6 / 20
2、藤の姫
二、
しおりを挟む
翌日はそれほど暑苦しくなく、心地良い気候だった。
仙千代に一応町に出ることを伝えると、「いいんじゃないか?」と勧められた。
『金山城下には商家がいっぱいある。売り飛ばされないよう、くれぐれも気をつけろよ』
なんか物騒なアドバイスももらったが、気にしないことにしたかった。
金山城下には、「金山湊」と呼ばれる大きな船着場がある。そこから船を出し、荷物などを流しているらしい。特に城主の森勝蔵長可は、塩に目をつけたようだ。塩の売買に特許を与えることで、塩を名産品にしようとしたのである。
「お塩は大切よ。戦場には、大名から足軽、雑兵に至るまで持って行くんだから」
「たしかに。それに、塩気が効いているものは美味しいもんね」
「お前食ってばっかりだなぁ!」
紅葉がからかうと、初音は袖で口元を抑えた。
「いいことだわ。明晴はまだ子どもなんだもの。いっぱい食べて、大きくなって」
初音に対して淡い想いを抱く明晴と違い、初音は明晴を弟のようにしか思っていなかった。
少しは背が伸びた気がするが、明晴が伸びた分だけ初音も伸びた。背丈は縮まることを知らない。
特に初音は、血筋の縁もあってか、他の娘達よりも背が高い。
「人混みではぐれないように手を繋ぐ?」
初音の提案を明晴は拒んだ。
初音に触れたい気はあるけれど、子ども扱いされるのは本意ではないのだった。
「それにしても、すごい人だな」
紅葉が言った。
「祭りでもないのに……」
「恐らく……あのことかも」
初音いわく、金山湊の近くにある商家が理由らしい。
金山湊の豪商──松野屋。
南蛮に通じる品々からその辺に落ちている石ころまで、何にでも精通している大店らしい。
「なんか特売でもやってるのか? 珍しい品があるとか」
「それもあるそうだけど……一番は、松野家の『藤の姫』ではないかしら」
「藤の姫? 商家なのに、姫なの?」
「松野屋の一人娘は、大層な美貌の持ち主らしいわよ。『藤の姫』は、毎月三日には、習いごとに出かけるらしいの。その姿を垣間見ようと、皆がこぞって出歩くそうだから」
「ふーん」
明晴は興味なさげにしながらも、少しだけ納得がいった。同時に、「面白くない」とも。
(俺が売れるために、どれだけ必死だったか……!!)
美しい娘というだけで、客を惹き付けられるその「藤の姫」とやらが妬ましくさえある。
「俺、行かない 」
「どうして?」
初音は不思議そうに聞いた。
「以前、金山に来た侍女から聞いたけど、本当にお綺麗な姫らしいわよ」
「姫じゃないよ、庶民だろ」
「姫って言葉には、可愛らしいって意味もあるわ」
「初音の方が美人だし!」
「あら、ありがとう」
駄々をこねる明晴に、初音は少々手を焼いた。
だが、結局は初音が「松野屋の品を見てみたい」という希望には逆らえず、それに従うことになった。
仙千代に一応町に出ることを伝えると、「いいんじゃないか?」と勧められた。
『金山城下には商家がいっぱいある。売り飛ばされないよう、くれぐれも気をつけろよ』
なんか物騒なアドバイスももらったが、気にしないことにしたかった。
金山城下には、「金山湊」と呼ばれる大きな船着場がある。そこから船を出し、荷物などを流しているらしい。特に城主の森勝蔵長可は、塩に目をつけたようだ。塩の売買に特許を与えることで、塩を名産品にしようとしたのである。
「お塩は大切よ。戦場には、大名から足軽、雑兵に至るまで持って行くんだから」
「たしかに。それに、塩気が効いているものは美味しいもんね」
「お前食ってばっかりだなぁ!」
紅葉がからかうと、初音は袖で口元を抑えた。
「いいことだわ。明晴はまだ子どもなんだもの。いっぱい食べて、大きくなって」
初音に対して淡い想いを抱く明晴と違い、初音は明晴を弟のようにしか思っていなかった。
少しは背が伸びた気がするが、明晴が伸びた分だけ初音も伸びた。背丈は縮まることを知らない。
特に初音は、血筋の縁もあってか、他の娘達よりも背が高い。
「人混みではぐれないように手を繋ぐ?」
初音の提案を明晴は拒んだ。
初音に触れたい気はあるけれど、子ども扱いされるのは本意ではないのだった。
「それにしても、すごい人だな」
紅葉が言った。
「祭りでもないのに……」
「恐らく……あのことかも」
初音いわく、金山湊の近くにある商家が理由らしい。
金山湊の豪商──松野屋。
南蛮に通じる品々からその辺に落ちている石ころまで、何にでも精通している大店らしい。
「なんか特売でもやってるのか? 珍しい品があるとか」
「それもあるそうだけど……一番は、松野家の『藤の姫』ではないかしら」
「藤の姫? 商家なのに、姫なの?」
「松野屋の一人娘は、大層な美貌の持ち主らしいわよ。『藤の姫』は、毎月三日には、習いごとに出かけるらしいの。その姿を垣間見ようと、皆がこぞって出歩くそうだから」
「ふーん」
明晴は興味なさげにしながらも、少しだけ納得がいった。同時に、「面白くない」とも。
(俺が売れるために、どれだけ必死だったか……!!)
美しい娘というだけで、客を惹き付けられるその「藤の姫」とやらが妬ましくさえある。
「俺、行かない 」
「どうして?」
初音は不思議そうに聞いた。
「以前、金山に来た侍女から聞いたけど、本当にお綺麗な姫らしいわよ」
「姫じゃないよ、庶民だろ」
「姫って言葉には、可愛らしいって意味もあるわ」
「初音の方が美人だし!」
「あら、ありがとう」
駄々をこねる明晴に、初音は少々手を焼いた。
だが、結局は初音が「松野屋の品を見てみたい」という希望には逆らえず、それに従うことになった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる