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4、死の淵の招き歌

十一

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 地面に叩きつけられる衝撃で、明晴あきはるは声にならない悲鳴を上げた。
「~ッ~~~~」
「明晴!」
 清夏きよかが慌てて明晴を抱き起こす。
「無様だな」
 そんな明晴を冷徹に見下ろすのは、十二天将じゅうにてんしょうの頭領・青龍せいりゅうである。
春霞しゅんか、もう少し優しくしてくれてもいいじゃないか……」
「お黙り」
 春霞は素っ気なく顔を背ける。
 清夏もさすがに何か言おうとしたが、その前に春霞の鋭い眼光が黙らせた。
「半人前を甘やかす筋合いはない。悔しければ、さっさと強くなることだな」
 春霞は、杉谷善住坊すぎたにぜんじゅうぼうと対峙する紅葉と白雪の方を振り返った。
白虎びゃっこ玄武げんぶ。揃いも揃って情けないぞ。それが十二天将を統べる四神ししんに名を連ねる者どものざまかと思うと、頭として涙が出るわ」

「「うるさい!」」

 紅葉と白雪は、神気を集中させた。風雨が徐々に弱まろうとしている。今のままでは、善住坊を閉じ込めて置けるのも時間の問題だ。

(どうする? どうすれば、善住坊を止められる……)

 明晴は春霞を振り返った。
「春霞、頼みが」
「断る」
 春霞は皆まで言わずにぶった切った。
「妾に頼ろうとするな。そなたが自分で蒔いた種であろう」
「そ、それはそうだけど……」
 少しくらい悩んでくれてもいいじゃないか、と明晴は不貞腐れた。
「……力を貸さぬ、とは言っておらぬだろう」
 春霞は肩を落とす明晴の手――玉依姫から渡された数珠がついていない右手――に、数珠を置いた。首に掛けられるほどの長さがある。
「それを腕に巻け、明晴」
「腕に?」
「貸してごらん」
 春霞は、明晴の右腕に数珠をぐるぐると巻きつけた。
 うっすらと桃色に染まる数珠の表面には、桜の花びらが浮かび上がっている。
「その数珠は――初音の髪をもらい受けている」
「髪!? 切ったの? 女の人の命を?」
「出家させるほどではない。――明晴、目には目をという言葉を知っているだろう」
「目には目を、歯には歯を……って奴? 異国の裁き方だよね。でも、俺鉄砲なんか持ってないし、使い方も分からないよ」
 鉄砲には鉄砲を――と言われても、明晴は鉄砲の使い方が分からない。そして、四神を全員呼んだことにより、明晴は今、立っているのもやっとなのだ。
 砲撃による反動に耐えられないだろう。
「たわけ者」
 春霞はまたもや明晴を殴った。
「仮にも怪我人!」
「我らが異界に引っ込めばすぐに落ち着く。この程度で騒ぐな。――忘れたか。お前は、陰陽師だぞ。願えばよかろう」
「願う……?」
「その数珠には、火を司る女神の加護をかけてある。朱雀の火を思い出せ」
 朱雀の火は、浄化の火。
 そして明晴は――陰陽術を使う者。
 明晴は数珠を巻きつけた右手の指を2本立てた。

「我が名は明晴――天におわします火の女神よ、我に力を与えたまえ……」

 脳裏に、春の風景が思い浮かぶ。

 数珠に浮かんだ桜の絵。
 火の女神。
 玉依姫。
 そしてその女神の加護を運んで来た春霞は、春を司る神・青龍。

 舞い散る桜吹雪を瞼の裏に焼きつけながら、明晴は女神の名を呼んだ。

「――木花咲耶姫命このはなさくやひめのみこと
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