7 / 190
第七話 ペルシック先生ときどきインフラ整備
しおりを挟む
ペルシックからは、社交界での基礎知識を教わった。ダンスや作法を覚えるのは、これから社交界デビューする令嬢には必要不可欠なことなのだが、アルメリアはこれらを仕事上で必要不可欠なこととして捉え必死で覚えた。勉強以外でもやらねばならないことがたくさんあり、作法やダンスは短期間で学ばねばならなかった。
「爺、私には時間がありません。容赦せずにやってくださって結構ですわ」
そうお願いすると、ペルシックは本当に容赦せずアルメリアに礼節やダンスを徹底的に叩き込んだ。厳しかったが、前世の記憶のあるアルメリアにとって、興味のある分野だったので楽しく覚えることができた。
それに流石主人公のライバルなだけあって、物覚えも良くダンスの筋も良かった。アルメリアの努力もあり、一年もかからずにそれら全てを完璧にマスターすることができた。
こうしてあっという間にペルシックの家庭教師としての役割はほぼ終わってしまったのだが、ペルシックは残り、アルメリアのそばで使えてくれてくれることになった。
ペルシックは有能で、アルメリアが指示する前に予測して行動することができた。彼が来てからはアルメリアの作業量はだいぶ少なくなった。
そうして慌ただしく日々が過ぎ去り、檸檬の初めての収穫ができるようになった頃、発酵塩レモンの効果が周知されるようになった。そして発酵塩レモンの効果が口伝えで国内全体に広まると、その情報は他国にもあっという間に伝わった。
そこでアルメリアは、アンジーファウンデーションとして、この時代にはない財団らしき組織を設立。その中で発酵塩レモンなどの健康食品を扱う販売部門を置き営業を始めた。するとアルメリアのところには国内外問わず、檸檬と発酵塩レモンの注文が殺到した。
発酵塩レモンは城下町で『アンジーの塩レモン』という商品名で小売で売りだすと、調味料として市井でも流行りだし、アルメリアたちは発酵塩レモンの生産に追われることになった。
こうしてある程度安定した収入を得ることができるようになったアルメリアは、クンシラン家の領土内の上下水道の整備に本格的にのりだした。とくに道路に排泄物をぶちまけている様は、前世の記憶がよみがえった今、本当に我慢のならないものだった。
水洗トイレの仕組みは簡単ですぐにでも作れるが、それを流す水がなかった。なので、建築士と相談しダムを建設することにした。下水の整備が上手く行けば、堆肥も大量に作ることができるようになるだろう。
そして農業用には溜め池を作りそれを利用し、飲み水は井戸を掘りそれを利用することにした。井戸水はそのまま飲むときは必ず一度沸騰させてから飲むように徹底することも忘れなかった。
そうこうしているうちに、檸檬の栽培や肥料、堆肥による肥えた土地によって、農作物の収穫量が増え、製品化していた木酢酢等も売れるようになった。
すると、安定した職を求めて領土外からクンシランの領土へ移り住むもの達が増えた。結果的に人口が増え、更に領地が潤うこととなった。
そこで今度は、優秀な人材を育成すべく専門性に優れた教育システムを作ることにした。それは前世で言うところの専門学校のようなものだった。
ある程度学校で知識を学び、そのまま実際に働きながら技術を学ぶ。いずれは独立しても良いしそのままそこで働き続けることもできるようにするシステムだ。
アルメリアは協力してくれる経営者がいないか、経営者のところへ出向き直接説明して歩いた。
最初は話し半分に聞いていた経営者たちも、アルメリアの必死な説明を聞いているうちに、長い目で見れば自分たちにも損がないと理解し、協力を申し出てくれるようになった。
後継者を育てたいと思っている経営者たちは、使用人や時に経営者自らを先生として派遣してくれたり、実習の場を提供してくれた。
そうして目まぐるしく過ごしている中でも、アルメリアはいつも頭の片隅でシルやルク、マニやルフスのことが忘れられず、手を尽くして彼らを探し続けていた。
ルクにプロポーズをされたとき、幼すぎてそれが恋なのか結婚がなんなのかも解らず、ただ嬉しくてプロポーズを受けた。
今思い返すと、とても突然で不器用なプロポーズだったし、アルメリアの気持ちを考えていないものだった。だが真っすぐに気持ちをぶつけてきてくれたのがわかって、とても嬉しかった。アルメリアにとってはあれが初恋となった。
初恋が突然の別れによって終わってしまったのはとてもつらかった。
一方で、姉のように慕っていたシルが居なくなってしまったこと、そしてそれは孤児院によって売られてしまったからという、衝撃的な事実。
それらがアルメリアにとっては忘れられない鮮烈な思い出として残った。
アルメリアがシルに綺麗なドレスを着て羨ましい、と言ったときの彼女の顔を、アルメリアは今でも忘れることができなかった。シルはあのときどんな気持ちでいたのだろうか。おそらく、綺麗なドレスを着させられ、自分たちを買いに来たであろう大人にいやらしい、値踏みをするように見られたこともあっただろう。シルはそのときどんな気持ちだっただろうか、何も知らない自由なアルメリアを見て、どんな気持ちで遊んでくれていたのだろうか。そう思うと胸が締め付けられた。
断罪も避けたいが、今のアルメリアを突き動かすものは、それらの出来事からくるものが大きかった。
だが、孤児院はチューベローズが管轄している。貴族とはいえ、教会組織には容易に手出しすることはできず、情報が全く手に入らなかった。
現状シルたちの行方は依然としてわからず、孤児たちを売っているという証拠をつかむなど夢のまた夢といったところだった。
それに教会のことを本格的に調べる前に、一つ確認しなくてはならないことがあった。それは教会と両親は繋がっていないことの確認だった。もしかすると自分の両親も領民から搾取したり、教会と繋がっていて、人身売買に関わっているかもしれない。
そう思うと恐ろしくて調べることをずっと避けていた。だが、これから先教会と対峙するのに、避けて通る訳にはいかなかった。
「爺、私には時間がありません。容赦せずにやってくださって結構ですわ」
そうお願いすると、ペルシックは本当に容赦せずアルメリアに礼節やダンスを徹底的に叩き込んだ。厳しかったが、前世の記憶のあるアルメリアにとって、興味のある分野だったので楽しく覚えることができた。
それに流石主人公のライバルなだけあって、物覚えも良くダンスの筋も良かった。アルメリアの努力もあり、一年もかからずにそれら全てを完璧にマスターすることができた。
こうしてあっという間にペルシックの家庭教師としての役割はほぼ終わってしまったのだが、ペルシックは残り、アルメリアのそばで使えてくれてくれることになった。
ペルシックは有能で、アルメリアが指示する前に予測して行動することができた。彼が来てからはアルメリアの作業量はだいぶ少なくなった。
そうして慌ただしく日々が過ぎ去り、檸檬の初めての収穫ができるようになった頃、発酵塩レモンの効果が周知されるようになった。そして発酵塩レモンの効果が口伝えで国内全体に広まると、その情報は他国にもあっという間に伝わった。
そこでアルメリアは、アンジーファウンデーションとして、この時代にはない財団らしき組織を設立。その中で発酵塩レモンなどの健康食品を扱う販売部門を置き営業を始めた。するとアルメリアのところには国内外問わず、檸檬と発酵塩レモンの注文が殺到した。
発酵塩レモンは城下町で『アンジーの塩レモン』という商品名で小売で売りだすと、調味料として市井でも流行りだし、アルメリアたちは発酵塩レモンの生産に追われることになった。
こうしてある程度安定した収入を得ることができるようになったアルメリアは、クンシラン家の領土内の上下水道の整備に本格的にのりだした。とくに道路に排泄物をぶちまけている様は、前世の記憶がよみがえった今、本当に我慢のならないものだった。
水洗トイレの仕組みは簡単ですぐにでも作れるが、それを流す水がなかった。なので、建築士と相談しダムを建設することにした。下水の整備が上手く行けば、堆肥も大量に作ることができるようになるだろう。
そして農業用には溜め池を作りそれを利用し、飲み水は井戸を掘りそれを利用することにした。井戸水はそのまま飲むときは必ず一度沸騰させてから飲むように徹底することも忘れなかった。
そうこうしているうちに、檸檬の栽培や肥料、堆肥による肥えた土地によって、農作物の収穫量が増え、製品化していた木酢酢等も売れるようになった。
すると、安定した職を求めて領土外からクンシランの領土へ移り住むもの達が増えた。結果的に人口が増え、更に領地が潤うこととなった。
そこで今度は、優秀な人材を育成すべく専門性に優れた教育システムを作ることにした。それは前世で言うところの専門学校のようなものだった。
ある程度学校で知識を学び、そのまま実際に働きながら技術を学ぶ。いずれは独立しても良いしそのままそこで働き続けることもできるようにするシステムだ。
アルメリアは協力してくれる経営者がいないか、経営者のところへ出向き直接説明して歩いた。
最初は話し半分に聞いていた経営者たちも、アルメリアの必死な説明を聞いているうちに、長い目で見れば自分たちにも損がないと理解し、協力を申し出てくれるようになった。
後継者を育てたいと思っている経営者たちは、使用人や時に経営者自らを先生として派遣してくれたり、実習の場を提供してくれた。
そうして目まぐるしく過ごしている中でも、アルメリアはいつも頭の片隅でシルやルク、マニやルフスのことが忘れられず、手を尽くして彼らを探し続けていた。
ルクにプロポーズをされたとき、幼すぎてそれが恋なのか結婚がなんなのかも解らず、ただ嬉しくてプロポーズを受けた。
今思い返すと、とても突然で不器用なプロポーズだったし、アルメリアの気持ちを考えていないものだった。だが真っすぐに気持ちをぶつけてきてくれたのがわかって、とても嬉しかった。アルメリアにとってはあれが初恋となった。
初恋が突然の別れによって終わってしまったのはとてもつらかった。
一方で、姉のように慕っていたシルが居なくなってしまったこと、そしてそれは孤児院によって売られてしまったからという、衝撃的な事実。
それらがアルメリアにとっては忘れられない鮮烈な思い出として残った。
アルメリアがシルに綺麗なドレスを着て羨ましい、と言ったときの彼女の顔を、アルメリアは今でも忘れることができなかった。シルはあのときどんな気持ちでいたのだろうか。おそらく、綺麗なドレスを着させられ、自分たちを買いに来たであろう大人にいやらしい、値踏みをするように見られたこともあっただろう。シルはそのときどんな気持ちだっただろうか、何も知らない自由なアルメリアを見て、どんな気持ちで遊んでくれていたのだろうか。そう思うと胸が締め付けられた。
断罪も避けたいが、今のアルメリアを突き動かすものは、それらの出来事からくるものが大きかった。
だが、孤児院はチューベローズが管轄している。貴族とはいえ、教会組織には容易に手出しすることはできず、情報が全く手に入らなかった。
現状シルたちの行方は依然としてわからず、孤児たちを売っているという証拠をつかむなど夢のまた夢といったところだった。
それに教会のことを本格的に調べる前に、一つ確認しなくてはならないことがあった。それは教会と両親は繋がっていないことの確認だった。もしかすると自分の両親も領民から搾取したり、教会と繋がっていて、人身売買に関わっているかもしれない。
そう思うと恐ろしくて調べることをずっと避けていた。だが、これから先教会と対峙するのに、避けて通る訳にはいかなかった。
11
お気に入りに追加
714
あなたにおすすめの小説
【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。
yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~)
パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。
この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。
しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。
もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。
「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。
「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」
そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。
竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。
後半、シリアス風味のハピエン。
3章からルート分岐します。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。
https://waifulabs.com/
番と言えばなんでもかなうと思っているんですか
ぐう
恋愛
この大陸一強大なキルンベルガー王国の始祖は竜人だ。
番を求めて異世界からやって来て、番の気配を感じて戦乱の大陸に舞い降りた。
番の人間の乙女を得た始祖は、強大な魔力で魔法を操り、魔物を追払い、戦乱の世を治めて、王国を建立した。
人間と婚姻を結んで、子供を得ても、子孫達に竜人の性質は受け継がれて番を求める。
番を得れば、一生番だけ愛して、浮気もないーーーーーとてもいいことのようだがーーーー本当に?ーーーー
竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました
みゅー
恋愛
シーディーは竜帝の寵姫となったが、病気でその人生を終えた。
気づくと、同じ世界に生まれ変わっており、今度は幸せに暮らそうと竜帝に関わらないようにしたが、何故か生まれ変わったことが竜帝にばれ……
すごく短くて、切ない話が書きたくて書きました。
崩壊した物語~アークリアの聖なる乙女~
叶 望
恋愛
生まれ変わり、輪廻転生、それも異世界転生したと気がついたのはいつだったか。せっかくの新しい第二の人生だ。思いのまま、自由に楽しむことにしよう。え、乙女ゲーム、何のこと。物語の主人公も悪役令嬢も転生者だって。まぁ、私には関係ないよね。え、もろ関係者?関わらなければどうでもいいよ。復讐、乙女ゲーム、利用できるものは何でも利用しようじゃないか。私は剣と魔法、魔物や冒険溢れるこの世界で自由に生きる。これは乙女ゲームを崩壊させた少女の物語。
※小説家になろうにも投稿しています
婚約者にフラれたので、復讐しようと思います
紗夏
恋愛
御園咲良28才
同期の彼氏と結婚まであと3か月――
幸せだと思っていたのに、ある日突然、私の幸せは音を立てて崩れた
婚約者の宮本透にフラれたのだ、それも完膚なきまでに
同じオフィスの後輩に寝取られた挙句、デキ婚なんて絶対許さない
これから、彼とあの女に復讐してやろうと思います
けれど…復讐ってどうやればいいんだろう
選ばれたのは私以外でした 白い結婚、上等です!
凛蓮月
恋愛
【第16回恋愛小説大賞特別賞を頂き、書籍化されました。
紙、電子にて好評発売中です。よろしくお願いします(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾】
婚約者だった王太子は、聖女を選んだ。
王命で結婚した相手には、愛する人がいた。
お飾りの妻としている間に出会った人は、そもそも女を否定した。
──私は選ばれない。
って思っていたら。
「改めてきみに求婚するよ」
そう言ってきたのは騎士団長。
きみの力が必要だ? 王都が不穏だから守らせてくれ?
でもしばらくは白い結婚?
……分かりました、白い結婚、上等です!
【恋愛大賞(最終日確認)大賞pt別二位で終了できました。投票頂いた皆様、ありがとうございます(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾応援ありがとうございました!
ホトラン入り、エール、投票もありがとうございました!】
※なんてあらすじですが、作者の脳内の魔法のある異世界のお話です。
※ヒーローとの本格的な恋愛は、中盤くらいからです。
※恋愛大賞参加作品なので、感想欄を開きます。
よろしければお寄せ下さい。当作品への感想は全て承認します。
※登場人物への口撃は可ですが、他の読者様への口撃は作者からの吹き矢が飛んできます。ご注意下さい。
※鋭い感想ありがとうございます。返信はネタバレしないよう気を付けます。すぐネタバレペロリーナが発動しそうになります(汗)
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる