上 下
12 / 17

12

しおりを挟む
 マルク殿下の悲し気な表情が頭から離れない。

「あの……どこに行くんですか?」

「決まっているだろう? 稽古だよ」

「いや……もう私舞台に出られなくて大丈夫です。やはり婚約破棄や真実の愛は物語だから成立するものであって、誰かを傷つけてまで突っ走るものではないと思います」

 私の言動に気に食わなかったのかジョージ様は顔を盛大に歪めた。

「ふっ、物語だからか。だとすればフレアちゃん、今現在流行している婚約破棄ブームはどう説明するんだい?」

「あれは……できる人とできない人がいるんですよ!!」

「ハハハ、恋愛したことのない君にはまだ難しい問題だったのかもしれないね。けどね婚約破棄して真実の愛を見つけることは本当は素晴らしいんだよ」

 ジョージ様は何か心当たりがあるのかいつもの演劇口調ではなくなっていた。

「確かにあの舞台を見ていればわかります。それに私も殿下に婚約破棄を申し出た身ですし……ですが、さっきの心配していた時の顔や私が出て行くときの表情を見たら、とんでもないことを私がしようとしているのではないかという気になってきました」

「そうかい、フレアちゃんは優しいんだね。でもね私も君みたいな子が初めてなんだよ。欲しいものは全力で奪うのがポリシーでね。それにあの殿下はもうジェニファーと結婚することになるんじゃないかな」

「えっ? どういうことですか?」

「ハハハ、別にいいだろう? 君も婚約破棄したいと思っていたんだから」

「そうですけど……そんなすぐに結婚ってなりますか?」

 結婚の言葉を聞いて私は正直驚いてしまう。自分と婚約破棄すれば誰かと結婚するのはわかっていたはずだったけど、この胸の息苦しさはなんだろう。ため息が出てしまう。

「はぁ」

「まぁいい、今日の稽古からここの稽古場で暮らしていけばいい。きっと家の方にも捜索が行くだろう」

「両親をこれ以上心配させたくないので帰ります」

 私は劇場から家に帰ろうとしたところ、両親が劇場にやってきていた。

「フレア?! 騒ぎを聞きつけて街を歩いていたところ、この子がフレアはここにいると教えてくれたわ」

 お母様が撫でていた頭はレオだった。

「ジョージ様、お連れしました」

 レオは唇を一文字にしたままそれ以上話さない。

「あぁ、ご苦労だった」

 ジョージ様はそのままお母様に近づきゆっくりと見つめていくと、どうやらお母様の様子がおかしい。

 それに気づいたお父様が制止させようとしたけどもう遅かったようだ。

「ジョージ様に娘のフレアをお願いします」

「えっ? キャメルどういうことだい?」

「ふっ、ありがとうござます、マダム」

 そう言ってお母様の頬に口づけするとそのまま倒れてしまった。

「お、お母様!! ジョージ様お母様に何をしたんですか?」

「何もしていないよ。これが普通の女性の反応なんだよ」

「おかしいですよ!! なら同じ劇場の仲間の女性はどうしてですか?」

「あーあれは……抱けばみんな収まるみたいなんだよ」

 ジョージ様は頭をポリポリと掻きながら照れくさそうに言った。

「な、なんですって……そんなことって……」

「フレアちゃん、男女の関係っていうのはそんなものだよ。だから君の場合はね、逆なんじゃないかと思うんだ。抱けばずっと私を愛し続けるのかもしれない。君がきっと私の運命の相手なんだ」

 舞台上で言えば「運命の相手」という言葉は破壊力があって憧れ素敵って思ったのだろうけど、実際の発言はあまりにも下品でひどい。

「ジョージ様……仮にもうちの両親がおりますし、こんな小さな子がいる前でそのようなことを申し上げないでください。私は帰ります」

「そうか、わかった。ならこうしよう。君がここにいてくれるならばマルク殿下の騒ぎはどうにかしてあげよう」

「えっ……それって……」

「婚約破棄はしてもらうが、理由はあの高級宿と女性と共にしたからではない。私の婚約者を救ってくれるため致し方なかったということにしてやる」

「はい? 婚約者? いったいどういう意味ですか?」

 私は全く意味が分からずにいたのだけど、なぜかマルク殿下の経歴に傷がつかないならと少しホッと安心していた自分がいたのだった。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乳だけ立派なバカ女に婚約者の王太子を奪われました。別にそんなバカ男はいらないから復讐するつもりは無かったけど……

三葉 空
恋愛
「ごめん、シアラ。婚約破棄ってことで良いかな?」  ヘラヘラと情けない顔で言われる私は、公爵令嬢のシアラ・マークレイと申します。そして、私に婚約破棄を言い渡すのはこの国の王太子、ホリミック・ストラティス様です。  何でも話を聞く所によると、伯爵令嬢のマミ・ミューズレイに首ったけになってしまったそうな。お気持ちは分かります。あの女の乳のデカさは有名ですから。  えっ? もう既に男女の事を終えて、子供も出来てしまったと? 本当は後で国王と王妃が直々に詫びに来てくれるのだけど、手っ取り早く自分の口から伝えてしまいたかったですって? 本当に、自分勝手、ワガママなお方ですね。  正直、そちらから頼んで来ておいて、そんな一方的に婚約破棄を言い渡されたこと自体は腹が立ちますが、あなたという男に一切の未練はありません。なぜなら、あまりにもバカだから。  どうぞ、バカ同士でせいぜい幸せになって下さい。私は特に復讐するつもりはありませんから……と思っていたら、元王太子で、そのバカ王太子よりも有能なお兄様がご帰還されて、私を気に入って下さって……何だか、復讐できちゃいそうなんですけど?

安らかにお眠りください

くびのほきょう
恋愛
父母兄を馬車の事故で亡くし6歳で天涯孤独になった侯爵令嬢と、その婚約者で、母を愛しているために側室を娶らない自分の父に憧れて自分も父王のように誠実に生きたいと思っていた王子の話。 ※突然残酷な描写が入ります。 ※視点がコロコロ変わり分かりづらい構成です。 ※小説家になろう様へも投稿しています。

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました

八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」 子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。 失意のどん底に突き落とされたソフィ。 しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに! 一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。 エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。 なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。 焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。……これは一体どういうことですか!?

四季
恋愛
朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。

いちゃつきを見せつけて楽しいですか?

四季
恋愛
それなりに大きな力を持つ王国に第一王女として生まれた私ーーリルリナ・グランシェには婚約者がいた。 だが、婚約者に寄ってくる女性がいて……。

悪役令嬢に転生して主人公のメイン攻略キャラである王太子殿下に婚約破棄されましたので、張り切って推しキャラ攻略いたしますわ

奏音 美都
恋愛
私、アンソワーヌは婚約者であったドリュー子爵の爵士であるフィオナンテ様がソフィア嬢に心奪われて婚約破棄され、傷心…… いいえ、これでようやく推しキャラのアルモンド様を攻略することができますわ!

二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。

当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。 しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。 最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。 それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。 婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。 だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。 これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。

処理中です...