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最終章「プロポーズは指輪と共に!」

36 父様からの手紙

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『我が愛しの息子、キトリーへ。
 元気に過ごしているだろうか? こちらは変わりなく過ごしているよ。

 さて早速だが、神聖国での事を耳にした。お前が何をしたかは知らないが、神聖国の政情はこれから安定する事だろう。おかげでこちらの外交がやりやすくなった。なので、礼を言っておく。それにロディオンの結婚も決まったしな。お前の新しいお姉さんは美人だぞ、喜びなさい。

 あと、レノに先日手紙を出しておいたが、どうだっただろうか?
 レノはお前の事が好きでいつも押してばっかりだったから、ちょっとは引いて、お前の気を引くよう『結婚の承諾を受けるまでは手を出さないように』と伝えておいたが。……まあ私の読みでは、まんまとお前がプロポーズまで受けることになったと思うがね。あ、私にお礼はいらないからな?

 それと、リトロールのお婆様が顔を見せに来るようにこちらに手紙が届いていた。なので年が明けたら、必ずリトロールへ行くように。

 では、父からは以上だ。来年も良き年になることを祈っている。

 追伸=ローラがジェレミー殿下の披露宴に着ていくお前の変装用ドレスを仕立てていたぞ。楽しみにしておくように、だそうだ』



 ―――――そう父様の手紙は書かれていた。

「おやおや……」

 俺の隣にいるレノは俺が読んでいた手紙を横から覗いて、小さく呟く。そして俺はと言うと、手紙を読みながらフルフルと震えていた。

「あのオヤジィ!」

 ……父様の策略だったのかよ! しかも父様の読み通りになったし。お礼ってなんだよ!? おかげで俺の尻の純潔はなくなったんだぞ!?(※別に大事にしていたわけではない)

「しかもリトロールに行けって。今度こそ俺のまったりライフが送れると思ったにぃ~!」

 俺は駄々をこねる子供みたいにベッドに横になりじたばたする。するとレノが宥めた。

「まあまあ、女王陛下も孫である坊ちゃんに会いたいのでしょう」
「そりゃ、俺だってばーちゃんに会いたいけどさぁ。前に会ったの、もう二年前だし」

 俺は天井を見上げながら呟く。
 そう、俺のリトロールのお婆様というのは、隣国であるリトロール王国の女王陛下なのだ。なにせ母様がその女王の娘だからな。

「でも、父様のことだ……なんか裏がある気がする、うぐぐっ」

『はは、何の事かな? 父様に裏なんて、ないぞー☆』

 手紙を見るだけで、脳裏に浮かぶ笑う父。

「まあまあ、いいじゃないですか。女王陛下にも私達が結婚することをお伝えしないといけませんし。婚前旅行として考えましょう?」

 レノはさらっと言い、俺は思わずむくりと体を起こす。

「婚前旅行って、俺とリトロールに行くだけだろっ」

 ……いや、まあ確かに違いはないのかもしれないけど。婚前ってなんか恥ずかしい響きだから、普通に旅行って言え! というか。

「なんで、お前は俺の部屋にいて、ベッドに座ってるのかな?」

 もう夜も更け、屋敷の中は静かだ。そして俺はもう寝る準備を済ませた後で、なぜかレノも寝る準備を済ませている。

「なぜ? ここで寝るからですよ?」
「は!? なんで!」
「なんでって、何か不都合でも?」
「だって、お前が添い寝はダメだって」

 ……あんだけ俺が添い寝しろって言ったのに、嫌だって拒否ったのお前だろ。

「それは旦那様の手紙のせいですよ。さ、夜も遅いですから、そろそろ寝ますよ」

 レノは父様からの手紙を俺から奪うと、サイドテーブルに置いて俺をベッドに寝転がせた。そして俺に覆いかぶさってくる。

「さー、坊ちゃん。一緒に寝ましょうね?」

 そういうレノの瞳はかなり怪しく光っている。……ヤル気だ!!

「ちょ、今日はしないぞ!?」
「どうしてですか?」
「昨日しただろ!」
「なら今日もいいでしょう? 一度したら、二度も三度も同じですよ」

 レノはニッコリ笑って言う。

 ……一度も二度も同じなわけあるか! 俺の慎ましやかな尻が垢抜けちゃうだろ!

「今日はダメだ! フェルナンドにもバレてて、心配されてデリケート部分にも使える切り傷軟膏を貰ったんだからな!?」

 俺は昼過ぎにフェルナンドに貰った小さなクリーム缶を思い出す。どうやらフェルナンドにも俺達が何を致してしまったのかバレてたみたいで、心配顔でそっとクリーム缶を渡されたのだ。

『坊ちゃん、レノの事だから大丈夫だとは思いますが……一応渡しておきますね』

 そう言われて。

 ……あの時の恥ずかしさったらなかったんだからな!?

「という訳で、今日はダメ。添い寝はしてもいいけど寝るだけだ」
「はぁー。拷問みたいな仕打ちですね」

 レノは呆れた口ぶりで頭を抱えて言った。

 ……何がだ? ごーもん??

 俺はなんのこっちゃ? と頭を捻る。しかしそんな俺にレノは美しく微笑んだ。

「わかりました。今日はしません。でもキスぐらいはいいでしょう?」

 レノに言われ、俺はちょっと考える。なんでもかんでもダメだと言うのは、可哀そうかもしれない。そう俺の仏心が囁いた、なので。

「ま、まあ、キスぐらい、なら」

 俺が答えると、レノは一瞬悪い笑みを見せた。そして、奴に仏心を見せたのが俺の運の尽き。
 この数時間後、『キスだけですから』と全身に口付けを落とされ、キスマークを付けられ、俺の息子にまでホニャララされて。結局二回目をやる羽目になる事を今の俺は知らなかった。

「坊ちゃん、好きです」

 レノは臆面もなくさらりと告げる。なので俺は目を彷徨わせ、もごもごする口で何とか返した。

「その……おれ、も……すき、だぞ」

 ……あー、もー、なんでカッコよく言えないんだぁ!?

 俺はそう思う。
 けれど目の前にいるレノが嬉しそうに微笑み、煌めく赤い瞳が温かさに満ちているから、まあいいだろう。

「ほら、早くチューして寝るぞ」

 俺がせっついて言うとレノは「はい」と言って、そっと顔を寄せた。

 そして、俺の長い夜はこれから始まるのだった―――――。


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