婚約破棄が流行しているようなので便乗して殿下に申し上げてみましたがなぜか却下されました

SORA

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 殿下という王族であろうお方が、息切れして汗も滝のように流れているではないか。

 その姿に私は驚いてしまう。

「ちょっとマルク殿下?! そんな姿はみっともないですよ?」

「はぁ、誰のせいでこんな必死に走ってきたんだと思っているんだ?」

「ほら、またため息なんて……」

 ため息を吐く殿下の姿がやけに嬉しく感じてしまう。

 今までは億劫でしかなかったのにどういう心境の変化だろうか。

 もしやこれが、いわゆる役が自分に入るということなのだろうか。

 そんなことを考えていると後ろから甘い猫なで声が聞こえてきたのだった。

「ジョージさまー!! やっと私を必要だと気付いてくださったのですね。ジェニファー嬉しゅうございますぅ」

 やはり思っていた人物だったことになぜか安心する。

 って待って。
 今私殿下をお慕いする誰かが追いかけてきていたのかもって心配だったってこと?

 私は頭の中で1人脳内会議を繰り広げていると殿下が私を抱きしめる。

「頼む、これ以上俺の嫉妬をかき乱すような真似はやめてくれないか?」

「えっ……と……マルク殿下……? どうして抱きしめているのでしょうか?」

 なぜだかわからないが体温がどんどんと上昇し、心臓もいつもより数段と早く脈打っている。

「はぁっ。こんなにも俺の気持ちがわからないなんて……こんなことになるならもういっそお前の意志など無視して自分のモノにしておくべきだったな」

 どういう意味か問いただそうとした時には、すでに私の口はマルク殿下に覆われていたのだった。

「フレアとのキスは甘くて美味しいな。ごちそうさま」

 マルク殿下の唇が離れた時には、私の呼吸は荒くなっており顔が真っ赤になり火照っていた。

「……」

「くそっ。そんな可愛い反応されたたらもう一度したくなる」

 マルク殿下に再び抱きしめられると思いきや、銀髪姿の別の逞しい胸板に顔を埋められていたのだった。

「マルク殿下お越しいただき光栄でございます。ようこそアマーレ劇場に」

 私の頭上ではジョージ様が劇場内に響くような舞台と同じ大きくていい声でマルク殿下を歓迎していた。

「おい、フレアから離れろ!!」

「申し訳ありませんができかねます。彼女は私のフィアンセですので」

「なんだと?! フレアは俺の婚約者だ!!」

 取り乱すマルク殿下に私は説明することにした。

「マルク殿下落ち着いてください。ジョージ様は今役に入っておられるのですよ。私は婚約破棄される令嬢役なんです」

 私の言葉にマルク殿下は意味が分からないとあんぐりと口を大きく開けたまま固まっている。

 ジョージ様はクックックと笑い転げている。

 私はなんかおかしなことでも言っただろうか。

「フレアちゃんは本当に面白い子だね。やっぱり君は私の運命の人なのかもしれないな」

 視線が絡まっていたけど前回のようなドキドキはもう感じなかった。

「ちょっと、ジョージ様!! そんな女ではなく私が真実の相手ですわ」

 ジェニファーが鬼の形相で私とジョージ様を離す。

「そうですよね。ジェニファー様がジョージ様の真実のお相手ですもんね!! みなさんすごいですね。もう役になり切っていらっしゃる。私も早く切り替えなきゃ」

「フレアちゃんは……ハハハハ。そうだね。もう開幕時間だ。みんな準備にかかるぞ」

 真面目な表情でジョージ様が号令をかけるとそれぞれ動き始めた。

「おい、待て。俺の話はまだ終わっていない!!」

「マルク殿下には特等席をご用意しておきますので指でも咥えて観劇をぜひお楽しみください」

「はぁっ?! なんだと? フレアは出なくていい。帰るぞ」

「マルク殿下申し訳ありませんがそれはできません。私に一生懸命ご指導していただいた方に失礼です。出たいのに我慢して私を稽古してくれたんです。ちゃんと結果を出さなければ全部意味ないです」

「はぁっ、ほんとっ……そういうとこだけしっかりしているんだから。そんなフレアだから好きなんだけどな。わかった。俺はお前の初めての晴れ姿を見ていてやるから頑張って来いよ」

「す……き……っ?! あ、っと……え……と、はい。いってきます」

 私はマルク殿下の「好き」という言葉に動揺を隠せずにいた。

 その場から逃げるように準備をするために控え室へと急いだのだった。


 
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