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最終章「プロポーズは指輪と共に!」
29 落日の豊穣祭
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――それから数日が過ぎ、年替わりの前に豊穣祭の日がやって来た。
豊穣祭はこの一年、大地の恵みに感謝し、また来年も多くの実りがありますように、とバレンシアに祈りを捧げる日だ。
なのでこの日ばかりは、バレンシアの銅像の前にはいっぱいの貢物がされ、人々は祈りを捧げて、踊り騒ぐ。そしてバルト帝国の帝都でも、豊穣祭に乗じて街中は賑やかしく、出店が立ち並ぶ街道を人々は楽し気に歩いていた。
しかしそんな中、マントを羽織る一人の男が確かな足取りである場所へと向かっていた。
そして、その男はあるアパートメントの一室に辿り着くと、ドアの前で何度かの深呼吸をし、抑えめにコンコンッとノックをする。
そうすれば「はぁーい」と懐かしい声が聞こえ、ドアが警戒心もなく開いた。
「どなたかしら?」
開いたドアの前に現れたのはサラだった。そして、ドアの前に立つフードを被った長身の男。一体誰だかわからないサラは首を傾げる。
「あの、どなた?」
サラが尋ねれば男は低い声で答えた。
「サラ、久しぶりだ。私だ」
その懐かしい声にサラは大きく目を見開く。
「そ、んな、貴方は!」
サラが驚くと男は部屋の中に入り、後ろ手にドアを閉めた。そして、目深にかぶっていたフードを脱ぐ。
そこには長い銀髪に輝かしい紫の瞳。そしてレノによく似た男が立っていた。その顔を見てサラは、彼の名を口にする。
「バレン、シア!?」
そう、サラの目の前に立っていたのは男性体のバレンシアだった。
「サラ、君に会いに来た」
「でも、決まりがっ」
「今日だけは関係ない。今日は豊穣祭だ」
バレンシアが告げると、サラはハッと何かに気がつく。
「なら、いいの?」
「ああ、今日だけなら……サラ、ずっと会いたかった」
バレンシアはそう言うとサラを抱き締めた。でもサラは少し戸惑ってしまう。
「で、でも、もう私はあの頃みたいに若くないし。おばさんになっちゃったわ」
「いいや、君は変わらないよ。私の可愛い人」
バレンシアが囁くと、サラは嬉しさに微笑み、自分を抱き締める体に抱き締め返した。もう二度と抱き締める事はないと思っていた愛しい人を。
「バレン、私も会いたかったわ!」
サラはバレンシアをぎゅっと抱き締め、目尻に涙を零した。
そうして、二人は数十年ぶりの熱い抱擁を交わした。
―――のだが、その頃。
「はー、サラおばちゃんとバレンシア様は今頃会ってる頃かねぇ」
俺は白い息を吐きながら、雪が積もった庭で曇り空を見上げる。
……今日は《落日》の豊穣祭だ、バレンシア様の神様の力が弱まる。今日なら、下界に降りてサラおばちゃんと会っても問題はないでしょ。
俺はぽんやりと空を見上げながら、バレンシア様を思い浮かべた。
《落日》は一年に一度、神様の力が弱まる日の事を指す。この日はクト様、リャーナ様、バレンシア様とそれぞれにあって神様業はお休みされる日だ。
なので、この日はクト様の感謝祭、リャーナ様の納涼祭、バレンシア様の豊穣祭と、日々見守ってくれている神様に感謝する年間のお祭り行事になっている。
そして、この《落日》の間は、神様の力が弱まると同時に神様たちの姿も変わると言われていて、子供のクト様は大人に、大男のリャーナ様は小さな子供に、そしてバレンシア様は女性から男性へと変わるらしい。
つまり、レノが父と呼ぶにはこうした理由なのだ。
……まさか《落日》の時にできた子供がレノとはなぁ。でも、神様の誰も《落日》の事に気がつかないなんてなぁ。
俺は心の中で呟きつつ、天界でのことを思い返す。
どうにか、バレンシア様とレノを今後とも会わせる方法はないか? と考えた時に、話の中で俺は神様の力が弱まる《落日》の事を思い出した。
そして神様たちに尋ねたのだ。
『この日なら、下界に降りても大丈夫なんじゃない?』と。
そうすれば、その日の事を三神はすっかり頭から抜けていたようで。
なので以降、バレンシア様は《落日》の日だけは下界に降りて、サラおばちゃんやレノに会う事が許された。まあ、全く会えないってのも可哀そうだからな~。
そして今日は《落日》の豊穣祭の日。サラおばちゃんとバレンシア様が会う日なのだ。
……今頃サラおばちゃん、驚いてるだろうな。喜んでいるといいけど。
俺はほのぼのとそんな事を考える。しかしそんな俺の後頭部に、どこからともなく飛んできた雪玉がべしぃっと当たった。
「ほげっ!」
頭を押さえて振り返ると、雪の上にはモコモコに着込んだ三匹の子狐。もとい、ジェイクとケルビン、コリンがいた。
「わーい、当たった!」
当てたのはジェイクらしく、ぴょんぴょんっとその場で飛び跳ね、ケルビンとコリンも俺に当てようとせっせと隣で雪玉を作っている。
「こぉらぁぁ!」
俺は雪の上をズボズボッと走る。そうすれば、子供達はキャハハハッと走って逃げた。こら、ちょい待てっ!
俺は三人を追いかけるが、すばしっこい三人は俺の手に捕まらず、数十分も追いかけるが、俺は疲れて雪の上に寝転んだ。
「はひー。もう走れん!」
ふぅふぅっと息を切らして、俺は雪の上に寝転がる。そうすれば、まだまだ元気な子狐達が俺の顔を上から覗いた。
「もー、終わりー?」
「キトリーは体力ないなー」
コリンとケルビンが呆れた様子で俺に言う。そして、三人の子供達の間からもう一人、大きな影がぬっと俺を覗いた。
豊穣祭はこの一年、大地の恵みに感謝し、また来年も多くの実りがありますように、とバレンシアに祈りを捧げる日だ。
なのでこの日ばかりは、バレンシアの銅像の前にはいっぱいの貢物がされ、人々は祈りを捧げて、踊り騒ぐ。そしてバルト帝国の帝都でも、豊穣祭に乗じて街中は賑やかしく、出店が立ち並ぶ街道を人々は楽し気に歩いていた。
しかしそんな中、マントを羽織る一人の男が確かな足取りである場所へと向かっていた。
そして、その男はあるアパートメントの一室に辿り着くと、ドアの前で何度かの深呼吸をし、抑えめにコンコンッとノックをする。
そうすれば「はぁーい」と懐かしい声が聞こえ、ドアが警戒心もなく開いた。
「どなたかしら?」
開いたドアの前に現れたのはサラだった。そして、ドアの前に立つフードを被った長身の男。一体誰だかわからないサラは首を傾げる。
「あの、どなた?」
サラが尋ねれば男は低い声で答えた。
「サラ、久しぶりだ。私だ」
その懐かしい声にサラは大きく目を見開く。
「そ、んな、貴方は!」
サラが驚くと男は部屋の中に入り、後ろ手にドアを閉めた。そして、目深にかぶっていたフードを脱ぐ。
そこには長い銀髪に輝かしい紫の瞳。そしてレノによく似た男が立っていた。その顔を見てサラは、彼の名を口にする。
「バレン、シア!?」
そう、サラの目の前に立っていたのは男性体のバレンシアだった。
「サラ、君に会いに来た」
「でも、決まりがっ」
「今日だけは関係ない。今日は豊穣祭だ」
バレンシアが告げると、サラはハッと何かに気がつく。
「なら、いいの?」
「ああ、今日だけなら……サラ、ずっと会いたかった」
バレンシアはそう言うとサラを抱き締めた。でもサラは少し戸惑ってしまう。
「で、でも、もう私はあの頃みたいに若くないし。おばさんになっちゃったわ」
「いいや、君は変わらないよ。私の可愛い人」
バレンシアが囁くと、サラは嬉しさに微笑み、自分を抱き締める体に抱き締め返した。もう二度と抱き締める事はないと思っていた愛しい人を。
「バレン、私も会いたかったわ!」
サラはバレンシアをぎゅっと抱き締め、目尻に涙を零した。
そうして、二人は数十年ぶりの熱い抱擁を交わした。
―――のだが、その頃。
「はー、サラおばちゃんとバレンシア様は今頃会ってる頃かねぇ」
俺は白い息を吐きながら、雪が積もった庭で曇り空を見上げる。
……今日は《落日》の豊穣祭だ、バレンシア様の神様の力が弱まる。今日なら、下界に降りてサラおばちゃんと会っても問題はないでしょ。
俺はぽんやりと空を見上げながら、バレンシア様を思い浮かべた。
《落日》は一年に一度、神様の力が弱まる日の事を指す。この日はクト様、リャーナ様、バレンシア様とそれぞれにあって神様業はお休みされる日だ。
なので、この日はクト様の感謝祭、リャーナ様の納涼祭、バレンシア様の豊穣祭と、日々見守ってくれている神様に感謝する年間のお祭り行事になっている。
そして、この《落日》の間は、神様の力が弱まると同時に神様たちの姿も変わると言われていて、子供のクト様は大人に、大男のリャーナ様は小さな子供に、そしてバレンシア様は女性から男性へと変わるらしい。
つまり、レノが父と呼ぶにはこうした理由なのだ。
……まさか《落日》の時にできた子供がレノとはなぁ。でも、神様の誰も《落日》の事に気がつかないなんてなぁ。
俺は心の中で呟きつつ、天界でのことを思い返す。
どうにか、バレンシア様とレノを今後とも会わせる方法はないか? と考えた時に、話の中で俺は神様の力が弱まる《落日》の事を思い出した。
そして神様たちに尋ねたのだ。
『この日なら、下界に降りても大丈夫なんじゃない?』と。
そうすれば、その日の事を三神はすっかり頭から抜けていたようで。
なので以降、バレンシア様は《落日》の日だけは下界に降りて、サラおばちゃんやレノに会う事が許された。まあ、全く会えないってのも可哀そうだからな~。
そして今日は《落日》の豊穣祭の日。サラおばちゃんとバレンシア様が会う日なのだ。
……今頃サラおばちゃん、驚いてるだろうな。喜んでいるといいけど。
俺はほのぼのとそんな事を考える。しかしそんな俺の後頭部に、どこからともなく飛んできた雪玉がべしぃっと当たった。
「ほげっ!」
頭を押さえて振り返ると、雪の上にはモコモコに着込んだ三匹の子狐。もとい、ジェイクとケルビン、コリンがいた。
「わーい、当たった!」
当てたのはジェイクらしく、ぴょんぴょんっとその場で飛び跳ね、ケルビンとコリンも俺に当てようとせっせと隣で雪玉を作っている。
「こぉらぁぁ!」
俺は雪の上をズボズボッと走る。そうすれば、子供達はキャハハハッと走って逃げた。こら、ちょい待てっ!
俺は三人を追いかけるが、すばしっこい三人は俺の手に捕まらず、数十分も追いかけるが、俺は疲れて雪の上に寝転んだ。
「はひー。もう走れん!」
ふぅふぅっと息を切らして、俺は雪の上に寝転がる。そうすれば、まだまだ元気な子狐達が俺の顔を上から覗いた。
「もー、終わりー?」
「キトリーは体力ないなー」
コリンとケルビンが呆れた様子で俺に言う。そして、三人の子供達の間からもう一人、大きな影がぬっと俺を覗いた。
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