悪役令嬢は救国したいだけなのに、いつの間にか攻略対象と皇帝に溺愛されてました

みゅー

文字の大きさ
上 下
6 / 190

第六話 檸檬栽培

しおりを挟む
 壊血病はビタミンCの摂取不足で罹患りかんする病で、ビタミンCを含む食べ物を毎日食べれば発症しない病だ。ところが船乗りは船は長い航海に出るため、ビタミンCを殆ど含んでいない保存食しか口にしない。
 そうしてこの時代の船乗りはビタミンCの摂取不足で原因不明の病、壊血病を発症していた。ならばその解決策としてビタミンCを多く含み、保存ができる食べ物を船に積み毎日食べるようにすれば良い。

 そこでアルメリアが目を付けたのが檸檬だった。砂糖漬けにすれば食べやすく保存もできるのだが、この世界は中世から近世辺りを舞台にしているだけあって、砂糖は稀少なものであった。なのでアルメリアは砂糖漬け檸檬ではなく、発酵塩レモンを作ることにした。発酵塩レモンならば、一番ビタミンなどの栄養素を多く含んでいる皮やワタの部分まで余すことなく摂取できる。

 だが、発酵塩レモンで船乗り病が防げることを証明するために、まずは発酵塩レモンを作って領土内の船乗りに持たせ、船乗り病が防げることを証明せねばならなかった。そうでもしなければ、小娘の言うことになど大人は耳を傾けはしないだろう。

 檸檬は実をつけるまで二年から三年かかり、更に大きな実をつけるまでは五年ほどかかる。
 今から檸檬の栽培に着手すれば発酵塩レモンが船乗り病に効果があると証明ができた頃には、領土内で植えた檸檬が実をつけるほど成長しているはずだ。それにありがたいことに、この国は檸檬の栽培に適している。
 この世界で檸檬の苗は、今のところ観賞用として輸入されているものの、食べる目的では輸入されていない。そのこともアルメリアには有利に働くだろう。檸檬で船乗り病が防げるとわかったときに、発酵塩レモンを量産して売ることができるのがクンシラン家だけとなれば、大きな財を築くことができるからだ。

 そうとわかればとにかく行動あるのみ。と、アルメリアはまず自分の持っている持ち物で売れる物は全部売り、自由にできるまとまったお金を作ることにした。

 檸檬の苗を買うこと、土地を改良すること、自分の領土内の船乗りに持たせる発酵塩レモンを作ること。それぐらいならば、アルメリアの持っている持ち物をお金に換えるぐらいで当面なんとかなりそうだった。

 両親はアルメリアを溺愛しているので、援助を求めれば快く承諾してくれるだろう。だが、クンシラン家は名ばかりで貧乏公爵家だ。なので娘のために無理にお金を捻出させて、父親が何かしでかす恐れもある。そうなっては、アルメリアの努力も水の泡だ。なのでアルメリアは頂き物はお金に換金し、ドレスを作るお金やアクセサリー購入の代金を全て檸檬農園の経営に回した。

 こうしてアルメリアは農園の運営を始め、かき集めた観賞用の檸檬で発酵塩レモンを作ると、クンシラン家の領土の船乗りたちに持たせ、調味料として使用し毎日食べるように厳命した。
 船乗りたちには嫌がられるかと思っていたが、予想に反して船乗りたちは発酵塩レモンが美味しいと喜んでくれた。発酵塩レモンだけでは塩分が多すぎてビタミンCの摂取量に足りなくなるかもしれないので、合わせて生の檸檬も大量に持たせた。

 結果が出るまでの間、アルメリアは毎日農園に通いみんなで栽培方法を話合ったりもした。
 アルメリアは前世で母親と庭に檸檬の木を植えて育てていたため、檸檬の栽培について少しは知識があった。
 檸檬の木にはトゲがある。そのトゲは実を傷つけ、そこから病気となる原因にもなった。なので、トゲを全て取ってしまう必要があることや、剪定の方法や、上に伸びた枝を紐で下向きにしなければならないこと、肥料をやるタイミングや回数なども教えた。ところが、この世界には肥料がまだなかった。

 アルメリアは肥料を作るために米を輸入し、糠を手に入れ、それで肥料を作った。今後は堆肥を作るために畜産や下水の整備もしなければならないと思うと、アルメリアはお金がいくらあっても足りないと頭を抱えた。
 だが周囲の領地に簡単に真似をされては困るので、やるなら徹底してやろう。そう思った。

 檸檬を育てる上で、特に厄介なのが害虫だった。なんとか農薬を作れないか、領土内の学者を集めてそれらの開発を任せた。
 当面の農薬代わりとして、アルメリアは木酢酢をつくることにした。これならこの世界でも簡単に作れることができるからだ。

 農園の管理を任せているもの達は、こんなものが使えるのかと訝しんだが、使用してみてその効果に驚いていた。もちろん木酢酢のみでは全ての害虫を駆除できるわけではないので、引き続き農薬の開発は続けた。
 更に檸檬の栽培には水が大量に必要なため、井戸を掘り水路も確保した。幸い農園近くに砂礫層があったので、水源の確保は問題なかったのも幸いした。

 せっかく木酢酢を作ったのだから、これを商品化することにして、ナラやブナの木の植林も開始した。

 ここまでで、とにかくお金がなかったアルメリアは、屋敷にあるものはすべてお金に変え、質素倹約を徹底した。

 そんなことをしながらも家庭教師をつけてもらい、勉強することも忘れなかった。家庭教師に来たのはエピネの弟、ペルシックだった。ペルシックもかなりの博識で、アルメリアの質問には淀みなく全てを答えることができた。アルメリアは最初、ペルシックのことを先生と読んだが、ペルシックに断られた。

「お嬢様、わたくしのことは爺と呼んでください」

 エピネも紳士然とした人物だが、ペルシックはそれに輪をかけたような人物だった。白髪で丸眼鏡をかけていてあまり表情を顔に出さないが、アルメリアのことを優しく見守ってくれているのは態度で明らかだった。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

あなたには彼女がお似合いです

風見ゆうみ
恋愛
私の婚約者には大事な妹がいた。 妹に呼び出されたからと言って、パーティー会場やデート先で私を置き去りにしていく、そんなあなたでも好きだったんです。 でも、あなたと妹は血が繋がっておらず、昔は恋仲だったということを知ってしまった今では、私のあなたへの思いは邪魔なものでしかないのだと知りました。 ずっとあなたが好きでした。 あなたの妻になれると思うだけで幸せでした。 でも、あなたには他に好きな人がいたんですね。 公爵令嬢のわたしに、伯爵令息であるあなたから婚約破棄はできないのでしょう? あなたのために婚約を破棄します。 だから、あなたは彼女とどうか幸せになってください。 たとえわたしが平民になろうとも婚約破棄をすれば、幸せになれると思っていたのに―― ※作者独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

元カレの今カノは聖女様

abang
恋愛
「イブリア……私と別れて欲しい」 公爵令嬢 イブリア・バロウズは聖女と王太子の愛を妨げる悪女で社交界の嫌われ者。 婚約者である王太子 ルシアン・ランベールの関心は、品行方正、心優しく美人で慈悲深い聖女、セリエ・ジェスランに奪われ王太子ルシアンはついにイブリアに別れを切り出す。 極め付けには、王妃から嫉妬に狂うただの公爵令嬢よりも、聖女が婚約者に適任だと「ルシアンと別れて頂戴」と多額の手切れ金。 社交会では嫉妬に狂った憐れな令嬢に"仕立てあげられ"周りの人間はどんどんと距離を取っていくばかり。 けれども当の本人は… 「悲しいけれど、過ぎればもう過去のことよ」 と、噂とは違いあっさりとした様子のイブリア。 それどころか自由を謳歌する彼女はとても楽しげな様子。 そんなイブリアの態度がルシアンは何故か気に入らない様子で… 更には婚約破棄されたイブリアの婚約者の座を狙う王太子の側近達。 「私をあんなにも嫌っていた、聖女様の取り巻き達が一体私に何の用事があって絡むの!?嫌がらせかしら……!」

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

処理中です...