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最終章「プロポーズは指輪と共に!」

23 神様の子

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「んん?」

 俺は呻きつつ、お爺との会話をよくよく思い出す。お爺の想い人は、帝都よりずっと遠くに住んでいて、身分がまったく違う人だと言っていたことを。
 そして、俺より先にリャーナ様が声を上げた。

「フィズ、あなた!」
「あれ? もしかしてお爺の想い人って」

 俺も気がつき、左隣に座るお爺に視線を向ければ微笑みながら答えた。

「ええ、坊ちゃん。私の想い人はリャーナ様ですよ」

 お爺はハッキリと告げた。そしてそれを聞いたリャーナ様が可愛らしく頬をポッと染める。もう、もはや大男のリャーナ様が乙女にしか見えなくなってきた。

「て、ことはやっぱりバレンシア様がリャーナ様とお爺の仲を?」

 ……人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られるんですよ、バレンシア様。

 俺はじとっとバレンシア様を見詰める。だが、バレンシア様より先に声を上げたのはお爺だった。

「いいえ、違うんです。バレンシア様は何も悪くありません。バレンシア様は私の意を酌んで下さったに過ぎないのです」
「お爺の?」

 俺が尋ねれば、お爺は頷いた。

「私はリャーナ様をお慕いしていました。けれど当時の私はまだ若く、あまりに身分違いで……ですのでリャーナ様から求められた時、バレンシア様に断っていただいたのです。そして下界に出て修行し、リャーナ様に見合う男になってからお傍に、と思っていました。ですが、それは私の独りよがりでしたね。こんなにもリャーナ様に寂しい想いをさせていたとは。申し訳ありません」

 お爺はリャーナ様を見つめて言った。そうすればリャーナ様の瞳にハートが浮かぶ……てか二人、絶対テーブルの下で手を繋いでるでしょ!! もー、真面目な話をしてるのにけしからんですな、ウフッ。

「坊ちゃん、顔がヤバいです」
「ひょ!? べ、別にヤバくないし!!」

 レノに言われ、俺は手で頬を抑える。しかし話を聞いていたクト様がバレンシア様に視線を向けた。

「まー、二人がこういう仲になったんだから、バレンもフィズがリャーナと一緒にいるのは構わないんでしょ?」
「勿論だ。私は別に二人の仲を裂きたかったわけじゃない。フィズの願いを叶えただけなんだからな」
「バレンシア!」

 さっきまで怒っていたのに、リャーナ様は嬉しそうな顔をバレンシア様に向けた。おかげで和やかな空気が流れる。だが、それに水を差したのはうちの従者くんだった。

「ですが、父が約束を破ったことは事実です。私もそれを知りながら加担しました」

 レノはハッキリと告げ、俺は思わずレノに尋ねた。

「てかレノ、お前っていつからシアさんが自分の父親だって知ってたんだ?」

 ……そもそもレノは自分の父親がバレンシア様だって気がついていたのか?

 俺が首を傾げて聞けば、レノは正直に答えた。

「ハッキリとわかったのは、坊ちゃんが誘拐されてからです。父は正体を隠していましたし、私も言うべきことではないと思っていましたから。けれど、貴方が誘拐されて黙ってはいられなかった。リャーナ様の元に来るには父の力が必要だと判断しましたから」

 ……なるほど、それで天界に俺を追っかけてきたのね。いや、でも普通に考えてすごすぎん? レノの行動力。

 俺はちらっとレノを見る。だが、レノは話を続けた。

「でも、最初から勘づいてはいました。母が言う父の姿、一緒にいられない理由、母が神聖国から逃げるように出て行ったワケ。それに私自身の体の異常さを考えれば、答えはおのずと出てきます」

 レノはそう言うと自身の手を握った。

 ……あー、そういやレノってば昔から人よりが強いし、身体能力が高いんだよな。あ、もしかして毒が効かないのも蛇獣人だからじゃなくて、バレンシア様の力を引き継いでるから? てか、俺の心を読むのも半神だからかッ!?

「あなたは気持ちが顔に出過ぎるですよ」

 レノは呆れた顔をして俺に言った。どうやら、心の声は聞こえていないようだが……俺ってばそんなに顔に出てるのかしら?

 俺は頬を抑えたり引き延ばしたりして表情筋をほぐす。でも、サラおばちゃんの謎がやっと解けて、ちょっとスッキリだ。

「しっかし、サラおばちゃんが神聖国から出て行った理由がまさかバレンシア様とはなぁ」
「サラはレノの存在が神聖国の人間にバレたら危険だと判断したんだろう。私の子とわかれば、もはやエンキや皇女を差し置いて皇王に据えられるのは目に見えている」

 バレンシア様は俺の呟きに返事をした。そしてその言葉は現実味がありすぎた。

「確かに」

 ……そりゃそうだ。神様の子なんてわかったら即位させられてただろうな。

 そう思えば、サラおばちゃんが身重で神聖国をわざわざ離れた理由がわかる。レノを守る為だったんだ。うーむ、母は強し。

「でも急にレノに会いに来たのはどうしてですか?」

 ……今まで会いに来なかったのは、決まりを守っていたからだろう。なのに、今になって会いに来た理由って??

 俺が尋ねれば、バレンシア様が答えるより先にクト様が答えた。

「キトリーとレノが神聖国へ来たからだよ」
「へ? 俺とレノが??」
「そうだよ。神聖国の神殿に飾られている僕らの彫刻はちょっと特別でね。銅像を通して、日々人々の話が入ってくるんだ。そしてある日、神聖国にキトリーとレノがやってくるという話が舞い込んできた。父親としては、化けてでも一目会いたかったんだろう」

 クト様が代弁するとバレンシア様は肯定する様に頷いた。

「その通りだ。一目会うだけで良いはずだった……でも神聖国でレノの姿を見たら、誰かのフリでなはなく私自身として話したくなったんだ。だが、決まりを破ったのは事実。すまない」

 バレンシア様はもう一度謝った。本当に悪いと思っているのだろう。けれど、バレンシア様が謝るのは違う気がする。親子が会うのに、悪いことなんてないはずだ。なら、世界の均衡さえ崩れなければ??

「ね、リャーナ様。神様が直接手を出すと世界の均衡が崩れるっていう話だけど、一体どういう事が起こるの?」

 ……てか一回、崩れたんだよな? でも、俺がいたから世界は大丈夫だったって話だけど、俺がいるならこれからバレンシア様がレノに会いに来てもいいんじゃね? ……てか、本当に俺が何かしたのか? 知らんけど。

 俺はリャーナ様の話を思い出して尋ねてみた。するとリャーナ様はチラッとクト様とバレンシア様を見る。まるで、話していいだろうか? という重い視線で。

 ……なに? 聞いちゃいけなかった?

 俺は不味いことを聞いてしまっただろうか? と思ったが、クト様がスッと俺に手を差し出した。

「僕が見せよう。どういう事が起ころうとしたのか……キトリー、僕の手を握って、目を瞑ってごらん?」
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