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第四十話
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洞窟内にいったい何人の人々が取り残されているのか、想像もできないほどだった。だが、アザレアは洞窟内を駆け巡り、声をかけてまわり人を見つけたら手当たり次第洞窟の外へ送り出した。
連日のヒュー先生による訓練の賜物で魔力量が増えているとは言え、ここまで連続で時空魔法を連発したことはなく、かなりの魔力を消費していた。
だが、アザレアはそんなことはかまわず、とにかく必死で救助に専念した。その甲斐あってなんとかほとんどの人々を洞窟外へ移動させることができた。
もうだれも洞窟内にいないか見て歩き、人が残っていないのを確認すると、その時アザレアはすでに疲労困憊の状態となっていた。
その時だった、洞窟内が激しく揺れ、岩がアザレアに向かって落ちてきた。
「アズ、アズ! 目を覚ますんだ!」
自分を呼ぶ声で目を覚ますと、数メートル離れたところにカルがいた。頭がくらくらして、状況が読めずにいたが、自分がまだ洞窟内にいることは理解できた。
周囲の状況を確認すると先程洞窟内が少し崩壊し、崖のように切り立った場所に自分が取り残されているのに気づいた。
崖向こうに心配そうな顔をしたカルがいる。思わず
「カル、貴方なんでここにいますの?」
と言うと、カルは少し安心したような困ったような顔になった。
「もちろん君を助けに来たんだよ。二回目の岩の崩落から身を守るため、イヤリングの片方が弾けてしまったようだね。片方のイヤリングだけを頼りに君を探すのに少し手間取ってしまって、遅くなってすまなかった」
そう言って、以前アザレアが作って置いた移動魔法の使える魔石をこちらに見せた。
「この魔石のお陰で洞窟内に入ることはできた。君の近くまで行って助けたいが、君が乗っているその岩場は私が乗ったら崩れてしまうだろう。だから自分で移動できるか?」
カルに言われて足下を確認すると、確かに今にも崩れ落ちそうだった。だがもう魔力はほとんど残っておらず、外に出るのも、カルの場所に移動するのも難しそうであった。
アザレアはカルに言った。
「ごめんなさい、もう魔力が残ってないんですの」
するとカルは
「じゃあそこからジャンプできるか? 僕は絶対に君を受け止めるから」
と言うと大きくてを広げた。恐くて仕方なかったが、それしか助かる道はないだろう。
しばらく飛ぶ勇気が出ず、躊躇していたがそんなアザレアを見てカルが言った。
「大丈夫、アズなら絶対にできるはずだ。君は勇気ある女性だ、自分と私を信じて」
その言葉で、アザレアは意を決してカルのもとへジャンプした。その反動でアザレアの乗っていた岩場が崩れる。
アザレアは思い切りカルの胸に飛び込んだ。
カルはアザレアをしっかり受け止めると。両手でしっかり抱きしめた。恐怖から解放された安堵で、アザレアはカルの胸の中で思いきり泣き出してしまった。
カルはゆっくり優しくアザレアの背中をさする。
「大丈夫、よく頑張ったね、大丈夫だよ」
アザレアが落ち着くまで抱き締めていてくれた。しばらくそうしていたがアザレアが少し落ち着いてくると、カルは話をした。
「昔、どうしようもなくひねくれた男の子がいてね。その男の子は毎日が、全てがどうでもいいと思っていた。ところがある日、目の前にとても純粋で天使のような女の子が現れた。その女の子はその男の子に寂しくないように花をくれた。その花で男の子は救われ、生きる希望がわいた。男の子はその花を毎日眺めながら、次に女の子に会う日まで恥ずかしくないように生きようと決めた」
静まり返った洞窟内でカルの声は優しく響いた。アザレアはそれがカルと自分の話だと気づいた。
しばらくの沈黙のあとアザレアは極限でのストレスからか、その花がリアトリスが適当にもぎった渇れ花なのを思いだし、我慢できずにクスクスと笑いだしてしまった。
そしてカルの胸の中からカルを見上げると言った。
「その花は渇れかかった花でしたのよ?」
と。するとカルは微笑む。
「君がくれたらなんだっていいんだ。それに何より僕はあの時の、君の気持ちが嬉しかったんだから」
と言うと優しく微笑んだ。
「本当に助かってくれて良かった、生きていてくれてありがとう」
そう言って強くアザレアを抱き締めた。
その後カルの持っていた魔石で外に出ると、外ではリアトリスやその他の町の人々が待っており物凄い拍手喝采を浴びた。リアトリスはいつものように泣き崩れていたが、町の人々がアザレアを聖女様と奉るため、それを否定しながら歩くのに疲弊した。
カルに抱き抱えられ、用意してあった馬車に乗ると、割れんばかりの拍手に見送られて、王宮へ戻った。
王宮へ戻りしばらく療養していると、床上で今回の崩落事故で奇跡的に死者は一人も出ていない、と報告を受けた。アザレアはそれが一番嬉しかった。
連日のヒュー先生による訓練の賜物で魔力量が増えているとは言え、ここまで連続で時空魔法を連発したことはなく、かなりの魔力を消費していた。
だが、アザレアはそんなことはかまわず、とにかく必死で救助に専念した。その甲斐あってなんとかほとんどの人々を洞窟外へ移動させることができた。
もうだれも洞窟内にいないか見て歩き、人が残っていないのを確認すると、その時アザレアはすでに疲労困憊の状態となっていた。
その時だった、洞窟内が激しく揺れ、岩がアザレアに向かって落ちてきた。
「アズ、アズ! 目を覚ますんだ!」
自分を呼ぶ声で目を覚ますと、数メートル離れたところにカルがいた。頭がくらくらして、状況が読めずにいたが、自分がまだ洞窟内にいることは理解できた。
周囲の状況を確認すると先程洞窟内が少し崩壊し、崖のように切り立った場所に自分が取り残されているのに気づいた。
崖向こうに心配そうな顔をしたカルがいる。思わず
「カル、貴方なんでここにいますの?」
と言うと、カルは少し安心したような困ったような顔になった。
「もちろん君を助けに来たんだよ。二回目の岩の崩落から身を守るため、イヤリングの片方が弾けてしまったようだね。片方のイヤリングだけを頼りに君を探すのに少し手間取ってしまって、遅くなってすまなかった」
そう言って、以前アザレアが作って置いた移動魔法の使える魔石をこちらに見せた。
「この魔石のお陰で洞窟内に入ることはできた。君の近くまで行って助けたいが、君が乗っているその岩場は私が乗ったら崩れてしまうだろう。だから自分で移動できるか?」
カルに言われて足下を確認すると、確かに今にも崩れ落ちそうだった。だがもう魔力はほとんど残っておらず、外に出るのも、カルの場所に移動するのも難しそうであった。
アザレアはカルに言った。
「ごめんなさい、もう魔力が残ってないんですの」
するとカルは
「じゃあそこからジャンプできるか? 僕は絶対に君を受け止めるから」
と言うと大きくてを広げた。恐くて仕方なかったが、それしか助かる道はないだろう。
しばらく飛ぶ勇気が出ず、躊躇していたがそんなアザレアを見てカルが言った。
「大丈夫、アズなら絶対にできるはずだ。君は勇気ある女性だ、自分と私を信じて」
その言葉で、アザレアは意を決してカルのもとへジャンプした。その反動でアザレアの乗っていた岩場が崩れる。
アザレアは思い切りカルの胸に飛び込んだ。
カルはアザレアをしっかり受け止めると。両手でしっかり抱きしめた。恐怖から解放された安堵で、アザレアはカルの胸の中で思いきり泣き出してしまった。
カルはゆっくり優しくアザレアの背中をさする。
「大丈夫、よく頑張ったね、大丈夫だよ」
アザレアが落ち着くまで抱き締めていてくれた。しばらくそうしていたがアザレアが少し落ち着いてくると、カルは話をした。
「昔、どうしようもなくひねくれた男の子がいてね。その男の子は毎日が、全てがどうでもいいと思っていた。ところがある日、目の前にとても純粋で天使のような女の子が現れた。その女の子はその男の子に寂しくないように花をくれた。その花で男の子は救われ、生きる希望がわいた。男の子はその花を毎日眺めながら、次に女の子に会う日まで恥ずかしくないように生きようと決めた」
静まり返った洞窟内でカルの声は優しく響いた。アザレアはそれがカルと自分の話だと気づいた。
しばらくの沈黙のあとアザレアは極限でのストレスからか、その花がリアトリスが適当にもぎった渇れ花なのを思いだし、我慢できずにクスクスと笑いだしてしまった。
そしてカルの胸の中からカルを見上げると言った。
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と。するとカルは微笑む。
「君がくれたらなんだっていいんだ。それに何より僕はあの時の、君の気持ちが嬉しかったんだから」
と言うと優しく微笑んだ。
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そう言って強くアザレアを抱き締めた。
その後カルの持っていた魔石で外に出ると、外ではリアトリスやその他の町の人々が待っており物凄い拍手喝采を浴びた。リアトリスはいつものように泣き崩れていたが、町の人々がアザレアを聖女様と奉るため、それを否定しながら歩くのに疲弊した。
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