婚約破棄が流行しているようなので便乗して殿下に申し上げてみましたがなぜか却下されました

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　私は無我夢中でセリフを覚えることにした。練習していると一人の女性がやってきた。

「あのさーなんで素人のあなたがいきなり舞台に立つとかおかしいとは思わないの？　普通辞退とかするでしょ？」

「へっ？　あの……辞退も何もジョージ様が勝手に決めましたよね？」

「くっ、何なのよ、あなた。ちょっとジョージ様に気に入られたからって調子に乗って……」

　その女性をよく見てみるとフレアーヌ役の女性だった。周囲がその女性を宥めている。

「すみません。素人がでしゃばったりして……でも私やってみたいんです。頑張りますので教えていただきませんか？」

「……何かジョージ様の考えあっての配役変更なんだろうから今は我慢するわ。さっきから聞いてて思ったんだけどあなた感情が入っていないのよ。棒読みとかやめてくれる？」

「あっ、はい。すみません」

　私たちはどれくらい練習を繰り返しただろうか。その度に何度も「婚約破棄」と言われるうちにされる側がいかにしんどいか苦しいかという感情が芽生えてきた。

　マルク殿下は私から婚約破棄を言われた時こんなにも辛かったのだろうか。

　ため息ばかり出るマルク殿下は今頃ため息を吐いていないだろうか、頭痛はないだろうか、だんだんと心配になってきた。

　今まではいつもそばにいてお話し相手になってため息を吐く度に励ましてきた。私とお別れしたら今後は誰が彼の頭を撫でるのだろうか。他の令嬢が撫でているところを想像するとなぜか胸がチックと痛んだ。

「フレア！！　何考えているの？　好きな人と結ばれるようになったのだからもっと喜びなさいよ」

「あ、はい。でも……婚約者として情などは一切なかったのでしょうか？

　私は今モヤモヤした気持ちを指導してくれているキメラに確認する。

「情があるならお互い婚約破棄なんかしないと思うわ。それに他に好きな人なんかできないでしょ？」

「う～ん。そんなものなんですかね？」

　私は余計に頭が混乱してくる。なら今マルク殿下に抱いているこの気持ちは何なんだろうか。

「余計なことを考える暇はないのよ。あなたはマイク殿下演じるジョージ様に婚約破棄されるの。そして幼馴染であるチャールズと結ばれるのよ。わかった？」

「あ、はい。わかってはいますけど……チャールズってどなたが演じるのですか？」

　そう尋ねると一人の茶髪男性が現れる。

「チャールズ役を演じるルーベルトです。よろしくお願いします」

　ぶっきらぼうに挨拶を済ませるとそのまま立ち去ろうとする。

「あ、フレアです。未熟者ですかよろしくお願いします」

「演劇第一主義のジョージ様が選んだ相手なんだ。経験不足かもしれないが素質はあるんだと思います。頑張ってください」

「ちょっとルーベルト？！　やっとフレアがセリフ回しができるようになってきたのよ。ちょっと相手してあげてくれない？」

「わかりました」

　いざ稽古を始めると、さっきまでのぶっきらぼうで不愛想だった彼の雰囲気が一気に変わる。

　距離もいきなり近くなり、本当に幼馴染だったのかもと思わせるような演技力に脱帽してしまう。

　それに何よりも私を迎えに来た時の彼の表情が本当に私を愛してくれていると錯覚してしまいそうになってしまう。

　そのまま雰囲気と勢いに任されてしまい、キスするシーンまで進んでいたようで顔が目の前にあったので目を瞑って受け入れ態勢を取っていると、

「おい、ちょっと待てー！！　フレア！！　絶対するなよ！！」

　聞き覚えのある声が聞こえてきて、ハッと我に返りルーベルトの前から一気に身を逸らしたのだった。