侯爵令息のところへおいでになった方がよろしいかと」
アルメリアは理解した。パウエル侯爵は全てのことを公にしたくないのだろう。イキシア騎士団の参謀を務めているパウエル侯爵がそうと決めたのなら、アルメリアの医療班はチームごとなかったことにされるかもしれない。
脱ぎ始めていた外套を再び着ると、ペルシックから帽子を受け取る。
「爺のことだから、もうパウエル侯爵令息に面会の使いは出しているのよね? その令息の部下とやらの悪行の証拠も、もうそろっているのでしょう? 行きの馬車の中で目を通すからその証拠を見せてちょうだい」
アルメリアがそう言うと、ペルシックは無言で書類を差し出した。それを受け取ると、アルメリアはすでに用意されている馬車に素早く乗りこむ。
馬車の中でペルシックに渡された書類に目を通し、憤りを抑えながらどう対応するか考える。そうしている間に、馬車はパウエル家に到着したようだった。
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「ようこそ、君の噂はかねがねアドニスから聞いているよ。君は欲張りだね、私のところにも訪ねて来るなんて。彼だけでは不足だったのかな? でも私はそう簡単に君に服従したりはしないよ?」
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