上 下
42 / 66

第四十話

しおりを挟む
 洞窟内にいったい何人の人々が取り残されているのか、想像もできないほどだった。だが、アザレアは洞窟内を駆け巡り、声をかけてまわり人を見つけたら手当たり次第洞窟の外へ送り出した。

 連日のヒュー先生による訓練の賜物で魔力量が増えているとは言え、ここまで連続で時空魔法を連発したことはなく、かなりの魔力を消費していた。

 だが、アザレアはそんなことはかまわず、とにかく必死で救助に専念した。その甲斐あってなんとかほとんどの人々を洞窟外へ移動させることができた。

 もうだれも洞窟内にいないか見て歩き、人が残っていないのを確認すると、その時アザレアはすでに疲労困憊の状態となっていた。

 その時だった、洞窟内が激しく揺れ、岩がアザレアに向かって落ちてきた。


「アズ、アズ! 目を覚ますんだ!」

 自分を呼ぶ声で目を覚ますと、数メートル離れたところにカルがいた。頭がくらくらして、状況が読めずにいたが、自分がまだ洞窟内にいることは理解できた。

 周囲の状況を確認すると先程洞窟内が少し崩壊し、崖のように切り立った場所に自分が取り残されているのに気づいた。

 崖向こうに心配そうな顔をしたカルがいる。思わず

「カル、貴方なんでここにいますの?」

 と言うと、カルは少し安心したような困ったような顔になった。

「もちろん君を助けに来たんだよ。二回目の岩の崩落から身を守るため、イヤリングの片方が弾けてしまったようだね。片方のイヤリングだけを頼りに君を探すのに少し手間取ってしまって、遅くなってすまなかった」

 そう言って、以前アザレアが作って置いた移動魔法の使える魔石をこちらに見せた。

「この魔石のお陰で洞窟内に入ることはできた。君の近くまで行って助けたいが、君が乗っているその岩場は私が乗ったら崩れてしまうだろう。だから自分で移動できるか?」

 カルに言われて足下を確認すると、確かに今にも崩れ落ちそうだった。だがもう魔力はほとんど残っておらず、外に出るのも、カルの場所に移動するのも難しそうであった。

 アザレアはカルに言った。

「ごめんなさい、もう魔力が残ってないんですの」

 するとカルは

「じゃあそこからジャンプできるか? 僕は絶対に君を受け止めるから」

 と言うと大きくてを広げた。恐くて仕方なかったが、それしか助かる道はないだろう。

 しばらく飛ぶ勇気が出ず、躊躇していたがそんなアザレアを見てカルが言った。

「大丈夫、アズなら絶対にできるはずだ。君は勇気ある女性だ、自分と私を信じて」

 その言葉で、アザレアは意を決してカルのもとへジャンプした。その反動でアザレアの乗っていた岩場が崩れる。

 アザレアは思い切りカルの胸に飛び込んだ。

 カルはアザレアをしっかり受け止めると。両手でしっかり抱きしめた。恐怖から解放された安堵で、アザレアはカルの胸の中で思いきり泣き出してしまった。

 カルはゆっくり優しくアザレアの背中をさする。

「大丈夫、よく頑張ったね、大丈夫だよ」

 アザレアが落ち着くまで抱き締めていてくれた。しばらくそうしていたがアザレアが少し落ち着いてくると、カルは話をした。

「昔、どうしようもなくひねくれた男の子がいてね。その男の子は毎日が、全てがどうでもいいと思っていた。ところがある日、目の前にとても純粋で天使のような女の子が現れた。その女の子はその男の子に寂しくないように花をくれた。その花で男の子は救われ、生きる希望がわいた。男の子はその花を毎日眺めながら、次に女の子に会う日まで恥ずかしくないように生きようと決めた」

 静まり返った洞窟内でカルの声は優しく響いた。アザレアはそれがカルと自分の話だと気づいた。

 しばらくの沈黙のあとアザレアは極限でのストレスからか、その花がリアトリスが適当にもぎった渇れ花なのを思いだし、我慢できずにクスクスと笑いだしてしまった。

 そしてカルの胸の中からカルを見上げると言った。

「その花は渇れかかった花でしたのよ?」

 と。するとカルは微笑む。

「君がくれたらなんだっていいんだ。それに何より僕はあの時の、君の気持ちが嬉しかったんだから」

 と言うと優しく微笑んだ。

「本当に助かってくれて良かった、生きていてくれてありがとう」

 そう言って強くアザレアを抱き締めた。



 その後カルの持っていた魔石で外に出ると、外ではリアトリスやその他の町の人々が待っており物凄い拍手喝采を浴びた。リアトリスはいつものように泣き崩れていたが、町の人々がアザレアを聖女様と奉るため、それを否定しながら歩くのに疲弊した。

 カルに抱き抱えられ、用意してあった馬車に乗ると、割れんばかりの拍手に見送られて、王宮へ戻った。

 王宮へ戻りしばらく療養していると、床上で今回の崩落事故で奇跡的に死者は一人も出ていない、と報告を受けた。アザレアはそれが一番嬉しかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

悪役令嬢、追放先の貧乏診療所をおばあちゃんの知恵で立て直したら大聖女にジョブチェン?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜

華梨ふらわー
恋愛
第二王子との婚約を破棄されてしまった主人公・グレイス。しかし婚約破棄された瞬間、自分が乙女ゲーム『どきどきプリンセスッ!2』の世界に悪役令嬢として転生したことに気付く。婚約破棄に怒り狂った父親に絶縁され、貧乏診療所の医師との結婚させられることに。 日本では主婦のヒエラルキーにおいて上位に位置する『医者の嫁』。意外に悪くない追放先……と思いきや、貧乏すぎて患者より先に診療所が倒れそう。現代医学の知識でチートするのが王道だが、前世も現世でも医療知識は皆無。仕方ないので前世、大好きだったおばあちゃんが教えてくれた知恵で診療所を立て直す!次第に周囲から尊敬され、悪役令嬢から大聖女として崇められるように。 しかし婚約者の医者はなぜか結婚を頑なに拒む。診療所は立て直せそうですが、『医者の嫁』ハッピーセレブライフ計画は全く進捗しないんですが…。 続編『悪役令嬢、モフモフ温泉をおばあちゃんの知恵で立て直したら王妃にジョブチェン?! 〜やっぱり『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件~』を6月15日から連載スタートしました。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/500576978/161276574 完結しているのですが、【キースのメモ】を追記しております。 おばあちゃんの知恵やレシピをまとめたものになります。 合わせてお楽しみいただければと思います。

愛を知らない「頭巾被り」の令嬢は最強の騎士、「氷の辺境伯」に溺愛される

守次 奏
恋愛
「わたしは、このお方に出会えて、初めてこの世に産まれることができた」  貴族の間では忌み子の象徴である赤銅色の髪を持って生まれてきた少女、リリアーヌは常に家族から、妹であるマリアンヌからすらも蔑まれ、その髪を隠すように頭巾を被って生きてきた。  そんなリリアーヌは十五歳を迎えた折に、辺境領を収める「氷の辺境伯」「血まみれ辺境伯」の二つ名で呼ばれる、スターク・フォン・ピースレイヤーの元に嫁がされてしまう。  厄介払いのような結婚だったが、それは幸せという言葉を知らない、「頭巾被り」のリリアーヌの運命を変える、そして世界の運命をも揺るがしていく出会いの始まりに過ぎなかった。  これは、一人の少女が生まれた意味を探すために駆け抜けた日々の記録であり、とある幸せな夫婦の物語である。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」様にも短編という形で掲載しています。

氷の騎士は、還れなかったモブのリスを何度でも手中に落とす

みん
恋愛
【モブ】シリーズ③(本編完結済み) R4.9.25☆お礼の気持ちを込めて、子達の話を投稿しています。4話程になると思います。良ければ、覗いてみて下さい。 “巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について” “モブで薬師な魔法使いと、氷の騎士の物語” に続く続編となります。 色々あって、無事にエディオルと結婚して幸せな日々をに送っていたハル。しかし、トラブル体質?なハルは健在だったようで──。 ハルだけではなく、パルヴァンや某国も絡んだトラブルに巻き込まれていく。 そして、そこで知った真実とは? やっぱり、書き切れなかった話が書きたくてウズウズしたので、続編始めました。すみません。 相変わらずのゆるふわ設定なので、また、温かい目で見ていただけたら幸いです。 宜しくお願いします。

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

処理中です...