悪役令嬢は自称親友の令嬢に婚約者を取られ、予定どおり無事に婚約破棄されることに成功しましたが、そのあとのことは考えてませんでした

みゅー

文字の大きさ
上 下
40 / 43

39

しおりを挟む
 そう言うとエーリクの腕をつかみグランツの方を見た。

「息子はアリネア嬢同様、投獄し裁判を受けさせます。ホルト家も継がせません。ご安心ください」

 そして、オルヘルスに向き直り寂しそうに微笑むと言った。

「リートフェルト男爵令嬢、君の家族には私の家族もとてもお世話になったことがある。そんなリートフェルト家に恩を仇で返すようなことをしてしまって本当に申し訳なかった」

「いいえ、すべてはエーリク様の責任ですわ」

「いや、私にも責任の一端はある」

 そう答えると、周囲を見渡した。

「お祝いの席で私の愚息が水を差してしまって申し訳なかった。これで私は失礼させていただくので、どうか若い二人の門出を祝福してください」

 そうして一礼するとエーリクを連れてホールを出ていった。

 その背中を見送ると、グランツは仕切り直しとばかりに周囲に言った。

「問題は解決した。彼ら以外にオリが我が妃となることに意を唱えるものはいるか?」

 そう問われ、あたりは静まり返った。

「よろしい。では先ほどの続きを話したいと思う。とはいえ、問題を解決している最中に私はみんなと祝いたい最大の秘密をポロリと言ってしまったのだが」

 グランツは、おどけた様子でそう言って少し場を和ませてから続ける。

「以前私たちは精霊に加護を受け暮らしていた。それがいつからか、精霊は私たちを見捨て離れてしまった。だが、ここにそんな精霊と人間の橋渡しができるかもしれない人物がいる。それが、私の婚約者ことオルヘルス・リートフェルト男爵令嬢だ。彼女は精霊から加護どころか寵愛を受けている唯一無二の女性だ。彼女は平和の象徴であり、そしてこの国の母となり大いなる恵みを与えてくれる存在となるだろう!」

 グランツがそう言った瞬間、周囲の貴族たちから歓声が上がった。

 オルヘルスはグランツの大袈裟な挨拶に驚いていたが、なんとかそれを顔にださないように周囲に笑顔を振り撒いた。

 グランツはオルヘルスに言った。

「オルヘルス、君は後々まで語り継がれる存在となるだろうな」

 そうして周囲からの温かな祝福を受けているとき耳元で『おめでとう』と聞き覚えのある声がし、突然オルヘルスをまばゆい光の粒が包み込んだ。

 それを見ていた貴族たちは、精霊の祝福だと口々にしオルヘルスを拝む者もいた。

 この瞬間、オルヘルスはグランツを助けたときのことをすべて思い出していた。

 そしてあらためてグランツの顔を見つめて言った。

「あのとき、グランツ様を助けてよかった。たとえ自分がどうなったとしても、私はきっと幸せでした」

「いや、君がいない世界なんて私は耐えられない。心から愛している」

 そう言ってグランツがオルヘルスに口づけると、さらに歓声が上がった。




 この日舞踏会が終わったあと、オルヘルスはグランツに昔の記憶がよみがえったことを話した。

「すべて思い出したというのか?」

「はい。忘れていた理由も」

 そうしてオルヘルスは話し始める。

 あの日、ステファンに連れられ王宮へ行ったオルヘルスは、フィリベルト国王とステファンが精霊の力のことを離しているのをこっそり聞いていた。

 自分なら王太子殿下を救うことができる。

 そう思ったオルヘルスは、早速グランツの部屋へ向かうとその力を使った。そうすれば自分がどうなるかわかっていたがなんの迷いもなかった。

 そして気を失ない、気がつけば自分の部屋のベッドに寝かされていた。

 それから数年、絶えず熱でうなされながらぼんやりと天井を見つめていると、ある日ベッドの横に長髪の男性が立っていることに気づいた。

 その男性は柔らかな光を放っており、人とは思えないほど透きとおった肌をしていた。

 熱のせいで幻覚を見ているのだろうか?

 そう思いながらその男性を見つめていると、オルヘルスを見つめ返し悲しそうに微笑んで言った。

「私が力を与えたばかりに、お前はその人生を閉じようとしている。だが、まだダメだ。お前は幸せにならなければ」

 そう言うと、オルヘルスはまばゆい光に包まれ体が楽になるのを感じた。

 そして、その男性は去り際にこう言った。

「またこの力を使ってしまわないように、力のことは今は忘れなさい」

 次に目覚めたとき、オルヘルスはグランツのことも力のこともその男性のこともすべてを忘れていたのだ。

「では、今日の舞踏会で精霊王に祝福を受けたときに思い出したのか?」

「はい。正確には、男性の声を聞いたその瞬間ですわ。はっきりと耳元で聞こえましたの。『おめでとう』と。それですべて思い出しましたわ」

「では、その男性は……」

「精霊王だと思いますわ。今までわたくしに精霊王が近づかなかったのは、その記憶を封印しわたくしに力を使わせないためだったのだと思いますわ」

「そういうことだったのか。それにしても、あのときはやはり偶然に力を使ったのではなく、君の意思で私を救ってくれたのだな」

 そう言ってオルヘルスを見つめた。オルヘルスは思わず目を逸らすと言った。

「でも、だれだってわたくしの立場なら同じことをしたと思いますわ」

「そんなことはない。君が君だったからこそ私はここにいるのだろう」

 それを聞いてオルヘルスはあることに気がついた。

 前世で呼んだ本の内容と実際に今いる世界でのオルヘルスの運命がことなっていたのは、そういうことだったのだ。

 当たり前と言えば当たり前かもしれないが、本の中のオルヘルスはグランツを見殺しにし、この世界のオルヘルスはグランツを助けた。

 あのときから運命は違う方向へ向かいだしたのだ。

 オルヘルスは黙ってグランツを見つめた。

「オリ、どうした?」

「グランツ様、わたくしはグランツ様を愛しています。ずっとそばにいてください」

「もちろんだ。この命尽きるまで」

 そう言ってグランツはオルヘルスに深く口づけた。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました

神村 月子
恋愛
 貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。  彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。  「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。  登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。   ※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

処理中です...