15 / 17
15
しおりを挟む
殿下という王族であろうお方が、息切れして汗も滝のように流れているではないか。
その姿に私は驚いてしまう。
「ちょっとマルク殿下?! そんな姿はみっともないですよ?」
「はぁ、誰のせいでこんな必死に走ってきたんだと思っているんだ?」
「ほら、またため息なんて……」
ため息を吐く殿下の姿がやけに嬉しく感じてしまう。
今までは億劫でしかなかったのにどういう心境の変化だろうか。
もしやこれが、いわゆる役が自分に入るということなのだろうか。
そんなことを考えていると後ろから甘い猫なで声が聞こえてきたのだった。
「ジョージさまー!! やっと私を必要だと気付いてくださったのですね。ジェニファー嬉しゅうございますぅ」
やはり思っていた人物だったことになぜか安心する。
って待って。
今私殿下をお慕いする誰かが追いかけてきていたのかもって心配だったってこと?
私は頭の中で1人脳内会議を繰り広げていると殿下が私を抱きしめる。
「頼む、これ以上俺の嫉妬をかき乱すような真似はやめてくれないか?」
「えっ……と……マルク殿下……? どうして抱きしめているのでしょうか?」
なぜだかわからないが体温がどんどんと上昇し、心臓もいつもより数段と早く脈打っている。
「はぁっ。こんなにも俺の気持ちがわからないなんて……こんなことになるならもういっそお前の意志など無視して自分のモノにしておくべきだったな」
どういう意味か問いただそうとした時には、すでに私の口はマルク殿下に覆われていたのだった。
「フレアとのキスは甘くて美味しいな。ごちそうさま」
マルク殿下の唇が離れた時には、私の呼吸は荒くなっており顔が真っ赤になり火照っていた。
「……」
「くそっ。そんな可愛い反応されたたらもう一度したくなる」
マルク殿下に再び抱きしめられると思いきや、銀髪姿の別の逞しい胸板に顔を埋められていたのだった。
「マルク殿下お越しいただき光栄でございます。ようこそアマーレ劇場に」
私の頭上ではジョージ様が劇場内に響くような舞台と同じ大きくていい声でマルク殿下を歓迎していた。
「おい、フレアから離れろ!!」
「申し訳ありませんができかねます。彼女は私のフィアンセですので」
「なんだと?! フレアは俺の婚約者だ!!」
取り乱すマルク殿下に私は説明することにした。
「マルク殿下落ち着いてください。ジョージ様は今役に入っておられるのですよ。私は婚約破棄される令嬢役なんです」
私の言葉にマルク殿下は意味が分からないとあんぐりと口を大きく開けたまま固まっている。
ジョージ様はクックックと笑い転げている。
私はなんかおかしなことでも言っただろうか。
「フレアちゃんは本当に面白い子だね。やっぱり君は私の運命の人なのかもしれないな」
視線が絡まっていたけど前回のようなドキドキはもう感じなかった。
「ちょっと、ジョージ様!! そんな女ではなく私が真実の相手ですわ」
ジェニファーが鬼の形相で私とジョージ様を離す。
「そうですよね。ジェニファー様がジョージ様の真実のお相手ですもんね!! みなさんすごいですね。もう役になり切っていらっしゃる。私も早く切り替えなきゃ」
「フレアちゃんは……ハハハハ。そうだね。もう開幕時間だ。みんな準備にかかるぞ」
真面目な表情でジョージ様が号令をかけるとそれぞれ動き始めた。
「おい、待て。俺の話はまだ終わっていない!!」
「マルク殿下には特等席をご用意しておきますので指でも咥えて観劇をぜひお楽しみください」
「はぁっ?! なんだと? フレアは出なくていい。帰るぞ」
「マルク殿下申し訳ありませんがそれはできません。私に一生懸命ご指導していただいた方に失礼です。出たいのに我慢して私を稽古してくれたんです。ちゃんと結果を出さなければ全部意味ないです」
「はぁっ、ほんとっ……そういうとこだけしっかりしているんだから。そんなフレアだから好きなんだけどな。わかった。俺はお前の初めての晴れ姿を見ていてやるから頑張って来いよ」
「す……き……っ?! あ、っと……え……と、はい。いってきます」
私はマルク殿下の「好き」という言葉に動揺を隠せずにいた。
その場から逃げるように準備をするために控え室へと急いだのだった。
その姿に私は驚いてしまう。
「ちょっとマルク殿下?! そんな姿はみっともないですよ?」
「はぁ、誰のせいでこんな必死に走ってきたんだと思っているんだ?」
「ほら、またため息なんて……」
ため息を吐く殿下の姿がやけに嬉しく感じてしまう。
今までは億劫でしかなかったのにどういう心境の変化だろうか。
もしやこれが、いわゆる役が自分に入るということなのだろうか。
そんなことを考えていると後ろから甘い猫なで声が聞こえてきたのだった。
「ジョージさまー!! やっと私を必要だと気付いてくださったのですね。ジェニファー嬉しゅうございますぅ」
やはり思っていた人物だったことになぜか安心する。
って待って。
今私殿下をお慕いする誰かが追いかけてきていたのかもって心配だったってこと?
私は頭の中で1人脳内会議を繰り広げていると殿下が私を抱きしめる。
「頼む、これ以上俺の嫉妬をかき乱すような真似はやめてくれないか?」
「えっ……と……マルク殿下……? どうして抱きしめているのでしょうか?」
なぜだかわからないが体温がどんどんと上昇し、心臓もいつもより数段と早く脈打っている。
「はぁっ。こんなにも俺の気持ちがわからないなんて……こんなことになるならもういっそお前の意志など無視して自分のモノにしておくべきだったな」
どういう意味か問いただそうとした時には、すでに私の口はマルク殿下に覆われていたのだった。
「フレアとのキスは甘くて美味しいな。ごちそうさま」
マルク殿下の唇が離れた時には、私の呼吸は荒くなっており顔が真っ赤になり火照っていた。
「……」
「くそっ。そんな可愛い反応されたたらもう一度したくなる」
マルク殿下に再び抱きしめられると思いきや、銀髪姿の別の逞しい胸板に顔を埋められていたのだった。
「マルク殿下お越しいただき光栄でございます。ようこそアマーレ劇場に」
私の頭上ではジョージ様が劇場内に響くような舞台と同じ大きくていい声でマルク殿下を歓迎していた。
「おい、フレアから離れろ!!」
「申し訳ありませんができかねます。彼女は私のフィアンセですので」
「なんだと?! フレアは俺の婚約者だ!!」
取り乱すマルク殿下に私は説明することにした。
「マルク殿下落ち着いてください。ジョージ様は今役に入っておられるのですよ。私は婚約破棄される令嬢役なんです」
私の言葉にマルク殿下は意味が分からないとあんぐりと口を大きく開けたまま固まっている。
ジョージ様はクックックと笑い転げている。
私はなんかおかしなことでも言っただろうか。
「フレアちゃんは本当に面白い子だね。やっぱり君は私の運命の人なのかもしれないな」
視線が絡まっていたけど前回のようなドキドキはもう感じなかった。
「ちょっと、ジョージ様!! そんな女ではなく私が真実の相手ですわ」
ジェニファーが鬼の形相で私とジョージ様を離す。
「そうですよね。ジェニファー様がジョージ様の真実のお相手ですもんね!! みなさんすごいですね。もう役になり切っていらっしゃる。私も早く切り替えなきゃ」
「フレアちゃんは……ハハハハ。そうだね。もう開幕時間だ。みんな準備にかかるぞ」
真面目な表情でジョージ様が号令をかけるとそれぞれ動き始めた。
「おい、待て。俺の話はまだ終わっていない!!」
「マルク殿下には特等席をご用意しておきますので指でも咥えて観劇をぜひお楽しみください」
「はぁっ?! なんだと? フレアは出なくていい。帰るぞ」
「マルク殿下申し訳ありませんがそれはできません。私に一生懸命ご指導していただいた方に失礼です。出たいのに我慢して私を稽古してくれたんです。ちゃんと結果を出さなければ全部意味ないです」
「はぁっ、ほんとっ……そういうとこだけしっかりしているんだから。そんなフレアだから好きなんだけどな。わかった。俺はお前の初めての晴れ姿を見ていてやるから頑張って来いよ」
「す……き……っ?! あ、っと……え……と、はい。いってきます」
私はマルク殿下の「好き」という言葉に動揺を隠せずにいた。
その場から逃げるように準備をするために控え室へと急いだのだった。
10
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄された令嬢の父親は最強?
岡暁舟
恋愛
婚約破棄された公爵令嬢マリアの父親であるフレンツェルは世界最強と謳われた兵士だった。そんな彼が、不義理である婚約破棄に激怒して元婚約者である第一王子スミスに復讐する物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】待ち望んでいた婚約破棄のおかげで、ついに報復することができます。
みかみかん
恋愛
メリッサの婚約者だったルーザ王子はどうしようもないクズであり、彼が婚約破棄を宣言したことにより、メリッサの復讐計画が始まった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夜会の夜の赤い夢
豆狸
恋愛
……どうして? どうしてフリオ様はそこまで私を疎んでいるの? バスキス伯爵家の財産以外、私にはなにひとつ価値がないというの?
涙を堪えて立ち去ろうとした私の体は、だれかにぶつかって止まった。そこには、燃える炎のような赤い髪の──
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる