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第八話 両親

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 恐る恐る調べてわかったことは、両親は自分の領地の領民にさほど酷い仕打ちをしておらず、教会と関係している事実も一切出てこないということだった。そのお陰で、領主を慕ってくれている領民がほとんどで、だからこそクンシラン家は貧乏でもあったようだ。

 アルメリアは、ほっと胸を撫で下ろした。

 考えてみれば、アルメリアが行うことに領民が反発することがあっても、説明すれば信用してすぐに納得してくれることがほとんどだった。
 あれは両親が領民との間に信頼関係を築いていてくれたおかげたったのだろうと、改めて感謝した。

 その事実がわかって、両親に自分がやってきたことを報告しようと思い、久々に直接話したかったため一度城下のクンシラン邸へ帰ることにした。
 幸いクンシラン邸までは馬車で1日の距離である。農園もアルメリアが数日離れるぐらいなら問題はなかった。

 父親のグレン・ディ・クンシラン公爵に手紙を書くとグロリオサから許可の返事はすぐにきた。返事を受けるとアルメリアはクンシラン邸へすぐさま戻った。

 久々に戻る城下町はとても活気に溢れていた。御者に言って遠回りして自分が出しているアンジーのお店の前を通ると、かなりの盛況ぶりで行列ができていて嬉しくなる。
 報告で聞いてはいたが、それだけではなかなか実感することができなかった。だが、自分の目でその様子をみて、やっと自分のやって来た成果を実感したのだった。

 遠回りしてしまったのもあり、屋敷についたのは日が暮れたあとだった。両親が一緒に食事を、と待っていると聞いてアルメリアは、久々に再開した使用人たちへの挨拶もそこそこに、慌てて仕度をして夕食の席に着いた。
 親子揃っての食事は数年ぶりだった。食事が始まると、食べながら両親に今まで避暑地で何をしていたかを全て話した。それを嬉しそうに頷きながら聞いていたグレンは、全て聞き終わると笑顔で言った。

「アルメリア、お前が船乗り病を解決したと人伝に聞いたとき、私とお母様はすごく誇らしく思ったのだよ。それと同時に、まだ幼いお前を母親から引き離し、一人避暑地へ行かせたことで、お前が早く大人になろうとしているのではないかと胸を痛めた。だが、今話を聞いていて、お前の生き生きした表情で話しているのを見て少し安心した」

 アルメリアはまさか両親にそんな思いをさせていたと思わず、早く連絡しなかったことを後悔した。

「お父様、心配させてしまってごめんなさい。見守ってくださってありがとう」

 母親のアジュガ・ディ・クンシラン公爵夫人は、食事の手を止めると瞳に涙をためながらアルメリアを見つめた。

「親として見守るのは当然のことよ。それよりも、親なのに側にいてあげられなくて本当にごめんなさいね。お母様はずっと貴女に会いたかったわ」

 アルメリアはそんなアジュガの様子を見て、自分も泣きそうになりながらアジュガを見つめ返した。すると、その様子を見ていたグレンがアジュガの顔を見ながら言った。

「アルメリアは大きくなった。アジュガ、もう話してもいい頃じゃないか?」

 すると、アジュガは涙をぬぐいながらグレンに向かって頷いた。

「そうですわね、今のアルメリアになら話しても大丈夫ですわね」

 アルメリアは何を聞かされるのか不安になりながら、両親の顔を交互に見て二人が話すのを待った。先に口を開いたのはグレンだった。

「アルメリア、お前を避暑地にやったのはお父様たちが忙しいからではなく、お母様が病気で闘病しなければならなかったからなのだよ。お前に心配させたくなくて黙っていた」

 次いでアジュガも話し出す。

「お母様は貴女に、お母様が苦しんでいる姿を見せたくなかったの。それに貴女はまだ幼かったでしょう? 目の前に母親がいるのに甘えられないなんて、つらいだけですもの。貴女を愛していないわけではないのよ?」

 アルメリアは慌てて答える。

「幼少の頃、お父様にもお母様にもたくさんの愛情を注いでいただきましたから、そんなことを疑ったことは一度もありませんわ」

 それを聞くとアジュガはほっとした顔をした。アルメリアは両親に微笑み返すと、気になることを尋ねる。

「ところで、お母様の病とはどんな病ですの?」

 少なくとも、アルメリアには多少なりとも近代的な医療の知識がある。薬がないので治療はできなくとも、病気の検討がつくかもしれなかった。
 アジュガは少し戸惑い、グレンの顔を見た。グレンはそれに答えて頷く。すると意を決したように話し始めた。

「お母様の病はね頭が痛かったり、食欲がなくて、歩くのが難しくなったり。口の中で金属のような味がしたり……、まさかアルメリア、貴女にも同じ症状が?」

 アルメリアは慌てて首を振る。

「お母様、違いますわ。その、病気のことを聞けばどんな病気か解ると思っただけですわ。お父様は大丈夫なのですね?」

 グレンは頷いた。アルメリアはその症状に思い当たることがあり、改めてアジュガの方を見た。その手もとには金属製のアンティークなワインカップが置かれている。

「お母様、お聞きしたいのですがそのワインカップはどうされたのですか?」

 そう言われて、アジュガはそのカップを嬉しそうに持ち上げた。

「アルメリア、このカップはわたくしがお父様と婚姻を交わしたときに、お祖父様から贈られたものなのよ。なんでも昔、彼の地の大国で使われていたとかで、その国の人々はこれで毎日グリューワインを飲んでいたのですって」

 アジュガはワインカップ越しにアルメリアに微笑むと、テーブルにカップを置き話を続ける。

「ペアなのだけど、お父様は嗜む習慣がないからわたくしだけ。そうは言ってもお母様だって病気になるほどお酒を飲んでいるわけではなく、嗜む程度しか飲んでいないわよ?」

 アルメリアは苦笑して答える。

「もちろん分かっております。そうではなくて、わたくしはそのカップそのものに問題があると考えています。お母様、そのカップは鉛でできたものではないですか?」

 思いもよらぬ質問に、アジュガは不思議そうにカップを見つめると、アルメリアに視線を戻した。

「えぇ、そうだけれどそれがどうかしたの?」

 アルメリアはこの答えで、自分の考えていることが正解だろうと確信した。
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