月のまなざし

水城真以

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七、

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 琴音ことねの案内で奥に向かう。上座に奇妙丸、その横に勝九朗が控えた。
 少し待ってから、中年の男が現れる。丸顔でいかにも商人らしい、人のよさそうな顔をしているが――目は笑っていない。

(都人のような男だな)

 と、とっさに奇妙丸は警戒した。一瞬勝九朗と目くばせしてから、奇妙丸は姿勢を正した。
「忙しいところすまぬ。金山城主より話は聞いていると思うが、織田家嫡男、奇妙丸である」
「まさか、織田様のご子息とお会いする機をいただけるとは……」
 思ったよりも高い声を奇妙丸は意外に思った。見た目よりも若いのかもしれない。万里の年齢を考えると、松野屋の主は信長とそれほど年は違わないのだろうか。
 琴音が奇妙丸の前に茶碗を置いた。薄茶である。一口飲むと、思ったよりも喉が渇いていたことに気がついた。
 琴音は茶を出すとすぐに部屋を出て行った。娘の前や店先で客に見せていたような笑顔は見えなかった。
「申し訳ございません。我が妻は元来愛想のいい方ではなく……」
「否、構わぬ。女将がおらねば、店も回らんのだろうし」
 松野屋の主人、嘉之助かのすけはほっと息を吐いた。奇妙丸も気を使って言葉を発したわけではない。愛想がよくないと言いながらも、店では常に笑顔を振りまき、娘への養育は施しているようでもある。
 帰蝶のようだと感じながら、奇妙丸は二口目を飲み込んだ。

「して――織田の若様が何故こちらに?」

「……最近、妙な噂を耳にしてな」
 奇妙丸は音を立てないように注意を払いながら茶碗を置いた。


「ここしばらく――金山では子らが消えておるそうじゃな」


「……覚えがございませんなぁ」
 嘉之助が目を反らした。小さく手を揺らしながら。奇妙丸は溜息を吐きながら、勝九朗に再度目くばせをする。
 勝九朗は嘉之助の前に、掌に乗る程度の大きさの巾着を置いた。中身は――金子きんすである。

 以前、帰蝶が言っていた。商人を味方につけたければ、財を見せつけることがもっとも手っ取り早いと。祖父に油商人を持つ帰蝶らしい教えである。人は目で見たものの印象が強ければ強いほど時に恐れ、時に魅了される。年端もいかない奇妙丸が金子を押し付ければ、嘉之助はそれだけの大金を平然と持たせる織田家に関心を持つだろう。

 そして、金を出せば――商人はことを思い出すきっかけになる、らしい。

「ああ、思い出しました」

 嘉之助はわざとらしく手を打った。

「ここだけの話にございまする」
 声を潜めながら、嘉之助は口を開いた。
「ここ数年のことにございますが、金山では」

 ――鬼女が出て子らを食らうと、もっぱらの噂にございます――
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