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第九話 フランチャイズ
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おそらく、アジュガの病の原因は鉛中毒であろう。
「お母様、すぐにでもそのカップでワインを飲むのをお止めになってください。鉛で食事をすると食べ物に鉛が溶け込み、それを摂取し続けることで鉛中毒となるのです。ずっと鉛を摂取していれば、人格にまで影響を及ぼし最終的には死に至ってしまいますわ」
「アルメリア、それは本当なのか?」
普段とても穏やかなグレンに強い口調で言われ、アルメリアは驚きながらも頷く。
前世の歴史でローマの皇帝で何人か人格に問題があり、滅亡へ導いた原因は鉛中毒だったからではないか? という学説があったのを思い出しながら答えた。
「はい、お父様。間違いないと思いますわ。彼の地の大国はそれで滅んだのではないでしょうか」
鉛のグラスがあるということは、この世界でもそういうことがあったのだろうとアルメリアは判断してそう答えた。
「アジュガ、アルメリアがそう断言するのだから間違いないのだろう。残念だが、すぐにでもそのカップは下げてもらおう。カップは飾って目で楽しめばお祖父様だって怒りはしないだろう」
指示に従いメイドはアジュガのワイングラスをさげた。
「お父様、私を信じてくださってありがとうございます」
ほっとしながら、自分を信じてくれるグレンに感謝した。治療薬のないこの世界で完全回復まではいかなくても、摂取を辞めればいくらか症状も収まるはずである。
「お父様、それとあわせて体にたまった鉛を排出するために、それらを排出するのを促す食品を多めに食べた方が良いですわ」
気休めでもデトックス効果を狙って、硫黄や亜鉛を含む食品を多く摂取すれば少しは効果があるかも知れなかった。
硫黄を多く含むのは確か魚類や肉類、亜鉛はカシューナッツや牡蠣牛ロースだったはずだ。
「アルメリア、お前にはそれがどんな食べ物なのかわかるのか?」
グレンは驚いた様子で、アルメリアの顔をじっと見つめた。アルメリアは、今目をそらしたら信じてもらえないと思い、グレンを見つめ返して答えた。
「はい、船乗り病を調べたときにそんなことが書いてある本を読みました」
大嘘だったが、グレンは信じたようで感心していた。亜鉛はアルコールを分解するのにも必要で、前世で大酒飲みだったアルメリアは意図して食べるようにしていたので、覚えていたのが役に立った。
「特に多く含まれているものを、料理人に伝えますわ。でも、ここでは手に入りにくい食材もありますの。できればなんでも食材が手に入る港町で療養された方が良いかもしれませんわね」
それを受けてグレンは戸惑った様子になった。
「アルメリア、お前にはやることがあるのだろう?」
アルメリアが頷くとグレンは話を続ける。
「もしも港町に私たちが療養に行ってしまったら、またお前と離ればなれになってしまうかもしれないが……」
それは仕方がないことだと思っていた。とにかくアジュガの治療が第一である。
「今は治療に専念するべきです」
その言葉にアジュガが我慢できなかったのか、泣き出した。
「アルメリア、ごめんなさいお母様のためにここまで我慢させてしまって」
アルメリアは首を振ると手を伸ばしてアジュガの手を握った。
「私は、お母様に元気でいてほしいだけなのです。私のために、治療に専念してください」
そう言って、アジュガの手を更に強く握った。
両親はアルメリアの言った条件を満たす領地内の港町のツルスへ移り住むことになったため、アルメリアが城下にある屋敷にもどり屋敷内のことを取り仕切ることとなった。
両親の移住は、治療を最優先しているグレンによって、早急に行われることになった。
「何かあってもなくても、いつでも手紙を書きなさい。お父様も手紙をたくさん書くからね」
「アルメリア、私が病気になったばかりに苦労させてごめんなさい。お母様も手紙を書きますからね」
そう言って泣く両親を気丈に見送った。
実質アルメリアが領地の統治を担うようになったが、幼いながらも莫大な知識量をもち、全力で自分たちの生活の改善をしてくれるこの令嬢を、領民たちは愛し受け入れてくれていた。
そうして領地の統治を任されるとアルメリアは、農園を徐々に拡大した。毎日が忙しく過ぎていくうちに、気がつくとアルメリアは十二歳になっていた。
ある程度クンシラン家の領地の領民が豊かになってきたところで、アルメリアは次の手を打つことにした。
塩レモンだけでは、いずれ他の領地や大国に真似されれば、クンシラン領では太刀打ちできないことがわかっていたからだ。
そこで自分の領地をモデルケースとし、これを他の貴族に売り込んだ。要するにフランチャイズ契約を結ぶことにしたのだ。
クンシラン家の領地では、以前から細々とワインの製造、販売をしていたため、檸檬の栽培や発酵塩レモンの販売について国に対し、新たな報告義務や許可を得る必要はなかったが、フランチャイズ展開をするにあたっては、新たな事業拡大として国に報告し許可を得る義務があった。アルメリアは事業内容を書類にまとめ、それを持って登城し説明せねばならなかった。
得体の知れない事業内容で許可がおりないかもしれないと考え、万全の準備をしてプレゼンを行った。
ところが国の役人は新たな事業について、小娘が行う絵空事だと思ったようで、終始にやにやしながら話を聞いていたかと思うと、最後に小馬鹿にしたように言った。
「お嬢さん、せいぜいその絵空事を頑張りなさい」
難癖をつけられて、許可が下りないかもしれないと思っていたので嫌みを言われるぐらいですんで、アルメリアは正直ほっとした。
その帰り、城内を歩いていると背後から声をかけられた。振り向くとアドニス・フォン・スペンサー伯爵令息が立っていた。彼は大臣を務める父親をもち、アルメリアの前世でのゲームの攻略対象でもあった。
彼はアルメリアより四つ年上で、優秀な若者であり父親の跡を継ぐのだろうと誰もが言っている人物だった。
「お母様、すぐにでもそのカップでワインを飲むのをお止めになってください。鉛で食事をすると食べ物に鉛が溶け込み、それを摂取し続けることで鉛中毒となるのです。ずっと鉛を摂取していれば、人格にまで影響を及ぼし最終的には死に至ってしまいますわ」
「アルメリア、それは本当なのか?」
普段とても穏やかなグレンに強い口調で言われ、アルメリアは驚きながらも頷く。
前世の歴史でローマの皇帝で何人か人格に問題があり、滅亡へ導いた原因は鉛中毒だったからではないか? という学説があったのを思い出しながら答えた。
「はい、お父様。間違いないと思いますわ。彼の地の大国はそれで滅んだのではないでしょうか」
鉛のグラスがあるということは、この世界でもそういうことがあったのだろうとアルメリアは判断してそう答えた。
「アジュガ、アルメリアがそう断言するのだから間違いないのだろう。残念だが、すぐにでもそのカップは下げてもらおう。カップは飾って目で楽しめばお祖父様だって怒りはしないだろう」
指示に従いメイドはアジュガのワイングラスをさげた。
「お父様、私を信じてくださってありがとうございます」
ほっとしながら、自分を信じてくれるグレンに感謝した。治療薬のないこの世界で完全回復まではいかなくても、摂取を辞めればいくらか症状も収まるはずである。
「お父様、それとあわせて体にたまった鉛を排出するために、それらを排出するのを促す食品を多めに食べた方が良いですわ」
気休めでもデトックス効果を狙って、硫黄や亜鉛を含む食品を多く摂取すれば少しは効果があるかも知れなかった。
硫黄を多く含むのは確か魚類や肉類、亜鉛はカシューナッツや牡蠣牛ロースだったはずだ。
「アルメリア、お前にはそれがどんな食べ物なのかわかるのか?」
グレンは驚いた様子で、アルメリアの顔をじっと見つめた。アルメリアは、今目をそらしたら信じてもらえないと思い、グレンを見つめ返して答えた。
「はい、船乗り病を調べたときにそんなことが書いてある本を読みました」
大嘘だったが、グレンは信じたようで感心していた。亜鉛はアルコールを分解するのにも必要で、前世で大酒飲みだったアルメリアは意図して食べるようにしていたので、覚えていたのが役に立った。
「特に多く含まれているものを、料理人に伝えますわ。でも、ここでは手に入りにくい食材もありますの。できればなんでも食材が手に入る港町で療養された方が良いかもしれませんわね」
それを受けてグレンは戸惑った様子になった。
「アルメリア、お前にはやることがあるのだろう?」
アルメリアが頷くとグレンは話を続ける。
「もしも港町に私たちが療養に行ってしまったら、またお前と離ればなれになってしまうかもしれないが……」
それは仕方がないことだと思っていた。とにかくアジュガの治療が第一である。
「今は治療に専念するべきです」
その言葉にアジュガが我慢できなかったのか、泣き出した。
「アルメリア、ごめんなさいお母様のためにここまで我慢させてしまって」
アルメリアは首を振ると手を伸ばしてアジュガの手を握った。
「私は、お母様に元気でいてほしいだけなのです。私のために、治療に専念してください」
そう言って、アジュガの手を更に強く握った。
両親はアルメリアの言った条件を満たす領地内の港町のツルスへ移り住むことになったため、アルメリアが城下にある屋敷にもどり屋敷内のことを取り仕切ることとなった。
両親の移住は、治療を最優先しているグレンによって、早急に行われることになった。
「何かあってもなくても、いつでも手紙を書きなさい。お父様も手紙をたくさん書くからね」
「アルメリア、私が病気になったばかりに苦労させてごめんなさい。お母様も手紙を書きますからね」
そう言って泣く両親を気丈に見送った。
実質アルメリアが領地の統治を担うようになったが、幼いながらも莫大な知識量をもち、全力で自分たちの生活の改善をしてくれるこの令嬢を、領民たちは愛し受け入れてくれていた。
そうして領地の統治を任されるとアルメリアは、農園を徐々に拡大した。毎日が忙しく過ぎていくうちに、気がつくとアルメリアは十二歳になっていた。
ある程度クンシラン家の領地の領民が豊かになってきたところで、アルメリアは次の手を打つことにした。
塩レモンだけでは、いずれ他の領地や大国に真似されれば、クンシラン領では太刀打ちできないことがわかっていたからだ。
そこで自分の領地をモデルケースとし、これを他の貴族に売り込んだ。要するにフランチャイズ契約を結ぶことにしたのだ。
クンシラン家の領地では、以前から細々とワインの製造、販売をしていたため、檸檬の栽培や発酵塩レモンの販売について国に対し、新たな報告義務や許可を得る必要はなかったが、フランチャイズ展開をするにあたっては、新たな事業拡大として国に報告し許可を得る義務があった。アルメリアは事業内容を書類にまとめ、それを持って登城し説明せねばならなかった。
得体の知れない事業内容で許可がおりないかもしれないと考え、万全の準備をしてプレゼンを行った。
ところが国の役人は新たな事業について、小娘が行う絵空事だと思ったようで、終始にやにやしながら話を聞いていたかと思うと、最後に小馬鹿にしたように言った。
「お嬢さん、せいぜいその絵空事を頑張りなさい」
難癖をつけられて、許可が下りないかもしれないと思っていたので嫌みを言われるぐらいですんで、アルメリアは正直ほっとした。
その帰り、城内を歩いていると背後から声をかけられた。振り向くとアドニス・フォン・スペンサー伯爵令息が立っていた。彼は大臣を務める父親をもち、アルメリアの前世でのゲームの攻略対象でもあった。
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