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第七話 ペルシック先生ときどきインフラ整備

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 ペルシックからは、社交界での基礎知識を教わった。ダンスや作法を覚えるのは、これから社交界デビューする令嬢には必要不可欠なことなのだが、アルメリアはこれらを仕事上で必要不可欠なこととして捉え必死で覚えた。勉強以外でもやらねばならないことがたくさんあり、作法やダンスは短期間で学ばねばならなかった。

「爺、わたくしには時間がありません。容赦せずにやってくださって結構ですわ」

 そうお願いすると、ペルシックは本当に容赦せずアルメリアに礼節やダンスを徹底的に叩き込んだ。厳しかったが、前世の記憶のあるアルメリアにとって、興味のある分野だったので楽しく覚えることができた。
 それに流石主人公のライバルなだけあって、物覚えも良くダンスの筋も良かった。アルメリアの努力もあり、一年もかからずにそれら全てを完璧にマスターすることができた。

 こうしてあっという間にペルシックの家庭教師としての役割はほぼ終わってしまったのだが、ペルシックは残り、アルメリアのそばで使えてくれてくれることになった。
 ペルシックは有能で、アルメリアが指示する前に予測して行動することができた。彼が来てからはアルメリアの作業量はだいぶ少なくなった。

 そうして慌ただしく日々が過ぎ去り、檸檬の初めての収穫ができるようになった頃、発酵塩レモンの効果が周知されるようになった。そして発酵塩レモンの効果が口伝えで国内全体に広まると、その情報は他国にもあっという間に伝わった。

 そこでアルメリアは、アンジーファウンデーションとして、この時代にはない財団らしき組織を設立。その中で発酵塩レモンなどの健康食品を扱う販売部門を置き営業を始めた。するとアルメリアのところには国内外問わず、檸檬と発酵塩レモンの注文が殺到した。
 発酵塩レモンは城下町で『アンジーの塩レモン』という商品名で小売で売りだすと、調味料として市井でも流行りだし、アルメリアたちは発酵塩レモンの生産に追われることになった。


 こうしてある程度安定した収入を得ることができるようになったアルメリアは、クンシラン家の領土内の上下水道の整備に本格的にのりだした。とくに道路に排泄物をぶちまけている様は、前世の記憶がよみがえった今、本当に我慢のならないものだった。
 水洗トイレの仕組みは簡単ですぐにでも作れるが、それを流す水がなかった。なので、建築士と相談しダムを建設することにした。下水の整備が上手く行けば、堆肥も大量に作ることができるようになるだろう。

 そして農業用には溜め池を作りそれを利用し、飲み水は井戸を掘りそれを利用することにした。井戸水はそのまま飲むときは必ず一度沸騰させてから飲むように徹底することも忘れなかった。

 そうこうしているうちに、檸檬の栽培や肥料、堆肥による肥えた土地によって、農作物の収穫量が増え、製品化していた木酢酢等も売れるようになった。
 すると、安定した職を求めて領土外からクンシランの領土へ移り住むもの達が増えた。結果的に人口が増え、更に領地が潤うこととなった。

 そこで今度は、優秀な人材を育成すべく専門性に優れた教育システムを作ることにした。それは前世で言うところの専門学校のようなものだった。
 ある程度学校で知識を学び、そのまま実際に働きながら技術を学ぶ。いずれは独立しても良いしそのままそこで働き続けることもできるようにするシステムだ。
 アルメリアは協力してくれる経営者がいないか、経営者のところへ出向き直接説明して歩いた。
 最初は話し半分に聞いていた経営者たちも、アルメリアの必死な説明を聞いているうちに、長い目で見れば自分たちにも損がないと理解し、協力を申し出てくれるようになった。
 後継者を育てたいと思っている経営者たちは、使用人や時に経営者自らを先生として派遣してくれたり、実習の場を提供してくれた。



 そうして目まぐるしく過ごしている中でも、アルメリアはいつも頭の片隅でシルやルク、マニやルフスのことが忘れられず、手を尽くして彼らを探し続けていた。

 ルクにプロポーズをされたとき、幼すぎてそれが恋なのか結婚がなんなのかも解らず、ただ嬉しくてプロポーズを受けた。
 今思い返すと、とても突然で不器用なプロポーズだったし、アルメリアの気持ちを考えていないものだった。だが真っすぐに気持ちをぶつけてきてくれたのがわかって、とても嬉しかった。アルメリアにとってはあれが初恋となった。
 初恋が突然の別れによって終わってしまったのはとてもつらかった。
 一方で、姉のように慕っていたシルが居なくなってしまったこと、そしてそれは孤児院によって売られてしまったからという、衝撃的な事実。
 それらがアルメリアにとっては忘れられない鮮烈な思い出として残った。
 アルメリアがシルに綺麗なドレスを着て羨ましい、と言ったときの彼女の顔を、アルメリアは今でも忘れることができなかった。シルはあのときどんな気持ちでいたのだろうか。おそらく、綺麗なドレスを着させられ、自分たちを買いに来たであろう大人にいやらしい、値踏みをするように見られたこともあっただろう。シルはそのときどんな気持ちだっただろうか、何も知らない自由なアルメリアを見て、どんな気持ちで遊んでくれていたのだろうか。そう思うと胸が締め付けられた。

 断罪も避けたいが、今のアルメリアを突き動かすものは、それらの出来事からくるものが大きかった。

 だが、孤児院はチューベローズが管轄している。貴族とはいえ、教会組織には容易に手出しすることはできず、情報が全く手に入らなかった。
 現状シルたちの行方は依然としてわからず、孤児たちを売っているという証拠をつかむなど夢のまた夢といったところだった。

 それに教会のことを本格的に調べる前に、一つ確認しなくてはならないことがあった。それは教会と両親は繋がっていないことの確認だった。もしかすると自分の両親も領民から搾取したり、教会と繋がっていて、人身売買に関わっているかもしれない。
 そう思うと恐ろしくて調べることをずっと避けていた。だが、これから先教会と対峙するのに、避けて通る訳にはいかなかった。
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