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七、
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「……え、しょうもな……」
うつむく奇妙丸に対し、勝蔵はぽろりと零してしまった。次の瞬間、奇妙丸が鬼の形相で睨みつけてくる。一瞬しまった、と思ったが、勝蔵は止めようとは思わなかった。先ほど思ったことを、この際言ってしまおうと思ったのだ。
「貴様……ッ」
奇妙丸が苛立ったように、声を絞り出す。声変わりがはじまったばかりのような、不安定な声音であった。
「儂の悩みを、しょうもないと言うたか!?」
「うん」
勝蔵はきっぱりはっきり断言した。胸倉に伸びて来た奇妙丸の手を受け止めつつ、むしろ却って捻り返しながら。
「そんな悩み――はっきり言って、俺からしたら大したこともない悩みですよ。喪主くらい、務めさせてやったらどうです? 嫡男である若と違って、茶筅丸様にとっては、滅多にない機会なんですよ」
「機会じゃと!?」
奇妙丸は乱暴に捻られていた手を振り払った。
「まるで、母上の死を、自らの名を挙げる機会のように……貴様、我が母と弟をなんだと思うておる!!」
「若の母君と、若の弟君だと思ってますよ」
もっとも母君の方には会ったこともないですけど、と勝蔵はあっけらかんと言った。奇妙丸がまた苛立ったように胸倉を掴んでくる。今度は腕を捻ってやることはなかった。代わりに、奇妙丸の麗しい顔と瞳を睨みつけてやる。
「嫡男の若には――一生分かんねえよ」
勝蔵は、唇から血が滲むほど噛み締めた。
茶筅丸は、どうやっても奇妙丸の臣下である。生まれた順序が、奇妙丸より後だからだ。
これから先、どう成長していくかは分からない。それでも、奇妙丸より優れた武将になることは、まずないだろう。母が同じでも、織田家の和子として生を受けていても、次男以下の扱いなどそのようなものだ。
勝蔵とて、可隆に勝ることがこの先あるとは思わない。えいや可成になにかあったとしても、可隆を押しのけられるとは到底思えない。次男として生まれた時点で――森家の当主になることなどまずもってありえないのだ。仮になるとしたら可隆が男児に恵まれなかった時、はじめてお鉢が回ってくるのである。
「喪主であることが、そんなに大切ですか。若は、ご自身の面子しか興味がねえわけですか」
「そんなわけ!!」
「別に、喪主じゃなくたって、どんな立場だって、母君を悼む気持ちは変わんねえでしょ」
勝蔵が言うと、奇妙丸の張り手が飛んできた。勝蔵は避けることなく、攻撃を受け止めた。乾いた音が庭に響き渡った。
「もういい、帰る!」
奇妙丸は茶碗を乱暴に置くと、立ち上がった。足元の土を掴むと、勝蔵の顔面に向かって投げつけてくる。
「貴様なぞに、儂の気持ちは分からんわ!」
「分かりませんよーだ」
舌を出すと、今度は手刀が振ってきた。うっかり噛んでしまった舌の痛みに悶絶しながら、勝蔵は奇妙丸を見送った。
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