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最終章「プロポーズは指輪と共に!」

32 銀の指輪

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 ――――翌朝、目を覚ますとぬくぬくとした毛布に包まれていた。

「んー」

 俺は目を覚ますが、まだ眠い。まだ寝たい。このぬくぬくを享受したい。
 という訳で、俺はもぞもぞっと顔を埋めて、もう一度寝ようとする。けれど、妙に体のあちこちが軋んで、服を着ていない事に気がついた。

 ……んー、どうして体が軋むんだ? 昨日何かしたっけー? それにどうして俺、服着てないんだろ? 服、風呂上がりに着たのに。でも、寝る前にそーいえばレノと。

 そこまで思い出して俺はハッとした。

「そうだ、昨日はレノと!」
「はい、おはようございます」

 声を上げれば、後ろから声が聞こえて俺は「ぴゃ!」と鳴く。そして振り向けば同じく裸で横になっているレノがいた。

「れ、レノ!」
「いい朝ですね、坊ちゃん」

 レノはニコニコしながら、つやつやと艶のある顔で言う。

 ……あれか、エッチすると綺麗になるって迷信じゃなかったのか。てか、お前は綺麗なる必要ないだろ。ただでさえ美形なのに。

 俺はレノをじとっと見つめる。だがそんな俺の視線さえもレノは笑顔で返す。

「ところで坊ちゃん、お身体は大丈夫ですか?」
「な、別に大丈夫だし。てか、そーいう事を聞くな。昨日何したか思い出すだろ」
「何をしたか? 何って、それは私と坊ちゃんが初セッ」
「言わんでもわかっとるわい!!」

 俺は慌ててレノの口を手で塞ぐ。

 ……こいつには恥ずかしさっちゅーもんがないのか!

 俺はそう思うが、レノはニコニコ笑顔だ。そして、口を塞いでいた俺の手をぺりっと剥がした。

「坊ちゃんは恥ずかしがり屋ですね。まあ、そういう所も可愛いですが」
「うるさい、変態」

 俺はぷぅっと頬を膨らませて、そっぽ向く。だが、レノはめげない。

「坊ちゃん限定の変態です」
「質悪いわ。……あーもう、朝から無駄な労力を使わせるな。大体、お前はなぁ」

 そこまで言った時だった。左薬指に何か光るものがある。
 俺はぱちくりと目を瞬かせ、その薬指にある物をよーく見る。だが、何度見ても見間違いじゃない。
 きらりと輝く銀の結婚指輪。それが俺の左薬指に嵌められていた。しかもサイズピッタリ!!

「な、なんで結婚指輪!?」
「昨日、私のプロポーズを受けてくれたじゃないですか」
「はっ!? プロポーズ!? 俺がいつ!?」 
「これから先もずっと私と一緒にいてくれます? って聞いたら、一緒にいると答えてくれたでしょう?」

 ……あれ、プロポーズだったんかい!!

 俺は衝撃的事実に驚く。

「な、なんで急にプロポーズ!?」

 俺が尋ねれば、レノはしれっとした顔で答えた。

「実はキスマークを付けた日、旦那様からお手紙を貰いましてね。そこには『婚姻の許可はしたけれども、本人から婚姻の承諾を得るまでは手を出さないように』と書かれていたんです」

「婚姻の? まさか、お前が最近チューの拒否してたのって」
「神聖国で坊ちゃんと想いが通じ合って、これからって時に釘を刺され。私も立派な成人男性ですよ? 好きな人にキスしたらそれ以上の事も色々としたいじゃないですか。けれど旦那様の手紙を無視することもできませんし、なのでキスも我慢していたんです」
「それで、チュウ拒否! で、でもこの指輪はどうしたんだよ!? いつ用意したんだ!?」

 俺は左薬指に嵌められた銀の指輪を見せて尋ねる。するとレノはニコッと笑った。

「坊ちゃんとはいずれ結婚する予定でしたから、早めに作らせておいたんです。それにあなたはすぐにフラフラしますからね。私のものだという証を付けておかないと」

 ……だからってピッタリの指輪を持ってるなんて執着ストーカー、こわ!!

 俺はそう思う。でも悪い気はしないから多分俺も大概レノに毒されているのだろう。

「ほんと、お前って俺の事が好きだな……俺のどこがいいのか知らんけど」

 俺はついつい呆れてしまう。だが、レノは恥ずかしげもなく俺の左手を取ると薬指にキスをした。

「好きです。坊ちゃんの全てが」

 レノは赤い瞳を煌めかせて俺に言う。だから俺の胸はドキッと高鳴る。

 ……もう、まだ朝なんだから、ゆっくりさせてくれ! 甘ったるい雰囲気を出すでない!

「あー、はいはい。わかった、わかりました! だから、ちょっと静かにしなさい!」
「ところで坊ちゃん、聞きたい事があります」
「ちょ、静かにしろって」

 言いかけるがレノは俺の言葉を無視して尋ねた。

「坊ちゃんは前世を覚えているというお話ですよね? 前世でお付き合いをされた方はいるんですか?」
「はぁー!?」

 ……朝っぱらから何を聞いてくるんだ!

 思いがけない質問に俺は驚く。でもレノは本気だ。

「坊ちゃん、どうなんです?」
「お、俺に付き合ってた人がいたらどうなんだよ?」
「一応、確認です」

 レノはじーっと俺を見つめてくる。一体、何の確認を取りたいんだ。

 ……三十二で童貞って、ちょっと恥ずかしいけど。でも嘘つくと後が怖いからな。正直に答えておくか。

「だ、誰もいないよ。付き合った人はいない」
「やっぱりそうでしたか。スッキリしました」

 レノはあっさりと答え、にこっと笑った。

「おい、何がやっぱりそうなんだよ」

 ……俺がモテないって言いたいのか!? その通りだけどよ!!(泣)

「いえ、昨日抱いた時に随分と初々しかったので。もしかして前世でもご経験がないのかと。私としては坊ちゃんの初めてを美味しく頂き、嬉しい限りですが」
「な、な、な!」

 ……何が初めてを美味しくだ! 昨日、俺を抱けて良かったって泣いてた殊勝なレノはどこに消えた!? 全く、昨日の今日でこれかよ。

 俺は変わり身の早いレノに、呆れた視線を向ける。

「レノって意外に俗物的な男なんだな」

 ……半神(ハーフゴット)のくせに。

「坊ちゃんの前だけですよ」

 レノはニコニコして言う。

 ……もう今日はダメだ。何言ってもレノのペースだ。もうさっさと起きて、さっさと顔洗お。

 俺はそう思って、ベッドから這い出ようとする。しかし、レノが俺の体を抱き留めた。

「坊ちゃん、ちょっと待って」
「今度は何だよ?」
「そう言えば、坊ちゃんって前世ではどういう名前だったんです? ランネット様がりっちゃんと呼んでいましたから、リがつく名前ですか?」
「はー? なんでそんな事、知りたがるんだ?」
「坊ちゃんの事ならなんでも知りたいです。それとも私には言いたくないですか?」
「いや、まあ……別に言ってもいいけど」

 俺が答えるとレノは目を輝かせた。そんなに俺の前世の名前を知りたいかネ?

 ……まー、レノが知りたがってるならいいや。

「俺の前世の名前はな」

 俺はそこまで言うと、レノの耳元でこそっと伝えた。まあ、別に小声で言う事でもないんだけど、なんとなく。
 けど俺の名前を聞いたレノは少し驚いた顔を見せた。

「なるほど、それでランネット様はりっちゃん、と」
「そ、でも大して知りたがる事でもないだろ?」

 俺が問いかければレノは首を横に振った。

「いいえ、貴方の事を知れて嬉しいです。だからもっと教えてください」

 レノは真面目に言い、俺はやれやれと思う。本当にレノは俺の事、好きすぎ。

「物好きだなぁ。でも、まあ知っていくだろ。なにせ俺達はこれからも一緒にいるんだからな」

 ……急がなくてもいいだろ。とりあえず、今はさっさと起きて朝ご飯。

 と思うが、いつの間にかレノが俺に覆いかぶさっていた。……なぜ?

「今のグッときました。なので、抱かせてください」
「はぁッ!? 今のドコに!?」

 俺は訳が分からなくて困惑するが、レノは俺の首筋にキスしてくる。

 ……なんで急に盛ってんの!?

「ちょ、レノぉ!?」
「昨日、何度だって抱かせてくれると約束してくれました。なので今、抱かせてください」
「だ、ダメだ! もう朝なんだぞ!? 離れろって!!」
「いいじゃないですか、朝でも。良い運動ですよ」
「何言ってんだ! 冷静になれ!」
「冷静ですよ。とてもね」
「どこがだっ!」

 なんて、やり取りをギャアギャアとベッドの上でしていると、突然ガチャリと部屋のドアが開いた。

「ほっほっほっ、朝から元気いっぱいですな。坊ちゃん、ただいま戻りました……っと、お邪魔でしたかな? 失礼しました」

 朗らかな笑顔と共に入ってきたのは天界で別れたぶりに現れたお爺だった。だが、ベッドの上で裸で取っ組み合いをする俺達を見るなり、すーっとドアを閉める。そしてパタンっと閉められたドアを見て、俺は羞恥心に覆われた。

 ……お爺に見られた! はずかしぃぃぃ!!

「坊ちゃん、どうかしました?」

 こっちは恥ずかしさでいっぱいだと言うのに、能天気に聞いてくるレノに俺はきっと睨み、思わず叫んだ。

「れ、レノのあんぽんたーんッ!」

 その声は静かな朝によく響いたのだった。

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