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【禄】
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牟宇姫が五郎八姫の屋敷を訪ねると、先にお山の方が来ていた。五郎八姫は牟宇姫に向かって手招きをし、改めて婚礼の祝いを述べた。
「民部殿はきりっとして、男前どしたなぁ。確か、牟宇殿とは幼馴染の間柄。よきご縁になるやろう」
まるで牟宇姫自身の気持ちまで見透かしたような物言いである。五郎八姫の敏さに赤面するのを止められなかった。
「お山の方も色々用意されてる思うけど、気持ち思て受け取っとておくれやす」
五郎八姫は、化粧道具を並べた。どれも仙台にはない、華やかな化粧道具達である。
その他にも菓子や反物、髪紐、それから煙草入れなども渡された。
「あと、これも」
五郎八姫が差し出したのは、水色の巾着に、蓮の花を刺繍した守袋である。涼しげな、夏の夜を彷彿とさせる花の香がする。
「この香りは……、荷葉ですか?」
「すごいどすなぁ、牟宇姫。そのとおり。六種の薫物のひとつ、『荷葉』どす。牟宇姫は薫物にもお詳しいねんな」
「前に、兄上に習いました」
褒められたことに照れながら、牟宇姫は五郎八姫に贈り物を持って来たことを思い出した。すみに声をかけ、塗りの箱を持って来させる。
「こちらを。……その、五郎八様がお気に召されるか分からぬのですが。えっと、まさか五郎八様も……とは思わなくて」
箱を開けた五郎八姫は、驚いたように目を見開いた。桜色の守袋を掌に乗せ、匂いを聞いている。
「――『荷葉』?」
「は、はい。その……被ってしまいました」
気を悪くしていないだろうか、と恐る恐る伺う。間違っても先に差し出さなくて良かった。側室の娘に同じものを献上されたら、気を悪くされてもおかしくはない。しかし、五郎八姫はむしろ嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「お揃いのものを持って来てくれはるなんて、私達は気ぃ合うようどす。偶然とはいえども、えらい嬉しいわ」
「まだ、縫い物は得意ではなくて……。五郎八様がくださったこちらの匂い袋のように、もっと縫えるようになったら、また贈らせていただきたいです。よろしいでしょうか?」
「もちろん」
五郎八姫は満面の笑みであった。
「姫に抜かされへんように、私もより一層精進するようにします」
五郎八姫は、牟宇姫が渡した桜色の匂い袋を掲げ、侍女達に見せびらかせた。すぐ傍には、先ほど花瓶を割ってしまった侍女もいる。侍女は牟宇姫と目が合うと、小さく会釈をした。
(五郎八様は、本当に素敵な人)
侍女達の表情だけで、五郎八姫がどれだけ慕われているかが分かる。牟宇姫達に接するのと同じように、侍女達に対してもまた、分け隔てなく接しているのだろう。
(わたくしも、あんな女人になりたい)
ふと視界の隅に庭が移る。雨はいつのまにか止み、池の水も大人しくなっていた。
牟宇姫は、年の離れた異母姉に憧れを抱く一方で、相変わらず不貞腐れたままのすみだけが気がかりであった。
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