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番外編
もう一度。
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今回はキトリーサイドのお話です。
森の家に招待された翌週のお話。最後にはヒューゴとフェルナンドもちらっと出てきます。
***************
―――それは森の家を買ったとレノが俺に報告した翌週の週末。
俺はまたレノと共に森の家に訪れていた。なぜなら今週も一緒に森の家で過ごす為に。
『先週あんな目に遭ったのに、この人は学習能力がないのかしら?』と誰かの声が聞こえてきそうだが、今週は俺に手出ししないという約束を取り付けたので、たぶん大丈夫なのだ……たぶん。
俺は先週の事をちょっと思い出し、レノのアナコンダ君、いや暴れん棒将軍にお尻をぷるりと震わせる。
だが、森の家に来てもレノは約束をしたからか、俺に手出しする気配はなく。俺はレノの告げていた通り、寝室でゴロゴロしながらローズ先生の『騎士と魔法使い』を読み、レノは家の補修をし始めた。なんでも、まだちょっと痛んでいる箇所があるらしい。
なので最初、俺も手伝いを申し出たが。
『私一人で大丈夫ですよ。ゆっくりしていてください。それに怪我をされては困りますから』とレノに言われたので、それ以上強く出る事もできず。
……てか、怪我する前提って。俺はそんなに不器用じゃないし!(怒)
まあ、そんなわけで俺はまったりと読書タイムを堪能したのだが、お昼も過ぎた頃―――――。
◇◇◇◇
「はぁ、面白かった! やっぱりローズ先生の本は何べん読んでも面白い!」
俺は読み終えた本をパタンッと閉じて、しみじみと呟く。そして物語の余韻にしばらく浸るが、ぐぅっと腹時計がお昼を俺に知らせた。
「もー、昼か」
……レノに声をかけて、昼飯を食うか。
俺はベッドから立ち上がって寝室を出る。そして小さな家の中を数歩歩けば、リビングの長椅子にレノが横になって眠っていた。
上着を脱いだシャツ姿でクッションに背を持たれ、長い脚を組んで、スヤスヤと眠っている。どうやらいつの間にか修繕を終えて、お昼寝をしていたようだ。
しかしレノが昼寝をしているなんて珍しい。だが、それよりもなによりも。
……麗しく眠ってんな~っ。
明るい部屋の中、俺はまじまじと気持ちよさそうに眠っているレノを見つめる。
スッと通った鼻筋、シャープな輪郭。サラサラの銀髪に長いまつ毛。そして、少し色づいた薄い唇。
……綺麗な形の唇してんのに、この口で俺にあんなねちっこいチュウしやがってぇ。
俺は思い出して頬が熱くなる。でも思い出したせいか、ちょっとムラッとしてくる。なんたって俺も立派な男の子だもん。
……レノにちょっとチュウ……してみよっかな。
俺は眠っているレノを見つめて思う。俺だって好きな相手にキスの一つぐらいしてみたいのだ。でも、思えばレノに自らキスした経験がないことを思い出す(寝ぼけてチュウした事と初めての夜にキスした事はすっかり忘れている)
……レノにチュウ。うーむ、ちょんって触れたらいいだけだよな?
俺はレノの閉じた薄い唇に視線を向け、レノの傍に寄って起こさないようにそっと近づく。
……起きてキスしようとしたのバレたら恥ずかしいから、そっとしよう。
俺はそう思いながら、長椅子の背に手をかけ、腰をかがめて顔を近づける。間近で見れば見るほどに整ってる顔だ。でも、俺はこの顔が子供みたいにくしゃって笑う顔を知っている。その時の顔がとても可愛い事も。
……うっ、思い出したら余計胸がドキドキしてきた。
でもキスしない選択肢は俺の中にはなくて。じりじりとレノに近づき、薄い唇に迫る。
……あともうちょっと。でもキスしてレノが起きないかな? あとでキスして怒ったりしない?
そう思うとあと少しなのに近づけない。レノにキスしたいけど、レノが不快に思う事はしたくない。
……やっぱり目が覚めてから? いやいや、目が覚めてからなんて恥ずかしすぎるだろ。けど、こんな寝ている所を襲うみたいなのって。うーむむむ。
なんて俺はレノと鼻先が触れ合う距離まで近づいたと言うのに思い悩む。そして、そんな俺に奴は声をかけた。
「坊ちゃん、いつになったらしてくれるんです?」
その声に驚いてパチッと目を開ければ、赤い瞳が俺を見ていた。
「ぴゃっ!? れ、レノ!? お、おま、起きて!?」
俺が驚いて言えば、レノはそのまま俺の体に手を回して抱き締めた。そうされれば俺は「わぎゃっ!!」とレノの胸に倒れ込む。
「お、お前、起きてたなら、起きてるって言えよ!」
「貴方の鼻息がくすぐったくて目が覚めたんですよ」
……鼻息! それは気がつかなかったーっ!!
俺は自分の鼻先に手を当てる。だが、そんな俺にレノは尋ねた。
「で、どうしてキスしてくれないんです? 私にキスするの、嫌ですか?」
「い、嫌って言うか。ただ、その……レノの方が嫌かもって。なんか寝込み襲うみたいだし」
俺が正直に答えるとレノは盛大なため息を吐いた。
「はぁーっ、嫌なわけないでしょう」
「いや、そんなのわかんないじゃん。だから、その」
「キスできなかったと? 全く、私にそんな遠慮はいりませんよ。ですので、どんどんじゃんじゃん、いつでもどこでも構わずにキスしてください」
レノは真面目な顔をして俺に言った。真面目な顔で言うセリフではないが。
……というか、いつでもどこでも構わずにって構うだろ。
そう思うが、目の前にいる奴はみんなの前で俺にディープキッスをした奴だったことを思い出す。(第四章25話より)
「レノはちょっとは時と場所を考えろ」
「そういう訳ですから、今からキスしてくださっても構いません。どうぞ」
……ねぇ、人の話聞いてるぅっ!?
俺はそう思うが、レノは勝手に目を閉じた。こいつぅー。
「やだ、むり」
俺が即拒否るとレノは閉じた目をパチッと開けた。しかし不機嫌そうに眼を細める。
「どうしてですか」
「レノ、起きてるから」
「起きてたら何か問題でも?」
「やだよ。恥ずかしいし」
「わかりました。今から寝ますから、どうぞキスしてください」
レノはそう言うと再び目を閉じた。
「それ狸寝入りだろ!」
俺はそう言うけれど、レノは目を開けない。こいつは俺がキスするまで寝たふりをするつもりだ。
……どんだけ俺にキスして欲しいんだ! オ・マ・エはッ!!
そう思うが、レノに求められて悪い気分じゃないから困ったものだ。
「うー」
俺は唸りながら目を瞑ったままのレノを見つめる。一向に起きる気配がない。
……レノにチュウ。ちょっと触れればいい、よな?
俺はちらりとレノを見て思う。そしてちょっと間を空けてから、そっとレノに近づいた。今度は息を止めて。
――――ちゅっ。
俺はついに触れるだけのキスをレノにする。でもレノの唇の柔らかさに、なんだか恥ずかしい。恥ずかしさで目が彷徨う。なのにレノが起きない。
「レノ、チュウしただろ」
声をかけるが、起きる気配がない。
……なんで起きないんだ? もしかして本当に眠ったとか??
そう思えば、レノはとんでもないことを言い始めた。
「もう一度。ちゃんとしたキスをしてください」
レノは目を瞑ったまま俺に言った。
「はいー!?」
「今のは掠っただけです。きちんとキスしてください」
「き、きちんとって」
「はい、もう一度」
レノはまるで教官のように言って、口を閉じる。
……なんだよ、もう一度って。ちゃんとキスしたじゃんか!! てか、きちんとしたキスってなんだ?? 三秒、いや五秒ぐらい口を当ててたらいいのか?
俺はきちんとしたキスがわからなくて眉間に皺を寄せる。けど、目を瞑っているレノに尋ねるのは恥ずかしい。
……ご、五秒ぐらい触れてればいいだろ。
俺はそう思って、もう一度気合を入れる。そして、ぐっと息を止めてレノに近づいた。
—————ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ、うぬっ!?
レノにキスして離れようとした時、ガシッと後頭部をレノに掴まれる。そして、レノの舌がにゅるりっと俺の唇を割って入ってきた!
「んんっ!?」
俺は驚いて離れようとするが、レノの手が俺を離さない。俺の唇をこじ開けて、レノの舌が俺の舌を追い回す。
……んーーーっ! し、舌がぁぁぁっ!
俺は心の中で叫ぶが、レノはお構いなしに俺の舌に絡めて、舌先で愛撫する。おかげで体がぞくぞくして、息が上がってきた。
その上、密着している中、レノの空いた片手は俺の背中を撫でて、服の下にいやらしく手を入れてくる。そんな事をされたら元気な俺の体は、元気に反応してしまうではないか!(主に俺のミスターが!)
「んんっ、ふぁっ、も、ダメだって!!」
俺は何とか顔を背けてレノの唇から逃れる。その一方でレノは満足げな顔で俺の唾液で濡れた自分の唇をぺろりと舌で舐めた。その色っぽい仕草に俺のミスターがまた反応しそうになる。
……ぐぅ、このエロ大魔神めっ!
「はぁはぁっ、レノ! 今日は手を出さないって約束だろ!!」
俺は息を整えつつ、レノに言う。だがレノはしれっとした顔をして俺を見た。
「そんな約束をした覚えはありませんが?」
「な!? ここに来る前にちゃんとしただろ!!」
「私は『心配しなくても大丈夫ですよ』としか答えてませんが?」
レノに言われて俺は思い出す。確かにそう言われた事を。
「な、そう答えたら手を出さないってことだろーが!」
「いいえ、違いますね。『心配しなくても大丈夫です。ちゃんと気持ちよくして差しあげますから』という意味ですよ?」
レノはニッコリと笑って俺に言った。なんという強引な言い回し!!
「それに坊ちゃんはここで終わっていいんですか?」
レノはそう言うとくいっと腰を動かしてきた。股間を擦られて俺は「んっ」と思わず反応してしまう。そして奴はいい声で俺の耳元に悪魔のように囁いた。
「坊ちゃんだって、気持ちいいコト、嫌いじゃないでしょう?」
誘うように言われ、耳朶をかじっと噛まれたら元気な俺の体はムラムラしてくる。だって俺も立派な男の子だもん!!(二回目)
それに俺はもう知ってしまったんだ。レノに触れられることが、すごく気持ちいい事だって。だから、俺は……。
「う、うぐぅっ」
嫌だと言えず、唸るしかない。
……こうならない為に、先に手出ししないように言っていたのにぃ。
意志薄弱な自分をちょっと恨めしく思う。でも逆にレノはなんだか楽し気だ。性格ワルイ。
……子供の頃は素直で可愛かったのに。いや、今も自分の感情に素直って言ったら素直だけど。つーか、素直になりすぎだ。
「ね、坊ちゃん」
「だーっ、もうわかったよ!! でも飯を食ってからだっ、腹減った!!」
頬の熱を感じながらも俺が声を上げて言うと、レノはちょっと残念そうな顔をしつつも納得した。
「仕方ありませんね。では先にお昼にしましょうか」
レノはそう言うと俺を抱き締めていた手を緩めた。ホッ。
そしてレノは長椅子から立ち上がって、テーブルに置いていたバスケットを持ってきた。昼飯にヒューゴが持たせてくれたものだ。
しかし、昼飯の中身がなんなのかヒューゴは教えてくれなかった。
……そーいや、中身は開けてのおたのしみって言ってたな? 昼飯に何が詰め込まれているんだろう??
俺はそう思いつつもレノが持ってきてくれたバスケットの蓋を開ける。するとそこには一枚のメモ書きが。
『坊ちゃん。精力のつく肉料理、たくさん入れておきましたからね! そしてレノ、ほどほどにな! ヒューゴより』
俺の脳内でサムズアップさせて白い歯をきらりと光らせるヒューゴが見える。
そしてバスケットの中を見れば、がっつり肉料理が敷き詰められていた。つまりヒューゴは俺達が何をするかわかっていたという訳だ。俺はバスケットを貰った時に、ヒューゴがやたらとニヤニヤしていた事を思い出す。
『坊ちゃん。……フフ、なんでもないです』
意味ありげに笑って言ったヒューゴを俺は思い出す。
そして俺は顔を赤くして、メモを片手にプルプルと震える。だって、俺とレノが何をしようとしてるかバレてるなんて恥ずかしすぎる!!
「レノ、やっぱさっきの話はなしぃぃぃーっ!」
俺は叫んだが、レノは即座に答えた。
「駄目です」
そうして俺は結局、昼飯後にレノにパクリと食べられてしまうのだった。
―――しかしあるところでは。
◇◇◇◇
―――キトリーがバスケットを開けた頃。
別邸の厨房隅で、ヒューゴとフェルナンドが仲良く並んで昼ご飯を食べていた。
「坊ちゃん、今頃バスケットの中を見てる頃かな~」
ヒューゴが楽し気に言うと隣にいたフェルナンドは呆れた視線を向けた。
「ヒュー、坊ちゃんをからかうのもほどほどにしないとダメだぞ?」
バスケットの中身もメモの内容も知っているフェルナンドは注意するように言った。しかしヒューゴは笑って答える。
「別にからかってないさ。誰もいない一軒家に恋人同士が二人っきり、やる事なんて決まってるだろ?」
「それは……そうかもしれないけれど」
身に覚えのあるフェルナンドは歯切れ悪く答える。
「それに先週の坊ちゃん、見てられなかったからなぁ。帰ってくるなり、ちょっと生気吸われたみたいにげっそりしてたから」
ヒューゴはくくっと思い出し笑いをし、フェルナンドもその言葉で先週のキトリーを思い出す。
レノは生気に満ち溢れた艶々の顔で帰ってきたが、一緒に帰ってきたキトリーは少し疲れていて、なおかつ歩き方が変だった。勿論、それがどうして、なんて容易に考え付く。本人はバレていないと思っているようだが。
……今回は無事に帰ってくるといいけど。
フェルナンドはヒューゴの作った肉料理を口に運びながらそう思ったのだった。
***************
番外編の方がなにやらBLっぽいような(笑)
ですが短編は一旦終わりです。
読んでくれた方、そしてエールを送ってくれた方々、ありがとうございます!!( ´ ω ` )
森の家に招待された翌週のお話。最後にはヒューゴとフェルナンドもちらっと出てきます。
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―――それは森の家を買ったとレノが俺に報告した翌週の週末。
俺はまたレノと共に森の家に訪れていた。なぜなら今週も一緒に森の家で過ごす為に。
『先週あんな目に遭ったのに、この人は学習能力がないのかしら?』と誰かの声が聞こえてきそうだが、今週は俺に手出ししないという約束を取り付けたので、たぶん大丈夫なのだ……たぶん。
俺は先週の事をちょっと思い出し、レノのアナコンダ君、いや暴れん棒将軍にお尻をぷるりと震わせる。
だが、森の家に来てもレノは約束をしたからか、俺に手出しする気配はなく。俺はレノの告げていた通り、寝室でゴロゴロしながらローズ先生の『騎士と魔法使い』を読み、レノは家の補修をし始めた。なんでも、まだちょっと痛んでいる箇所があるらしい。
なので最初、俺も手伝いを申し出たが。
『私一人で大丈夫ですよ。ゆっくりしていてください。それに怪我をされては困りますから』とレノに言われたので、それ以上強く出る事もできず。
……てか、怪我する前提って。俺はそんなに不器用じゃないし!(怒)
まあ、そんなわけで俺はまったりと読書タイムを堪能したのだが、お昼も過ぎた頃―――――。
◇◇◇◇
「はぁ、面白かった! やっぱりローズ先生の本は何べん読んでも面白い!」
俺は読み終えた本をパタンッと閉じて、しみじみと呟く。そして物語の余韻にしばらく浸るが、ぐぅっと腹時計がお昼を俺に知らせた。
「もー、昼か」
……レノに声をかけて、昼飯を食うか。
俺はベッドから立ち上がって寝室を出る。そして小さな家の中を数歩歩けば、リビングの長椅子にレノが横になって眠っていた。
上着を脱いだシャツ姿でクッションに背を持たれ、長い脚を組んで、スヤスヤと眠っている。どうやらいつの間にか修繕を終えて、お昼寝をしていたようだ。
しかしレノが昼寝をしているなんて珍しい。だが、それよりもなによりも。
……麗しく眠ってんな~っ。
明るい部屋の中、俺はまじまじと気持ちよさそうに眠っているレノを見つめる。
スッと通った鼻筋、シャープな輪郭。サラサラの銀髪に長いまつ毛。そして、少し色づいた薄い唇。
……綺麗な形の唇してんのに、この口で俺にあんなねちっこいチュウしやがってぇ。
俺は思い出して頬が熱くなる。でも思い出したせいか、ちょっとムラッとしてくる。なんたって俺も立派な男の子だもん。
……レノにちょっとチュウ……してみよっかな。
俺は眠っているレノを見つめて思う。俺だって好きな相手にキスの一つぐらいしてみたいのだ。でも、思えばレノに自らキスした経験がないことを思い出す(寝ぼけてチュウした事と初めての夜にキスした事はすっかり忘れている)
……レノにチュウ。うーむ、ちょんって触れたらいいだけだよな?
俺はレノの閉じた薄い唇に視線を向け、レノの傍に寄って起こさないようにそっと近づく。
……起きてキスしようとしたのバレたら恥ずかしいから、そっとしよう。
俺はそう思いながら、長椅子の背に手をかけ、腰をかがめて顔を近づける。間近で見れば見るほどに整ってる顔だ。でも、俺はこの顔が子供みたいにくしゃって笑う顔を知っている。その時の顔がとても可愛い事も。
……うっ、思い出したら余計胸がドキドキしてきた。
でもキスしない選択肢は俺の中にはなくて。じりじりとレノに近づき、薄い唇に迫る。
……あともうちょっと。でもキスしてレノが起きないかな? あとでキスして怒ったりしない?
そう思うとあと少しなのに近づけない。レノにキスしたいけど、レノが不快に思う事はしたくない。
……やっぱり目が覚めてから? いやいや、目が覚めてからなんて恥ずかしすぎるだろ。けど、こんな寝ている所を襲うみたいなのって。うーむむむ。
なんて俺はレノと鼻先が触れ合う距離まで近づいたと言うのに思い悩む。そして、そんな俺に奴は声をかけた。
「坊ちゃん、いつになったらしてくれるんです?」
その声に驚いてパチッと目を開ければ、赤い瞳が俺を見ていた。
「ぴゃっ!? れ、レノ!? お、おま、起きて!?」
俺が驚いて言えば、レノはそのまま俺の体に手を回して抱き締めた。そうされれば俺は「わぎゃっ!!」とレノの胸に倒れ込む。
「お、お前、起きてたなら、起きてるって言えよ!」
「貴方の鼻息がくすぐったくて目が覚めたんですよ」
……鼻息! それは気がつかなかったーっ!!
俺は自分の鼻先に手を当てる。だが、そんな俺にレノは尋ねた。
「で、どうしてキスしてくれないんです? 私にキスするの、嫌ですか?」
「い、嫌って言うか。ただ、その……レノの方が嫌かもって。なんか寝込み襲うみたいだし」
俺が正直に答えるとレノは盛大なため息を吐いた。
「はぁーっ、嫌なわけないでしょう」
「いや、そんなのわかんないじゃん。だから、その」
「キスできなかったと? 全く、私にそんな遠慮はいりませんよ。ですので、どんどんじゃんじゃん、いつでもどこでも構わずにキスしてください」
レノは真面目な顔をして俺に言った。真面目な顔で言うセリフではないが。
……というか、いつでもどこでも構わずにって構うだろ。
そう思うが、目の前にいる奴はみんなの前で俺にディープキッスをした奴だったことを思い出す。(第四章25話より)
「レノはちょっとは時と場所を考えろ」
「そういう訳ですから、今からキスしてくださっても構いません。どうぞ」
……ねぇ、人の話聞いてるぅっ!?
俺はそう思うが、レノは勝手に目を閉じた。こいつぅー。
「やだ、むり」
俺が即拒否るとレノは閉じた目をパチッと開けた。しかし不機嫌そうに眼を細める。
「どうしてですか」
「レノ、起きてるから」
「起きてたら何か問題でも?」
「やだよ。恥ずかしいし」
「わかりました。今から寝ますから、どうぞキスしてください」
レノはそう言うと再び目を閉じた。
「それ狸寝入りだろ!」
俺はそう言うけれど、レノは目を開けない。こいつは俺がキスするまで寝たふりをするつもりだ。
……どんだけ俺にキスして欲しいんだ! オ・マ・エはッ!!
そう思うが、レノに求められて悪い気分じゃないから困ったものだ。
「うー」
俺は唸りながら目を瞑ったままのレノを見つめる。一向に起きる気配がない。
……レノにチュウ。ちょっと触れればいい、よな?
俺はちらりとレノを見て思う。そしてちょっと間を空けてから、そっとレノに近づいた。今度は息を止めて。
――――ちゅっ。
俺はついに触れるだけのキスをレノにする。でもレノの唇の柔らかさに、なんだか恥ずかしい。恥ずかしさで目が彷徨う。なのにレノが起きない。
「レノ、チュウしただろ」
声をかけるが、起きる気配がない。
……なんで起きないんだ? もしかして本当に眠ったとか??
そう思えば、レノはとんでもないことを言い始めた。
「もう一度。ちゃんとしたキスをしてください」
レノは目を瞑ったまま俺に言った。
「はいー!?」
「今のは掠っただけです。きちんとキスしてください」
「き、きちんとって」
「はい、もう一度」
レノはまるで教官のように言って、口を閉じる。
……なんだよ、もう一度って。ちゃんとキスしたじゃんか!! てか、きちんとしたキスってなんだ?? 三秒、いや五秒ぐらい口を当ててたらいいのか?
俺はきちんとしたキスがわからなくて眉間に皺を寄せる。けど、目を瞑っているレノに尋ねるのは恥ずかしい。
……ご、五秒ぐらい触れてればいいだろ。
俺はそう思って、もう一度気合を入れる。そして、ぐっと息を止めてレノに近づいた。
—————ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ、うぬっ!?
レノにキスして離れようとした時、ガシッと後頭部をレノに掴まれる。そして、レノの舌がにゅるりっと俺の唇を割って入ってきた!
「んんっ!?」
俺は驚いて離れようとするが、レノの手が俺を離さない。俺の唇をこじ開けて、レノの舌が俺の舌を追い回す。
……んーーーっ! し、舌がぁぁぁっ!
俺は心の中で叫ぶが、レノはお構いなしに俺の舌に絡めて、舌先で愛撫する。おかげで体がぞくぞくして、息が上がってきた。
その上、密着している中、レノの空いた片手は俺の背中を撫でて、服の下にいやらしく手を入れてくる。そんな事をされたら元気な俺の体は、元気に反応してしまうではないか!(主に俺のミスターが!)
「んんっ、ふぁっ、も、ダメだって!!」
俺は何とか顔を背けてレノの唇から逃れる。その一方でレノは満足げな顔で俺の唾液で濡れた自分の唇をぺろりと舌で舐めた。その色っぽい仕草に俺のミスターがまた反応しそうになる。
……ぐぅ、このエロ大魔神めっ!
「はぁはぁっ、レノ! 今日は手を出さないって約束だろ!!」
俺は息を整えつつ、レノに言う。だがレノはしれっとした顔をして俺を見た。
「そんな約束をした覚えはありませんが?」
「な!? ここに来る前にちゃんとしただろ!!」
「私は『心配しなくても大丈夫ですよ』としか答えてませんが?」
レノに言われて俺は思い出す。確かにそう言われた事を。
「な、そう答えたら手を出さないってことだろーが!」
「いいえ、違いますね。『心配しなくても大丈夫です。ちゃんと気持ちよくして差しあげますから』という意味ですよ?」
レノはニッコリと笑って俺に言った。なんという強引な言い回し!!
「それに坊ちゃんはここで終わっていいんですか?」
レノはそう言うとくいっと腰を動かしてきた。股間を擦られて俺は「んっ」と思わず反応してしまう。そして奴はいい声で俺の耳元に悪魔のように囁いた。
「坊ちゃんだって、気持ちいいコト、嫌いじゃないでしょう?」
誘うように言われ、耳朶をかじっと噛まれたら元気な俺の体はムラムラしてくる。だって俺も立派な男の子だもん!!(二回目)
それに俺はもう知ってしまったんだ。レノに触れられることが、すごく気持ちいい事だって。だから、俺は……。
「う、うぐぅっ」
嫌だと言えず、唸るしかない。
……こうならない為に、先に手出ししないように言っていたのにぃ。
意志薄弱な自分をちょっと恨めしく思う。でも逆にレノはなんだか楽し気だ。性格ワルイ。
……子供の頃は素直で可愛かったのに。いや、今も自分の感情に素直って言ったら素直だけど。つーか、素直になりすぎだ。
「ね、坊ちゃん」
「だーっ、もうわかったよ!! でも飯を食ってからだっ、腹減った!!」
頬の熱を感じながらも俺が声を上げて言うと、レノはちょっと残念そうな顔をしつつも納得した。
「仕方ありませんね。では先にお昼にしましょうか」
レノはそう言うと俺を抱き締めていた手を緩めた。ホッ。
そしてレノは長椅子から立ち上がって、テーブルに置いていたバスケットを持ってきた。昼飯にヒューゴが持たせてくれたものだ。
しかし、昼飯の中身がなんなのかヒューゴは教えてくれなかった。
……そーいや、中身は開けてのおたのしみって言ってたな? 昼飯に何が詰め込まれているんだろう??
俺はそう思いつつもレノが持ってきてくれたバスケットの蓋を開ける。するとそこには一枚のメモ書きが。
『坊ちゃん。精力のつく肉料理、たくさん入れておきましたからね! そしてレノ、ほどほどにな! ヒューゴより』
俺の脳内でサムズアップさせて白い歯をきらりと光らせるヒューゴが見える。
そしてバスケットの中を見れば、がっつり肉料理が敷き詰められていた。つまりヒューゴは俺達が何をするかわかっていたという訳だ。俺はバスケットを貰った時に、ヒューゴがやたらとニヤニヤしていた事を思い出す。
『坊ちゃん。……フフ、なんでもないです』
意味ありげに笑って言ったヒューゴを俺は思い出す。
そして俺は顔を赤くして、メモを片手にプルプルと震える。だって、俺とレノが何をしようとしてるかバレてるなんて恥ずかしすぎる!!
「レノ、やっぱさっきの話はなしぃぃぃーっ!」
俺は叫んだが、レノは即座に答えた。
「駄目です」
そうして俺は結局、昼飯後にレノにパクリと食べられてしまうのだった。
―――しかしあるところでは。
◇◇◇◇
―――キトリーがバスケットを開けた頃。
別邸の厨房隅で、ヒューゴとフェルナンドが仲良く並んで昼ご飯を食べていた。
「坊ちゃん、今頃バスケットの中を見てる頃かな~」
ヒューゴが楽し気に言うと隣にいたフェルナンドは呆れた視線を向けた。
「ヒュー、坊ちゃんをからかうのもほどほどにしないとダメだぞ?」
バスケットの中身もメモの内容も知っているフェルナンドは注意するように言った。しかしヒューゴは笑って答える。
「別にからかってないさ。誰もいない一軒家に恋人同士が二人っきり、やる事なんて決まってるだろ?」
「それは……そうかもしれないけれど」
身に覚えのあるフェルナンドは歯切れ悪く答える。
「それに先週の坊ちゃん、見てられなかったからなぁ。帰ってくるなり、ちょっと生気吸われたみたいにげっそりしてたから」
ヒューゴはくくっと思い出し笑いをし、フェルナンドもその言葉で先週のキトリーを思い出す。
レノは生気に満ち溢れた艶々の顔で帰ってきたが、一緒に帰ってきたキトリーは少し疲れていて、なおかつ歩き方が変だった。勿論、それがどうして、なんて容易に考え付く。本人はバレていないと思っているようだが。
……今回は無事に帰ってくるといいけど。
フェルナンドはヒューゴの作った肉料理を口に運びながらそう思ったのだった。
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番外編の方がなにやらBLっぽいような(笑)
ですが短編は一旦終わりです。
読んでくれた方、そしてエールを送ってくれた方々、ありがとうございます!!( ´ ω ` )
応援ありがとうございます!
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