独身女と酒彼氏の同棲日記

水城真以

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旅行篇

甲州征伐への出陣を決めた独身酒飲み女

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    10月21日金曜日深夜、せっせと荷作りをする独身介護士女、みずきちです。
 普段酒彼氏とイチャイチャしてばかりのせいで、整理整頓が本当にできない。そういうとこだぞ、って、イマジナリー森長可からの突っ込み無骨が私を襲う。ていうか職場でもよく怒られます。


 荷造りって、どうしてこんなに難しいんだろう。

 旅は1泊、行先は甲府。前日入りしなければならないほど遠くに行くわけでは決してない。でも、あれも持っていきたいこれも持っていきたい、そんな夢と欲にまみれた持ち物とともに、化粧品とか本とか旅のお供必須のものを肩掛けショルダーなバッグに詰め込む。1泊だからキャリーでなくていいだろうと思ったことを、後に私は後悔する羽目になります。


 結局、荷づくりが終わったのは、3時近くなってから。もうこれ、眠ることをあきらめるべきでは???? と思う反面、諦めたらそこで試合終了だよ、と某先生が呟く。早番出勤時のように、アラームを30分ごと設定し、浅い眠りにしたら起きられると過信した結果、当日見事に寝坊しました。イマジナリー織田信忠と森長可にたわけ者うつけ者バカ野郎と罵倒されながら慌てて出立。駅まで徒歩10分ちょっとの道のりをダッシュしていた私は、腐ったゴリラの鼻くそのような形相だったことでしょう。ご近所の皆さま、驚かせてしまって申し訳ございません。

 予定していた電車より遅く、なんなら予約していた特急にぎりぎりセーフな勢いで滑り込みました。
「そなたのそういうところ、よくないと思う――」
 生真面目なイメージが強い織田信忠様ですが、当方の信忠様は酒カスな私に対して評価が手厳しいようです。甲州征伐の時の逸話は、結構突っ込みどころがあるけれど、松姫さまとの仲睦まじいところには萌えもあるけれど、やっぱり織田信忠は織田信忠なのでした。

 特急に乗る直前に、もちろん朝ごはんを仕入れ、彼ピッピこと酒雄さんとも合流。

 季節はようやく秋らしい気候になってきたけれど、白銀に輝く酒雄さんのビジュアルと、お弁当の白いラベルは冬のような涼しげな清廉さを示していました。私も彼らのように、あるがまま、正直に、そしてまっすぐ生きていきたい。そんな思いで、時刻は朝9時ちょい前。アルコールを接種して心の健康を保っていくことを決意しました。



 旅の朝、新幹線や特急に乗る際は必ず駅弁を食べようと思っています。やっぱりのどかな旅路、車窓から見える風景には駅弁がよく似合う。
 八王子駅、結構色んな駅弁が売ってて見てるだけでも楽しかった。この押し寿司もそうですが、サイトには載っていない限定のメニューもあって、悩む時間もわくわくしました。とはいえ電車の時間が迫っていたので、ひとめぼれした自分の直感を信頼しました。

 ほどよい酸味と、鯵特有のにおいが絡み合っていて、ビールを傾ける手が止まらない……。幸せって、きっとこういうことなんだろうな、と思いました。お酒の力って、恋の力って、すごい。
 本当は車内販売カートが来ないかな、なんて願っていたけれど、行きに出会うことはありませんでした。恋が実る可能性がどれだけ奇跡的なものであるのか、人生勉強を積ませていただいたみずきちでした。

 今回は珍しく酒雄さんとの二人旅ではなく、甲府で友達と待ち合わせ――私の方が早く到着したので、駅構内をうろうろする。甲州印伝のショップをのぞいたり、お土産屋さんを覗いたりしているうちに、酒雄さんを見失ってしまいました。一体どこに行ったんだ、彼は。うろうろしていると、ワインショップ(?)を発見。

 てっきり販売だけかと思いきや、立ち飲みもやっているとありました。中に入ると、案の定酒雄さんが待ち構えていてくれました。
 お宿に着いてからまだ飲むのでしょうと思いつつ、でも友人の到着予定時刻はちょうど20分後くらい。甘口ワインなら実質ジュースだよね、という酒雄さんの囁きと、「お前はバカだ」というイマジナリー森長可の突っ込みが交互に聞こえるけれど、そんなこたぁ気にしない。


 赤ワインの芳醇な香りと、白ワインのコク。甘口で飲みやすいので、おつまみなしでもいくらでも飲める気がしてしまう。まだ開店したばかりでフードが注文できないらしく、そこだけが未練でした。

 甲府駅といえば武田信玄の銅像があります。美味しいものがいっぱい食べられるようにと願掛けしながら、友達と合流。歴史巡りをしつつお酒がたらふく飲める幸せに感謝と乾杯をしながら、二日間武田攻めします、と信玄公にお伝えしました。








信玄「帰れ」
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